「一歩先のカスタマーサポートを目指して」Amazon Bedrock による効率化と品質向上の取り組み
2026-01-05 | Author : 行平 健一 (ダイアモンドヘッド株式会社)
はじめに
ダイアモンドヘッド株式会社は、自社開発の EC システム・販売機会を最大化する SaaS サービスの提供、およびスタジオでの商品撮影・Web マーケティング・物流・カスタマーサポートに至るまで、EC 運営に必要な業務をシームレスにフルサポートしています。
カスタマーサポート業務において、「対応品質の属人化」「英語翻訳対応」「問い合わせ増への迅速な対応」が課題でした。これらの課題を解決して業務効率と品質向上を実現するため Amazon Bedrock を活用した AI アシスタントを開発しました。導入の結果、問い合わせ対応時間の短縮や、担当者の負担軽減にも貢献しています。
本記事では、この AI アシスタントの開発背景・システムアーキテクチャ・導入効果・実装の知見をご紹介します。
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1. EC カスタマーサポートの課題
EC サイト運営で重要なカスタマーサポート業務において、当社では複数の課題がありました。
- 対応品質の属人化 : 返信の質が担当者の経験やスキルに依存し、品質にばらつきがありました。
- 英語翻訳対応 : 海外ブランドも扱うため英語翻訳対応が必要でしたが、従来の機械翻訳では品質に懸念がありました。
- 増加し続ける問い合わせへの対応 : 繁忙期には問い合わせが殺到するため限られた人員では対応遅延が発生し、迅速な対応の継続に限界がありました。
これらの課題を解決し、カスタマーサポート業務全体の品質と効率を底上げするため、Amazon Bedrock で提供されている Anthropic 社の Claude Sonnet 4.5 を活用した AI アシスタント開発をスタートしました。
2. Amazon Bedrock を活用した AI アシスタントの設計と実装方法の概要
システム概要
カスタマーサポート担当者は自社開発のメールシステムを使って業務を行っていますが、そこに直接機能追加する方式ではなく Google Chrome 拡張機能として、AI アシスト機能を開発しました。これにより既存システムへの影響を最小限に抑え、クイックな CI/CD を実現することができました。
AI アシスト機能として、以下の 4 つを提供しています。
- メール作成 : 問い合わせ内容から返信ドラフトを自動生成。
- メール校正 : 作成したメールの誤字脱字をチェック。
- メール翻訳 : 英語から日本語、日本語から英語の翻訳。
- 返信テンプレートマッチング : 登録済みテンプレートから最適なものを推薦。
Google Chrome 拡張機能の API で DOM (Document Object Model) を操作し、メール本文の取得・更新を可能にしています。
技術スタック
- フロントエンド : TypeScript, React, AWS Amplify UI (Authenticator UI component)
- バックエンド : Python, FastAPI
- AI : Amazon Bedrock (Claude Sonnet 4.5), Amazon Bedrock Guardrails
- インフラ:AWS Lambda, Amazon Elastic Container Registry (Amazon ECR), Amazon DynamoDB, Amazon Cognito, AWS Systems Manager Parameter Store
- CI/CD・IaC : AWS CodeCommit, AWS CodeBuild, AWS CodePipeline, AWS Cloud Development Kit (AWS CDK)
アーキテクチャの解説
このシステムは、運用効率を高めるためにサーバーレスアーキテクチャを採用しています。バックエンドは Python (FastAPI) で実装し、AWS Lambda Web Adapter を用いて Docker コンテナ化し、Amazon ECR にプッシュします。関数 URL をエンドポイントとしてGoogle Chrome 拡張機能と通信しています。基盤モデルには Amazon Bedrock の Claude Sonnet 4.5 を採用しました。日本語を含む多言語に対応しており、カスタマーサポートに適した文章を生成できると現場で高評価を得たためです。また、セキュリティ対策として Amazon Bedrock Guardrails を活用し、PII (個人識別情報)のマスキングと、生成された回答に不適切な表現が含まれないようコンテンツフィルターを適用しています。
工夫したポイント
プロンプトエンジニアリング
AI アシスタントの各機能に対して、専用のシステムプロンプトを作成しました。「経験豊富なカスタマーセンターの熟練スタッフ」という役割を与え、業務に最適化された出力を指示しています。Claude のプロンプトエンジニアリングにおけるベストプラクティスを参考に、<output_requirements> といった XML タグを用いて指示を構造化し、意図通りに動作するよう制御しています。
メール作成のシステムプロンプト(簡略版)
あなたは、経験豊富なカスタマーセンターの熟練スタッフです。
どのような入力に対しても、実用的なビジネスメールを必ず作成してください。
<conversation_handling>
- これはチャット形式の対話です。
- ユーザーからの新しい入力が、修正依頼である場合、直前のメールを土台として修正・再生成してください。
</conversation_handling>
<output_requirements>
- 必ず完成したメール形式で出力(件名は出力せず、本文のみ)
- ビジネスに適した敬語使用
- マークダウン記法(例: *,#など)は使用しないこと
</output_requirements>
<content_rules>
- 必ず顧客満足を意識した締めの表現を追加すること
</content_rules>
* 実際のプロンプトとは異なります。
応答速度の改善
ユーザー体験向上のため、応答速度の改善に注力しました。
AWS Lambda のコールドスタート対策として、Docker コンテナのマルチステージビルド、Python モジュールの遅延読み込み、パッケージ最小化でコンテナサイズの削減を行いました。
また、ユーザーの待ち時間を短縮するため、関数 URL がサポートするレスポンスストリーミング機能と SSE (Server-Sent Events) を組み合わせ、生成テキストを逐次フロントエンドに送信します。これにより TTFB (Time To First Byte) を短縮し、ユーザーが結果を素早く確認できるようにしています。
3. 導入効果
AI アシスタントの導入効果として、以下の指標で改善が見られました。
- 返信作成時間:約 30~40% 短縮
従来の作成方法と比較して、AI アシスタント利用時の作成時間の短縮が図れました。
効果測定は、カスタマーサポート担当者を対象とした A/B テスト形式で実施しました。
- テスト内容:3 種類の典型的な問い合わせ (注文内容の変更、返品希望、クーポン利用ミス) を用意しました。
- 比較方法:各担当者はランダムに割り当てられた問い合わせに対して、「従来の方法」と「AI アシスタント利用」の両方で返信メールを作成しました。
- 測定指標:上記 2 パターンにおけるメール作成時間をそれぞれ計測し、比較しました。
4. 今後の展望
今後は Amazon Bedrock の Prompt Caching によるコスト削減を計画しているほか、応答性能の安定化に向け、AWS Lambda の Provisioned Concurrency の利用も検討しております。
加えて、より強固なセキュリティ環境を構築するため、レスポンスストリーミングに対応した Amazon API Gateway と AWS WAF の導入も進める予定です。
5. まとめ
本記事では、ダイアモンドヘッドがカスタマーサポート業務の課題 (属人化・英語翻訳対応・業務効率化) を解決するため、Amazon Bedrock を活用して開発した AI アシスタントの事例をご紹介しました。
Google Chrome 拡張機能・サーバーレスアーキテクチャ、そして Amazon Bedrock を組み合わせることで、迅速な導入と効率的な運用を実現しました。明確な課題設定に対し、PoC (概念実証) として迅速に開発・導入を進めたことで現場の業務プロセスに定着するという具体的な成果に結びつきました。
本記事で紹介したアーキテクチャやプロンプトエンジニアリングのノウハウが、これから生成 AI の業務活用に取り組む開発者の皆様の参考になれば幸いです。
筆者プロフィール
行平 健一
ダイアモンドヘッド株式会社
システムサービス2部 SaaSグループ
AI ラボで大規模言語モデル (LLM) や AI エージェントを活用した社内プロダクト開発、PoC 検証業務などを担当。
札幌のソウルフードであるスープカレーをこよなく愛し、日々の開発のエネルギー源にしています。