海外旅行サービスの基盤を AWS に移行。IT インフラの柔軟性向上により ビジネスの変化への対応力を向上
概要
オンライン総合旅行サイト『エアトリ』の運営を手がける株式会社エアトリは、2018 年に海外航空券・旅行のオンラインサービスを展開する株式会社 DeNA トラベルをグループ会社化するにあたり、オンプレミスで運用してきたサービスプラットフォームをアマゾン ウェブ サービス(AWS)に移行しました。インフラリソースのスケールイン/アウトが柔軟にできるクラウドにより、コロナ禍による海外旅行需要の変化や、テレビCM 放映後のアクセス急増などにも迅速に対応し、コストを最適化しています。

DeNA トラベルの買収に伴い オンプレミスのサーバーをクラウドに移行
“One Asia”をビジョンに、エアトリ旅行、訪日旅行、Wi-Fiレンタル、IT オフショア開発、メディア、投資(エアトリ CVC)と幅広く事業を展開するエアトリ。旅行事業を軸に多角化を進め、コロナ禍においても堅調に成長を続けています。主力のオンライン総合旅行サイト『エアトリ』は、国内の航空券・ホテル・ツアー、海外の航空券・ホテル・ツアー等の商品・情報を提供する旅行予約のプラットフォームです。
同社は、2017~2018 年にかけて国内向け旅行サービスのインフラ基盤をマルチクラウド環境から AWS に集約。その後、2018 年 6 月に海外航空券・海外旅行を得意とする DeNA トラベルがグループ傘下に入り、海外旅行サービスも『エアトリ』に統合しました。DeNA トラベルの IT インフラは DeNA グループのデータセンターで運用されていたため、買収完了後、速やかにサーバー移設が必要でした。そこで、従来のエアトリのサービス基盤に合わせる形でAWS への移行を決定しました。
「移行先として、オンプレミス/クラウドの両方を検討しました。コストはデータセンターの引越しだけならオンプレミスが優位でしたが、工数をかけるなら将来性の高いクラウドに移行して刷新すべきと判断しました。AWS を選定した理由は、国内向けサービスの既存環境が AWS であることが第一ですが、シェアの高い AWS なら移行や運用に携わる IT 人材の確保がしやすかったためです」と語るのは、取締役 IT 戦略本部長の酒井和真氏です。
国内サービス基盤の移行に続き パートナーに NHN テコラスを選定
移行決定後、同社はパートナーとして 2018 年に国内向けサービス基盤の移行も支援した NHN テコラス株式会社にプロジェクトへの参画を依頼しました。
「既存環境の AWS 移行を完遂させ、エアトリグループの IT インフラ全体を支援してきた実績を評価しました。オンプレミス環境の運用・保守を手がけてきた旧 DeNA トラベルのエンジニアは AWS に関する知見や経験が乏しいため、大規模サーバーの移行は専門家の支援が必要と考えました」(酒井氏)
移行プロジェクトは 2018 年 10 月よりスタートし、2020 年 12 月より AWS 環境での稼働を開始しました。既存環境をそのままリフトする形で、サーバーにAmazon EC2、データベースに Amazon RDS と Amazon Aurora を採用。移行サーバー数は Amazon EC2 が約 400 インスタンス、Amazon RDS が約 30 インスタンスです。
システム構築において、ポイントになったのはデータベースのレスポンスです。IT 戦略本部 インフラ 1 グループ グループ長 城田潤一氏は次のように語ります。
「ツアー商品のオプションサービスの組み合わせパターン数は膨大で、アクセス時にメインシステムに大量の負荷がかかります。そこで汎用 MySQL の他に、キャッシュ専用 MySQL を Amazon RDS 上に構築してレスポンスを高速化しました。また、Amazon EC2 と Amazon RDS のAZ(アベイラビリティゾーン)を統一することで通信遅延の発生を抑制しました」
移行プロジェクト中は週次でミーティングを実施し、NHN テコラスから QA 支援を受けました。NHN テコラスが提供するリセールサービスの技術サポートを利用し、Amazon RDS for Oracle の容量消費や Amazon EC2 Instance Auto Recovery の設定について情報を得ています。
移行を終えた 2020 年 12 月以降も、エアトリは引き続き NHN テコラスの支援を受け、アーキテクチャの改善やコスト最適化を進めています。
「移行直後は、Amazon EC2 の定額割引プランのコンバーティブルリザーブドインスタンスを購入していましたが、しばらくしてから割引率がより高い Savings Plans への移行を検討してみたらという提案をいただきました。その結果、クラウド化直後よりコストを 3 分の 1 以下に抑えられました。コロナ禍で海外旅行需要が急減した際にも、コスト試算に関する相談に乗っていただきました」(城田氏)
インフラの運用保守負荷が軽減し 内製開発にシフト
AWS への移行により、IT インフラの柔軟性は飛躍的に向上し、状況に応じてインフラリソースを増減できるようになりました。
「2022 年 7 月にパリ・サンジェルマンFC(PSG)が来日して J リーグのチームと対戦した際には、当社が冠スポンサーとなり、テレビ放送で CM を流しました。その際、『エアトリ』サイトへのアクセスが急増しましたが、あらかじめスケールアウトしておくことで耐えることができました。新型コロナによる旅行需要の減りにもスケールイン(縮退)してコストを最小限に抑制することもできました」(酒井氏)
ビジネスのさまざまな変化に対応できるようになった効果は大きく、今後の成長に欠かせないインフラとなっています。
「コロナ対応含め、変化に対する柔軟性が向上したことが最大の効果です。AWS なら改善に向けた継続的な取り組みが可能で、エンジニアも新たな技術にチャレンジすることができます。その結果、エアトリをより魅力的なサービスに進化させることができると感じています」(酒井氏)
運用面では、エンジニアが IT インフラの運用保守から解放され、内製開発に多くの時間を割くことが可能になりました。
「オンプレミス時代に年数回発生していたハードウェアの故障やネットワークの不調が 3 分の 1 以下になり、少人数でカバーできるようになりました。定期的なメンテナンスにも適宜対応ができ、トラブルに悩まされることもありません。開発部内にはAWS のノウハウが蓄積され、個々のスキルもアップしています」(城田氏)
オートスケーリングの導入と インフラのモダナイゼーションを検討
エアトリでは、今後も新たな旅行需要獲得に向けた機能拡充とインフラ基盤の高度化を進めていく考えで、現在はアクセス量に応じてリソースを最適化するオートスケーリングの導入を進めています。また、先行して AWS に移行した国内サービス向けの基盤は、すでにコンテナ移行を開始していることから、海外サービス向け基盤もコンテナ化し、将来的には国内外のシステム統合を目指していく考えです。城田氏は「AWS のマネージドサービスやサーバーレスについて勉強しながら、モダンなアーキテクチャに進化させていきます」と語ります。
将来的には NAS の一部など、オンプレミス環境で稼働している残りのシステムもすべて AWS 上に移行し、フルクラウド化を進める予定です。
「今ある環境を維持しながら、よりよくするための取り組みを継続的に進めていきます。そのためにも AWS には魅力的なサービスの提供を、NHN テコラスには技術パートナーとしてインフラ環境への支援と AWS のサービスを使いこなすためのアドバイスを期待しています」(酒井氏)

コロナ対応含め、変化に対する柔軟性が向上しました。AWS なら継続的な改善が可能で、エンジニアも新たな技術にチャレンジできます。そして『エアトリ』をもっと魅力的なサービスへと進化させていけます
酒井 和真 氏
株式会社エアトリ 取締役IT 戦略本部長アーキテクチャ図

株式会社エアトリ
設立:2007 年 5 月 11 日
従業員数:グループ 952 名(2022 年 9 月現在)
事業内容:エアトリ旅行事業、IT オフショア開発事業、訪日旅行事業・Wi-Fi レンタル事業、メディア事業、投資事業(エアトリ CVC)
AWS 導入後の効果と今後の展開
変化に対する柔軟性の向上
ハードウェア、ネットワークのトラブルが 3 分の 1 以下に
内製開発へのシフトと、新たな技術へのチャレンジ
本事例のご担当者
酒井 和真 氏

城田 潤一 氏

NHN テコラス株式会社
AWS プレミアティア サービスパートナー
NHN テコラスはクラウドとデータ活用に強いテックカンパニーとしてマネージドサービスを中心に提供する付加価値型のクラウドブローカー。AWS の総合支援サービス「C-Chorus」では、経済性・利便性共に優れた AWS リセールサービス(請求代行)から、導入、運用最適化、データ活用までの幅広いサービスメニューと、オンプレミスからの移行、運用とコストの継続的な最適化などの多数のソリューションを揃えており、企業の AWS ジャーニーの全フェーズを技術支援している。
