導入事例 / エネルギー

2024
ENEOS 株式会社

ENEOS、エネルギーマネジメント技術で大型蓄電池の運用を自動化。AWS のサービスを活用し、電力需給の安定化とカーボンニュートラルを推進

大型蓄電池運用の大部分の自動化

エネルギー事業のシステムとしては特異な週 1 回以上のリリースを維持

10 分の 1

蓄電池の監視業務の工数削減

概要

日本のエネルギー産業をリードする ENEOS 株式会社の中央技術研究所は、エネルギーマネジメント技術を活かした大型蓄電池の運用計画策定システム『hammock® Pro』をアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築。AWS Countdown Premium による第三者レビューも活用して、国が定める高度なセキュリティ要件に対応。2024 年 4 月から始まった需給調整市場の全面開設に対応したシステムの自動運用をいち早く実現しています。 

ENEOS 株式会社

ビジネスの課題 | エネルギーマネジメントの鍵を握る DX の推進

ENEOS グループは「創造と革新を通して社会の発展に貢献する」という理念のもと、エネルギー・素材の安定供給とカーボンニュートラル社会の実現の両立に挑戦しています。このビジョンの実現をデジタル技術で加速するため、ENEOS 株式会社中央技術研究所では、コア技術の内製と他社技術の活用を組み合わせてスピーディに社会実装を行うことを志向しています。再生可能エネルギーは徐々に普及していますが、電気は貯めることが難しいという特性を持つ一方、太陽光や風力による発電量は天候に大きく左右されます。エネルギーマネジメント技術の開発に取り組む中央技術研究所 デジタル研究所 データサイエンスグループ シニアスタッフの原田耕佑氏は「電力の品質安定には需要と供給の制御が極めて重要になります。精度の高い予測アルゴリズムや、その予測に基づき蓄電池や EV 充電器などのエネルギーデバイスを制御する技術の開発を行っています。また、これらの技術を社会実装するには、電力需給の予測や最適な計画立案を効率的に行うソフトウェアの開発能力が不可欠です」と語ります。

取り組みの 1 つが、多数の発電設備を束ねてあたかも大きな発電所のように機能させるバーチャルパワープラント(VPP)事業です。ENEOS グループで VPP 事業を担う ENEOS Power 株式会社では、大型蓄電池の導入を積極的に進め、余剰電力の貯蔵と供給、電力の需給調整に活用しています。VPP 事業には刻一刻と変化する電力の価値を予測しながら各機器を最適に制御するエネルギーマネジメントシステム(EMS)が不可欠であり、ENEOS では数年前から研究開発を進めてきました。

「再生可能エネルギーの普及に備えて蓄電池や水素、EV 充電施設などの制御技術に関する研究開発を推進する中で、各種設備をインターネットに接続して監視/制御するクラウド実証プラットフォーム『hammock®』を構築しました。ENEOS グループ内には大型蓄電池事業を開発する部門もあり、技術開発の成熟と市場の立ち上がりのタイミングが合致したため、互いの知見を活用して事業用のシステムも内製開発することにしました」(原田氏)

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hammock の構築にあたり AWS のマネージドサービスを活用することで、ミッションクリティカルな電力業界向けシステムを短期間で構築することができました。さらに、AWS の的確なサポートを受けることで、サービスの安定運用とコスト削減を両立できています"

井深 丈 氏
ENEOS 株式会社 中央技術研究所 デジタル研究所長

ソリューション | AWS のモダンアーキテクチャで高度な自動化とセキュリティを実現

ENEOS では基幹システムなどを AWS 上で運用しており、社内に豊富な知見があったため、hammock にも AWS 環境を採用。将来の拡張性や頻繁な機能更新の要求に応えるため、AWS 活用に長けた社外エンジニアの協力も得ながら、AWS の豊富なサーバーレス、マネージドサービスを基本とするモダンアーキテクチャで設計され、IaC(Infrastructure as Code)により構築されています。中央技術研究所 デジタル研究所 データサイエンスグループ シニアスタッフの有賀暢幸氏も、「キャリア採用で入社しチームに加わった際、非常にモダンなアーキテクチャに驚きました。一方、大型蓄電池の運用策定システムを内製するにあたり、仮説検証を主な目的としてきた従来の hammock ではセキュリティや安定動作の面で不安があったため、インフラやセキュリティ、運用の仕組みを再構築し、事業用システムとして『hammock® Pro』を開発することにしました」と語ります。

hammock Pro のプロジェクトは、電力需給調整市場向けの商品が揃い、系統用蓄電池を含めた取引が始まる 2024 年 4 月のローンチを目指し、1 年前の 2023 年 6 月ごろから開始。蓄電池など将来的なリソースの拡張に対応できるスケーラビリティが求められるため、AWS の各種サービスを活用。サーバーレスで処理が可能な AWS Lambda をはじめ、高性能な Amazon Aurora Serverless、カスタムアプリ向けの権限管理と認証を提供する Amazon Verified Permissions も導入。また、VPC と他の AWS サービスをプライベートに接続できる AWS PrivateLink を使用し、高度なセキュリティを実現しています。

実装は順調に進みましたが、需給調整市場で取引を行うには、国のシステムに接続するためのガイドラインを遵守しなければなりません。セキュアなシステムの構築だけでなく、そのセキュリティ対策が適切であることの証明が求められます。「モダンな技術で構築されたシステムを評価できる人材が社内に乏しかったため、インフラに対して第三者視点のレビューが受けられる AWS Countdown Premium のサービスを活用しました」(原田氏)

2024 年 2 月から AWS Countdown Premium のレビューを受け、約 1 か月後に上がってきたレポートで指摘のあった 19 件の設定項目は、ローンチ前に設定を見直しました。求められるセキュリティ要件に対して、できる限り AWS のサービスで完結しています。

「レビュー結果を受けて、アーキテクチャとコンフィギュレーションの両面で見直しを行い、その内容をクラウドセキュリティ体制管理サービス AWS Security Hub のスコアと合わせて社内説明で活用することで、社内のセキュリティレビューをクリアできました。データベース設計などにもハイレベルな技術的助言が得られたほか、パフォーマンステストの結果をメトリクス観点からレビューいただくという支援にも助けられました。またローンチ後は、レビュー時に提案いただいた監視設定により問題解決がスムーズに進むことが何度もあり、大変感謝しています」(有賀氏)

アーキテクチャ

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導入効果 | 大型蓄電池の運用計画策定を自動化・高度化し即座のビジネス目標達成へ

hammock Pro は 2024 年 4 月から稼働し、需給調整市場の全面開設に合わせて運用を開始することができました。以後、IaC の採用を背景に、週に 1 度以上の高頻度な改良リリースを実現しています。市場価格の予測に基づき、最適な市場を選択して入札できるほか、最新の運転実績に基づき、充放電計画をリアルタイムに更新。さらに、トレーダーによる計画の調整や、トレーダー提案によるシステム改善など、「人馬一体」での運用を実現しました。VPP 事業は ENEOS グループの新たな収益源になるとともに、再生可能エネルギーの普及に資する技術の社会実装へとつながっています。

「予想外の状況でも自動的に制御計画を立て直すため、蓄電池の監視・運用にかかる工数が人力の 10 分の 1 程度に削減され、ビジネス部門はより付加価値の高い業務に注力できます。hammock Pro の開発事例は 2023 年度の全社表彰を受賞し、社内でも高く評価されました。エネルギー業界や IT 業界でも、先進的な事例として紹介いただけています」(原田氏)

ENEOS は大型蓄電池の制御分野で継続的な価値提供を目指し、アルゴリズム改善や制度変更への対応を継続していきます。今後の事業拡大に向けては、運用・保守の高度化と開発・検証の効率化を追求していく構えです。「VPP 事業以外にも、電力の需給管理や調達方法の高度化に取り組む余地があると考えています。hammock Pro を基盤として新サービスを展開し、エネルギー管理分野で革新的なソリューションを提供し続けたいです」と原田氏が語るように、ENEOS が挑戦し続けるエネルギー制御の領域には、さらに新たな地平が開かれていきます。

カスタマープロフィール:ENEOS 株式会社

日本有数の石油元売り会社で、ENEOS ホールディングスの中核企業。エネルギー、石油・天然ガス開発、金属事業を中心に展開し、主に石油精製・販売、石油化学製品の製造・販売を行っている。全国にガソリンスタンドを展開する一方で、近年では再生可能エネルギー事業にも注力し、太陽光発電や水素エネルギーの開発も行っている。環境に配慮したエネルギーの安定供給と持続可能な社会の実現を目指し、技術革新と事業の多角化を進めている。

ENEOS 株式会社
原田 耕佑 氏

原田 耕佑 氏

有賀 暢幸 氏

有賀 暢幸 氏

ご利用中の主なサービス

AWS Countdown

幅広いクラウドユースケースのために設計されたサービスである AWS Countdown を使用して、イベントの計画と実行を成功させましょう。ユースケースには、クラウド移行サービス、クラウドモダナイゼーション、製品リリース、運用開始イベントなどがあります。

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AWS Security Hub

AWS Security Hub を使用すると、セキュリティのベストプラクティスのチェックを自動化し、セキュリティアラートを単一の場所と形式に集約し、すべての AWS アカウントで全体的なセキュリティの体制を把握することができます。

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AWS Lambda

AWS Lambda は、イベント発生時にお客様のコードを実行し、コンピューティングリソースを自動的に管理するコンピューティングサービスで、アイデアを最新の本番環境のサーバーレスアプリケーションに変換する最速の方法となります。

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Amazon Aurora Serverless

Amazon Aurora Serverless は、Amazon Aurora のオンデマンドの自動スケーリング設定です。

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