「SAP ERP 環境を AWS に移行したことで、インフラ全体のパフォーマンスが向上し、
製造指図レポートの出力時間や夜間バッチ処理時間が短縮されました。
インフラ運用の負荷は、年間 70~80 時間の管理コストが削減され、
情報システム部の要員はより戦略的な業務へのシフトが可能になりました。」

 

甚沢 攻 氏 日機装株式会社 企画本部 グローバル情報統括部 第二グループ 主事

産業用特殊ポンプや航空機用部品、血液透析用の医療機器まで幅広く手がける日機装株式会社。主力部門の 1 つであるメディカル事業本部は、オンプレミス環境で運用してきた SAP ERP の運用/保守の負担軽減やリソースの柔軟な拡張を目的に AWS に移行。インフラ全体のパフォーマンスや柔軟性が向上し、ユーザーからのさまざまなリクエストにも対応できるようになっています。インフラ運用の負荷も、年間 70 から 80 時間の管理コストが削減され、情報システム部の要員はより戦略的な業務へのシフトが可能になっています。


 

インダストリアル、精密機器、航空宇宙、メディカル、深紫外線 LED の領域でビジネスを展開する日機装。メディカル分野では人工透析装置で国内トップシェアを誇り、透析のパイオニアとして日本の医療を支えています。現在は透析のノウハウを活かし、血液浄化分野や周術期・救急分野、さらに外科領域へと事業を拡大しています。

ビジネスを支える基幹システムは 5 つの事業部が独自に構築し、各部門の要求に応えてきました。メディカル事業部ではオフコンベースのシステムを利用してきましたが、改修の積み重ねによりプログラムの複雑化が進み、データの整合性確保も難しくなっていました。そこで 2013 年にグローバルで実績があり、医療機器の規制に対応した SAP ERP を採用。以来、オンプレミス環境で運用する SAP ERP は同事業部の会計、販売、生産、購買の管理業務を支える IT 基盤として重要な役割を果たしてきました。

その後、ハードウェア保守契約の終了が近づいてきたことから、インフラ基盤をクラウドサービスに移行することにしました。

「初期導入時にもクラウドサービスへの移行を検討しましたが、当時は SAP ERP 認定のクラウドサービスが存在していませんでした。環境が整った時期から改めてクラウドに移行し、インフラ運用の負荷軽減を図りたいと考えていました。」と語るのは、企画本部 グローバル情報統括部 第二グループ 主査の甚沢攻氏です。クラウドへの移行は、「所有」から「利用」へという日機装の全社 IT 方針に沿うものでもあり、基幹系以外のシステムも徐々にクラウド化を進めているといいます。

 

複数のクラウドサービスを検討した日機装は、最終的に AWS を選定しました。決め手は SAP ERP の稼動実績が豊富で、各種の法規制やセキュリティ基準に準拠していたことです。「海外も含めて、直近の稼動状況を調べた結果、2017 年の段階で最も安定している印象を持ったのが AWS でした。」と甚沢氏は振り返ります。

すでに基幹系の一部としてメディカル事業部の顧客管理システムや、全社の人事・給与管理システムが AWS 上で稼動しており、AWS とのネットワーク設定も構築されていたことも採用を後押ししました。甚沢氏自身も 2016 年に EDI システムを AWS 上に構築した経験があり、AWS 採用へのハードルは低かったといいます。

移行プロジェクトは、2017 年 9 月にスタート。AWS 上に環境を構築した後、2018 年 2 月に SAP ERP の本番機の移行リハーサルを実施し、抽出された問題点をクリアにしてから 2019 年 4 月末の連休を利用して本番環境を移行しました。SAP ERP のプログラム改修や、エンハンスメントパッケージを適用したアップグレードは行わず、既存の環境をそのまま移行することでリスクの低減を図っています。

移行時は、専用の移行ツール CloudEndure を利用し、システムのダウンタイムを最小限に抑制しました。プロジェクト期間中、SAP ERP のサービスを停止させたのは移行本番時の 3 日間だけで、それ以外はシステムを稼動させた状態のまま非同期でオンプレミス環境のデータを AWS 上に転送しました。

「SAP ERP だけでなく、データウェアハウス(DWH)を含む大容量のデータを移行するプロジェクトとなりましたが、短期間で移行できました。最大の不安は 300 本近くある周辺システムとのインターフェースでしたが、EAI ツールを用いてシンプルな接続にしておいたこともあり、ネットワークの接続先もスムーズに切り替えることができました。」(甚沢氏)

現在、日機装のメディカル事業部が運用する Amazon EC2 では SAP ERP の本番機、検証機、開発機のほか、DWH、BI、EAI、運用監視ツールなどが稼動しています。移行当初は従量課金のインスタンスを適用していましたが、一定期間分の料金を定額で支払うリザーブドインスタンスに切り替え、コストの低減を図っています。

Amazon EC2 以外にも、Amazon S3 を FAX 受注システムの受信データの保存用に利用し、SAP ERP と連携しています。また、Amazon CloudWatch で定期的に AWS のリソースを監視しています。

AWS に移行した結果、IT 要員のインフラ運用業務が軽減され、そのリソースをシステム企画などの戦略的な業務に割り当てられるようになりました。インフラ全体のパフォーマンスも向上し、製造指図レポートの出力時間が従来の 3 分の 2 になるなど、業務の作業効率も高まっています。さらに、夜間バッチ処理も従来の 9 時間が約 6 時間に短縮され、朝の始業時間までには DWH に前日までの情報が反映されるようになりました。

また災害対策(DR)として、従来は国内 2 拠点で仮想テープ装置にバックアップを取得していましたが、新たに AWS のシンガポールリージョンに DR サイトを構築。従来のテープ装置は、ディスク容量の不足やハードウェアの故障発生など、かなりの運用負荷がかかっていました。今回のクラウド活用により、バックアップデータを確実に取得できるようになり、運用面での負荷もほぼゼロになりました。

インフラ活用の柔軟性が高まったことも、AWS の導入で得られたメリットです。「以前は業務部門からシステムのテスト環境構築や、SAP のアプリケーションへのサポートパッケージ適用といった要望があると、ハードウェアの容量を調整しながら開発用や検証用のサーバーリソースを確保する必要がありました。AWS ならインスタンスをすぐに立ち上げて、開発や検証が終われば削除ができるので、リクエストにも応えやすくなっています。」(甚沢氏)

今後、日機装は SAP ERP の運用を継続しながら、将来の SAP S/4HANA への移行に向けても検討を進めていく方針です。また、AWS のサービスについては、事業部の垣根を越えて全社的に HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の分野で利用することを構想しています。

「当社の場合、流体制御技術を軸に、産業用特殊ポンプ、航空機部品、紫外線 LED、メディカル製品などを展開しています。これらの開発シミュレーションにおいて、AWS のスケーラブルなコンピューティングリソースが活用できるのではないかと考えています。」(甚沢氏)

また、IT システムに関するさまざまな問い合わせや要望への対応に、コールセンターサービスの Amazon Connect や、自然言語対応チャットボットの Amazon Lex の適用も検討しているといいます。「AWS の各種サービスも積極的に取り入れて業務改善を図っていきたい」と甚沢氏が語るように、AWS が日機装のビジネスに貢献できる領域はこれからも広がっていきそうです。

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甚沢 攻 氏


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SAP ワークロードの AWS 移行に関する詳細は、SAP とアマゾン ウェブ サービス ページをご参照ください。