自動車 R&D における効率的な分析
自動車 R&D における生成 AI の活用
3 ~ 5 倍
探索的データ分析の高速化
約 80%
探索的データ分析の PoC 期間短縮
90%
RAG 評価の時間とコストの削減率(対手動比)
概要
『Nissan Ambition 2030』のもと、自動車の電動化と知能化を推進する日産自動車株式会社。同社は自動車開発に必要なデータを集約し、誰もが利用して分析できる統合開発環境をアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築し、R&D データを用いて車両の改善や新機能の開発を進めています。R&D 領域では生成 AI を積極的に導入し、AWS のサービスで開発した AI データアシスタントによる PoC の期間短縮など、生産性の向上を実現しています。
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ビジネスの課題 | データを共同利用できる統合開発環境の必要性
1933 年の創立以来、先駆的な自動車やサービスを開発してきた日産自動車。同社の R&D 部門は、自動車開発における各フェーズで蓄積するデータをつなげることで、開発期間の短縮や革新的な技術開発を実現する「データ駆動型開発」に取り組んでいます。
同社は魅力的で持続可能なクルマを提供するため“電動化”と“知能化”に注力しており、知能化の 1 つがセンサーデータを用いてハンズフリーを実現する自動運転技術です。2019 年に発表した自動運転技術『プロパイロット 2.0』では、より多くのセンサーデータを分析することで高速道路でのハンズオフや車線変更、ナビ連動による自然制御を実現しています。
「車両の高度化に伴いセンサーの数は今後も大幅に増え、制御は複雑化し、ソフトウェアへの依存度も高くなっていきます」と語るのは、日産自動車の R&D 部門 カスタマーパフォーマンス&車両性能技術開発本部データサイエンスグループ 主管の俵道大輔氏です。
ソフトウェア化によってコーディング、データ解析、ソフトウェアの DevOps・MLOps の割合も増加するため、データ駆動型の開発は、データ容量やリソースに制限があるオンプレミス環境では困難です。そこで同社は、開発に必要なデータを必要な時に利用できる統合開発 PoC 環境(Engineering Workbench)を AWS 上に構築しました。Engineering Workbench が開発に必要なツールを共通 UI として提供し、自動車エンジニアは業務に利用するソフトやデータを利用できます。
「大量のデータを分析してインサイトを得るうえで、クラウドは不可欠です。Engineering Workbench という UI を通じて、エンジニアは車の開発業務に直結したクラウドの技術とオープンソースを利用できます。また、エンジニアが個人の PC などで管理していた成果物の共有や、アクセスログを用いたガバナンス強化にも有効です」(俵道氏)
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「より複雑性が増す自動車開発におけるクラウド技術活用は重要な要素となり、適切に活用することで開発コストの削減、開発期間の短縮だけでなく、新価値の提供にも貢献できると見込んでいます」
俵道 大輔 氏
日産自動車株式会社 R&D 部門 カスタマーパフォーマンス&車両性能技術開発本部 データサイエンスグループ 主管
ソリューション | データを活用した実験基盤をマネージドサービスで構築
日産自動車は自動車開発のテスト工程において、データを活用した R&D 実験基盤を Engineering Workbench 上に構築しました。
「開発の最終工程にあたるテスト工程では、大量のデータが発生します。さらに、衝突実験や空力性能実験を行うための複数の解析ソフトウェアもあります。それらをオンプレミス環境で連携するのは難しいため、AWS を活用して API で連携する R&D 実験基盤を構築しました」(俵道氏)
R&D 実験基盤は AWS のマネージドサービスを組み合わせ、車両からのデータ取得、後処理、蓄積、分析、可視化の 5 つの機能をマイクロサービスで構成。これらをテンプレート化することで、別の実験にも適用可能です。
「発生するデータを直接クラウドにアップロードするのが、アーキテクチャのポイントです。ローカルサーバーなどを経由すると多くのリソースや管理コストがかかるため、データを直接取り込み、可視化までの機能をマイクロサービスで構成しています」(俵道氏)
AWS からは自動車に特化したサービスが次々とリリースされているため、これらを活用することで開発コストの削減、開発期間の短縮を見込んでいます。
「自動車専用のリファレンスアーキテクチャが提供されており、標準化されたサービスを組み合わせることで設計工程を短くできます。こんな機能がほしいと AWS にリクエストすると、積極的に採用して次のアップデートで機能化いただける点は非常に助かっています」(俵道氏)
AWS の活用で大量データの扱いが可能になり、効率的な分析が実現。ワークロードを自動化したことで、人的リソースも最小限に抑えられました。社内でクラウドへの理解が進み、「次はこんな分析がしてみたい」といった声が上がるようになったこともAWS 活用の効果です。
「3~4 年前から R&D 部門全体で AWS のトレーニングを実施してきました。クラウドは単なる“データの置き場”と考えていた自動車エンジニアにも AWS のサービスへの理解が深まり、裾野が広がってきました。今後は AWS 活用の入口を R&D 部門で統一しながら、エンジニアが実行した実験のユースケースを蓄積し、テンプレート化していきます。分析には生成 AI を導入し、データ駆動型開発のさらなる発展を目指していきます」(俵道氏)
導入効果 | 自動車 R&D にも生成 AI を活用
R&D 部門は、生産性向上と新たな価値創造を目指して生成 AI を積極的に導入し、AWS 上でさまざまな試行錯誤を続けています。
「生成 AI における AWS 活用のメリットは、ビジネスユーザーが利用するための UI までカバーされている点にあります。開発者にとってもコードをデプロイするためのマネージドサービスが充実し、非常に使いやすいものになっています」(俵道氏)
R&D における生成 AI の適用事例の 1 つが、自然言語で高度なデータ分析を実現する「AI データアシスタント(ADA)」で、AWS 上に複数の API を構築しています。これにより、ビジネス部門がデータサイエンスチームに頼ることなく、チャットボットで分析を行えるようになりました。R&D 部門 カスタマーパフォーマンス&車両性能技術開発本部 データサイエンスグループ アシスタントマネージャーの葉俊廷氏は「ビジネス部門が行う探索的データ分析は従来比で 3~5 倍高速化され、PoC 期間も約 80% 短縮できました」と語ります。
適用事例の 2 つめは、大規模言語モデル(LLM)と検索を組み合わせた検索拡張生成(RAG)の自動評価です。自動車業界では安全に直結するシステムが多く、AI システムにも厳密な品質管理が求められます。そこで、生成 AI で開発した取扱説明書の日本語 Q&A Bot において、RAG システムの精度を自動評価するシステムを AWS 上に構築しました。
RAG の評価は、(1)LLM による評価用Q&A の自動作成、(2)ドメイン専門家による Q&A レビューと高品質な Q&A リストの作成、(3)Q&A リストに基づく複数軸の自動評価という 3 ステップで行われ、AWS 上は評価対象の RAG システム、自動評価のバックエンド、結果確認と Q&A レビューの 3 つのコンポーネントで構築しています。
「RAG 自動評価システムにより、改良できたかどうか確実に確認できるようになりました。評価時間と評価コストは手動と比べて 90% 削減され、検証結果も専門家の判断と 90% 以上一致するようになりました」(葉氏)
日産自動車では今後も生成 AI の導入に伴う課題に積極的に取り組み、内製開発の技術を迅速に発展させていく計画です。
カスタマープロフィール:日産自動車株式会社
「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」を企業パーパスに、グローバルで革新的なクルマやサービスを提供。長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」では、2050 年までに製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現する目標を掲げ、目標の達成に向けて「電動化の推進」「モビリティの革新」「エコシステムの構築」を重点分野に、電動車ラインナップの拡充、運転支援技術の進化などに注力している。
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俵道 大輔 氏
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葉 俊廷 氏
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