約 40 倍
3D 都市モデルのダウンロードとデータ変換時間
240 ~ 640 倍
HPC 解析の高速化
3,000
HTC 解析の分散処理の同時実行数
解析作業プロセスの全自動化
大規模な計算リソースの確保
概要
スーパーゼネコンの1社として国内外の建設工事や都市開発を手がける株式会社大林組。建築・都市の計画に不可欠な環境解析で大量の計算リソースを必要とする中、同社はアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用して計算リソースを柔軟にスケールできる解析環境を構築しました。AWS の活用により都市の風環境のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)解析では計算時間を最大 640 倍高速化。サーバーレスを活用したハイスループットコンピューティング(HTC)解析では、GPU と同等の解析を CPU で実現しています。
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ビジネスの課題 | 都市開発の影響評価に必要な計算リソースの確保
“MAKE BEYOND つくるを拓く”をグループビジョンに、既存事業の枠にとらわれない成長を目指す大林組。同社が手がける都市開発や高層ビル建設では、建物によって発生する歩行者空間への風の影響、建物や地面での日射熱の影響、建物からの景観や眺望性などの評価が必須であり、設計部門では 3D モデルを用いた環境解析を実施しています。シミュレーションには大量の計算リソースが必要ですが、PC を中心とする従来の環境では、タイムリーな解析が困難でした。
「社員が解析に使えるのは PC のみで、最大でも数台分のリソース確保がやっとでした。技術研究所内には小規模な HPC 環境がありますが、専属の担当者に依頼する必要があり、頻繁な利用は難しい状況でした」と語るのは、大林組 設計本部 設計ソリューション部 アドバンストデザイン課 副課長の上田博嗣氏です。
また、解析工程における作業負荷も課題でした。都市環境の解析は、国土交通省主導で整備されているオープンデータの 3D 都市モデル『PLATEAU』のダウンロードから始まります。PLATEAU データと計画建物の CAD データを合わせて解析用形状を作成後、気象データを加味した解析条件を設定して解析用メッシュを作成。そこから解析、結果処理、可視化処理、レポート作成という工程となります。各工程はすべて手作業で、部門間の諸手続などさまざまな調整に時間を要していました。
「まず課題となるのが、PLATEAU データの取得です。ウェブサイト公開データから計画地周辺の 3D 都市モデルをダウンロードするだけでなく、データ形式(CityGML 形式)を建築分野のシミュレーションに適した形式(OBJ 形式)に変換する必要があります。全国の約 210 都市のデータを変換するのに、自動化しても 200 時間以上かかります。3D モデルデータに加え、解析データも合わせるとギガバイト、テラバイト級のデータを PC 上で変換、解析するのは限界があるため、クラウドの活用を検討しました」(上田氏)
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クラウドリソースをフル活用して、従来大変だった解析作業の全自動化と大幅な高速化ができるようになりました。PLATEAU Tools による設計・解析の DX に期待しています"
一居 康夫 氏
株式会社大林組 理事
設計本部 建築設計部 部長
DX 本部 本部長室 部長
ソリューション | 計算環境に AWS Batch と AWS Lambda を採用
オープンソースベースの解析ツールの開発に着手した上田氏は、2020 年に複数のクラウドサービスを検証。計算効率と使い勝手を重視して評価し、総合力と完成度が最も高かった AWS を採用しました。
「AWS は計算リソースの種類と安定的な確保において図抜けていました。1 つのジョブで利用可能な最大ノード数は 2020 年当時で 30~50 と圧倒的に多く、スポットインスタンスによって低コストで利用できます。また、AWS Lambda で数千台レベルの計算リソースを瞬時にスケールさせて計算効率を高められる点も評価しました。さらに、公開されている技術情報が多く、学習コストも抑制できると考えました」(上田氏)
そして 2021 年から解析ツールの開発を進め、まずは風の解析で利用を開始。PLATEAU データの OBJ 形式への変換にAWS Lambda、AWS Batch を活用し、変換済みのデータセットを Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)に保存して検索可能とすることで、全国の 3D 都市モデルの入手時間を短縮しています。
解析の各処理についてはコンテナを用いてモジュール化し、大規模な並列処理を実行する HPC 解析にフルマネージド型の AWS Batch、サーバーレスで分散処理を高速実行する HTC 解析に AWS Lambda を採用。コンテナで標準化した各解析処理は、AWS Step Functions で一連の工程を自動化。AWS Step Functions のワークフローで、HPC と HTC の処理を使い分けています。
「工程の全自動化に向けて調査する中で AWS Batch と AWS Lambda を知り、コンテナでモジュール化することで、処理に応じて自由に計算リソースを割り当てられるようにしました。そこから解析モジュールのワークフロー化を模索していく過程でAWS Step Functions にたどり着きました。利用開始から半年後には GUI ベースの AWS Step Functions Workflow Studio がリリースされ、思い描いたワークフローが手軽に組めるようになりました。そこから、シミュレーションのラインアップを風解析から日射解析、眺望評価に拡大していきました」(上田氏)
アーキテクチャ
導入効果 | 3D 都市モデルの取得時間、大規模解析の計算時間を大幅に短縮
AWS を活用したクラウド解析ツールは『PLATEAU Tools』としてリリース。解析が必要な時に、いつでも利用できるようになりました。現在はプログラムベースのバックエンドシステムとして構築されているため、AWS のスキルがある上田氏のチームがメインユーザーとして PLATEAU 形状取得や環境解析などに活用しています。
PLATEAU データのダウンロードと形式変換にかかる時間は、従来の 200 時間から 5 時間と、約 40 分の 1 になりました。また、解析時間も大幅に短縮。大量の計算リソースを必要とする都市の風環境を対象とした HPC 解析では、1 ノード(物理コア数 48)の計算で従来から 15~40 倍高速化。16 風向に対して実施する風解析において、16 風向分の同時解析を想定するとトータルで 240~640 倍の高速化を実現しています。
サーバーレスで分散して計算を実行する HTC 解析は、地表面や建物ファサードからの眺望評価に活用しました。眺望評価で解析用のメッシュから放射される 3 億 Ray の衝突判定処理を、3,000 に分割した結果、衝突判定が 1 分以内で終了しています。
「シミュレーションはすべて GPU で置き換えられるものばかりではないため、既存の CPU ベースのプログラムで大規模分散処理ができると有利です。起動時間が早く、大量の同時起動が可能であり、リソースが豊富な AWS Lambda を活用することで、GPU と同等の処理を CPU だけで実現できました」(上田氏)
AWS Step Functions による解析作業の全自動化については、これまで数日~数週間かかっていた解析時間が数分~数時間レベルに短縮され、作業の効率化と解析者の負担軽減につながりました。
現在は、バックエンドで利用しているPLATEAU Tools を、AWS に詳しくない建築設計者でも利用できるように Web UI の開発を進めています。今後は、連携するシミュレーションを拡張することで、一般ユーザーの裾野を拡大していく方針です。
「設計者の利便性を考慮し、解析機能だけでなく、例えば経路探索やストリートビューなどと連携して設計の初期段階で使える機能追加に取り組みます。さらに、3D モデリングツールと PLATEAU データを連携して、計画建物と合成した都市モデルで解析したり、CAD ソフトのアドインとして実装して CAD 内で解析データを活用したりと、設計現場の業務効率化に貢献できる設計・解析ツールに進化させていきます」(上田氏)
※『PLATEAU Tools』は、国土交通省主催の3D都市モデルを活用したサービス・アプリ・コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」で「マッドデータサイエンティスト賞」を受賞しています。
カスタマープロフィール:株式会社大林組
国内建設事業(建築/土木)を中核に、海外建設事業、エンジニアリング事業、開発事業、グリーンエネルギー事業、新領域ビジネスをグローバルに展開。企業理念に掲げる「持続可能な社会の実現」に向けて、「大林グループ中期経営計画 2022」を策定。建設事業の基盤の強化と深化、技術とビジネスのイノベーション、持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充の 3 つを基本戦略に、事業基盤の強化と変革の実践を推進している。
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上田 博嗣 氏
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