パルシステム生活協同組合連合会、Amazon Bedrock を利用した生成 AI システムを導入し、議事録やチラシ制作などに関わる業務負担を軽減

パルシステム生活協同組合連合会（以下、パルシステム）は、より良い社会と暮らしの実現を目指す消費生活協同組合です。特に、「食の安全」と「持続可能な社会づくり」をテーマに、食品供給に加え、共済・保険、福祉、電力といった幅広い分野で事業を展開しており、現在では 1 都 12 県で約 170 万世帯の組合員に利用されています。さらに 2024 年には、冷凍食品のニーズに応えるとともに大規模災害時のリスク分散を図るための物流拠点『つくばみらいセンター』を茨城県に開設するなど、社会インフラとしての役割も大きくなっています。

一方で、他の業種と同様に人手不足という課題に直面しており、新たな雇用を確保するのは容易ではなく、従業員の負担が増加しています。そこでデジタル技術を活用し、コールセンターでの自動音声応答システムの導入や、Web サイトでのレコメンドサービス活用など効率化に取り組んできました。「自動化できる部分は IT に任せることで、人への負担を軽減することを目指しています」と語るのは、情報システム本部 ITサービス部　部長の早川悟史氏です。

また、生成 AI が話題を集めるようになると、パルシステム内においても業務に利用する動きが出てきました。ただし懸念点は、外部システムへの情報漏洩リスクです。「感度の高い職員ほど新しい技術をいち早く使い始めるため、早い段階で生成 AI 活用のリスク検討に着手しました。特に懸念したのは、外部システムに機密情報を入力することで、AI にそれらの情報が学習されてしまう可能性です。そこで、株式会社シーイーシーにセキュリティを確保しながら生成 AI を活用できる仕組みについて相談しました」と早川氏は振り返ります。

10 年以上にわたってパルシステムのシステムを数多く支援してきたシーイーシーは今回の要望を受け、複数の生成 AI モデルを AWS 上で活用し、さまざまなタスクに対応するシステムを提案。AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock を使って、複数のタスクをセキュアな環境で実現するものでした。

「シーイーシーからの提案は、チャットによる問い合わせや議事録の要約、画像生成などがあり、インターフェースもユーザーにわかりやすいものでした。長年のパートナーであるシーイーシーは当社の業務にも精通しているため、安心して採用できました」（早川氏）

生成 AI の活用は、パルシステムの多岐にわたる業務を改善できる可能性を秘めていました。特に、約 2,000 人以上の配送担当者を抱える現場での活用です。まず、組合員向けのおすすめ商品やレシピ、ニュースを掲載したリーフレットの作成業務では、情報収集やコンテンツ制作に多大な時間と労力を費やしていました。また、パルシステムに加盟する地域生協においては、広報紙や機関誌の制作が重要な業務の 1 つとなっています。これらの媒体に掲載する画像の手配やクリエイティブなアイデア出しにも、多くの人的リソースと時間が必要でした。さらに、社内コミュニケーションの要となるウェブ会議においても、議題設定や議事録作成に多くの時間を費やしていました。

パルシステムはこれらの課題に対応するため、シーイーシーの支援のもと 2024 年 4 月に Amazon Bedrock を基盤とする複数のアプリケーションの構築を完了しました。ここで採用された生成 AI モデルは、それぞれ特徴的な強みを持っています。Claude は大量の情報を安全かつ効率的に処理する能力に優れ、複雑な質問への対応や長文の生成に適しています。Amazon Titan はテキストの要約、分類、情報抽出、検索など、多様なユースケースに柔軟に対応できる汎用性の高さが強みです。Stable Diffusion はテキスト入力から高品質な画像を生成する能力に長け、視覚的コンテンツの制作を大幅に効率化します。

これらのモデルを組み合わせることで、チャットボットによる問い合わせ対応、文章作成、要約、校正、翻訳、画像生成など、幅広いアプリケーションが実現しました。特筆すべきは、Amazon Simple Storage Service（Amazon S3）に格納された社内情報を安全に検索・参照できる環境を整備したことです。これにより、検索拡張生成（RAG）技術を活用し、AI モデルの回答精度を大幅に向上させました。

「Claude を活用して一番驚いたのは、やはり日本語の精度です。まるで賢いパートナーがすぐ横にいるような感覚です。的確な答えが瞬時に出てくることに本当に感心しました」（早川氏）

完成した複数の生成 AI アプリケーションによって、パルシステムの業務は大きく効率化されています。まず、配送担当者向けリーフレットのアイデアやレシピ提案を AI が担当し、創造的な内容を迅速に生成。さらに、AI 画像生成技術の導入により、画像撮影や外部への手配にかかるコストと時間が大幅に削減され、視覚的なコンテンツの制作プロセスが劇的に効率化されました。

また、社内システムのマニュアルを生成 AI の検索対象に組み込んだことで、従業員のシステム利用体験が向上し、ヘルプデスクへの問い合わせ件数が減少しています。会議運営においても、生成 AI の活用が進んでいます。1 つは、議題の事前準備に AI の補助を得ることで負担が減りました。もう 1 つは、会議の録画から自動で文字起こしと要約を行う機能により、議事内容の確認や共有が容易になり、情報の伝達と意思決定のスピードアップにつながっています。

「資料作成では、当初から 3 割程度完成した状態でスタートできるようになりました。私自身、会議資料の準備において予想以上の効果を実感しています。また、広報紙や機関紙、ポスターに使用する写真の撮影や業者との調整にかかる時間も 70% 程度削減できると見込んでいます」（早川氏）

当初およそ 100 名の担当者からスモールスタートした生成 AI アプリケーションの活用は、その効果が認められ、今後はパルシステムの IT システムを利用する約 4,000 人のユーザーへ展開する段階となっています。情報システム本部では、効果的な使用方法の周知や、ユーザーからのフィードバックを基にしたシステムの改善を行いながら、全社的な活用を推進していきます。早川氏は今後の展望について、次のようにコメントしています。

「Amazon Bedrock の活用で、業務効率化が進み、より価値の高い分野にリソースを集中できるようになりました。これも AWS の最新テクノロジーと シーイーシーのサポートのおかげです。今後も両社には革新的な技術とサービスの提供を期待しています。この関係が、組合員サービスのさらなる向上につながると確信しています」