概要
パナソニックグループで B2B ソリューションサービス事業を展開するパナソニック コネクト株式会社。同社は SaaS 事業の 1 つである顔認証クラウドサービス『KPASクラウド』を、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を含む複数のクラウドサービスを活用し提供してきました。2023 年 3 月には他社クラウドで運用していた顔照合 API (顔認証エンジン)を AWS に移行して統合。一度に照合可能な人数を、従来の最大 15 万人から最大 100 万人に拡大しました。

課題・ソリューション・導入効果
課題
可用性の向上に向けてクラウドを AWS に統合
KPASクラウドの開発・運用を手がけるパナソニック コネクトの現場ソリューションカンパニー(以下、GSOL)は、顧客最前線でお客様の経営課題や現場課題に向き合う中核の事業組織です。KPASクラウドは、その GSOL が 40 年以上にわたってカメラの画像処理で培ってきた画像技術と、顔の特徴を学習するディープラーニング技術の応用によって実現した顔認証技術を、スマートフォン、タブレット、PC などのデバイスで利用できるクラウドサービスとして 2019 年 11 月にリリースしました。
現在、「勤怠」「入退」「チケット連携」「本人確認」などで顔認証を活用するための SaaS や、顧客のシステムやサービスに組み込む API を提供しています。GSOL サービス&ソフトウェアプラットフォーム本部 サービスマーケティング部の上野華依氏は「イベント・コンサートでのチケットレス入退場や会場内での決済などエンタメ業界を中心に利用されてきました。近年は、建設現場における不特定多数の作業員の入退管理や、幼稚園や保育園の子供の安全に向けた登園管理など、利用範囲も拡大しています」と語ります。
2019 年のリリース当初、KPASクラウドの基盤は、先行開発した顔照合 API (顔認証エンジン)が他社クラウド、追加開発したフロントエンドが AWS という構成でした。しかし、リリースから 1 年でユーザー数が 4 倍、アクセス数(照合数)が 3 倍に成長し、サービス提供パートナーの数も 130 社に急増すると、運用面での課題が顕在化してきました。
「最大の課題は、顔照合 API で採用している他社クラウドの場合、我々が求めるインスタンスが近隣のデータセンターを冗長化して可用性を高める方法に対応しておらず、遠隔地のデータセンターに冗長化することでしか対応できなかったことです。近隣でネットワーク費用の負担が無いことは、コスト的にも、また安定感も違います。
また、従来の環境では、顔照合 API とフロントエンドで多くの通信が発生するため、顔照合のパフォーマンスに影響を及ぼす懸念もありました。そこで、我々が求めるインスタンスでも、これらの課題をまとめて解決することができる AWS のマルチアベイラビリティゾーン(AZ)構成にすることにしました」と語るのは、GSOL サービス&ソフトウェアプラットフォーム本部 マネージングダイレクターの水野登志子氏です。
ソリューション
ユーザー増に対応するスケーラブルなアーキテクチャ
AWS 選定の理由を GSOL サービス&ソフトウェアプラットフォーム本部 ソフトウェアプラットフォーム総括部の光武芳子氏は次のように語ります。「AWS は我々が希望するインスタンスのラインナップが豊富で、顔照合に最適なタイプが選べるため、コスト面でのメリットがありました。サーバーやデータベースのメンテナンスのスケジュールも自分たちで設定できるため、事前にお客様にお知らせできる点も効果の 1 つです」
プロジェクトは 2023 年 1 月からスタートし、3 か月後の 3 月末には基盤統合を終えて KPASクラウドの新バージョンとして提供を開始しました。KPASクラウドの新たな基盤は、ユーザーの増加に合わせて容易に拡張ができるようにスケーラブルなアーキテクチャで構成しています。GSOL サービス&ソフトウェアプラットフォーム本部 ソフトウェアプラットフォーム総括部の牟田道弘氏は「Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) のスケールアウト構成では、機密情報保管をする共有ストレージの領域を従来のローカルディスクからマネージドサービスの Amazon Elastic File System (Amazon EFS) に切り替えて、容量無制限、自動の容量拡張、従量課金のメリットが得られるようにしました。また ELB の分散配置により、トラフィックとサーバーの構成をシンプルなアーキテクチャで実現しています」と語ります。
プロジェクト期間中は、福岡の開発拠点と AWS 間で緊密にコミュニケーションを取りながら進めました。
「定例会や普段のコミュニケーションの中で、AWS の担当者からさまざまなヒントをいただきながら、自社で開発を進めてきました。例えば、エッジ本体で高速認証するエッジ版では、AWS のクラウド上からインターネット経由でエッジ端末の OS がメンテナンスできる AWS Systems Manager を紹介いただきました。その結果、複数のエッジ端末を効率的に管理できるようになりました」(光武氏)
導入効果
サービス品質の向上により顧客満足度も向上
AWS に基盤を統合した新バージョンの KPASクラウドは、顔照合 API とインフラのパフォーマンス改善により、一度に照合可能な人数が従来の最大 15 万人から最大 100 万人まで拡大。さらに、本人認証エラーを従来比で約 60 % 低減し、マスクや顔の傾き、照度などの外乱に対する堅牢性も向上しました。
「本人確認の精度向上はパートナーさんにも歓迎され、独自の CM やニュースリリースを制作して積極的にプロモーション展開するパートナーさんも出てきて、サービス拡大につながりました」(上野氏)
基盤については他社クラウド間との通信の削減や、選択できるインスタンスのラインナップが増えたことで、インフラ全体のコストが従来比で約 2 分の 1 に削減できました。不必要な基盤メンテナンスから解放されたことで、計画的なメンテナンスが可能となり、運用性も向上しました。
AWS に基盤を統一した結果、ネットワークによる遅延の不安もなくなり、適切にサイジングされたインスタンスのスケールアウト構成によりシステムパフォーマンスも 2 倍に向上。システム全体の監視ポイントも半分になり、障害調査の効率は 2 倍に改善されました。
「AWS に統合したことで基盤のブラックボックス部分がなくなり、トラブル時の調査が容易になりました」(牟田氏)
基盤統合によって得られたメリットについて水野氏は、サービス品質の向上、新たな付加価値の提供、さらにはエンジニアリングレベルの向上にあると実感しています。
「顔認証の精度と可用性の両立が求められる KPASクラウドにおいて、お客様に安心してお使いいただけるレベルまで品質を高められたことが何よりの成果です。福岡の開発チームが、お客様やパートナーさんからのフィードバックを受けて楽しみながら開発や運用に取り組み、エンジニアとして成長が実感できるようになったことも成果の 1 つであり、意義のあるプロジェクトでした」(水野氏)
今後もさらなる機能強化に向けた開発と、ログなどを活用したオブザーバビリティの実現によって、パフォーマンスおよび可用性の向上に取り組む方針です。ビジネスとしては、取り扱いパートナーの拡充とソリューション適用領域の拡大に向けて照合アプリや SDK などを提供しながら導入先業種や事例の拡大を目指していく考えです。さらにはアジア圏の企業・官公庁への展開を視野に入れています。
「KPASクラウドのサービス拡大に向けて、積極的に新しい事例にトライしていきます。AWS にはこれまでの支援実績に基づき、新たなサービスや技術の提案を期待しています」(水野氏)

顔認証の精度と可用性の両立が求められる KPASクラウドにおいて、お客様に安心してお使いいただけるレベルまで品質を高められたことが何よりの成果です
水野 登志子 氏
パナソニック コネクト株式会社 現場ソリューションカンパニー サービス&ソフトウェアプラットフォーム本部 マネージングダイレクターアーキテクチャ図

企業概要 パナソニック コネクト株式会社
パナソニックグループで BtoB ソリューションを提供していたコネクティッドソリューションズ社が、九州松下電器を母体とするパナソニックシステムソリューションズジャパン(現場ソリューションカンパニー)などを統合して 2022 年に設立。現在、“現場から社会を動かし未来へつなぐ”をパーパスに、サービスを提供している。

取組みの成果
- 100 万人
一度に照合可能な人数 - 約 60 %
低減本人認証のエラー率 - 800 万円 / 年(1/2)
インフラコストの削減(従来比) - 2 倍
システム全体のパフォーマンス
本事例のご担当者
水野 登志子 氏

光武 芳子 氏

牟田 道弘 氏

上野 華依 氏
