ミッションクリティカルな株価配信サービス基盤を AWS へ移行し
1,500 台の仮想サーバーのクラウド化で 60% のサーバーコストを削減
競合優位性の獲得に向けてクラウドネイティブ化を加速

2021

日本経済新聞社グループの金融情報サービス会社として、証券・金融市場で活用されるマーケット情報を提供する株式会社QUICK。2014 年からアマゾン ウェブ サービス(AWS)の利用を開始した同社は、2018 年 10 月から約 1 年をかけてオンプレミス環境で運用してきたミッションクリティカルな証券会社・銀行のオンラインチャネル向け株価配信サービスを AWS 上に移行しました。約 1,500 台の仮想サーバーのクラウド化によりサーバーコストを 60% 削減し、ネットワーク機器等を含めたハードウェアやソフトウェアの保守コストも 70% 削減しています。

AWS 導入事例  | 株式会社QUICK
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サービス基盤は夜間や休日も含めて 24 時間 365 日の稼働が求められます。AWS は、金融機関を含めミッションクリティカルなシステムで採用されている多くの実績がありました。さらに、FISC 安全対策基準に関する情報が整っていることが選定の後押しになりました

保谷 洋子 氏
株式会社QUICK
コンサルティング営業本部 本部長

AWS 利用の共通基盤を構築し株価配信サービスの移行を開始

1971 年の創業以来、日本の証券・金融市場を支える情報インフラとしての役割を担う QUICK。日経平均株価の算出や証券会社を始めとする金融機関向けサービスで、QUICK の情報が利用されています。

機密性、可用性が求められる金融情報を扱うがゆえに、長らくオンプレミス環境上でシステムを運用してきた同社は、2014 年よりバックアップ用途で AWS の利用を開始しました。その後も新規システムの基盤で採用を続ける中、2016 年から AWS による全社共通基盤の構築を検討し、2017 年 7 月にリリースしました。そこでの導入・運用ノウハウを活かし、競争力の源泉とするため既存サービスを AWS 上で提供することを決断しました。大規模移行の第 1 弾として選定されたのが証券会社・銀行のオンライン向け株価配信サービス(以下、株価配信サービス)です。

「直接のきっかけは、3,000 台規模の仮想サーバーを運用しているプライベートクラウドのストレージの保守終了です。単純なリプレースでは億単位のコストがかかる上に新たな価値を見出すことはできません。そこでフィージビリティスタディを実施し、AWS 上の稼働でも問題はないことを確認して移行を決めました。Fintech 企業の登場で株価配信ビジネスの競合も多数登場し、お客様も私たちにスピードを求めています。ビジネス面でも競合に対する競争優位性を確保するためには、クラウドを活用して変革スピードを高める必要がありました」と語るのはコンサルティング営業本部本部長の保谷洋子氏です。

今回移行した株価配信サービスは、同社が証券会社や銀行向けに提供している BtoBtoC のサービスです。個人投資家は契約する証券会社や銀行の Web サイト経由で株価等のマーケット情報を参照します。「そのため、サービス基盤は夜間や休日も含めて 24 時間 365 日の稼働が求められます。AWS は、金融機関を含めミッションクリティカルなシステムで採用されている多くの実績がありました。さらに、FISC 安全対策基準に関する情報が整っていることが選定の後押しになりました」と保谷氏は語ります。

リアルタイム株価の安定更新に向け可用性と低遅延を重視して構築

株価配信サービスの移行は、2018 年 3 月より環境構築を開始しました。その後、2018 年 11 月から 2019 年 10 月までの 1 年間で、約 100 社に提供している約 250 サービスをすべて AWS 上に移行しました。コンサルティング営業本部 副部長ネット開発担当の髙橋健太郎氏は次のように語ります。
「移行したサーバー台数は約 1,500 台。アプリケーションへの影響を考慮して、既存環境のアプリケーションを AWS 上に移行するリフト方式を採用しました。まずは小規模なサービスからスタートし、週 1 回で約 7 サービス、約 70 のステップに分けて徐々に規模を拡大していきました」

リアルタイムに株価を更新する株価配信サービスは、可用性と低遅延が求められます。そこで可用性対策としては、2 つのアベイラビリティーゾーン(AZ)を利用するマルチ AZ を採用し、システムをデュアル構成とすることで障害時の影響範囲を最小化しました。株価データを保管するデータセンターと AWS の環境間は、AWS Direct Connect を利用して 10Gbps の冗長構成を構築しています。IT 基盤本部の矢内隼人氏は次のように語ります。
「AWS Direct Connect は、2 つのロケーションを採用することで冗長化を図りました。加えて 2 つの系統をそれぞれアクティブスタンバイ構成とすることで回線障害時も影響を受けないようにしています」

低遅延対策としては、各 AZ 内で通信が完結するように EC2 を配置し、AZ を跨ぐ EC2 間通信を排除してサービス全体の遅延が増加しないよう工夫しました。

検証段階では、インスタンスタイプの選定で課題が生じました。当時リリースされた最新インスタンスを採用したことで、性能は向上したもののバグが発生して再起動が頻発するトラブルが発生したのです。そこで AWS のテクニカルアカウントマネージャー(TAM)の支援を活用して 1 世代前のインスタンスに戻すことで対応しました。
「インスタンスタイプの世代に関して、TAM からはさまざまな情報提供をいただき、問題なく構築することができました」(矢内氏)

開発と運用の一体化で開発のアジリティが大幅に向上

完全移行から 1 年が経過した現在、株価配信サービスは安定稼働を続けています。マーケットに影響を与える世界的ニュースや材料が発生し急激なアクセス増加が予測される際にも、短時間にリソースを増強して備えることが可能になりました。AWS のマネージドサービスによって運用負荷が軽減した結果、これまで IT 基盤本部で担当していたサービス基盤の運用も、サービスを開発する担当部門に移管しています。
「開発と運用の一体化でセルフマネジメントが可能になり、自由度は格段にあがりました。オンプレミス環境で開発していた従来と比べて、開発のアジリティが大きく向上しています」(髙橋氏)

コスト面では、サーバーコストの 60% 削減が実現し、ネットワーク機器等を含めたハードウェアやソフトウェアの保守コストも 70% 削減できました。
「2021 年にかけてコンテナの活用、DB の Amazon Aurora への移行、メモリーキャッシュの Amazon ElastiCache の活用など、クラウドネイティブ化やフルマネージド化を進めることで、さらなる効果が期待できます」(保谷氏)

100 名体制の AWS エンジニアを育成し数年かけて多くのワークロードを AWS へ

今後に向けては、新規システムは AWS 上で構築する方針です。オンプレミスで稼働している約 1,500 台分の既存の仮想サーバーやネットワーク機器を、今後数年かけて EOL のタイミングで AWS 上に構築された全社共通基盤へ移行する計画です。そのために、2021 年度中に 100 名体制の AWS エンジニア育成に向けて教育プログラムの整備を進めています。

AWS の活用については、これまで専用線のみで提供していたデータフィードサービスを、AWS PrivateLink でも提供を開始しました。2020 年 9 月には AWS Data Exchange を活用して、同社が保有する各種金融情報を AWS Marketplace を介して国内外の機関投資家に販売するサービスを開始しています。髙橋氏は「QUICK における FinTech ビジネスの拡大に向けて、AWS には各種マネージドサービスの機能拡充や大阪ローカルリーションの早期フルリージョン化に期待しています」と語ります。

保谷 洋子 氏

髙橋 健太郎 氏

矢内 隼人 氏


カスタマープロフィール:株式会社QUICK

  • 設立: 1971 年 10 月 1 日
  • 資本金: 6 億 6,000 万円
  • 売上高: 325 億円(2019 年 12 月)
  • 従業員数: 688 人(2020 年 4 月 1 日現在)
  • 事業内容:日本経済新聞社グループの金融情報サービス会社として、世界の証券・金融情報などをリアルタイムで配信。資産運用支援、注文執行業務の支援、情報ネットワーク構築支援サービスなど、証券・金融市場に関連する総合的なソリューションを提供している。

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • サーバーコストをオンプレミス比較で 60% 削減
  • ネットワーク機器等を含めたハードウェアやソフトウェアの保守コストをオンプレミス比較で 70% 削減
  • マネージドサービスによる運用負荷の軽減
  • 2021 年にかけてアーキテクチャをクラウドネイティブやフルマネージドに移行予定
  • 数年かけて QUICK 内で利用する多くのワークロードを AWS へ移行予定
  • クラウドネイティブ化、内製化に向けて 100 名体制の AWS エンジニアを育成

ご利用中の主なサービス

Amazon EC2

Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) を使用すると、クラウド上のリレーショナルデータベースのセットアップ、オペレーション、スケールが簡単になります。

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Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。

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AWS Direct Connect

AWS Direct Connect はオンプレミスから AWS への専用ネットワーク接続の構築をシンプルにするクラウドサービスソリューションです。AWS Direct Connect を使用すると、AWS とデータセンター、オフィス、またはコロケーション環境との間にプライベート接続を確立することができます。

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