2 兆円
1 日あたりの取引額
1 億
1 日あたりのアクセス数
約 360 万
1 日あたりの取引(発注)処理件数
半分以下
キャパシティの拡張期間(オンプレ比)
概要
国内株式の個人取引でトップクラスのシェアを誇る株式会社 SBI 証券。「ゼロ革命」と題して、2023 年 9 月末から国内株式売買手数料の無料化を開始した同社は、取引の急増に備えて国内株式のオンライン取引システムをアマゾン ウェブ サービス(AWS)へ移行。現在、証券総合口座数は 1,300 万を超え、1 日あたり最大 2 兆円を超える国内株式が AWS 上で取引されています。

ビジネスの課題 | 取引急増に対応できる拡張性が課題に
1999 年 10 月にインターネット取引サービスを開始して以来、「顧客中心主義」を経営理念に日本のオンライン証券市場を牽引してきた SBI 証券。同社が国内株式取引システムの AWS 移行に踏み切った背景には、国内株式売買手数料無料化による顧客基盤の飛躍的拡大が見込まれることがありました。
同社は 2019 年に「ネオ証券化」構想を発表し、2023 年 9 月末からインターネット取引における国内株式売買手数料を無料にする「ゼロ革命」を開始することを決定しましたが、さらに 2024 年 1 月には、政府による新しい NISA 制度(少額投資非課税制度)の開始も予定されていました。しかし、口座数/取引量が急増することが予想される中で、従来のオンプレミス環境ではキャパシティの拡張に懸念がありました。「オンプレミスではハードウェアの調達などで 1 年ほどを要し、取引量の急増に耐えられない可能性がありました。そこで拡張期間の短縮を目指して AWS への移行を決めました」と語るのは、執行役員でコーポレートIT 部長の韓基炯氏です。
AWS への移行に際して SBI 証券では事前検証を実施し、コスト面やサービス拡大面でもメリットがあることを確認しました。執行役員 I T 企画部長の武藤恵慈氏は「ハードウェアの調達費、維持費、運用費を考慮すると、AWS に移行することでコストメリットが得られると判断しました。今後のサービス開発を加速するうえでも、開発環境や検証環境を柔軟に構築できる機動力も魅力でした」と振り返ります。

「ゼロ革命や新 NISA の開始以降、アクセス数は予想を上回るペースで伸びていますが、俊敏性が向上したことにより即座のキャパシティ拡張が可能となり、安心感が高まりました」
武藤 恵慈 氏
株式会社 SBI 証券 IT 企画部 執行役員
ソリューション | AWS CDK によりインフラリソースをコード化
国内株式取引システムのクラウド移行に際しては、同社のバックアップサイトやサブチャンネル等で実績があった AWS を採用しました。SBI グループの戦略的 IT 子会社である SBI シンプレクス・ソリューションズ(以下、SSS)の岩本敦史氏は「長年にわたり AWS を利用しているため、社内にナレッジがあることが一番でした。加えて、サービスの豊富さとクラウドベンダーとのトップランナーであることを評価しました」と語ります。
プロジェクトは 2022 年 11 月にスタートし、1 年 4 か月後の 2024 年 3 月に AWS への移行を終えました。1 年 4 か月での移行は、オンプレミスと比較して半分以下の期間です。移行対象はフロントアプリケーションに留まらず、キャッシュ、DB、ビジネスロジック、バッチ処理、注文処理基盤など多岐にわたります。SSS の藤田幸弘氏は「取引システム本体に加えて、バックエンドの DB までをオンプレミスから AWS に移行するチャレンジングなプロジェクトとなりました」と振り返ります。
本プロジェクトの特徴として、AWS Cloud Development Kit(AWS CDK)を用いてインフラリソースをコード化し、すべての本番環境への変更を CI/CD パイプラインを通じて行うことで作業品質が向上し俊敏性を高めることができました。AWS CDK は、AWS 環境を一般のプログラム言語で記述できるツールです。AWS CloudFormationを通じて AWS リソースをプロビジョニングすることができ、実装速度の高速化やヒューマンエラーのリスク軽減などに貢献します。
「インフラ開発チームは以前よりオンプレミスも含めてすべての基盤をコード化し、環境をスピーディかつ高品質に構築できるようにしてきました。AWS においてもコード化するのは必然で、複数の選択肢の中からプログラミングでコードが書ける AWS CDK を採用しました」(韓氏)
可用性を高める対策としては、複数のアベイラビリティゾーン(AZ)で運用するマルチ AZ 構成を採用。可用性のテストでは、稼働中のシステムに AWS Fault Injection Service(AWS FIS)を利用して疑似的な障害を発生させ、耐障害性を高めるカオスエンジニアリングを実施しました。
「疑似的な障害テストは実施していたものの、AWS の管理するインフラ領域では実現できていませんでした。今回、ミッションクリティカルなシステムを構築するにあたり、こうした領域でのテストが不可欠と考えていたところで AWS FIS のリリースを知り、採用しました。その結果、予期できない AZ 障害などのシミュレーションを重ねることができ、AZ 間の切り替えもスムーズに進みました」(岩本氏)
国内株式取引システムと連携する周辺システムについても、接続テストでレイテンシーや障害を確認し、可用性を確保しています。
「国内株式取引システムは、AWS 上やオンプレミス上にある 500 台以上のサーバーと連携しています。すべての接続先に対して優先順位を付けながら、トラフィックの急増に耐えるためのテストを実施しました」(藤田氏)
プロジェクト中、AWS のアカウントチームやソリューションアーキテクトとは緊密に連携し、さまざまな課題を両社で乗り越えていきました。
「AWS の担当者からは、想定外の問題に対しても深いところまで踏み込んでアドバイスをいただきました。AWS のアメリカ本社のサービスチームと一緒に深掘りし、解決まで導いていただくこともありました」(韓氏)
導入効果 | 口座数/取引量ともに急増し、1,300 万口座を達成
AWS への移行後、同社の証券総合口座数は「ゼロ革命」を開始した 2023 年 9 月末時点で 1,106 万口座を達成しました。新 NISA 開始以降も加速度的に顧客基盤を拡大し、2024 年 7 月 16 日には 1,300 万口座を超えました。現在、国内株式取引システムへのアクセス数は 1 日あたり 1 億におよび、1 日あたりの取引(発注)処理は約 360 万件、1 日あたりの取引額は 2 兆円を超えています。低レイテンシーを実現しながら高い拡張性と柔軟性を備えた新システムは、急増するアクセスに対しても迅速に対応ができ、安定した取引を支えています。
「アクセス数は私たちの予想を上回るペースで伸びていますが、急激なビジネスの成長に対しても俊敏性が向上したことにより即座のキャパシティ拡張が可能となり、安心感が高まりました」(武藤氏)
AWS CDK によるインフラのコード化で、キャパシティの拡張期間はオンプレミスと比較して半分以下となっています。
「現状では半分以下ですが、テストも含めてさまざまな領域の自動化を進めることで、最終的には 4 分の 1 まで短縮することを目指しています」(韓氏)
今後については、今回のプロジェクトで獲得したノウハウを活かして、外国株、投信、債券の取引システムや、バックエンドの業務システムを、2026 年を目処に AWS に移行する予定です。
開発環境の高度化も継続課題であり、生成 AI を活用した効率化にチャレンジするほか、AWS 人材の育成や採用も積極的に進めていく方針です。
「SSS を中心とした内製化でエンジニアリング力は大きく向上しましたが、AWS CDK によるコード開発や、クラウドネイティブ化を担う AWS 人材はまだまだ不足しています。ミッションクリティカルな証券システムの安定運用に向けて、AWS には教育プログラムの充実などの支援を期待しています」(武藤氏)
企業概要 株式会社 SBI 証券
SBI ホールディングス傘下のオンライン総合証券。1999 年、イー・トレード証券として取引サービス開始。2008 年、SBI証券に商号変更。業界で圧倒的なシェアを獲得し、国内株の個人委託売買代金シェアは約 52.1 %(2024 年 3 月期)。リテール分野に加え、IPO ・ PO の引受業務、事業法人・金融法人ビジネスや海外機関投資家ビジネスの強化など、ホールセール分野での業務拡大を推進している。


武藤 恵慈 氏

韓 基炯 氏

藤田 幸弘 氏

岩本 敦史 氏
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