IoTと機械学習テクノロジーを活用し
世界の水産養殖業の未来を拓く

2021

ウミトロンは、世界的な成長市場である水産養殖業の課題をテクノロジーで解決したいという思いで生まれたスタートアップであり、人工衛星データや IoT・機械学習などの先端技術を活用し、収益性や労働生産性の向上、環境保全に繋がる持続可能な養殖を目指しています。創業当初からアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用し、少数精鋭でスピーディに画期的なソリューションを開発する同社は、養殖魚の生育期間を 4 ヶ月も短縮するなどの成果を上げ、グローバルに注目を集めています。

AWS 導入事例  | ウミトロン株式会社
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この仕組みを導入した結果、通常 1 年かかる魚の育成を 4 ヶ月短縮することができました。AWS は IoT や機械学習を使ったサービス開発に必要な機能を幅広く備えています。少人数でも安定的に運用して容易にグローバルへスケールできる点は、スタートアップにとって欠かせない特長です

岡本拓磨氏
ウミトロン株式会社 共同創業者/最高技術責任者

1 年かかる魚の育成過程を4 ヶ月も短縮

IT で創る次世代の水産養殖業

“海+エレクトロン”から生まれたウミトロンの名前には、テクノロジーの力で水産養殖業の発展や水産資源の保全を推進しようという思いが込められています。安定的に水産物を提供するため、水産養殖事業者はさまざまな努力を重ねていますが、他の一次産業と比較すると新しい産業であり、これまで技術革新も遅れていました。そこでウミトロンは、人工衛星データと IoT、機械学習などの先端技術を組み合わせることで効率化や最適化を図り、養殖事業者・消費者・地球環境における持続可能な養殖の実現を目指しています。

水産養殖業で特に難しいのは“エサやり”です。飼料自体の価格がこの 15 年で数倍にも高騰しており、今や養殖コストの 50~80% にも達していると言われます。また、給餌のタイミングや量はスタッフの経験や勘、労働時間などに依存してきました。タイマーで自動給餌する装置もありますが、タイミングなどが合わず、魚に食べられることなく海の底へ沈む量も少なくないといいます。

「私たちはプロトタイプとして、生け簀にカメラを設置して魚と海の様子をリモート監視し、給餌する『UmiGarden』を開発しました。遠方の海上でもリモートで監視でき、従業員がいけない早朝や休日、悪天候の日でも適切に給餌できるのは大きなメリットです」と、ウミトロンの共同創業者で、最高技術責任者を務める岡本拓磨氏は述べています。

現在は、重量センサー及び機械学習で魚の飽食具合を判断する機能などを強化した『UMITRON CELL』が UmiGarden の後継機として展開されています。愛媛県で行われた研究では、UMITRON CELL は業務効率や給餌効率の向上に加えて魚の成長速度にも効果があり、育成期間を 4 ヶ月も短縮できるという成果が得られました。海外の事業者も積極的で、例えばペルー・チチカカ湖のサーモントラウト養殖で UMITRON CELL が活用されています。タイでも新しいエビ養殖モデルの開発に向けて、現地事業者との協業が進められています。

IoT に求められる要素がすべて備わっている AWS IoT

ウミトロンでは創業当初から、IoT デバイスやデータの管理、データ分析・機械学習の基盤として AWS を採用。岡本氏は前職でも AWS の利用経験があり、豊富な機能を組み合わせることで要件に合うソリューションを早期に実現できると考えたといいます。世界中にユーザーがいるため情報が集まりやすいというのも、スピーディな開発には重要でした。

「AWS は、早い段階から IoT や機械学習に着目し、最新のニーズに沿ったサービスを提供しています。その他のインフラも含め、少人数でも安定的に運用して容易にグローバルへスケールできる点は、スタートアップにとって欠かせない特長です。セキュリティも、ベストプラクティスに則れば容易に最適化されます。そのため機能開発に多くのリソースを消費することなく、水産養殖業の支援に全力を注ぐことができます」(岡本氏)

水産養殖業は複雑で、ユーザーによって条件は大きく異なります。自然が対象ということもあり、トライアル&エラーを繰り返すことが前提のサービスでもあります。AWS であれば、IT インフラの調達が容易で、初期投資も抑えることができます。機能修正も思い立ったらすぐに実行し、洋上のデバイスもリモートアップデート機能で常に改善していくことができます。AWS の機能を基盤とする UMITRON CELL は、機能向上を含めたサブスクリプションサービスとして提供できるようになっています。

「AWS の柔軟性は、商用サービスにおいて特に重要です。開発当初は処理をサーバーに寄せてデバイス側はなるべくシンプルにしておき、開発スピードを向上させます。運用開始後は処理を IoT デバイス側に移行し、通信が不安定でも適切に機能するようにします。この割り振りをあらかじめ決めておくことは難しいのですが、AWS IoT であればダイナミックに変更して最適化することが可能です。ほかにも IoT を利用するうえで問題になりそうなところはほとんどカバーされており、非常に助けられています」(岡本氏)

機械学習のフレームワークとなる Amazon SageMaker

ウミトロンには 12 名のソフトウェアエンジニアがおり、機械学習の領域ではデータサイエンティストや Web エンジニアが協力してサービスを開発・提供しています。しかし当初、両者の対話がうまくかみ合わないことがありました。機械学習の環境が統一されておらず、互いの依頼や認識が理解しにくくなっていたのです。

「そこで、AWS のソリューションアーキテクトのアドバイスを参考に、機械学習モデルの開発・管理プラットフォームをAmazon SageMaker に一新しました。

SageMaker がフレームワークとして機能するため、データサイエンティストは自分自身で機械学習モデルをデプロイできるようになり、Web エンジニアは SageMaker の動作のみに注目すればよくなりました」と岡本氏が振り返るように、良い意味で両者が疎になり、互いに何かを頼んで待つということもなく、スピーディに開発が進むようになったといいます。

同社のエンジニアには IT インフラに特化したメンバーはおらず、それぞれが AWS を操作して必要なリソースを準備し、研究や開発に活用しています。専門家でなくとも簡単に使いこなすことができる点も大きなメリットとなっています。

環境変化に強い水産養殖事業者の未来へ

ウミトロンは 2020 年 7 月、人工衛星データを活用した水産養殖向け高解像度海洋データ提供サービス『UMITRON PULSE』の提供を開始しました。リモートセンシング技術を応用し、海洋温度や溶存酸素、塩分濃度などの水産養殖に必要な情報を地図上に可視化する Web サービスです。こうしたデータを海中で測定するセンサー類も存在しますが、高価でメンテナンスが困難という問題がありました。また、近年は異常気象が多く発生しており、従来の経験則が通用しないケースも増えています。

「衛星データを活用する UMITRON PULSE は事業者が持つ従来からの知見を置き換えるのではなく強化するソリューションとして、いっそう効率的な育成やリスク管理に貢献していくものです」と、岡本氏は強調します。

また、AWS をベースにリモートで開発・利用できる UMITRON PULSE のようなソフトウェア製品は、自然災害や新型コロナウイルス(COVID-19)の問題などで移動が困難になる状況でも安定的に提供できるという利点があります。今後もウミトロンでは、ハードウェアベースのサブスクリプションサービスに加えて、ソフトウェアソリューションにも注力していきたいとしています。

「AWS は、私たちのようなスタートアップ企業が活躍できる場が多く、ソリューションアーキテクトも手厚いサポートを提供してくれます。事例が豊富で、参考になるものも多くありました。新しいマネージドサービスにも、何か事業に活用できるものがないかと注目しています。私たちがよりよいサービスを開発・提供できるように、よりよいマネージドサービスの実現を期待しています」(岡本氏)

岡本 拓磨 氏


カスタマープロフィール:ウミトロン株式会社

  • 設立: 2016 年4 月
  • 従業員数: 30 名
  • 事業内容:水産養殖事業者向けデータプラットフォームの開発・提供

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 水産養殖業向け自動給餌システムをスピーディにローンチ
  • インフラ担当を置かずに、各エンジニアがサービスを開発可能
  • Amazon SageMaker が機械学習のフレームワークとして機能

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