AWS re:Invent 2016 の 3 日目。Werner Vogels (Amazon CTO) によるキーノートが行われました。今回は「Transformations」(変革)をキーワードに、AWS がいかにお客様の痛みを取り除くかについて、多数の新サービスの紹介を交えて語られました。
また、ゲストスピーカーとして Twilio 社の Jeff Lawson 氏 (Co-founder, CEO and Chairman) や Trainline 社の Chris Turvil 氏 (Head of Cloud and Platform Agility)、連邦政府の Dj Patil 氏 (U.S. Chief Data Scientist, The White House)、MAPBOX 社の Eric Gunderson 氏 (CEO)、Netfix 社の Neil Hunt 氏 (Chief Product Officer) が登壇し、AWS の有用性や各社での今後の活用の方向性などを紹介しました。
Day 3 キーノートは「Transformations」(変革)というキーワードを皮切りに幕を開けました。Werner は、この 10 年 AWS は IT を変革し続けてきたが、それはテクノロジーだけではなく構造的な面でも抜本的に変革してきたと述べ、Amazon が小売業としてスタートしたときの状況(コストや拡張性などの面で大変厳しい状況)を引き合いに出すと、いかに Amazon が顧客重視の企業であるかをあらためて明確に説明しました。その証左として Werner は、単に顧客重視と唱えるだけではなくその結果何を実行したのかが重要であるという点と、必要がなくなればいつでもやめられる点を強調しました。
加えてお客様にとって魅力的な AWS サービスの提供ために多くの時間をお客様に費やしていること、また今年は新サービス、新機能が 1,000 を超えるであろうと説明しました。また、それらの AWS サービスの特徴はあくまでも、お客様のビジネスを成功に導くための道具であり、1 つ 1 の道具はシンプルながら、たくさんの道具を用意することで、多くのお客様に役立つように考えている点も強調しました。
そしてセキュリティの観点も触れ、AWS はお客様とお客様のビジネスを保護するためにあらゆる努力していることに加えて、お客様も自身を守ることが必要でありもちろんのそのための道具も用意することも説明しました。
そして "変革"のキーワードは、あらゆるサイズの企業、若い企業から老舗企業に至るまで重要であると説きつつ、最初のゲストであるTwilio 社の Co-founder, CEO and Chairman である Jeff Lawson 氏を招き入れました。
冒頭 Jeff 氏は、ソフトウェア開発の経験から「ソフトウェア開発」とはテクニックのみではなく、マインドセットが重要であるという点を強調し、Jeff 氏の過去の経験から、お客様とのコミュニケーションが重要であったと語りました。
そして経験してきた事業はいずれもアジリティ(俊敏性)が高く求められ、当時の IT の状況を振り返り、いずれの事業でも大きなシステム開発に年単位の時間を使っていたと述べました。それらの経験から Jeff 氏は、2008 年に Twilio 社を立ち上げ、現在ではエージェントに相当するドライバーは 50 万、インタラクションは 40 億にもなり、もはやクラウドでなければ実装できない面を実感を持って解説しました。
そして Twilio 社もまた、年間 8,000 回規模の改善( 1 日 30 回!)と 99.999% の可用性を実現できたことも述べました。Twilio 社は AWS を使うことで、既存のインターネット環境上に「スーパーネットワーク」と呼ぶ偉大なソフトウェアのネットワークを構築したことを宣言しました。そしてこれこそがお客様に価値を提供できるのだ、という点を結論として Jeff 氏はプレゼンテーションを締めくくりました。
Werner はステージに戻ると、変革者になるためのポイントを説明しました。
まずは開発の観点ではアジリティを持たせることが重要性であると述べ、お客様はこれから予測不可能なビジネス上の“実験”をすることで新たな成長が見込めることと、それらを実現するためには Dev & Test の考え方と、その俊敏性がないと実現しえないという関係性が語られました。そして、クラウドだからこそ複数のパターンの実験を素早くコスト効果を生み出すことが出来ると Werner は強調しました。
続いて Werner はこれまでに AWS が提唱してきた Well-Architected Framework の 4 つの柱である「Security」(安全性)、「Reliability」(信頼性)、「Performance Efficiency」(性能効率)、「Cost Optimization」(コスト最適化)に加え、5 つ目の柱として「Operation Excellence」(運用の高度化)を加えました。
この Operation Excellence ではさらなるキーワードとして「Automation」(自動化)も欠かせないと Werner は続けます。この流れからクラウドを定義する機能としての CloudFormation の重要性と Chef の運用難しさについても言及すると、AWS OpsWorks For Chef Automate をこの日最初の新サービスとして発表しました。これはマネージドされた Chef サーバーの提供であり、OS のパッチが当たっているのか、ライブラリの管理は適正かなど多岐に渡る機能が開設されました。
そして次に、Amazon EC2 の管理のための仕組みとして Amazon EC2 Systems Manager が発表されました。
さらに話はコードに迫ります。CI/CO の重要性からソフトウェア開発における一連のプロセスで AWS は CodeCommit と CodeDeploy などをリリースしているものの、開発プロセスを完全にカバーは出来ていないと述べ、それに応える新サービスとして AWS CodeBuild が発表されました。この発表をもって Werner は開発の全フェーズでツールがそろったと述べ、クラウドにおけるアプリケーション開発の全フェーズに渡ってサービスが提供できたと宣言しました。
ここで Werner は運用に話を移しました。運用で重要なことはアプリケーションのモニタリングであると説明します。現在はアプリケーションの外側に対しては AWS CloudWatch をはじめ豊富な機能が提供できているが、アプリケーション内部についてはまさにブラックボックスであると説明しました。そのことからアプリケーションの可視化を実現する新サービスとして、AWS X-Ray が発表されました。その名のとおり、まさに X 線のごとくアプリケーションの中身が見られることを Werner は強調しました。特に分散アプリケーション環境においては、それぞれのコンポーネントがどういう状態であるのかがつぶさに分かることが紹介されました。
話はさらに、ダッシュボードの観点に移ります。問題発生時にどのようにチェックして通知を受けるのか。現在でもすでに AWS CloudTrail や AWS CloudWatch でもある程度通知は出来ることを土台にしつつ、新サービスである AWS Personal Health Dashboard が発表されました。これにより、お客様がお使いの様々な通知を集約して受けることが可能であり、その後のアクションが格段に改善されるであろうと説明しました。
そして観点はセキュリティに移ります。Werner は冒頭で触れたセキュリティの重要性を説明しつつ、昨今大きな脅威になっているネットワークセキュリティについて、様々な角度から攻撃の分類を行いました。そしてそれらに対する防御として、ここでも新サービスとなる AWS Shield For Eeryone を発表し、次のゲストとして、Trainline 社の Chris Turvil 氏 (Head of Cloud and Platform Agility) を迎え入れました。
Chris 氏は、ヨーロッパでは電車移動が多い特性を紹介すると、Trainline が独立系の会社で毎日 10 万人が利用しており、30 億ドルの売上、10 年の実績があるといった自社の事業全体を語りました。そして KKR から買収を受け、大きな成長を目指したが、インフラストラクチャはその野心に見合わない硬直化したものだったと振り返りました。
Chris 氏はこうした課題を AWS を使うことにより、セキュリティ(PCI のレベル1準拠)、パフォーマンス高度化、コスト低減といった観点で改善が出来たと説明しました。また移行におけるハードルも事前の入念な計画で乗り越え、結果アジリティが向上し、信頼性も 60% 向上したことを強調し、それらの秘訣は環境マネージャーというオープンソースソフトウェアにあるとしました。最後にChris 氏は社のスタッフと AWS に大きな感謝を述べてプレゼンテーションを締めくくりました。
Werner は Chris 氏のプレゼンを称えつつ振り返るなかで、データの重要性について言及すると共に、クラウドの特性は「データの民主化」であると説きました。皆が様々な方法で全てのデータにアクセスできること。この実現がまさにクラウドであり、組織の大きさに関係なく実現できるのだと説きます。そしてこのデータのアクセスこそが企業の競争力の源泉になりうるのだと説明しました。既存のサービスである Amazon Elastic MapReduce の大幅な改善とともに、ここでも新サービスである Amazon Athena(アテナ) の発表がありました。特定のフォーマッティングをせずとも蓄積したデータに直接 SQL で高速な検索が可能となるこのサービスは、分析そのものが根幹から変わっていくだろうと説きました。
さらには既存のサービスである Amazon Redshift に対する多数の機能改善や Amazon QuickSight の重要性を語ると共に、Amazon Elasticsearch Service も多用されているサービスの 1 つであると説明しました。そして、昨今脚光を浴びている分析のための新サービスとして Amazon Pinpoint が発表されました。このサービスにより、分析からエンドユーザーへの通知(たとえばメールやモバイルプッシュ)を一気通貫でサポートできると説明します。さらにメールのみならず、適切な検討によるプッシュ通知はお客様のビジネスに高いエンゲージメントをもたらすであろうとして締めくくりました。
そして、Werner はここで 3 人目のゲストとなるホワイトハウスの Chief Data Scientist、DJ Patil 氏を紹介しました。
Patil 氏は冒頭で、企業で追求されているデータ分析の要件は、州政府でも同じレベルで必要とされているものだとしました。現在企業では全てのデータをリアルタイムで分析したいと考えているが、それを国という組織にあてはめると、大統領が適切な判断が出来るように常に最新かつ正しいデータを適切な形で提供する必要があり、そのことが国民全体に幸福をもたらすのだと説明しました。
たとえば国民の医療情報と警察組織が連携することで、今まで起こっていた悲しむべき不要な逮捕が削減され、場合によっては刑務所の閉鎖などでコスト削減に繋がるなどあらゆる観点で国民の幸福を支援できる可能性がある点など、政府ならではのデータ活用の考え方を紹介しました。
最後に Patil 氏は、個人の存在を忘れてはならないこと、全ての政府組織レベルで、今すぐこれに取り掛からなければならないことを強調してプレゼンテーションを終えました。
Werner は Patil 氏のプレゼンテーションに感謝の言葉を述べつつ、データアーキテクチャとは何かという話に入ってゆきます。
残念ながら現在は、作業の 80% は分析に関係ない作業になっているという調査結果にもとづき、モダンデータアーキテクチャが実は Agile であるとその特徴を説明しました。そこで特に問題と感じるのは、データの取り込みだと力説します。つまり現実、企業内はサイロ化してしまっておりデータはあらゆる場所に分散している、これを忘れてはならないと強調しました。それらのデータを取り出し統合させるには、まさに糊のような役割が必要であるという話からデータに関する新サービスの AWS Glue の発表となりました。
Werner はこれがモダンデータアーキテクチャを実現する最後の必要なピースとして位置づけ、まさにデータを繋ぎ合わせる ETL としての存在になろうと予言します。 AWS Grue は単なるデータ統合機能だけではなく、ジョブとして実行する機能やオリジンデータソースに変更があればそれを反映する機能も持ち、まさに最後のピースと言えるサービスだと説明しました。これにより、前に触れた 20% と 80% の関係性が逆転し、作業の 80% は本来業務であるアナリティクスに向けられるはずだと説明しました。
それを受けて、4人目のゲストである Mapbox 社 の CEO、Eric Gunderson 氏を紹介しました。
Eric 氏は、Mapbox のビジネスの根幹は地図情報提供であるとし、アプリの中にマップを埋め込むケースや自動車会社が半自立運転で地図を必要とするケースなどを皮切りに紹介を始めました。その他にも National Geographic や airbnb、CNN など著名な企業を紹介し、現在では 55,000 のアプリケーションから利用されるまでに成長したと説明しました。また、防災の観点でも 5 分毎に更新されるライブデータのストリーミング配信も可能であることから、森林火災の検知などにも役立っていると述べました。
一方システム面では、AWS で 10 リージョンを使い Amazon S3 を用いてペタバイトクラスのデータを保持しており、それらを全て活用することからエッジロケーションも 60 か所利用し、利用者様の場所に最も近いエッジロケーションで利用できると語り、そしてセンサー情報も 1 億を超える情報を MapSDK で収集していると述べました。
分析には Amazon EC2 のスポットインスタンスを活用し、コストを 1/10 まで圧縮できたことを語ると、Eric 氏は特に、会社創業時に誰からも投資を受けなかったので、コスト圧縮は極めて重要な課題だったと振り返りました。
技術的には Docker コンテナをベースにし、どんなタイプの Amazon EC2 を確保できたとしても全て Docker で配布するのでAmazon EC2 を意識する必要がないと、その仕組みを紹介しました。また、最近北京リージョンを使い中国でもビジネス展開が出来るようになったのも AWS のおかげであると締めくくり、プレゼンテーションを終えました。
Werner は素晴らしいプレゼンテーションを称えつつ、AWS を使えばワールドワイドでこういう事業を立ち上げることが出来る大きなエンジンになりうることを説明しました。そして、それらを支える膨大な計算能力の確保にスポットインスタンスを駆使している点も特徴的だとしました。
しかし、動的な大量のスポットインスタンスの確保は非常に複雑な処理が必要になってきます。今の仕組みではその確保のためにお客様は大きな労力を払わなければならないのも事実だとして、それらを解決するための新サービス AWS Batch を発表し、これによりスポット市場での獲得処理や判断、マッチングは全て任せられると紹介しました。
そしてさらなる変革としてコンピューティング領域の変革に話は移ります。Werner はコンピューティングには 3 つの領域があると整理します。1 つ目は仮想マシン、2 つ目はコンテナ化、最後はサーバレスです。3 つにはそれぞれに特徴があり、連続して稼働する時間レベルも大きく異なります。Werner は特にコンテナ化に着目し、その難しさを俯瞰しました。特にオープンソースソフトウェア(OSS)のコンテナ管理ツールを使った場合は、それらの維持メンテナンスコストが無視できないくらい大きくなる可能性があることなど、多くの痛みを伴うことだと説明しました。
それらを解決する1つはもちろん既存の Amazon ECS (Amazon EC2 Container Service) ですが、それ以外でもタスクの再配置のエンジンなどが必要になってきます。そしてまさにそれを担う役割として新サービスである Blox を発表しました。これは他サービスとは異なり、Apache License 2.0 をベースに GitHub で公開されているオープンソースソフトウェアであることが特徴です。Blox はタスクの管理やイベントストリーム管理、スケジューラー機能、カスタムスケジュール機能、3rd パーティースケジューラとの連携など幅広い機能を持たせています。
そして、さらにゲストとして Netflix 社もまた革新を起こしている企業であると迎え入れました。
Netfix 社の Neil Hunt 氏 (Chief Product Officer) は、素晴らしいチームへの感謝と事業規模について、8,600 万人の顧客と 190 か国で展開していると紹介しました。そしてシステム全てを AWS 上にローンチし、3 リージョンにて 10 万台の Amazon EC2 を利用していると語りました。
Netflix における AWS 利用は 2008 年頃から開始され、AWS が高い負荷も処理できることを認識した結果、今年最後のデータセンターを閉鎖し、生産性や拡張性、俊敏性が向上したと紹介しました。また、500 ものマイクロサービス化をしており、継続的なデプロイや反復、継続的な展開が出来ている点も強調しました。
最後に Neil 氏は先の Blox もこういった AWS 活用から生まれてきたものであり、今後も発展させていきたいという言葉でプレゼンテーションを終えました。
Werner は Netflix の協力に深い感謝を述べ、サーバレスアーキテクチャの観点から、AWS Lambda の新しい対応として C# Support on AWS Lambda を発表しました。また、AWS Lambda は複数の AWS サービスの内部でも使われているという裏側についても触れました。
そして Werner は昨今ダイナミックな Web コンテンツをもっと高速なレスポンスをさせたい、という要求に応えるべく、Amazon CloudFront で稼働する AWS Lambda@Edge を同時に発表しました。
Werner は、さらにアプリ実行時のステートをどうするのか、という観点に移しました。これまでも Amazon DynamoDB にステートを保存する方法もあったことを前置きしつつ、全てのステートを一貫性を持たせてかつ信頼性を持った、まったく新しい機能として新サービスである AWS Step Functions を発表しました。
これは、複数のステップをコーディネートしてステートに稼働させられるものです。さらにその経路も、シリアル、パラレル、ブランチ、条件分岐など豊富な機能を用意されています。これらにより、さらにサーバレスアーキテクチャが加速するであろうと Werner は語りました。
2 時間半以上にわたるキーノートもいよいよ終盤となり、Werner はラップアップとして変革について振り返ると共に、この 2 日間で発表のあった 24 の新サービス・機能の一覧を紹介しました。
そして夜に開催される re:Play パーティーが昨年よりさらに規模を拡大した開催となり、オランダの Martin Garrix がゲスト DJ を務めることが発表され、キーノートが締めくくられました。