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第 4 回 AWS ジャパン 生成 AI Frontier Meetup ~学びと繋がりの場~【開催報告】

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS ジャパン)が 2024 年 7 月に発表した「生成 AI 実用化推進プログラム」は、生成 AI の活用を支援する取り組みです。基盤モデルの開発者向けと、既存モデルを活用する利用者向けの 2 つの枠組みを提供し、企業の目的や検討段階に応じた最適な支援を行ってきました。また、2025年4月から生成AI活用の戦略策定段階からご支援する「戦略プランニングコース」も提供を開始しております。

その「生成 AI 実用化推進プログラム」の参加者や、経済産業省が主催するGenerative AI Accelerator Challenge(以下、GENIAC)の関係者、生成 AI に関心を持つ企業が一堂に会する「生成 AI Frontier Meetup」が、2025 年 8 月 26 日に開催されました。2024 年 11 月 15 日の第 1 回、2025 年 2 月 7 日の第 2 回、2025 年 4 月 16 日の第 3 回に続き、今回が第 4 回となります。本記事では、イベントの模様をレポートします。

本イベントの司会進行は、AWS ジャパン事業開発統括本部 生成 AI 推進マネージャーである梶原 貴志が務め、全体を通じて登壇者の紹介やセッションの案内を行いました。

開会のご挨拶

イベント冒頭では、AWS ジャパン 事業開発統括本部 グロース事業開発本部長の塚本 陽子がご挨拶をしました。AWS ジャパンは日本のお客様の発展に向け、クラウドサービスの提供に加えて、急速に活用が進む生成AIについても日本独自のプログラム、グローバルでのプログラムの活用、政府のプロジェクトを通じて支援をしてまいりました。

2023 年は「AWS LLM 開発支援プログラム」で 17 社を支援し、2024 年はモデル開発者に加えて利用者も対象にした「生成 AI 実用化推進プログラム」へと拡充。2025 年には生成 AI の戦略策定支援を強化し、累計で 200 社超を支援しました。加えて、グローバル施策の「AWS Generative AI Accelerator」では 2024 年にスタートアップ 3 社が採択され、経済産業省・NEDO 主導の GENIAC でも第 2・第 3 期ともに 13 社を支援しています。

お客様のニーズの変化として、2024 年は社内業務の効率化が中心だった一方で、2025 年にかけて既存事業・サービスへの実装相談が増加し、AI エージェントやドメイン特化型モデルへの需要が高まっています。これを受けて、2025 年 4 月に「戦略プランニングコース」を新設、6 月には「モデルカスタマイズコース」と「モデル活用コース」を拡充し、GENIAC-PRIZEやAgentic AI実用化を支援するプランを新設したことを紹介しました。

また、これまでの「生成 AI Frontier Meetup」の取り組みについても紹介。ニーズやテクノロジーなど、変化・進化していくものに対して、本プログラムでは変わらず、人やコミュニティに対して、支援をしていくことを述べ、最後に本イベントから新たな価値が創出されることの期待を述べ、参加者の方々への感謝を伝えました。

AWS スピーカーによるセッション

続いて、AWS ジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 AI ソリューション部部長の金杉 有見子が、AI エージェントがもたらすソフトウェア開発・運用・利用体験の変化と、AWS の最新アップデートを紹介しました。

冒頭では、Gartner 社が発表した「2028 年までにエンタープライズアプリの 33% が Agentic AI を取り込み、日々の意思決定の 15% が AI に置き換わる」という予想を紹介。それを踏まえ、AWS として「世界で最も有用な AI エージェントを構築するための場所を提供する」と述べました。

AWS のアップデートとして、基盤モデル Amazon Nova に新たなカスタマイズ機能が加わりました。継続事前学習、ファインチューニング、アラインメント、蒸留といった多様な手法に対応し、一部のカスタマイズ済みモデルは Amazon Bedrock 上でホスト可能になりました。加えて、ブラウザ操作に特化したモデル + SDK である Amazon Nova Act がリリースされました。Amazon Bedrock では、Luma AIDeepSeek がモデルのラインナップに加わったほか、直近では TwelveLabs の Marengo(動画をベクトル化する埋め込みモデル)と Pegasus(動画からテキストを生成し、ハイライト作成やタグ付け、分析に活用可能)を追加しました。さらに、OpenAI の gpt-oss 120Billion と 20Billion の 2 モデルを公開し、推論やテキスト生成の選択肢を広げています。

エージェント開発のフレームワークとして、オープンソースの Strands Agents SDK を提供しています。これは、プロバイダーに依存しないモデル駆動型の設計となっており、ネイティブツールや MCP サーバー、AWS の各種サービスとの統合を標準搭載しています。エージェントを本番稼働させる際に生じる問題の解決策として、Amazon Bedrock AgentCore のプレビューを発表しました。フレームワークやモデルを問わず、能力の高いエージェントを安全かつスケーラブルにデプロイ・運用するための実行基盤を提供します。

加えて、数週間前にエージェント型 IDE である Kiroのプレビューをローンチしました。対話しながら実装を進めるバイブコーディングのモードと、仕様を軸に構築するスペックのモードを備えています。また、既存のコーディングアシスタント Amazon Q Developer も任意の IDE に統合でき、開発から運用までのワークフロー刷新を後押しします。

さらに、エージェントとツールが連携する将来を見据え、AWS Marketplace に「AI エージェントとツール」の新セクションを新設しました。自然言語でクエリできる検索欄を備え、必要なツールへのアクセス性を高めています。最後に、今後も各サービスの改善を続けていく方針を示し、セッションを締めくくりました。

プログラム参加者によるライトニングトーク

ここからは、生成 AI 実用化推進プログラムに参加する各社の代表者が登壇し、AWS のサービス利用を軸にした取り組みを紹介しました。AWS ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林 正人(写真右)と、AWS ジャパン シニア 生成 AI スタートアップ ソリューションアーキテクトの針原 佳貴(写真左)がモデレーターを務め、登壇者に質問を投げかけつつ進行しました。

モデル開発者の事例

東京科学大学 情報理工学院 修士課程 2 年の藤井 一喜 氏は、SwallowProject をテーマに講演しました。SwallowProject は東京科学大学と産業技術総合研究所の共同研究で、英日両対応のオープン LLM を継続的に開発しつつ、商用利用可能な形で Hugging Face に公開しています。合成データ生成の実行基盤には Amazon SageMaker HyperPodAmazon EC2 P5 インスタンスを活用しています。

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 AI 研究開発センターの斉藤 辰彦 氏は、同社の AI ブランド「Maisart」の研究戦略として、エージェント AI の頭脳となるドメイン特化型言語モデルを紹介しました。汎用モデルに製造業に特化した学習を施し、その上で要約や QA などのタスク特化学習を実施。正解に加えて「望ましくない回答」も合成して学習させることで、出力の選別精度を高めています。

モデル利用者の事例

株式会社Zaif システム開発部 エンジニアリングマネージャーの大宅 悠介 氏は、暗号資産取引所における生成 AI 活用の取り組みについて紹介しました。AI 利用に伴うリスクを減らすため、通信時にプロキシサーバーを経由することで、API キーなど正規表現で検出可能な情報をブロックしています。さらに、非定型でルールを定義しづらい個人情報などの検出のため、Amazon Bedrock Guardrails を活用しています。

ユーザックシステム株式会社 AI エージェント事業部 事業部長の上野真裕氏は、受注業務の自動化を目的とした新サービス「Knowfa 受注 AI エージェント」について紹介しました。同社は長年 RPA による定型業務の効率化を提供してきましたが、非定型領域への対応には生成 AI の活用が不可欠と判断。開発にあたっては、AWS を活用して PoC を複数回実施しました。進化の早い生成 AI の特性を踏まえ、将来的なモデル強化を見越した「付け替え可能」な設計思想でアーキテクチャを構築しました。

GENIAC採択者による開発モデルのご紹介

AWSジャパンはGENIAC第2期において、計13社のお客様をご支援しました。そのうち3社より自社で開発した基盤モデルについてお話いただきました。

Turing株式会社 CTO の山口 祐 氏は、完全自動運転を実現するための生成 AI 活用について紹介しました。人間の運転を代替するには、複雑な交通状況を理解するマルチモーダル AI が不可欠であるとし、言語と視覚を組み合わせたモデル「Heron」の開発を進めています。この基盤技術を応用した自動運転モデル「DriveHeron」を用いて、シミュレーター上で一時停止やネゴシエーションを伴う運転を実現しています。

国立研究開発法人 海洋研究開発機構 上席研究員の松岡 大祐 氏は、気候変動対策を支援する生成 AI モデルを解説しました。同機構はこれまで深海探査や気候シミュレーション研究を中心に取り組んできましたが、GENIAC 第2期 を契機に、大規模言語モデルを用いた地域気候サービスの実現に着手。自治体の防災計画策定や企業の TCFD[1] レポート作成を支援する仕組みを開発しました。

企業代表者による最後のセッションは、株式会社ヒューマノーム研究所 代表取締役社長の瀬々 潤 氏。同社は脈拍や血圧といったバイタルデータや遺伝子発現量のような情報を活用し、がん研究や創薬支援に応用できるモデルの開発を進めています。GENIAC のプロジェクトでは、世界中から収集した 9 億細胞分のデータを基盤に、3 億細胞分の高品質データで学習を実施。遺伝子変異による影響をシミュレーション可能とするモデルを構築しました。

登壇者の皆様

クロージング

AWS ジャパンの梶原がクロージングを行いました。次回の「生成 AI Frontier Meetup」は 2025 年 11 月 17 日に開催が決定しています。また併せて、近日開催予定の生成 AI 関連のイベントもご案内しました。

AWS Amazon Nova Ignite

日本初開催の ISV/SaaS ビジネスに携わるお客様のためのイベント。AI エージェントにおける概念実証(PoC)から本番運用に至るまでの重要なギャップを乗り越えるために必要な要素などをご紹介。

イベント概要

  • 日時: 2025年9月24日 (水) 13:30~18:40(受付開始 12:45)
  • 開催方式: 対面のみ
  • 会場: 九段テラスカンファレンスホール2F 鳳凰(九段下駅より徒歩1分)
  • 登壇者様: 株式会社四国銀行様、株式会社NTTデータ様、 株式会社キー・プランニング様
  • 登録はこちら

AWS Japan AI Agent Day 2025 – AWS で実現する独⾃ LLM 構築 –

AI エージェントの実装と活⽤に焦点を当てた、技術者向けカンファレンス。 コーディングエージェント、エージェント時代のセキュリティ、エージェンティックツールとしての RAG(Retrieval-Augmented Generation)など、AI エージェント構築に必要な要素を包括的にご紹介。

イベント概要

  • ⽇時: 2025 年 10 ⽉ 1 ⽇(⽊)13:00〜18:00
  • 開催⽅式: オンライン
  • 登録⽅法等、詳細については近⽇公開予定

OpenAI gpt-oss ファインチューニング⼊⾨ – AWS で実現する独⾃ LLM 構築 –

Amazon SageMaker AI を活⽤して最新のオープンウェイトモデル(OpenAI gpt-oss)をファインチューニングする実践的な⼿法を体験するハンズオン。 ⾔語・⽂化の保護やセキュリティの観点から重要性が⾼まるオープンウェイトモデルの⾃社活⽤について、LoRA などの PEFT 技術を⽤いた効率的なカスタマイズ⽅法をご紹介。

イベント概要

  • ⽇時: 2025 年 10 ⽉ 2 ⽇(⽊)14:00〜18:00(開場 13:30)
  • 開催⽅式: ハイブリッド
  • 会場: ⽬⿊セントラルスクエア 17F
  • ご登録はこちら

参加者交流会の様子

交流会では、各セッションで共有された事例を起点に、登壇者と参加者が自由に意見を交わす様子が目立ちました。生成 AI 導入における工夫や課題、今後の方向性をめぐって熱心な議論が続き、会場全体に活気があふれていました。業種や役割を超えたネットワーキングも進み、実務で得た知見を共有しながら、新たな連携や共創の芽が育まれる場となりました。

会場内には、技術的な相談に応じる「Ask an Expert」コーナーも設けられ、ご参加のお客様の質問に回答いたしました。

おわりに

本イベントは、生成AIの社会実装に向けた最新の取り組みや、具体的な業務活用の事例が数多く紹介され、現場で役立つ学びを得られる有意義な時間となりました。AWS ジャパンは、今後も業界横断での交流や技術支援を通じて、企業の生成 AI 活用を後押しし、持続的な実用化に貢献していきます。

[1] TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosure (気候関連財務情報開示タスクフォース)