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【開催報告】 アフラック生命保険株式会社様 オペレーショナル・レジリエンス ワークショップ

金融機関では近年、デジタル化の進展に伴いリスク環境が急速に変化しています。障害への未然防止策に重点を置いた従来的なリスク管理や事業継続計画(BCP)だけでは、重要な業務を提供し続けられない可能性が出てきており、障害の早期復旧や影響範囲の軽減確保を重視する、オペレーショナル・レジリエンスという考え方が近年注目されています。

AWS では、オペレーショナル・レジリエンスに関心の高いお客様向けに、AWS の取り組みを紹介するオペレーショナル・レジリエンス ワークショップを提供しております。この度、アフラック生命保険株式会社様(以下、アフラック様)と共に、本ワークショップを2025年9月中に2回開催しました。本稿ではこちらのワークショップの開催報告をお届けします。

オペレーショナル・レジリエンスとは

オペレーショナル・レジリエンスという考え方は、金融機関を取り巻くリスク環境の複雑化を背景に国際的に注目されるようになりました。ITシステムへの依存の高まり、大規模システム障害の発生、サイバーセキュリティ上の脅威の増大、クラウドサービスの利用拡大など、従来のリスク管理やBCPだけでは対応しきれない新たな課題が顕在化したためと言われています。

既存のリスク管理では障害への未然防止策に重点が置かれ、想定外の事象が発生した際に金融システムにとって重要な業務を継続できない可能性があり、利用者目線での早期復旧という視点も十分ではありませんでした。

金融庁のホワイトペーパーでは、オペレーショナル・レジリエンスについて「未然防止策を尽くしてもなお、業務中断は必ず起こることを前提に、利用者目線に立ち、代替手段等を通じた早期復旧や影響範囲の軽減を担保する枠組みを確保すること」と記載しています。さらには、ゼロリスク志向からリスク管理文化を醸成することや、経営陣のコミットメントが必要であるとも記載しています。

AWS は以前からオペレーショナル・レジリエンスの実現に積極的に取り組んでいます。過去にも AWS のレジリエンシーを全体的に解説したセミナーを開催しておりますので、こちらも併せてご参照ください。

参考資料:金融インダストリー向け クラウドを活用したレジリエンシーの最新動向
https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/20230615-fin-resilience-webiner-post/

ワークショップの内容

今回のワークショップにご協力いただいたアフラック様は、以前 AWS Summit Japan 2024 にもご登壇いただきました。その際に、「2027年までにクラウド化による効果が大きい全システムの移行を目標とし、全社を挙げて推進中」であるとご説明いただきました。クラウドを積極的にご利用されているアフラック様においても、オペレーショナル・レジリエンスへの関心が高く、今回のワークショップ開催につながりました。ここからは、アフラック様と2回開催したワークショップの内容についてご説明します。

1回目(9月26日)は東京のアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 本社で開催し、アフラック様の ITインフライノベーション部から 7 名の皆様にご参加いただきました。同部門は AWS 環境を含めた IT インフラの企画・運用という重要な役割を担っています。

2回目(9月30日)はアフラック様の BCP 拠点である札幌システム開発オフィスで開催し、ITインフライノベーション部、ITインフラ運用管理部、営業システム開発部、顧客・代理店システム開発部、勘定系システム開発部、契約管理システム開発部、その他セキュリティ部門の方々から 18 名の皆様にご参加いただきました。同オフィスは、首都圏での災害リスクに備えた戦略的拠点として、東京拠点と同水準の環境を整備されています。

ワークショップは以下の 2 パートに分かれています。

  • 前半パートでは、AWS 側が国内外の金融機関のお客様や規制当局との会話で培った知識として、オペレーショナル・レジリエンスに関する規制動向と、各金融機関の対応状況、これまでのリスク管理や BCP との違いについて、プリンシパルコンプライアンススペシャリストの高野からご説明しました。また、オペレーショナル・レジリエンスのメンタルモデルや、オンプレミスとクラウドにおける障害対応の違いについても紹介し、AWS のレジリエンスが規制当局からも評価されていることを紹介しました。
  • 後半パートでは、AWS のサービス、インフラストラクチャ、運用体制について、ソリューションアーキテクトの松本から、ホワイトボーディングによるレクチャーとディスカッションを実施しました。具体的には、リージョン・アベイラビリティーゾーン内の各構成要素が全て冗長化されていることや、AWSの各サービスにおけるレジリエンシー強化のためにセルベースアーキテクチャを採用していること、AmazonのTwo-pizza teamという考え方を中心にしたAWSサービスの開発と運用モデルといった観点をご紹介しました。さらに、アフラック様から AWS のレジリエンスに対する疑問や懸念を挙げていただき、最新の AWS の取り組みを踏まえてご回答しました。

ワークショップのフィードバック

第1回のフィードバック

参加されたITインフライノベーション部の皆様からは、経営層をはじめとする方々からの懸念として、「クラウドが長時間止まるリスク」「東京リージョンから大阪リージョンへの切り替え後のレイテンシへの影響」「クラウドのサービスアップデートに追従できないリスク」といった課題をご共有いただきました。これらの課題に対し、AWSの取り組みや考え方もお伝えしながら、建設的な議論が展開されました。

ITインフライノベーション部部長の藤田昌孝様からは、以下のようなコメントをいただきました。
今回のワークショップを通じて、AWSのオペレーショナル・レジリエンスに対する考え方や、実際のインフラストラクチャ、運用体制について、非常に具体的かつ分かりやすいご説明をいただきました。特に、単なる技術的な側面だけでなく、経営戦略や顧客価値向上の観点からもレジリエンスを捉える重要性を再認識することができました。
また、クラウドサービスの可用性や障害対応、リージョン切り替え時の課題など、我々が日頃抱えている懸念点についても率直に議論できたことは大きな収穫でした。AWSの内部でどのような工夫や仕組みがあるのか、普段はなかなか知ることのできない情報にも触れることができ、透明性が高まったと感じています。
AWSとのディスカッションによって、世界の金融機関のAWS利用状況や利用方法、金融庁をはじめとした官公庁の関心事など、多様な視点を学ぶことができました。今後は、今回得られた知見を社内に展開し、上位層や若手社員にも積極的に参加を促していきたいと考えています。
アフラックとしても、AWSとの連携をさらに深めることで、単なるコスト削減にとどまらず、ビジネス拡大やイノベーション創出、そして事業継続性の強化につなげていきたいと思います。今後も継続的な改善活動や新たな技術へのチャレンジを通じて、お客様本位のシステム提供を目指してまいります。

第2回のフィードバック

札幌での開催では、AWSの運用体制や障害対応方法、セキュリティ、地政学的リスクなどについて、実際の運用現場での課題解決に向けた具体的な知見と事例等の相談をいただき、これらの課題に対し議論を展開、参加者の皆様から以下のような高い評価をいただきました。

  • 「普段は社内に閉じた議論になりがちなところ、世界的な潮流や、官公庁のスタンスなど、幅広い考え方を聞けて大変参考になりました」
  • 「基礎の部分からわかりやすく、多方面の視点にて説明いただき、理解がとても進みました。上位層や若手にも参加を促したい内容でした」
  • 「具体的なAWSのサービス紹介ではなく、思想や大まかな仕組み、AWS内部の工夫や進め方について解説いただき、公開されてはいると思いますが、調べても簡単には辿り着けない話が聞けて、透明度があがりました」
  • 「非常にわかりやすいご説明で、AWSの可用性がなぜここまで高いのかをよく理解できました。会社としてもこのようなメンタルモデルを採用できると、よりお客様本位のシステムを提供できると感じました」

スピーカーからのコメント

今回のワークショップのスピーカーを務めたプリンシパルコンプライアンススペシャリストの高野 敦史は、アフラック様の取り組みについて次のように述べています。
「アフラック様のように 、AWS をご活用いただくことで、単なるランニングコストの削減にとどまらず、ビジネス拡大やイノベーションの創出、オペレーショナル・レジリエンスの強化による事業継続性の向上にも寄与します。今後も AWS としてもアフラック様のレジリエンシー強化をご支援し、アフラック様のデジタル変革戦略の成功に貢献してまいります。」

今後のアクションプラン

今回のワークショップの成果を踏まえ、両社で今後のアクションプランを整理しました。AWS Countdown PremiumAWS Incident Detection and Response といったAWSの支援プログラムを検討いただくとともに、クラウド障害対応訓練の実施といった継続的な改善活動を行う予定です。また、ワークショップ中に話題になった PQC(耐量子計算機暗号)の対応推進も予定しています。

まとめ

アフラック様との今回のワークショップは、金融機関におけるオペレーショナル・レジリエンス強化の重要性と、AWS の活用がオペレーショナル・レジリエンスにも貢献することを示す貴重な機会となりました。東京・札幌両会場での参加者の皆様には積極的に議論いただくことができ、アフラック様におけるレジリエンスへの熱量を感じることができました。札幌会場では「会社としてもこのようなメンタルモデルを採用できると、よりお客様本位のシステムを提供できると感じました」というコメントもいただき、オペレーショナル・レジリエンスが単なる技術課題ではなく、顧客価値向上のための経営戦略の一部であることを理解いただくことができました。
2027年までにクラウド化による効果が大きい全システムの移行という野心的な目標を掲げるアフラック様の戦略的取り組みが、金融業界全体のデジタル変革をリードし、お客様により安心・安全な金融サービスを提供する礎となることを確信しております。

運営チーム / ブログ著者

スピーカー:

Atsushi Takano

高野 敦史 (Atsushi Takano)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 プリンシパルコンプライアンススペシャリスト
メガバンク、米系監査法人およびコンサルティングファームにおいて、長年にわたり一貫して金融分野のIT、リスク、セキュリティ領域に従事。現在はAWSにて、お客様のクラウドコンプライアンスを支援しています。

Koichiro Matsumoto

松本 耕一朗 (Koichiro Matsumoto)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ファイナンシャルサービスインダストリー技術本部 ソリューションアーキテクト
AWSを活用することでお客様がご自身のレジリエンスを向上させていくための支援を行っています。普段は銀行業界のお客様を担当しています。

著者 :

Kohki Hiroe

広恵 幸輝 (Kohki Hiroe)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 金融事業統括本部 保険営業本部 アカウントエグゼクティブ
金融機関・保険グループを担当するアカウントエグゼクティブとして、クラウドを通じたビジネス革新から、Amazon.comとの戦略的協業まで、お客様のデジタルジャーニーを包括的に支援しています。

Wataru Endo

遠藤 亘 (Wataru Endo)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ファイナンシャルサービスインダストリー技術本部 ソリューションアーキテクト
保険業界のお客様を担当しているソリューションアーキテクトです。AWS全般を活用いただく際の技術的な課題解決に加えて、コンタクトセンターソリューションである Amazon Connect の利用も支援しています。

Yuta Imai

今井 勇太 (Yuta Imai)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアカスタマーソリューションマネージャー
システム開発やコンサルティングに従事した経験に基づき、金融業界のお客様のクラウド活用の企画からプロジェクトの立ち上げ・推進まで、幅広いフェーズで様々な課題の解決をご支援しています。