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AWS Center for Quantum Networking の発表

この記事は、Announcing the AWS Center for Quantum Networking を翻訳したものです。

過去10年間、政府やテクノロジー企業は、科学技術を革新する可能性を秘めた量子コンピュータの研究開発に多額の投資を行ってきました。まだまだ前途多難ではありますが、こうした投資によって、量子コンピュータはすでに大きく変貌を遂げています。これまで量子コンピュータは、一部の研究機関しか利用できない実験用システムでしたが、Amazon Braket のようなクラウドサービスの登場により、世界中の研究者や開発者、その他の量子技術に興味を持っている方々なら誰でも利用できる、信頼性と性能の高い商用マシンに進化しています。

量子コンピューティングは、アカデミアや産業界の研究者にとって、主要な投資先かつ研究対象である一方、広範な量子技術の一要素に過ぎません。量子デバイスの可能性を最大限に引き出すには、現在日常的に使っているデバイスがインターネットを介して接続されているように、量子デバイスも量子ネットワークに接続する必要があります。量子コンピュータほど大きな注目を集めているわけではありませんが、量子ネットワークにも魅力的な応用が期待されています。その 1 つが、量子鍵配布によって保護され、従来の暗号化技術では実現できなかったプライバシーやセキュリティレベルのグローバル通信を可能にすることです。また、量子ネットワークは、個々の量子プロセッサーを接続し、その能力を増幅することで、強力かつ安全なクラウド量子サーバーを実現します。

量子ネットワークは、レーザー、ファイバー、検出器など、現代の光通信ですでに展開されている技術を活用します。しかし、量子ネットワークでは、強力なレーザー光の代わりに、光の最小構成要素である単一光子を使用して、量子デバイス同士を接続する必要があります。単一光子は量子ネットワークの多くの機能を実現しますが、同時に、量子力学によって増幅が禁止され、ネットワークの範囲が制限されるという大きな課題も抱えています。また、単一光子は非常に脆いため、現在の量子コンピューティングデバイスとの接続を複雑にしています。つまり、グローバルな量子ネットワークを実現するためには、量子リピータや量子トランスデューサーなどの特別な新技術を開発する必要があるのです。

本日、私たちは、このような科学的・工学的な基本課題に取り組み、量子ネットワークのための新しいハードウェア、ソフトウェア、アプリケーションを開発することをミッションとする AWS Center for Quantum Networking (CQN) を発表しました。 CQN は、AWS Center for Quantum ComputingAmazon Quantum Solutions Lab で既に進められている先進的な量子科学と量子工学の取り組みを補完するものです。

量子コンピュータと同様に、量子ネットワークもまだ開発の初期段階にあり、その可能性を最大限に引き出すまでには多くの未解決の課題が残されています。AWS CQN は、量子研究と人材育成への投資を通じて、量子ネットワークが実現するプライバシー、セキュリティ、計算能力の進歩を、お客様に一歩でも近づけることを目指しています。

Denis-Sukachev

Denis Sukachev

Denis Sukachev は、AWS Center for Quantum Networking の量子リサーチサイエンティストです。Denis は過去 10 年間、様々な量子技術の発展に貢献してきました。2013 年、Denis はモスクワ物理工科大学で新しい原子光時計の構築に取り組み、物理学と数学の博士号を取得しました。その後、ハーバード大学やカルガリー大学でダイヤモンド量子ナノフォトニクスの研究員となりました。2021 年に AWS に入社し、AWS Center for Quantum Networking の設立に携わっています。

Mihir-Bhaskar

Mihir Bhaskar

Mihir Bhaskar は、AWS Center for Quantum Networking の量子リサーチサイエンティストです。量子科学と量子工学が融合する分野を専門とし、量子技術の応用を実現することに情熱を注いでいます。ハーバード大学での博士課程研究では、ダイヤモンドナノフォトニック回路の色中心に基づく新しい量子リピータプラットフォームの開発に貢献しました。2021 年 2 月に AWS に入社し、AWS Center for Quantum Networking の設立に携わっています。

翻訳は Solutions Architect の高木裕登が担当しました。