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広告取引のデータ転送コストを80%削減 — fluctとUNICORNがAWS RTB Fabricで挑んだ広告配信ビジネスのジレンマ解消の軌跡

プログラマティック広告(※)に携わる DSP(Demand-Side Platform)・SSP(Supply-Side Platform)事業者なら、一度はこのジレンマに直面したことがあるのではないでしょうか。広告枠を提供するパートナーであるパブリッシャーと広告主との接続を増やせば入札機会が広がり、広告主にもパブリッシャーにも価値を届けられる。しかし現実には、接続のたびに発生するネットワークコストとインフラ構築の時間が、その判断にブレーキをかけてきました。DSP 事業者のUNICORN株式会社 と SSP 事業者の株式会社fluct は、AWSの広告テクノロジーワークロード向けマネージドサービスである AWS RTB Fabric を共通基盤として活用することで、この接続コストとスピードのジレンマを乗り越え、広告配信ネットワークの拡大に踏み出しています。両社は概念実証(PoC)を経て既に本番稼働を開始しており、本記事ではその取り組みと成果を説明します。

※ プログラマティック広告とは、データとアルゴリズムを用いて広告の買い付け・配信を自動で行う手法。

接続コストとスピードのジレンマ

プログラマティック広告の入札処理(Real-Time Bidding)では、1秒間に数十万〜数百万件の入札リクエストが DSP・SSP 間を行き交います。より多くのパートナーと接続し、より多くの入札機会を得ることが、広告主にとってもパブリッシャーにとっても価値を生みます。 しかし現実には、接続先を増やすほど以下のジレンマが深刻になります。

コストのジレンマ:
広告枠を提供するパートナーを増やすほどネットワークコストが膨らみ、応札数の拡大が利益を圧迫する。コストを抑えるためにフィルタリングを強化すれば、本来獲得できた広告枠を逃す。

スピードのジレンマ :
新規パートナーとの接続にコロケーション手配やネットワーク構成の調整が必要で、数週間〜数ヶ月を要する。ビジネス判断のスピードに技術が追いつかない。

パフォーマンスの制約 :
ミリ秒単位の入札処理を安定的に維持しながら、トラフィックの急増にも対応し続ける必要がある。

ジレンマを解消に導くAWS RTB Fabricとは

このような課題に対処するために生まれた広告テクノロジーワークロード向けフルマネージドサービスであるAWS RTB Fabric の主な技術的特長と構成を紹介します。

AWS RTB Fabricは、SSPとDSP間のリアルタイム入札通信を最適化するAWSのフルマネージドネットワークサービスです。SSPが広告枠のビッドリクエストをDSPに送信する際はパブリックインターネットを経由するのが一般的ですが、AWS RTB Fabricは専用プライベートネットワークを提供し、1桁ミリ秒の低レイテンシーでSSP⇔DSP間の入札リクエスト・レスポンスを交換可能にします。また、RTBワークロードは大量のビッドリクエスト/レスポンスを高頻度で交換するため、通常のインターネットエグレス料金が膨大になりがちですが、AWS RTB Fabricの専用ネットワークを経由することでデータ転送コストを大幅に圧縮できます。これにより標準的なクラウドネットワーキングコストと比較して最大80%のコスト削減が可能です。

AWS RTB Fabricを活用することでコストのジレンマとスピードのジレンマを解消できるのではという期待のもとUNICORN社 と fluct社 は、それぞれ DSP 側・SSP 側からこのジレンマに向き合い、2026年3月よりAWS RTB Fabric を活用した広告配信ネットワークの構築PoCに踏み出しました。

UNICORNとfluctが実施したAWS RTB FabricのPoC

今回の取り組みで両社がPoCを行ったのは、両社(SSP⇔DSP間)の通信経路を「パブリックインターネット経由」から「AWS RTB Fabricの専用プライベートネットワーク経由」に切り替えるというアーキテクチャ変更です。

<机上検討>
AWSが公開しているドキュメントでの仕様確認を経て、利用対象とする機能を特定しました。また、マネージドサービスの利用ということで、特にスケーリングに関するサービス仕様の詳細確認や、モニタリング方法の確認、可用性要件をどのように実現できるかの確認・検討を行いました。また、公開されている価格表からコスト試算を実施したところ、コスト削減の見通しが立ったため、実環境への適用開始を決定しました。

<段階的なトランザクションの流入開始>
実際の環境でAWS RTB Fabricへの通信切り替えを段階的に実施しました。まずはコスト試算結果の妥当性確認のため、両社のSSP/DSP間で行われている通信の10%をAWS RTB Fabric経由に切り替えることから開始しました。

AWS RTB Fabricを実環境に適用したところ、以下のような結果が得られました。

  • ネットワークコスト 80~86.5% 削減 — 従来のパブリックインターネット経由と比較し、同一トラフィック量に対するデータ転送コストを大幅削減。これはフィルタリング強化による「入札機会の犠牲」ではなく、通信経路の最適化による純粋なコスト削減です。
  • 入札処理の安定性維持 — レイテンシーの改善により、トラフィック急増時にもタイムアウト率を抑制し、応札率を維持できることを確認。
  • 運用可視性の向上 — DSP 単位でのメトリクスとコストをリアルタイムで把握可能に。

このPoC結果を踏まえ、両社間のトランザクションを全面的にAWS RTB Fabricに切り替えることを決定。2026年5月より両社間のトランザクションのすべてをAWS RTB Fabricを用いた通信に切り替え、現在も安定的に運用を続けています。

~概念図~

PoCでは以下の結果を確認することができました。

  • ネットワークコスト80%削減 — 従来のパブリックインターネット経由と比較し、同一トラフィック量に対するデータ転送コストを80%削減。これはフィルタリング強化による「入札機会の犠牲」ではなく、通信経路の最適化による純粋なコスト削減です。
  • 入札処理の安定性維持 — レイテンシーの改善により、トラフィック急増時にもタイムアウト率を抑制し、ビッドレート(応札率)を維持できることを確認しました。

また本件について実際に取り組みを実施した両社からは下記のようなコメントを頂いています。

UNICORN株式会社 取締役 璩 暁毅 様

「AWS RTB FabricのPoCを通じて特に可能性を感じているのは、既存の配信基盤へ比較的容易に組み込めるアーキテクチャである点です。導入や接続にかかる負荷を低減できることで、より多くのパートナーが参加しやすいオープンなエコシステムの実現が期待できます。また、コスト効率の改善に加え、UNICORNとSSP間の処理経路が最適化されることで、広告取引におけるレイテンシの短縮も期待しています。これは広告主やメディアにとっての価値向上だけでなく、ページ表示や広告配信の高速化を通じて、ユーザー体験のさらなる改善にもつながると考えています。今後、こうした取り組みが業界全体の接続性と効率性を高め、オープンインターネットにおけるプログラマティック広告市場のさらなる発展につながることを楽しみにしています。」

株式会社fluct 代表取締役COO 黒田 岳志 様

「ネットワークコストの高騰は、DSPへの接続拡大における大きな課題でした。AWS RTB Fabricの適用によりデータ転送コストを80%削減できたことで、UNICORN様への入札リクエスト数を増加させることが可能となり、パブリッシャーの収益機会の拡大という具体的なビジネス成果に繋がっています。今後もAWSと連携し、配信基盤の強化を通じてパブリッシャーの成長を支援してまいります。」

AWS Japan 常務執行役員技術統括本部長 巨勢 泰宏 は今回の取り組みの成功について、以下のようにコメントしています。
「AWSは、Amazonの広告ビジネスで培った大規模データ処理と低レイテンシー技術の知見を活かし、広告業界のイノベーションを推進してまいりました。AWS RTB Fabricは、DSPとSSPを同一プラットフォーム上で直接接続することで、広告業界が長年抱えてきた大量データ転送と低レイテンシーという課題を解決し、広告の収益性と効果を最大化するサービスです。UNICORN様、fluct様をはじめとするお客様がこのテクノロジーを活用し、新たなイノベーションを生み出すことで、日本の広告業界のさらなる発展につながるものと確信しております。AWSは今後も、広告業界の未来を切り拓くテクノロジーの提供を通じて、業界全体の成長に貢献してまいります。」

UNICORN と fluct の取り組みは、AWS RTB Fabric を活用した広告配信ネットワーク構築の先行事例です。
AWS Japan は、この成果をもとに以下の展開を進めていきます。

  • ネットワークの拡大 — より多くの DSP・SSP・アドネットワーク事業者への参画呼びかけ
  • ユースケースの深化 — リテールメディア、CTV(コネクテッドTV)など新しい広告領域への展開
  • 技術支援の強化 — 導入を検討する事業者向けの技術ガイダンスと PoC 支援プログラムの提供

広告配信ネットワークへの参画にご関心のある DSP・SSP 事業者の皆様、ぜひお気軽にお問い合わせください。

本ブログに関連するイベント開催について

本ブログ執筆にご協力いただいたUNICORN社とfluct社にもご登壇頂くイベントを下記のとおり開催いたします。AWS RTB Fabric を活用した広告配信ネットワークの輪を広げることに少しでも関心を持たれている方がいらっしゃいましたらぜひご参加ください。

イベント名:AdTech meet up! 「変わる広告、変わらない価値 ― いまAdTech事業者がAWSに集まる理由」

日時:2026年7月17日(金)16:00-19:00

場所:麻布台ヒルズ森JPタワー 36階 セミナールーム(東京都港区麻布台1-3-1)

対象:プログラマティック広告配信に携わる事業オーナー、エンジニアの方

申し込みWebページ:AdTech meet up「変わる広告、変わらない価値 ― いまアドテク事業者がAWSに集まる理由」

イベント概要:

広告の在り方は変わっても、届けたい付加価値は不変です。ただ、付加価値の届け方が過渡期を迎えています。AIとクラウドが稼ぐ力を引き上げ、そしてコストを大きく押し下げることが容易になったこの変革期に、アドテク事業者の皆様は、何に投資し、何を行い、そして誰と協働すべきでしょうか。
本イベントでは、AIが変えるプログラマティック広告の最前線、AWSのアドテク事業者様向けの最新テクノロジーであるAWS RTB Fabric によるコスト削減と収益拡大の実践、そしてDSP事業者 × SSP事業者によるオープンエコシステム戦略の対談を通じて、その答えを探ります。
また、それらセッションの後にはDSP・SSP事業者同士が直接つながるネットワーキングの場もご用意。同じ課題意識を持つ事業責任者様との交流を通じて、是非とも次の成長の起点を探って頂くことを心から願っております。

アジェンダ:

  • AWS Session①:AIが変えるプログラマティック広告
    スピーカー:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 アド & マーケティング テクノロジーコミュニティ ソリューションアーキテクト 鈴木 康士郎
  • AWS Session②:広告コストを収益に変える – AWS RTB Fabric
    スピーカー:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 アド & マーケティング テクノロジーコミュニティ ソリューションアーキテクト 関藤 寛喜
  • DSP事業者×SSP事業者による対談:アドテク事業者はどこに投資すべきか?—オープンエコシステムが切り拓く次の成長戦略
    パネリスト:株式会社fluct 代表取締役COO 黒田 岳志 様
    UNICORN株式会社 取締役 璩 暁毅 様
    アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 プリンシパル事業開発マネージャー 松本 鋼治

本ブログは松原(AdTech Team, Account Executive)・安守(AdTech Team, Account Executive)・久野(Solutions architect)が担当しました