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MRA (移行準備状況評価) から見えるクラウド移行におけるよくある課題とその対策 (前編)

みなさん、こんにちは。カスタマーソリューションマネージャー (CSM) の仁科です。カスタマーソリューションマネージャーはお客様のクラウドジャーニー全般を支援しています。この記事では、CSM の目線で、AWS への移行を検討しているお客様の課題としてよくあるものと、その対策の一例をご紹介します。

クラウド移行を実施する前に検討すべき事項

AWS の効果的な活用方法として大きく2つあります。一つはイノベーションの加速、もう一つは既存IT 資産の移行です。イノベーションの加速のためには、試行錯誤を繰り返しながら小さく多くの実験を行うことや、最新技術を活用して新たなビジネスを創出するために AWS を活用いただくことができます。既存 IT 資産の移行の際には、IT 関連コストの削減や、運用や開発生産性の向上のためにAWS を活用いただくことができます。

しかし、AWS に移行するからといって、必ずしも期待される効果を得られるわけではありません。AWS は、これまで数多くのお客様の移行を支援する中で、イノベーションの加速や既存IT 資産の移行を阻害するいくつかの要因を発見しています。例えば、移行前の評価フェーズ (Assess) では机上評価からなかなか抜け出せず、開発着手ができずに足踏みしてしまうことがあります。評価が終わったとしても、準備フェーズ (Mobilize) では、移行における情報セキュリティリスクの判断がつかずにクラウド導入に足踏みをしてしまったり、移行フェーズ (Migration) に進んだとしても、As-Is を踏襲するクラウド導入をしてしまうことでクラウドの効果が半減したりすることがあります。

以下の図はクラウド導入における時間ごとのフェーズとビジネス価値の関係を表しています。どこかのフェーズで足踏みしてしまうとそこから先に進むことができず、場合によっては移行プロジェクト自体が頓挫しかねません。こうした課題を事前に把握し、一つ一つ乗り越えることで、AWS を効果的に活用いただくことが可能になり、最終的にはお客様のビジネス価値の向上につながります。

移行における時間軸とビジネス価値の関係

今、移行を検討しているお客様は、お客様がすでに認識している課題に加えて、お客様がまだ気づいていない課題を見つけ出し、その対策を明確にすることが重要です。そこで、AWS へ移行する前のお客様の課題を可視化するのがMigration Readiness Assessment (MRA) というプログラムです。MRA はAWS Cloud Adoption Framework (CAF) と呼ばれるフレームワークに沿って質問に回答いただき、クラウド移行に関する課題を明確化し、クラウドに移行する際に必要となるタスクの抜け漏れを洗い出し、その後の移行計画のインプットとしてご利用いただくことを目的としています。CAF は非技術領域と技術領域に分かれています。非技術領域ではビジネス、人材、ガバナンス、技術領域ではセキュリティ、プラットフォーム、オペレーションに分かれており、合計6つの基本的な観点を持っています。

この記事では、様々なお客様のMRA をCSM が実施した結果に基づいて、よくある課題とその対策についてご紹介します。もちろんお客様によって他にも様々な課題や対策があるため、あくまで一例として考えていただければと思います。前編である本記事では、まずは非技術領域のビジネス、人材、ガバナンスからご紹介します。AWSは技術領域だけでなく、非技術領域に関しても、お客様と課題に対する進め方についてディスカッションすることができます。

移行における課題と対策のご紹介

ビジネス

ビジネスの観点でよくある課題は、エグゼクティブからの移行に対する支援を積極的に得られていないということがあります。しかし、エグゼクティブの支援が得られていないまま移行を進めてしまうと、大きな課題にぶつかった際に前に進めなくなってしまい、状況によっては移行が途中で頓挫してしまうリスクがあります。

エグゼクティブからの支援が得られていない要因はいくつかあると思います。例えば、移行プロジェクトにおけるビジネスケースの作成ができていない、クラウドに対するIT 戦略の明確化ができていない、AWS のクラウドそのものがよく分からない、AWS のセキュリティに関して漠然とした不安がある等が考えられます。こういった課題をお持ちの場合には、お客様が抱えているビジネスおよび技術的な課題を解決するために何ができるかをAWS とともに考える場としてAWS Executive Briefing Center (EBC) をご活用ください。クラウド導入に際して技術的な障壁を取り除き、ベストプラクティスについて意見交換をすることができます。DevOps 等の組織や人材といった非技術的な領域の意見交換も可能です。
また、クラウド移行にかかるコストが不透明であることが課題なのであれば、AWS が提供するクラウドエコノミクスというプログラムを利用いただくことで、インフラのコスト削減だけでなく、スタッフの生産性向上や運用の回復性、ビジネスアジリティ等、さまざまな観点での定量的な評価ができます。数値でお示しすることで、AWS への移行の重要性をより明確にお伝えしやすくなります。

移行を行う前にエグゼクティブからの支援や理解を十分に得ることは重要です。移行を進める中で課題が出た際に、エグゼクティブの支援を得られていれば、課題を乗り越えやすくなり、移行を成功に導きやすくなるためです。

人材

人材の観点でよくある課題は、クラウド化を推進する人材やクラウド全体のガバナンスを効かせる担当者が不在であることです。そのような人材がいないままクラウド移行を進めると、例えばクラウドに関する社内ナレッジの共有がうまくできず、クラウド導入の勢いが減速してしまう可能性があります。

クラウド化を推進する人材がまだいない場合に、クラウド移行を加速する推進組織として役割と責任を明確にするため、Cloud Center of Excellence (CCoE) を立ち上げることから始めることが多くあります。CCoE とは、ビジネスとエンジニアリングの両面で、全社的なクラウド化を推進する専任チームを指します。クラウド移行をこれから始めるというお客様の場合、CCoE チームが不在であることがほとんどです。CCoE を立ち上げようとしたとしても、CCoE といってもまず何から始めればよいのか分からないと思います。AWS ではCCoE の立ち上げにおける初期検討のご支援を実施しております。具体的にはCCoE の定義や一般的なタスク、他社の活動事例をご紹介したうえで、お客様の状況に合わせてCCoE が最初に解決すべき課題は何かを定義するための議論させていただきます。CCoE 立ち上げの活動自体を支援してほしい、という場合にはAWS プロフェッショナルサービスをご利用いただくこともあわせて検討ください。

CCoE チームがいることで、クラウド移行をより円滑に進めやすくなり、全社的にクラウドのメリットを享受できる可能性が高まります。CCoE は物理的な部署を作ることもあれば、仮想的なチームで構成される場合もあります。お客様の状況に合わせて、CCoE 立ち上げにあたって、最初に解決すべき課題は何かを一緒に考えることが可能です。

ガバナンス

ガバナンスの観点でよくある課題は、部門やプロジェクトごとに新規サービス開発等でクラウド利用が進んでいる状況において、組織全体としてのコスト管理ができておらず、コスト最適化できる余地があるかどうかを判断できない状況が発生することです。また、統制を取らずに各部門やプロジェクトごとに自由に個別のAWSアカウントを作成している場合には、セキュリティや効率的な運用の観点から最適な形でAWSクラウドを利用できていない状況が発生しがちです。

よくある対策として、コスト管理の観点では、AWS はCloud Financial Management というコスト管理の考え方と手法を公開しています。この情報を活用することで、組織全体でAWS コストを最適な状況にすることが可能です。例えば、AWS コストの発生源を確認し、予期しない費用を最小限に抑えながら運用をしていくことが可能になります。また、AWS アカウント管理では、組織にとってセキュリティを考慮した上で、ガバナンスが取れた最適な構成、管理を行うことが重要です。そのためにはマルチアカウント管理のベストプラクティスを活用することで、複数アカウントを適切に管理することが可能です。

全社的なコスト管理を徹底することで、抑えたコストを新しいビジネスへの投資にすることが可能となり、お客様のさらなるビジネス価値の向上につながります。また、ベストプラクティスに沿ったマルチアカウント管理を行うことで、よりスケーラビリティのあるアカウント構成を実現でき、今後の移行や運用を円滑に進めていくことが可能です。

まとめ

前編では、クラウド移行におけるお客様がよく直面する課題において、非技術領域の観点 (ビジネス、人材、ガバナンス) でよくある課題とその対策の一例に関してご紹介しました。クラウド移行では技術的な課題の解決が重要だと思われるかもしれませんが、AWS における多くのお客様の移行実績として非技術的な課題が技術的な課題よりも多く、さらに個社毎に状況が異なるため、解決することが難しい領域であることが分かっています。技術領域に加えて、非技術領域の課題もあわせて解決し、システムだけでなく、組織や人材、ビジネス等を含めて変革することが、効果的にクラウド移行をするために重要です。後編では、技術領域の観点でよくある課題とその対策の一例に関してご紹介します。

カスタマーソリューションマネージメント統括本部
カスタマーソリューションマネージャー (CSM) 仁科みなみ、桑原 直哉、北川 裕介