Amazon Web Services ブログ

ロジカル・アーツ株式会社様の AWS 生成 AI 事例「コールセンター業務の効率化と品質向上を実現する生成 AI コンタクトセンター」

本ブログはロジカル・アーツ株式会社様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

はじめに

近年、コールセンター業務における効率化と顧客体験の向上は、多くの企業にとって重要な課題となっています。特に、オペレーターの業務負荷軽減やサービス品質の均一化は、欠かせない要素です。

今回は、ロジカル・アーツ様が AWS 上で構築した次世代コールセンターソリューションの取り組みについてご紹介します。同社は、Amazon Connect と Amazon Bedrock を組み合わせることで、データ処理の高速化と生成 AI の活用を実現し、コールセンター業務の課題解決に取り組んでいます。

課題と背景

多くのコンタクトセンターが抱える課題は、日々の業務の中で顕在化しています。たとえば、アフターコールワークの負担が大きく、オペレーターは通話後の記録や処理に多くの時間を取られており、ロジカル・アーツ様の事前調査によれば1コールにつき約 20 分もの時間を要することがあります。オペレーターごとに対応品質にばらつきが生じやすく、顧客満足度の安定化が難しいという悩みもあります。さらに、アウトバウンドコールを手作業で行っている現場では、効率が上がらず、オペレーターの負担やコストが増大しがちです。加えて、リモート席を含むオペレーターの状況管理が煩雑になり、管理者の負担も大きくなっています。

こうした課題は、業務効率や顧客体験、従業員体験の向上を阻む大きな壁となっています。同社は、これらの悩みを解決するために、AI による自動文字起こしや会話議事録作成、プレディクティブコール、シートマップなどの機能を提供し、短期間で業務効率化と品質向上を目指しました。

特に、多くの複雑なオペレーターの方の課題解決に応えていくためには、CTI システムの基盤強化と先進技術の導入が不可欠でした。

AWS サービスの採用理由

同社は、生成 AI について検証した結果、特に長文処理で Anthropic 社の Claude はコストも安く、ハルシネーションの課題をクリアし、求めていたレベルの効果を安定して実現することができました。そして、AI による自動文字起こしや会話議事録作成では最適な AI モデルを柔軟に選択できるようにする構想があったため、複数の大規模言語モデルを単一サービスから利用できる Amazon Bedrock が理想的でした。

また、CTI アプリケーション開発の難しさと工数の多さという課題に対して、Amazon Connect を基盤としたアプローチが最適解だと判断しました。Amazon Connect は海外も含めて多くの実績があり信頼性が高く、CTI 基盤として採用していることは、セキュリティ面においてもお客様への訴求力が高く、安心してご利用いただける要素でした。

AWS プラットフォーム上で一貫したアーキテクチャを構築できる点も重要な採用理由となりました。データ処理の高速化と生成 AI の統合において、AWS のサービス群がシームレスに連携することで、高機能かつ拡張性のあるソリューションを実現できます。さらに、AWS 環境内に閉じたセキュアな環境を構築でき、1 つのプラットフォームで完結することで請求書の簡略化も可能となることが決め手となりました。

ソリューションの概要

同社が提供する「HARMONY」は、Amazon Connect の標準機能に、生成 AI を活用した独自の AI 機能をプラスしたブラウザベースのソフトウェアです。クラウドベースのオールインワンプラットフォームとして、業務効率化や利便性向上を短期間で実現できるのが特長です。Amazon Connect の標準 CCP(ソフトフォン)と置換可能で、導入もシンプルかつスピーディー。企業の従業員体験(EX)と顧客体験(CX)を同時に高めることをサポートし、コンタクトセンターの業務効率 UP を短期で実現可能にします。

ソリューションの構成

HARMONEY ではサーバレスサービスを採用し、操作性の高いUI/UXを実現しつつ、数十万件を超える大量データでも高速な検索・表示を実現しています。

アーキテクチャ全体

 

CRM連携機能部分

技術的な工夫

単なる文字起こしだけでなく、文字起こしされた内容を編集したり、会話内容の校正をすることも可能です。これ以外にも、通話内容の記録から議事録の生成も可能で、コールセンター業務における一連の作業を効率的に行えるようになっています。

 

各機能で使われる生成 AI は、モデルを変更したりプロンプトカスタマイズすることも可能。

会話内容をAIが解析し、必要な項目を自動で抽出・入力することで、ミスを防止し、業務負担を大幅に軽減。オペレータは顧客との対応に集中できます。この機能は、より複雑な処理が可能なモデルを必要としていましたが、Amazon Bedrock は用途に応じてモデルを使い分けることが可能なので、迅速に対応できるようになっています。

実際の導入効果

業務効率の向上

生成 AI による会話リアルタイム文字起こしと会話議事録生成機能により、エージェントのアフターコールワーク(ACW)時間が 75% 削減され、従来 20 分かかっていた作業が 5 分で完了できるようになりました。この時間短縮により、電話対応件数が 100% 増加し、従来 20 人で対応していた業務量を 10 人で処理できるようになったことで、人的リソースの最適化を実現しました。

プレディクティブコール機能では、従来のスマートフォンでの手動入力による架電作業から、1 日 1 万件のアウトバウンドコール発信が可能な自動化システムへと進化。さらに、HARMONY は 1 回線(1 つの電話番号)の契約のみで固定オプション料金で利用できるため、従来の回線使用料を含むシステムと比較してランニングコストを 85% 削減することに成功しました。

サービス品質の向上

オペレーターは通話中に議事録やメモを取る必要がなくなり、顧客との会話に集中できるようになったことで、顧客サービスの質が向上しました。また、生成 AI を活用することで、オペレーターごとにばらつきがあった通話記録の品質問題も解決。一貫して高品質な記録が自動的に生成されるようになりました。

導入による デジタルトランスフォーメーション 促進

導入企業の中には、蓄積された基幹システムのデータを AWS に移行して、HARMONY と連携させたいという要望が出てきています。これは当初想定していなかった効果であり、コールセンター業務を超えたデータ活用の可能性が広がっています。顧客企業が AWS エコシステムへの移行を検討するきっかけとなり、より包括的なデジタルトランスフォーメーションへの道筋を示すことにもつながっています。

今後の展開

ロジカル・アーツ様では、本システムのさらなる進化と認知度向上を目指しています。

  1. 機能ごとのマルチエージェント機能の実装
  2. より高度なAI エージェント活用による機能拡充
  3. コールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2025 in 東京への出展

まとめ

本事例は、Amazon Connect と Amazon Bedrock を組み合わせることで、コールセンター業務の効率化と品質向上を実現しています。特に、生成 AI の活用により、オペレーターの業務負荷軽減とサービス品質の均一化という課題を解決することができました。

生成 AI を活用した新製品開発、業務の効率化、AWS が提供する様々なサービスの選択肢にご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

ソリューションアーキテクト 大松