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ネットワーク API により通信ネットワーク機能を AWS のアプリケーション開発者に開放

API による通信ネットワークへのアクセス

アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)は、現代のソフトウェア設計において不可欠な要素であり、マイクロサービスアーキテクチャの基盤です。過去1年間、世界中の通信事業者は、ネットワークを強化し、ネットワークサービスへのアクセスを可能とする API を提供することで、通信ネットワークのオブザーバビリティ(可観測性)とプログラマビリティを向上してきました。GSMA のOpen Gateway イニシアチブの下で、通信事業者はこれらの API 定義の標準化を進めており、これらのAPIを使用するアプリケーションは、さまざまな接続プロバイダーや地域間で移植可能になっています。アプリケーション開発者(デベロッパー)がこれらの API を使用して、アプリケーションに追加できる機能の例には次のようなものがあります。1) 電話番号に関連付けられたSIMカードが最後に変更された時刻の確認(SIM Swap API)、2) 電話番号を確認することによるモバイルネットワークへの端末の シームレスな認証 (Number Verification API)、3) ローミングの状況など、ユーザー端末の接続状況の確認 (Device Status API)、4) アプリケーションクライアントとサーバー間のデータフローに対して、安定したレイテンシ(ジッターの低減)やスループットの要求 (Quality on Demand API)、5)アプリケーションをホストするのに最適なエッジクラウドノードの発見 (Edge Discovery Service API) など、その他にも多数あります 1。

アプリケーション開発者は、これらのAPIと他のソフトウェアコンポーネントを組み合わせて、“ネットワーク対応” のアプリケーションを構築し、これまで不可能だった新しいアプリケーションを作成することができます。長年にわたり、AWS はグローバルにクラウドインフラストラクチャとサービスを構築し、アプリケーション開発者やお客様に API を通じて提供してきました。AWS は、通信事業者とのパートナーシップを通じて、AWS のアプリケーション開発者に通信事業者のネットワーク API を提供しています。これらのアプリケーション開発者は既に240以上の AWS サービスから数千の AWS API を使用しており、今後はこれらの通信のネットワーク API を使ってアプリケーションを構築し、AWS でホストすることができるようになります。

AWS が通信事業者とアプリケーション開発者を支援する方法

このコラボレーションにより、AWS は通信事業者とアプリケーション開発者の両方を支援しています。1つ目に、AWS はフリクションレスで魅力的な開発体験を提供しています。AWS には、その豊富で幅広いサービスポートフォリオを使ってアプリケーションを構築する大規模な開発者コミュニティがあります。テレコムネットワーク機能を API を通して提供することは、AWS ユーザーに馴染みのあるアプリケーション開発体験を維持しつつ、新しい機能を提供するものです。AWS がアプリケーション開発者に提供する価値としては、複数の接続プロバイダへのアクセス、簡素化された開発体験、API の抽象化によるアプリケーションの移植性です。2つ目に、AWS は通信事業者に新しい販売チャネルを創出しています。API を通して提供される新しいネットワークサービスの構築に加えて、通信事業者は幅広い普及のための新しいチャネルを求めています。AWS は、スタートアップから中小企業、大企業、公共セクター企業まで、さまざまな業界に対応する大規模な開発者コミュニティへのチャネルを提供します。3つ目は、このコラボレーションは、 API を提供する通信事業者と、それを利用してアプリケーションをホストするアプリケーション開発者の両者に対して、グローバルへのリーチを創出します。多くの通信事業者は国内で事業を行っているのに対し、アプリケーション開発者、アプリケーション、そしてその利用は複数の地理的領域にまたがります。AWS はデベロッパーに、異なる接続プロバイダや国にまたがってアプリケーションの移植性を促進する、一貫性のある標準化された API エクスペリエンスをグローバルに提供します。

ネットワーク API を利用して AWS で構築されているアプリケーション

すでに AWS のサービスを利用している AWS のお客様やアプリケーション開発者は、通信事業者のこれらの API を自社のアプリケーションに統合し始めています。初期のアプリケーションはさまざまな業種に及んでおり、通信事業者が開発しているさまざまな API を使用しています。以下にいくつか例を挙げます。

  • 自動運転:Unmanned Life 社は、配送、監視、データ収集のための自律型ドローンのオーケストレーションプラットフォームを提供します。彼らのプラットフォームは、Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) 、Amazon Relational Database Service ( Amazon RDS ) 、およびその他の AWS サービス上に構築されています。ドローンのリモート制御にはネットワークパフォーマンスが重要であるため、Unmanned Life 社は Quality on Demand API を使用して帯域幅と遅延の保証をオンデマンドでリクエストし、ドローンのシームレスな運用を保証しています。
  • Industrial XR:Holo-Light 社は、デジタルツイン、リモートメンテナンス、コラボレーションデザインに使用される、XRデバイスに高品質の没入型ストリーミングを提供する産業用拡張現実(XR)ソフトウェアを専門としています。レンダリングには GPU を搭載した Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) 、ストレージには Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) を利用して構築し、XR サービスの低レイテンシーストリーミングとエンドツーエンドのパフォーマンスを実現しています。Holo-Light 社は、Quality on Demand API を使用してネットワークパフォーマンスを制御し、プレミアムなユーザーエクスペリエンスを提供します。
  • 金融サービス:Terralogiq 社は、利用者のオンボーディングやクレジット申請などのプロセスを合理化する企業向けの金融サービスソリューションを提供しています。Terralogiq 社は Amazon EC2、データ抽出には Amazon Textract、顔認識には Amazon Rekognition を利用しています。Terralogiq 社はユーザーセキュリティに重点を置き、SIM Swap API と番号検証のための Number Verification API を活用してエンドユーザーを詐欺から保護し、シームレスな認証体験を保証します。銀行業でも同様の用途が見られます。
  • ゲーム:Gamium 社は、ネイティブデジタル決済と、ゲームと仮想的なソーシャル環境におけるデジタル ID 間の安全な取引のためのクラウドプラットフォームを提供します。Gamium 社のプラットフォームは、AWS Fargate や Amazon RDS などのサービス上に構築されています。Gamium 社は、Number Verification API と SIM Swap API を活用して、ユーザー認証の簡素化、不正防止の強化、安全なデジタル取引を実現しています。

世界中の通信事業者との提携

私たちは世界中の通信事業者とともに、彼らのネットワークから提供されるネットワーク API を、より多くのアプリケーション開発者やお客様に届ける取り組みを続けています。

Verizon 社のテクノロジー・プロダクト開発担当シニアバイスプレジデントである Srini Kalapala 氏は “ Verizon のネットワーク API は、世界中の企業やアプリケーション開発者に最先端のネットワーク機能を導入し、Verizon の 5G ネットワークの大きな可能性を示し、企業内のデジタル変革を加速し、イノベーション、成長、収益性を促進しています ” と述べています。“ AWS を通じてこれらの API を導入することで、グローバルレベルのアプリケーション開発者は Verizon が提供するネットワークの価値と機能に簡単にアクセスできるようになります。この AWS との連携は、2023 年に紹介したネットワーク API の PoC(技術的概念実証)の基礎となっています。これらのコラボレーションでは、Edge Discovery Service API と Quality on Demand API の具体的なユースケースが浮き彫りになりました。この分野のリーダーとして AWS との緊密なコラボレーションを継続できることを楽しみにしています ”

Telefonica 社の CDO(最高デジタル責任者)である Chema Alonso 氏は次のように述べています。“ Open Gatewayにより、アプリケーション開発者はプログラム可能なネットワークのあらゆる機能を活用して、ビジネスクリティカルなアプリケーションを構築できます。CAMARA 標準仕様により、ネットワーク API は非常に使いやすくなり、地域のプライバシー法への自動的な準拠を保証します。AWS は、すべての通信事業者で API を一貫して使用できるようにするための理想的なプラットフォームであり、世界で最高のアプリケーション開発者環境の 1 つとして利用できます”。

T-Mobile 社のテクノロジーイノベーション・インダストリーパートナーシップ担当上級副社長である Mark McDiarmid 氏は次のように述べています。“ 2022年にネットワークAPIへのアクセスを提供開始して以来、T-Mobile はアプリケーション開発者と企業がイノベーションの限界を押し広げることを可能にしてきました。そして今では、AWS 開発者コミュニティにもリーチできることを嬉しく思います。アプリケーション開発者が Quality on Demand API を通じてより一貫したネットワークパフォーマンスを活用しているか、またはビデオ通話ネットワークスライシング機能(米国のライブスタンドアロン5Gネットワークで利用できる唯一のプログラム)を活用しているかに関わらず、T-Mobile はアプリケーション開発者がネットワーク API を活用して明日に向けたソリューションを構築する際の障壁を取り除いています。”

Orange Group の最高技術責任者で Orange Innovation Networks 社のシニアバイスプレジデントである Laurent Leboucher 氏は次のように述べています。“ AWS が通信事業者と協力して Orange の Network API を公開したことを歓迎します。これにより、世界中のアプリケーション開発者がネットワーク対応アプリケーションをサポートする貴重な機会が得られます。このことは、本番稼働中のOrange Mobile Private Network on AWS Cloud によってすでに実証されている市場と、自律型ネットワークにおける我々の継続的なコラボレーションに対して、インパクトのある共同イノベーションをもたらすと信じています。”

Liberty Global 社のモバイル&クラウド担当マネージングディレクターである Madalina Suceveanu 氏は、次のように述べています。“ 新しいパートナーシップを活用してアプリケーション開発者と通信ネットワークをより緊密に連携させ、開発者がこれまで不可能だった方法で顧客のニーズを満たすアプリケーションを作成できるようにできることを嬉しく思います。Liberty Global では、固定回線および5Gスタンドアロン(SA)モバイルネットワークを活用して、魅力的なユースケースを開発しています。その一部は Mobile World Congress 2024 で紹介されています。この AWS とのパートナーシップは、今後大きな役割を果たすでしょう。通信事業者、グローバルなクラウドベースのプロバイダー、アプリケーション開発者、標準化団体が協力してエコシステムを推進し、世界規模での運用を確実にするために、この取り組みを継続することが不可欠です。”

AWS の使命は、アプリケーション開発者が世界中にデプロイできる強力なアプリケーションを簡単に構築できるようにすることです。私たちは、より高度で多様な機能をアプリケーション開発者に提供するために継続的に努力しています。世界中の通信事業者が開発、提供している ネットワーク API は、通信事業者のネットワーク対応アプリケーションを構築するための新機能の 1 つで、AWS アプリケーション開発者が利用できるようになります。ネットワークが成熟し、開発者コミュニティで API が運用されるようになるにつれて、世界中のより多くの通信事業者と協力できることを楽しみにしています。

1 Linux Foundation’s CAMARA API Repositories

著者について

Dr. Ishwar Parulkar

Dr. Ishwar Parulkar

Ishwar Parulkar 博士は、アマゾンウェブサービスのテレコムおよびエッジクラウドのチーフテクノロジストです。この役職では、AWS テクノロジー戦略の策定、新しいクラウドサービスの定義、AWS のエッジクラウドサービスと次世代の通信ネットワークおよびサービスを実現するためのイニシアチブの主導を担当しています。

AWS に入社する以前は、Parulkar 博士は Cisco 社の Distinguished Engineer であり、通信ルーティング、モバイルパケットコア、スモールセル、ネットワークオーケストレーション製品を担当するビジネスユニットのチーフアーキテクトでもありました。彼はモバイルエッジコンピューティングと 5G に関する業界全体のイニシアチブの創設メンバーであり、クラウドテクノロジーが通信分野を変革できるという確信から 2016 年に AWS に入社しました。Cisco 社に入社する前、Parulkar博士はSun Microsystems 社の Distinguished Engineer として、業界初のマルチコアプロセッサシステムや最初のコンピューティング仮想化プラットフォームなど、データセンターのコンピューティングインフラストラクチャの設計を主導しました。彼はApple 社でキャリアをスタートし、Mac デスクトップ/ラップトップ製品ラインと、iPhone 革命の種を蒔いたニュートンPDAテクノロジーに携わりました。

Parulkar 博士は、ヴァンダービルト大学で修士号を、南カリフォルニア大学で博士号を取得しています。南カリフォルニア大学の産業諮問委員会のメンバーとして数年間務めました。彼は数十件の特許を保有し、IEEE/ACM ジャーナル/カンファレンスで25 以上の論文を発表し、ネットワーキングとコンピューティングに関する IEEE/ACM カンファレンスのプログラム委員会メンバー/議長を務めました。2017年、Parulkar 博士は、通信ネットワークとデータセンターコンピューティングの分野における卓越性と多大な貢献により、インド国立工学アカデミーの外国人フェローに選出されました。

 

原文はこちらです。
翻訳はソリューションアーキテクトの鈴木 浩之が担当しました。