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re:Invent 2023 サステナビリティ Recap

re:Invent は、革新的なテクノロジーを深く理解し、新しいアイデアを探求する機会です。現在様々な業界においてサステナビリティ(持続可能性)が大きな課題となっています。AWS クラウドによって実現するサステナビリティには、「クラウドの」、「クラウド内」、「クラウドを通じて」の 3 つの要素があります。

  • クラウドのサステナビリティ (Sustainability of the cloud) : クラウドへのマイグレーション(移行)による IT システムのサステナビリティを向上する
  • クラウド内のサステナビリティ (Sustainability in the cloud) : Well-Architected Framework のサステナビリティの柱や様々なサービスを利用した AWS のワークロードの最適化
  • クラウドを通じたサステナビリティ (Sustainability through the cloud) : クラウドベースのソリューションとアドバイザリーサポートの導入により、サステナビリティ目標を加速させる

このブログでは、re:Invent 2023 での発表内容を中心に、サステナビリティのそれぞれの要素について、AWS の取り組みや事例をご紹介していきます。

クラウドのサステナビリティ

Sustainability innovation in AWS Global Infrastructure (SUS101) では、AWS グローバルインフラストラクチャのサステナビリティに関する紹介を行いました。

調査会社 451 Research によると、AWS のような大規模なクラウドインフラストラクチャはオンプレミスのエンタープライズデータセンターを利用するよりもエネルギー効率がよく、一般的な平均的なオンプレミスデータセンターと比較して、米国で 3.6 倍、ヨーロッパアジア太平洋地域では約 5 倍エネルギー効率が高いことがわかりました。平均して、AWS ではお客様の二酸化炭素排出量を現在約 80% 近く削減でき、今後 100% 再生可能エネルギーで事業を運営するようになった場合は、最大 96% 二酸化炭素排出量を削減できます。

クラウドインフラストラクチャーでは、最新のサーバーをより高い稼働率で使用し、複数のお客様間でリソースを共有して動的に割り当てるとともに、施設レベルでは、冷却と配電の両方でエネルギー効率を高める設計により、データセンターのエネルギー効率を向上させています。

AWS は、グローバルな事業とサプライチェーン全体で二酸化炭素排出量を削減することにより、二酸化炭素排出量のネットゼロに向けて取り組んでいます。主な取り組みとして以下のようなものがあります:

  • AWS Graviton プロセッサや、AI/ML に特化した AWS TrainiumAWS Inferentia など、独自設計のハードウェアによるエネルギー効率化
  • データセンター建設において、製造時に発生する二酸化炭素量を削減した低炭素コンクリートや低炭素鋼を使用
  • データセンターのバックアップ発電機で再生可能燃料の利用
  • サプライヤーと協力し半導体デバイスのライフサイクル全体で排出量を削減
  • Amazon は世界最大の再生可能エネルギー購入企業であり、AWS でもすでに 19 の AWS リージョンで 100% 再生可能エネルギーを利用
  • ハードウェアのライフサイクルにおけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の採用
  • 水利用効率の向上と社会への水の還元

クラウド内のサステナビリティ

Sustainable architecture: Past, present, and future (SUS302) では、「サステナブルなアーキテクチャー:過去、現在、未来」という講演が行われ、クラウド内のサステナビリティを向上させるための考え方や具体的なサービスについての紹介が行われました。

クラウドの登場により自由に計算リソースを増減して変化するワークロードに対応することが可能になり、またコストやサステナビリティの観点でアプリケーションをチューニングしてリソースを最適化する考え方が生まれました。

AWS の責任共有モデルの考え方では、AWS はクラウドインフラストラクチャのサステナビリティ(持続可能性)に責任を持つ一方で、お客様は、 クラウド内のサステナビリティに責任を持ち、ワークロードとリソース利用率を最適化する必要があります。

AWS Shared Responsibility Model

図1)AWS 責任共有モデル

クラウド内のサステナビリティを最適化するためのガイドとして、2021 年の AWS re:Invent で Well-Architected Framework に 6 本目の柱、持続可能性(サステナビリティ)が追加されました。この中では、リージョン選択、需要に合わせた調整、ソフトウェアアーキテクチャ、ストレージの最適化やデータのライフサイクル管理、ハードウェアとサービスの選択、プロセスと文化、といった重点領域を定義し、それぞれの領域におけるベストプラクティスを紹介しています。

クラウド内のサステナビリティを改善するには、まず現状を把握する必要があります。AWS の請求コンソールから確認できる AWS カスタマーカーボンフットプリントツールでは AWS ワークロードから発生する二酸化炭素排出量を表示することができます。さらにプロキシメトリクスと呼ばれる手法を使うことにより、AWS リソースの利用量をプロキシ、つまり代替的な指標とすることで、よりリアルタイムに近い形で、自分のワークロードの排出量を把握することができます。

またこの講演では、Cloud Intelligent Dashboard というオープンソースのダッシュボードも紹介しています。これは AWS リソースの使用状況を詳細に分析することができるツールで、デプロイメントガイドデモが公開されています。

組織内に AWS アカウントが複数あって AWS リソースを大量に利用している場合、その全体像の把握は難しいものですが、このようなダッシュボードにより、AWS リソースの利用状況について正確に把握することができます。

Cloud Intelligence Dashboard

図2) Cloud Intelligence Dashboard

またその他にも、AWS ワークロードのサステナビリティを高めるために利用可能な、様々なツールが紹介されています。

クラウドを通じたサステナビリティ

AWS クラウドを通じてサステナビリティ目標を実現するというテーマに関しては、複数の講演がありました。

AI を利用した ESG レポーティングとデータ主導の意思決定 (SUS204)

Using AI for ESG reporting and data-driven decision-making (SUS204) では、AI を利用した ESG レポーティングとデータ主導の意思決定に関する発表が行われました。

ESG レポーティングというのは、いわゆる非財務情報に関する開示であり、日本でも ESG 情報開示が求められることが多くなってきていますが、海外でも規制による ESG 情報開示の義務化が進んでおり、同時に不正確な報告による訴訟リスクが増加しています。また、サプライチェーンの安全性、レジリエンス、透明性などの評価が重要になっています。

一方で、ESG レポーティングに関して様々な課題があり、データが社内の様々なシステムでバラバラに管理されサイロ化していること、手作業の集計による非効率性や誤りのリスクが指摘されています。また、年 1 回程度の特定の時点でのみの集計では実行可能なアクションに結びつけた改善を行うのには不十分です。

このような問題に対して、AI/ML を活用することで課題の解決が可能になります。例えばデータの収集を自動化したり、データのギャップを埋めて補完したり、コンプライアンス関係文書に対するクエリや要約を実行したり、生成 AI による ESG レポートの自動作成を行う、といったことです。このセッションでは、 (1) 生成 AI を利用したチャット bot によるサステナビリティ関係の様々なクエリの実施、(2) AI/ML を利用した排出係数の選択、(3) Amazon Textract による電力請求書からのデータ抽出、など、AWS の AI/ML を使用したデモを紹介しています。

AI/ML でエンド・ツー・エンドのサプライチェーン透明性を加速 (SUS203)

Accelerating end-to-end supply chain transparency with AI/ML (SUS203) では、AI/ML によってサプライチェーンの透明性を加速させる技術に関する紹介がありました。

現在、様々な理由で製品のサプライチェーン透明性の向上が求められています。例えば特に消費財や衣服については、製品の安全性や真正性を確認するために製品のトレーサビリティを求める消費者の声が強く、またコンプライアンスや規制上の理由でサプライチェーン透明性が求められる場合もあります。また、二酸化炭素排出量の算定においては、Scope 3 と呼ばれる間接排出量では、製品の原材料や製造、輸送、最終的な利用から破棄に渡るライフサイクルを通じた排出量が対象となるため、サプライチェーンの透明性を高めることが非常に重要になってきます。

一方で、様々な製品のサプライチェーンは複雑化しており、特に、L2、L3 と呼ばれる、間接的な取引相手にまたがるサプライチェーン情報を取得するのは困難です。これはサプライヤーが情報提供に懸念を示すといったケースがあるだけでなく、データが様々な箇所に分散され、データフォーマットが統一されていないといった技術的な要因もあります。

AWS は PVH Europe というヨーロッパの大手のアパレル企業と協力して、サステナビリティのプラットフォームを開発し、サプライチェーン情報を分析・可視化するためのデータメッシュとダッシュボードを開発しました。この事例では “Prouct Traceability on AWS” という AWS ソリューションガイダンスにより、企業の購買履歴や NGO の発行した証明書などの情報を統合し、AI/ML によって足りない情報を推定することにより、サプライチェーン情報を分析・可視化するためのデータメッシュとダッシュボードを開発しています。

サプライチェーン情報を可視化したダッシュボード例

図3)サプライチェーン情報を可視化したダッシュボード例

AI, ML, オープンソースデータにより森林破壊を減速

Slowing down deforestation by using AI, ML, and open source data (SUS205) では、AI、ML、オープンデータを利用した森林破壊を減速させる取り組みを紹介しています。

森林は大量の二酸化炭素を吸収し固定化し、生物多様性や人間の営みを守るなど、気候変動やサプライチェーン安定性に大きな影響を持っています。

一方で、森林破壊が大きな問題となっています。例えば、ブラジルのアマゾン地域では 90% の森林破壊は違法に行われており、違法な農地で生産された農産物が問題となっています。

サンパウロの Minas Gerais 大学は、ブラジルの Para 州の自治体と協力して、SeloVerde 2.1 というソリューションを開発しました。これは、トレーサビリティを向上し、違法な土地利用に基づく農産物を市場から排除することによって、森林破壊を減速させることを目的としています。

SeloVerde 2.1 は、Amazon Sustainability Data Initiative (ASDI)PlanetScope で公開されている衛星画像を利用し、他の公共データと統合し、AI/ML 技術によって分析することで、5m 四方の高解像度で土地の利用状況をトラッキングし、土地利用の変更を検知します。また、様々なデータソースを統合して分析することで、牛や大豆などの農産物のサプライチェーンを追跡し、透明性を高めています。

まとめ

以上、re:Invent 2023 のサステナビリティに関する発表をご紹介しました。本日ご紹介した内容を含む解説動画については、Recap イベントのアーカイブをご覧ください。

また、YouTube のプレイリスト re:Invent Sustainability Content 2023 には、本日ご紹介した講演を含め、サステナビリティ関係の講演がまとまっています。

その他のサステナビリティ事例やお問い合わせ先については、AWS のサステナビリティのサイトをご覧ください。