Amazon Web Services ブログ
元データを共有することなく、AWS Clean Rooms 上の AWS Entity Resolution を使用してマルチパーティーデータセットからインサイトを引き出す
この記事は Unlock data insights across multi-party datasets using AWS Entity Resolution on AWS Clean Rooms without sharing underlying data (記事公開日: 2024 年 7 月 25 日) を翻訳したものです。
マーケティングと広告テクノロジーの領域は、消費者のメディアや販売チャネルの分断化、新たなプライバシー規制、そして AI を活用した顧客エンゲージメントへの急速なシフトによって変革期を迎えています。様々な業界の企業がパーソナライズされた顧客体験と最適化された広告キャンペーンの提供を目指していますが、サイロ化されたデータ、重複データ、あるいはデータの欠如により、リアルタイムのユースケース実現に苦心しています。Gartner の調査によると、顧客の 360 度理解 (Customer 360) を実現するための統合された顧客プロファイルを持つ企業はわずか 14 %に留まっています。既存顧客の統合プロファイルを保有している企業であっても、広告パートナー (マーケター、パブリッシャー、代理店、ISV など) と連携した新規顧客獲得のプロセスは、上述の逆風に直面しています。
ファーストパーティデータのマッチングと連携の必要性は、業界専門家が「シンギュラリティ」と呼ぶ時期を推進しており、クラウドコンピューティング、最新のデータアーキテクチャ、人工知能 (AI) 、機械学習 (ML) のイノベーションに支えられ、マーケティングと広告テクノロジーの融合が進んでいます。この融合により、アイデンティティ解決とプライバシー強化技術 (データクリーンルームなど) が注目を集めています。これらは、2 者以上の参加者が合意した場合において、ファーストパーティデータを分析でき、かつデータアクセスの制限を確実に実施できる、安全な共同作業環境として機能します。
企業は Amazon Web Services (AWS) の支援を受けて、これらのトレンドに対応しながらイノベーションを進めています。AWS Entity Resolution は、企業が複数のアプリケーション、チャネル、データストアにまたがる関連レコードのマッチング、リンク、拡張を容易に行えるようにし、データ品質を向上させることで、顧客をより深く理解し、効果的なエンゲージメントを実現することを支援します。AWS Clean Rooms は、企業とそのパートナーが、お互いの基礎となるデータを共有またはコピーすることなく、より簡単かつ安全にデータセットの分析と共同作業を行うことを可能にします。AWS Clean Rooms を使用することで、数分で安全なデータクリーンルームを作成し、AWS を利用する他の企業と連携して、広告キャンペーン、投資判断、研究開発に関するユニークなインサイトを生成することができます。
本日、AWS Entity Resolution が AWS Clean Rooms にネイティブ統合されたことを発表しました。これにより、企業はルールベースまたはデータサービスプロバイダーベースのマッチング手法を使用して、AWS Clean Rooms のセキュアなコラボレーション環境内で、自社の顧客レコードとパートナー企業のレコードをマッチングすることが可能になります。数回のクリックだけで、企業とそのパートナーは関連レコードのマッチング、安全な分析、データセットの共同活用を行うことができ、オーディエンスの構築、キャンペーン計画の改善、キャンペーン効果の測定が可能になります —— これらすべてを生データを互いに共有することなく実現できます。
「消費者のプライバシー保護は、広告・マーケティング業界における最優先事項であり続けています。私たちは、AWS Entity Resolution と AWS Clean Rooms の革新的な統合を大変心強く感じています。この統合により、Affinity Solutions は購買データの連携が容易になり、プライバシーを保護しながらパートナーとのマッチ率を向上させることが可能になります。これにより、金融・小売業のお客様の新規顧客獲得とロイヤリティ向上につながる、より深いインサイトを得ることができます。」
Affinity Solutions, Vice President of Business Development, Logan Moore 氏
このブログ記事では、AWS Clean Rooms における AWS Entity Resolution 機能の利点について説明し、広告・マーケティング分野での主要なユースケースを紹介します。さらに、コラボレーターとのデータマッチングを向上させるための、データ準備とマッチングの開始方法の詳細についてご紹介します。
AWS Entity Resolution on AWS Clean Rooms
AWS Clean Rooms への AWS Entity Resolution ネイティブ統合により、企業はコラボレーション内でルールベースまたはデータサービスプロバイダーベースのマッチング手法を利用できるようになりました。AWS Clean Rooms でデータがマッチングされる際、企業は、コラボレーター間のデータセットで一致したデータを含む ID マッピングテーブルに適用されるプライバシー強化ルールのメリットを享受できます。AWS Clean Rooms は各 ID マッピングテーブルを分析ルールで保護し、コラボレーションのメンバーがテーブルの内容を直接照会したり、確認したりすることを制限します。
ルールベースマッチングでは、コラボレーター間のデータセットを準備・マッチングするための、すぐに使用可能でカスタマイズ可能なルールを提供します。企業は、AWS Entity Resolution が提供するノーコードのルールベースマッチングエンジンをマッチングロジックに活用することができます。設定可能なマッチングルールで関連する識別子を結合してデータをマッチングすることで、時間を節約でき、マッチングロジックをより細かく制御することが可能になります。
データサービスプロバイダーベースのマッチングでは、LiveRamp などの信頼できるデータサービスプロバイダーのデータセットや ID を、AWS Clean Rooms のコラボレーション内で直接マッチングすることができます。これにより、企業はデータサービスプロバイダーからマッチング結果を生成し、それらをコラボレーションに関連付けるための ETL パイプラインを構築する必要がなくなります。
ユースケース
- Media Planning (メディアプランニング) : 広告主とパブリッシャーは重複するオーディエンスを分析することができ、広告計画と投資の最適化に役立ちます。
- Audience Activation (オーディエンスアクティベーション) : 広告主はパートナーと協力して顧客の 360 度ビューを形成し、AWS Clean Rooms ML を使用したオーディエンスモデリングのために、より正確なシードデータを作成できます。
- Media Measurement (メディア測定) : 測定プロバイダーとパブリッシャーは広告の投資対効果を示すことができ、広告主とエージェンシーが特定のキャンペーン成果を理解することを支援します。広告主はメディア企業から提供されるコンバージョンやトランザクションイベントを分析することで、アトリビューションの追跡と理解を向上させることができます。
サービス概要
AWS Clean Rooms への AWS Entity Resolution ネイティブ統合により、企業は数分でデータコラボレーション環境を作成できます。コラボレーションメンバーは、自社のファーストパーティレコードを持ち込み、他のコラボレーターのファーストパーティレコードとマッチングすることができます。
例えば、広告主がアトリビューションを分析・理解するために、パブリッシャーが配信したインプレッションに対するコンバージョンやトランザクションイベントを分析したい場合があります。
- パブリッシャー (下図の Company A) は、AWS Clean Rooms のコラボレーションを作成し、AWS Entity Resolution を使用してデータのインデックス作成と準備を開始します。これにより、データフォーマットの標準化、重複の削除を行い、マッチングと分析に適したデータセットを準備します。パブリッシャーは、このコラボレーションの作成前に AWS Entity Resolution を使用して既に準備を完了している場合を除き、パートナーとのマッチングの前にデータの準備を行う必要があります。
- 広告主 (下図の Company B) は、AWS Clean Rooms のコラボレーションに参加し、AWS Entity Resolution を使用してパブリッシャーとのレコードマッチングのワークフローを開始します。データマッチングの前に、広告主は必要に応じて AWS Entity Resolution を使用してデータの準備を行うことができます。
図 1 : AWS Clean Rooms における AWS Entity Resolution を活用した、パブリッシャーと広告主の連携フローの詳細図
ルールベースマッチング
AWS Clean Rooms でのルールベースのエンティティマッチングは、以下の 5 つのステップで設定できます:
- コラボレーションの作成または参加 : 企業が AWS Clean Rooms のコラボレーションを作成し、メンバーを招待します。
- ID ネームスペースの作成 : コラボレーションに参加する各企業は、AWS Clean Rooms から AWS Entity Resolution を使用して顧客データを関連付け、ID ネームスペースを作成する必要があります。
- ID ネームスペースの関連付け : 各コラボレーションメンバーは、それぞれの ID ネームスペースを AWS Clean Rooms のコラボレーションに関連付けます。
- ID マッピングテーブルの作成 : コラボレーションメンバーが AWS Clean Rooms でエンティティマッピングのワークフローを開始します。このワークフローの出力として、AWS Clean Rooms で利用可能な ID マッピングテーブルが作成されます。
- AWS Clean Rooms でのクエリ実行 : すべてのメンバーで合意されたコラボレーション制約に基づき、参加者はプランニングや測定などの様々なユースケースのために AWS Clean Rooms でクエリを実行できます。ID マッピングテーブルは、コラボレーションメンバーによって追加された任意の分析ルールタイプ (リスト、集計、またはカスタム SQL) を含む設定済みテーブルと組み合わせて、クエリを実行することができます。
図 2 : ルールベースマッチングを選択した場合の 5 ステップのワークフローを示すアーキテクチャ図
データサービスプロバイダーベースマッチング
AWS Clean Rooms でのデータサービスプロバイダーベースのマッチングは、以下の 5 つのステップで設定できます:
- コラボレーションの作成または参加 : 企業が AWS Clean Rooms のコラボレーションを作成し、メンバーを招待します。
- ID ネームスペースの作成 : コラボレーションに参加する各企業は、AWS Clean Rooms から AWS Entity Resolution を使用して顧客データを関連付ける必要があります。AWS Entity Resolution において、企業はトランスコードしたい RampID のセットを指定するための ID ネームスペースを作成します。ID ネームスペースは、コラボレーションの各顧客が RampID のセットを参照し、トランスコードの方向に応じたロールを選択するために作成するリソースです。トランスコードを開始したい顧客は「ソース」を選択し、他のコラボレーターは「ターゲット」を選択します。
- ID ネームスペースの関連付け : 各コラボレーションメンバーは、それぞれの ID ネームスペースを AWS Clean Rooms のコラボレーションに関連付けます。
- ID マッピングテーブルの作成 : トランスコードを開始するコラボレーションメンバー (例:広告主) が ID マッピングテーブルを作成します。
- AWS Clean Rooms でのクエリ実行 : コラボレーションメンバーは、ID マッピングテーブルを使用して、キャンペーンのプランニングや測定など、様々なユースケースのために AWS Clean Rooms でクエリを実行できます。この ID マッピングテーブルは、SQL JOIN ステートメントのみに分析を制限する、事前定義された不変の分析ルールセットを持つコラボレーションで使用されます。さらに、企業は AWS Clean Rooms ML と組み合わせて ID マッピングテーブルを使用し、類似オーディエンスモデリングのシードデータソースとして SQL クエリを受け入れることができます。
図 3 : データサービスプロバイダーベースのマッチングを選択した場合の 5 ステップのワークフローを示すアーキテクチャ図
まとめ
本記事では、企業が基礎データを互いに共有することなく、ルールベースおよびデータサービスプロバイダーベースのマッチング手法を使用し、広告キャンペーンのプランニング、類似モデリング、測定などのユースケースに向けて、コラボレーターのデータセットと容易にマッチングを行う方法をご紹介しました。
AWS Clean Rooms における AWS Entity Resolution の詳細については、当社の Web サイトをご覧いただくか、プライバシー保護に配慮したデータ連携の専門家にお問い合わせください。
関連資料
AWS Entity Resolution on AWS Clean Rooms pricing
AWS Clean Rooms User Guide
AWS Entity Resolution Web サイト
著者について
本稿の翻訳は、ソリューションアーキテクトの髙橋が担当しました。原文はこちら。