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Autify CEO 近澤良が語る、グローバル起業と「作り続ける」情熱。

オーティファイ株式会社 CEO / 共同創業者 近澤 良 氏
「人と AI の総合力で開発を次のレベルへ。」をビジョンに掲げ、AI を活用したソフトウェアテスト自動化プラットフォーム「Autify」を提供するオーティファイ株式会社。2016 年に米国サンフランシスコで創業し、日本人チームとして初めて米国トップアクセラレーター「Alchemist Accelerator」を卒業。現在は金融機関を含む幅広い企業にサービスを提供しています。
スタートアップ CEO のリアルな声をお届けする CEO インタビューシリーズ。第 2 回は、Autify 社 CEO の近澤良氏にご登場いただきました(第 1 回の primeNumber 田邊 CEO のインタビュー記事はこちら)。アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 シニアアカウントマネージャーの坂井と桑原がインタビューしました。
テストが「しんどかった」── 創業の原体験
坂井:近澤さん、本日はよろしくお願いします。近澤さんは日本、シンガポール、アメリカの 3 ヶ国でソフトウェアエンジニアとして経験を積まれ、サンフランシスコで創業されました。この事業を始めたきっかけと、海外で創業した理由を聞かせていただけますか?
近澤:僕自身がエンジニアだったので、テストがしんどかったんです。絶対にやらなければいけない重要なことなので自動化も自分でやっていましたが、自動化してもすぐ壊れるし、自動化コードを書くのはきつい。この原体験が強くありました。そして 3 ヶ国のどこで働いても等しくつらかった。ということは、これはグローバルな課題であろうと。構想した 2018 年頃は機械学習という言葉が盛り上がっていた時期ですが、テストは非常に労働集約的で属人的な領域なので、絶対に AI で解決できるだろうと考え、「AI × ソフトウェアテスト」で行くと決めました。
アメリカで創業したのは、当時僕がサンフランシスコにいたこともありますが、「グローバルに通用するものを作りたい」というのが会社のミッションの 1 つだったからです。それなら日本ではなくアメリカで創業し、アメリカの投資家から資金調達を受け、グローバル市場を狙うべきではないかと考えました。
日本人初の Alchemist Accelerator 卒業
坂井:Alchemist Accelerator を日本人として初めて卒業されています。アクセラレーターへの挑戦は戦略的に狙っていたのですか?
近澤:はい。アメリカで働いてはいましたが、現地に強固な人脈があるわけではない。アメリカのスタートアップコミュニティに入っていくには、アクセラレーターが一番の近道なんです。Y Combinator には 3 回、Alchemist には 2 回応募し、2 回目で採択されました。
Alchemist はトップ 5 に入ると評価されるプログラムであることに加え、B2B 専門です。Y Combinator が 1 バッチ 100 社を超える規模なのに対し、Alchemist は 20 社しか採択しないクローズドなプログラムで、週 1 回のセッションには Cisco や ServiceNow といった企業のセールスやマーケティングの VP クラスが来て、「B2B マーケティングとはこういうものだ」と教えてくれる。我々には非常に合っていました。
桑原:合格の秘訣はあったのですか?
近澤:創業したタイミングから Y Combinator の卒業生に会いまくって、20 人ほどに会い、12 人ほどがリファラル(推薦)を出してくれました。大量の応募の中で、12 人からリファラルを受けている会社と 0 人の会社、どちらを見るかは明らかですよね。Alchemist も 2 回目はリファラルを集めて採択されました。素晴らしいビジョンや製品があることはもちろんのことですが、地道に人に会い続けてそのコミュニティから受け入れてもらう努力をすることも大事だと思います。
27 歳からの海外挑戦 ── 英語はゼロから習得できる
坂井:グローバルで戦うとなると語学も気になるところです。英語力はもともとどうだったのですか?
近澤:私は日本生まれ日本育ちで、最初に海外に出たのは 27 歳です。英会話学校に 17 歳頃から通い、毎日コツコツ 10 年ほど勉強していました。DeNA を辞めて CTO としてスタートアップを共同創業した後、もう一度自分でやろうと考えた時に、やはりグローバルでやりたい。でも海外経験がない。悩んでいたら、妻に背中を押されたんです。結婚式を挙げた直後に「今すぐチケットを取ってサンフランシスコに行ってきなよ」と言われ、その場で航空券を取りました(笑)。1 ヶ月間サンフランシスコで面接を受けまくり、アメリカはビザが難しいので「まずシンガポールに来ないか」という 1 社のオファーを受けてシンガポールに移りました。
ただ、実際に働き始めると本当に大変でした。シンガポールは多国籍で、インド英語もあればシングリッシュもあり、会議で何を言っているのかわからない。1 年ほど苦労しましたが、プロダクトマネージャーとして会議を仕切るようになってから、かなりできるようになりました。
結局、ネイティブと対等に英語を使えるようになるには、フルタイムで 3〜4 年必要なんですよ。「何事も 1 万時間」と言いますが、計算すると 3〜4 年。言語は才能ではなく時間です。話せないのは、単純にやっていないからなんです。私はゼロの状態からネイティブレベルになれたので、「やればできる」と自信を持って言えます。ここには強い想いがありますね。
坂井:海外展開で語学を気にされているスタートアップは多いので、我々も勇気をいただきました。

「人と AI の総合力で開発を次のレベルへ。」に込めた思い
坂井:御社のビジョンについてお伺いします。「AI が人の仕事を奪うのではないか」という声もある中で、この考え方に込めた思いを教えてください。
近澤:これは 2019 年から言い続けていて、今も変わっていません。僕らの考え方では、AI はあくまでツールです。手作業の繰り返しのような「自分がやらなくてもいい」仕事をテクノロジーで代替することで、人が本来やるべき仕事に集中できる。それは創造性を高めることにつながります。どうするべきか、どうしたいかを表現する ── そういうクリエイティブな部分に人が注力する世界を作りたいというのが我々のミッションです。
ソフトウェア開発がここまで変わるとは正直思いませんでしたが、今は「コードを書く」ではなく「何を作るか」に集中できる世界になった。僕自身、経営でコードを書く時間はなかったのに、今の AI の世界では作れるようになりました。そうなると人がやるべきことは「何を作るべきか」「どういう問題を解くべきか」です。まさに我々が創業時からやりたかったことなんです。
桑原:もともとの原体験も、まさにそこでしたよね。
近澤:そうなんです。作ることに集中したい。ずっと思い描いていた世界が、今本当に実現しやすくなったんですよね。
多様性が正しい意思決定を生む
坂井:3 ヶ国で働かれた経験は、現在の経営に影響していますか?
近澤:多様性は非常に重要だと考えています。会社のバリューの 1 つ「Feedback Oriented」は多様性重視の表現です。同質的な組織では、みんなが同じ考え方をして「ここがおかしいのではないか」と指摘する視点が欠けてしまう。当社のエンジニア組織は今、ほとんどが外国籍のメンバーで、英語を公用語として、いろいろな視点からフィードバックを得ることが正しい意思決定につながると考えています。
シンガポールには多様な宗教、多様な人がいました。報道だけでは偏ったイメージを持ってしまうこともありますが、実際に一緒に働くと印象は全く変わります。バックボーンの違いを理解していると、生まれる発想も変わる。それを理解していないと、グローバルで何かを届けることはできないと思っています。
桑原:日本にいながらグローバルで働く経験ができるのは、御社の特徴ですね。
近澤:そうですね。今日も、ブラジル、タイ、モンゴル出身のメンバーが出社していましたね。
海外展開の壁 ── 世界最大にして最も特殊な北米市場
坂井:日本発でグローバル展開する上での最大の障壁はどこにありましたか?
近澤:日本とマーケットが違うことが一番難しい。やってみてわかったのは、北米は「世界最大にして最も特殊」だということです。テクノロジーの浸透が異常に速い。アメリカの雇用の多くは At-will employment(随意雇用)で、双方がいつでも雇用契約を終了できるため、新しいものを一気に入れ替えることができてしまうんです。一方、ヨーロッパは雇用規制が強く、一部日本的だと感じることがあります。韓国は日本に近い一方、日本以上にラージエンタープライズ中心の市場です。マーケットごとに全く色が違うので、同じソリューションが等しく刺さるわけではないし、GTM(Go To Market)のやり方も違う。そこが難しいところですね。
桑原:その GTM のやり方は、誰かに教わったのですか?
近澤:やりながらですね。何しろ、やっている人がいなかったので。誰も答えを持っていない。やりながら学んでいくしかありませんでした。
AWS とのパートナーシップ ── AI 駆動開発の先にあるテストの課題
坂井:弊社とは AWS パートナーネットワーク(APN)のパートナーシップを結んでいただいています。率直な感想はいかがですか?
近澤:AWS さんの強さを再認識しました。テクノロジー企業として目指したい会社だと強く感じましたし、顧客ネットワークがエンタープライズからスタートアップまで隅々まで行き届いている。我々がご一緒できる機会をいただくこともあり、非常に感謝しています。
坂井:今後 AWS と一緒に実現したいことはありますか?
近澤:先日 AWS Summit Japan に参加して、AI 駆動開発が大きなトピックになっていると感じました。驚いたのは、それがエンタープライズに浸透し始めていることです。日本のマーケットが大きく変わるタイミングが来ている。そこに対して我々は、テストという領域でユニークなポジションを作り始めています。コーディングエージェントでコーディングはできる。ユニットテストのようなコードベースのテストもできる。ただ、結合テストや受け入れテストは「どうやるのか」と、特に日本のエンタープライズの皆さんが本当に多くおっしゃるんです。そこに我々は一定の解を持っている。この部分で AWS との連携をもっと深められると面白いと思っています。
数字よりも誇りに思う成果
坂井:これまでの成長を振り返って、誇りに思う成果はありますか?
近澤:誰もが知っているような企業、特に最近は銀行を含む金融機関のような、国のインフラとなる領域に浸透し始めていることは大きな成果だと感じます。それと同時に、「Autify を入れて、品質保証の本質的な業務に時間を割けるようになりました」というお客様の声を聞いた時に「やっていてよかった」と心から思うんです。創業から 2 年半ほどはピボットの連続で、作ってもお客様がつかないことを繰り返していましたから。手動のテストに何十人も必要だったところが数人でよくなった、というお声は複数のお客様からいただいています。そうした方々が本来の業務に集中できるようになったことは、導入実績や金額よりも大きな成果だと思っています。
社員へ、そして起業家へ ──「デジタル幕末」を生きる覚悟
坂井:社員の皆様へ伝えたいメッセージはありますか?
近澤:感謝、ですね。スタートアップには浮き沈みがあります。それでも、Autify がテストにおいて本当に価値のあるものを作っていると信じてついてきてくれる。もっと安定した会社も、給料をもらえる会社もたくさんあるはずなのに、このチャレンジにモチベーションを感じ、Autify の未来を信じて一緒に作り上げていこうという気概を持ってやってくれている。そこに素直に感謝を伝えたいと思います。
坂井:これから起業される方や、海外展開を考える経営者の皆様へのメッセージもお願いします。
近澤:正直に言うと、起業はしないほうがいいと思っていて。
坂井:えっ、そうなんですか?
近澤:起業家に聞いたら、みんなそう言うと思いますよ(笑)。大変すぎるので。ただ、僕も何度も「やめたほうがいい」と言われて、それでも「うるさい」と言ってやるんですよ。やる人は、そうでないとできない。そういう気概があるかを自分に問うてみてほしい。それでも「やるぞ」という人には大きなチャンスがあります。世の中が激変しているタイミングですから。面白いことはたくさんあります。ただ大変なので、覚悟を持ってほしいですね。
海外に関しては、今の状況を見ていると、出ていかないとまずいと思うんです。円安が進み、テクノロジー分野の赤字も大きくなる中で、日本のスタートアップが外貨を稼いでこないと難しい。しかし日本にはグローバルに成功した事例がまだ少なく、後に続くフォロワーが生まれるエコシステムができていない。日本の投資家は日本で上場させることには長けていますが、NASDAQ 上場やアメリカ企業への売却という Exit のパスを知っている人がいないんです。ヨーロッパの VC にはアメリカへつながる明確なパスがある。日本にはそれがない。国内でそれなりに上場できてしまうけれど、それで世界を大きく変えることはできない。僕はずっと危機感を持っています。
どこで日本が勝負するのかを、今一度みんなで考えなければいけない。ちょっと、幕末に近いなと思っていて。あまり先が見えていない幕末のような状況で、知らないうちにデジタル植民地化されていく。日本のスタートアップは、自国のデジタル産業を海外に広めて列強に追いついていかなければいけないのではないか。「このままでいいのか」というのは強く感じますね。
坂井:「デジタル幕末」、タイトルが見えました(笑)。では、近澤さんが龍馬になるのでしょうか。
近澤:いやいや、僕は龍馬なんかにはなれないですよ(笑)。
CEO の素顔 ── 本当はミュージシャンになりたかった
坂井:ここからは少し雰囲気を変えて、ご趣味について聞かせてください。
近澤:本当は、ミュージシャンになりたかったんですよね。ギターです。と言ってもヘヴィメタルなんですけど。
坂井:バンドじゃないですか。実は僕もベースをやっていました。当時だと Green Day や Foo Fighters が好きでしたね。
近澤:僕も Green Day から入ったんです。そこからコアのほうへだんだん行って、スラッシュメタル、デスメタルへどんどん深くなって。みんなは自然にポップスへ流れていくのに、僕だけ深いほうに入って抜け出せなくなりました(笑)。大学の頃はバンドで食べていく気満々だったんですよ。シンガポールにいた頃は現地のメンバーとバンドを組んでいて、彼らは今も Spotify で音楽を配信して、日本にツアーで来たりもします。
よく言うんですが、僕にとっては Autify を経営しているのとバンドでギターを弾いているのは、何も変わらないんです。ずっと作り続けたい。エンジニアリングもそうです。自己表現の 1 つだと思っていて。
桑原:だから「テストに時間を割きたくない」という最初のお話につながるんですね。「しんどい」は時間の問題だけでなく、「作ることに集中したい」からだと。冒頭の原体験の意味が、より立体的に見えました。
近澤:そうなんです。作りたいものを、すぐ作りたいんですよ。
マスコット「Hatty」── GitHub の Octocat を生んだデザイナーとの縁
坂井:最後に、こちらのマスコットキャラクターについて。とてもかわいいですね。
近澤:Hatty(ハッティ)です。実はこれ、GitHub のマスコット「Octocat」を描いた Simon Oxley(サイモン・オクスリー)さんに描いてもらったんです。Dribbble というデザイナーのポートフォリオプラットフォームで見つけて、普通に DM を送りました。そこにいるんだから連絡するでしょう、と。
坂井:行動力がすごい。ポーズがたくさんありますよね。
近澤:全 32 種類あります。それがすごいところで、最初「1 ポーズいくら」という話だったのに、4 ポーズほど頼んだら 32 ポーズ返ってきて(笑)。創作意欲が湧くとどんどん描いてしまう、本物のクリエイターだなと思いました。やり取りはすべてメールで、少し放置すると「ネタが消えてしまうから早く返信してくれ」と言われるほどでした(笑)。

Hatty のノベルティを手に語る近澤氏
坂井:モチーフが蜂なのには理由があるのですか?
近澤:ロゴがハニカム(蜂の巣)なんです。ハニカム構造は自然界で最も強い構造と言われていて、我々はテストによって皆さんのソフトウェアをそのように強くする、という意味を込めています。そこから「ハニカムから出てきた蜂」として Hatty が生まれました。蜂は人の代わりに働いてくれる働き蜂であり、花粉を媒介する自然界の重要なインフラでもある。我々もそういう存在になりたい、というところから来ています。
坂井:深いお話ですね。本日はお忙しい中、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。

今回訪問させていただいたメンバーとの記念写真