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Impact of Deeptech/Climate tech: Amazon と Global VC が語る日本の Deeptech への期待【IVS2024 KYOTO】
日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2024 KYOTO」が、2024 年 7 月 4 日(木)、5 日(金)、6 日(土)にかけて開催されました。本イベントでは世界各国のスタートアップ経営者や VP パートナーたちがセッションに登壇。“Cross the Boundaries”を旗印に、日本の創造性が世界の新しい視点と出会う場を創出しました。また、会場内にはスタートアップ各社の事業やプロダクトについて学べるブースも出展されていました。
今回は、7 月 6 日(土)に開催された「Impact of Deeptech/Climate tech: Amazon と Global VC が語る日本の Deeptech への期待」のレポートをお届けします。本セッションではグローバルに活躍するキャピタリストに加えて Amazon が運用する Climate Pledge Fund のパートナーを招請しております。日本をはじめとした東アジアの Deeptech*1/Climate tech*2 に何を期待するのか、グローバルで戦える Deeptech/Climate tech スタートアップを日本からどのように育てていくかなどを議論しました。
【登壇者】
福井 健吾, AWS(モデレーター)
Phoebe Wang, Investment Partner, Head of Female Founder Initiative, Amazon Climate Pledge Fund
Ti- Ti Chang, Vice President at CDIB Capital Group
Dong-Su, PhD CEO of LG Technologies Venture
沼田 朋子, Chief Capitalist, JAFCO
*1 … Deeptech とは、科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組みのこと。
*2 … Climate Tech とは、CO2 排出量の削減や地球温暖化の影響への対応など、気候変動対策に焦点を当てた技術やビジネスのこと。
各国での Deeptech と Climate tech の状況
セッションではまず、それぞれの国における Deeptech/Climate tech への期待や投資状況について語られました。アメリカでは積極的に Climate tech への投資が行われており、2025 年の市場規模は低めに予想しても 207 億ドルほど、最大では 301 億ドルほどになると言われています。
2019 年に Amazon は、パリ協定の達成目標を 10 年前倒しして 2040 年までに炭素排出量を実質ゼロにすることを公約とする「気候変動対策に関する誓約(The Climate Pledge)」に調印しました。そうした背景もあり、Phoebe Wang の所属する The Climate Pledge Fund でも、世界各国の Deeptech/Climate tech への積極的な投資を行っています。
Dong-Su 氏は「Climate tech は近年明らかに転換期にあり、世界各国でこの技術が本格的に普及し始めるフェーズにある」と言及。その理由として、アメリカ政府のみならず世界中の政府が地球環境保全のための活動に尽力していること、クリーンエネルギーのコストが化石燃料と競争できる水準まで下がったことなどを述べました。そうした前提について触れた後、具体的にどのような VC が投資の主導権を握っているかなどを解説しました。
台湾を中心として活動する Ti- Ti Chang 氏は「台湾では高度なテクノロジーを研究・開発するよりも、既存の技術をうまく活用してサービス化するとか、よりコスト効率を良くすることが得意という傾向があるように思う」と説明。その事例として、Ti- Ti Chang 氏の所属する CDIB Capital Group が投資した UnaBiz 社の事例を挙げました。
沼田氏は「日本においては政府による Deeptech/Climate tech への投資が活発化している」と語ったうえで、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が推進している「ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業」ついて紹介。そして 沼田 氏が Climate tech へ高い関心を寄せていることと、自身が携わった Direct Air Capture スタートアップである Planet Savers 社への投資事例について述べました。
グローバル展開を行うために重要なこと
続いてのテーマはグローバル展開です。Deeptech/Climate tech 企業の多くは国内のみならず海外の市場もターゲットとしています。それを踏まえ「グローバル展開を行う際に考慮すべき点や過去に目にしてきた事例」について議論が行われました。
Phoebe Wang は「その国特有の文化や商慣習、法律や規制を理解することが非常に重要である」と、自らの経験をもとに説明。Ti- Ti Chang 氏はそれに同意したうえで、「仕事に対する向き合い方やワークライフバランスの考え方なども、国によって傾向が分かれる」ことについても付け加えます。
Dong-Su 氏はグローバル展開への考え方について、日本企業の傾向が過去と現在とで変わってきていると述べました。日本の企業や研究機関は非常に高度なテクノロジーを持っているものの、そのほとんどは国内の市場のみに向けられてきました。しかし近年では、早期のフェーズから海外の市場に目を向けている企業・研究機関が増えており、良い兆候が見えています。
福井 は 沼田氏に対して「あなたは VC として、Deeptech/Climate tech 企業にできるだけ早く世界に進出するようアドバイスしますか」と質問。それに対して、沼田 氏は「扱っているサービスや技術にもよりますが、グローバルに早期進出するほうが事業成長が早いならばグローバルに行くほうが良いですし、日本国内で成長するほうが早いならそちらを選ぶよう勧めます。どちらも選択肢として考えておき、最適な戦略を選べるようにしておいてほしい」と語りました。
日本の Deeptech/Climate tech への期待
セッション終盤に語られたテーマは、日本の Deeptech/Climate tech がなぜ世界各国から注目を集めているのか。そして、Amazon・AWS がなぜ Deeptech/Climate tech を支援するのかです。
Ti- Ti Chang 氏は「少なくとも台湾においては、日本のテクノロジーとブランドが非常に高い評価を得ています。ある程度の資金があることでそのテクノロジーの商品化や事業展開を早められるのならば、VC としては日本のスタートアップへの投資を魅力的に感じるでしょう」と解説します。
そのうえで、スタートアップ経営者に対して「目の前にある小さな資金や事業で満足せず、より大きな視点でものごとを考えてください」とアドバイスしました。
資金調達により投資家が株式を保有することで、企業経営者たちの保有する株式の割合は下がるかもしれません。しかし、その後の事業成長が加速すれば、結果的には経営者が得られる資産は大きくなります。また、プロダクトを市場に投入するまでの期間が短縮すれば、それはそのまま事業競争力にも直結するのです。
Dong-Su 氏は「Deeptech/Climate tech の領域においては AWS のようなクラウドプロバイダーが重要な役割を果たす」と説明。そうしたテクノロジーを用いて研究・開発を行うには機械学習アルゴリズムなどを活用して物理現象をシミュレーション・予測・最適化する必要があり、システムのインフラ基板が必要不可欠であるためです。
Phoebe Wang は「インターネットというテクノロジーが当たり前のものになって、ありとあらゆる事業の根幹を支えているように、今後クラウドや生成 AI などもそうなっていく」と続けました。
こうした話を受けて、モデレーターである福井はセッション終盤に「なぜ Amazon・AWS が Deeptech/Climate tech の支援に取り組んでいるのか」について総括。「特に研究・開発を加速させるという点において、私たちがサポートできる領域はたくさんあると考えている」と結びました。
おわりに
Amazon の創設者 兼 CEO であるジェフ・ベゾスは The Climate Pledge Fund の設立にあたり「先見性のある起業家や先駆者に投資して、企業が脱炭素化を図り持続可能な経営を行うために役立つサービスを開発することを支援します」と述べています。その言葉の通り、Amazon・AWS では今後も Deeptech/Climate tech スタートアップの方々を積極的に支援してまいります。