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【開催報告】スタートアップのためのSBIR 活用セミナー

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)は 2023 年 3 月 8 日に、「スタートアップのための【SBIR 活用セミナー】」を AWS Startup Loft Tokyo にて開催しました。政府のスタートアップ育成 5 か年計画では、「SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本見直しと公共調達の促進」が掲げられています。

SBIR とは、関係省庁が連携して中小企業などを対象に新技術の開発やイノベーション創出に向けた補助金の支出機会を増やすとともに、その事業化を一貫して支援する制度です。特定補助金等の交付を受けた中小企業者などは、日本政策金融公庫の特別貸付制度や特許料の軽減など、事業化のための支援措置を受けられます。

本イベントでは、スタートアップ育成政策に携わられている経済産業省 石井 芳明 氏にスタートアップ育成 5 か年計画について解説していただいたほか、内閣府や SBIR 制度を利用するスタートアップ企業からゲストをお招きし、SBIR 制度の概要や活用方法についてお話ししていただきました。ここではそのレポートをお届けします。

Opening 〜なぜ AWS はスタートアップを支援するのか〜

イベント冒頭では AWS スタートアップ事業開発部 本部長の畑 浩史が、AWS がスタートアップを支援する理由について 3 つの観点で解説しました。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業開発部 本部長 畑 浩史

1 つ目は「Amazon カルチャー」です。AWS は Amazon の関連会社として、その文化を色濃く受け継いでいます。Amazon は社是として「Still Day1(まだ始まったばかり)」を掲げており、AWS の社員もスタートアップマインドを持って働いています。

2 つ目は「スタートアップとともに成長してきた」ためです。世界中のスタートアップがインフラ環境として AWS を採用しています。スタートアップ各社の成長とともに AWS も成長してきたため、そのエコシステムに貢献したいと考えています。3 つ目は前述のような理由から「スタートアップが重要なお客さまである」ためです。

畑は本イベントのテーマである SBIR について「研究開発型のスタートアップとクラウドは切っても切り離せない関係にあります。だからこそ、SBIR の活用を AWS としても支援したい」と言及します。最後は「日本のスタートアップを盛り上げて、世界で戦えるスタートアップを生み出すことに貢献していきたい」と結び、Opening のセッションを終えました。

政府のスタートアップ育成 5 か年計画について

次に登壇したのは、経済産業省 新規事業創造推進室長 石井 芳明 氏です。石井 氏は「日本のスタートアップが世界と戦っていくうえでの勝ち筋は、やはりテック系にある。日本の持つポテンシャルを活かすために重要なのは大学や研究機関などの最新技術を社会実装していくことであり、それを加速させるのが SBIR」と、SBIR の意義について述べました。

政府は 2022 年 10 月に、新しい資本主義実現会議にスタートアップ育成分科会を始動しました。スタートアップの起業家やベンチャーキャピタルの投資家、事業会社の役員などによって、スタートアップ育成強化のための具体的な内容を議論したのです。その結果として、2022 年 12 月にスタートアップ育成 5 か年計画を発表しました。

5 か年計画では、スタートアップへの投資額を 2027 年度に 10 兆円規模とし、さらに将来的にはスタートアップを 10 万社、ユニコーンを 100 社創出するという野心的な目標を掲げています。計画の柱は「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」「オープンイノベーションの推進」の 3 つです。

経済産業省 新規事業創造推進室長 石井 芳明 氏

5 か年計画を受けて、2022 年 12 月に 2022 年度第 2 次補正予算を成立させました。これにより、内閣府や経済産業省、文部科学省などによるスタートアップ育成関連の予算の合計が約 1 兆円に達したのです。

この予算パッケージのなかで注目すべき点として挙げられるのは、ベンチャーキャピタルへの資金供給を強化すること。そして、2,000 億円規模で SBIR を増強することです。つまり、5 か年計画のなかでも SBIR は特に重要な施策であると位置付けられています。

もともと SBIR は、経済産業省の中小企業庁が管轄する制度でした。中小企業向けの技術補助金を強化するための施策だったのです。その後、2021 年の法改正により中小企業の経営強化の政策からイノベーション創出のための政策へと移行しました。

中小企業庁から内閣府へと管轄が移り、経済産業省を含む各省庁が手を組んでイノベーション促進のためにスタートアップへと資金を提供することが決まったのです。セッション全体を通して、SBIR やスタートアップ育成 5 か年計画の概要、国としての SBIR への注力度などが伝わる内容となりました。

SBIR の概要や活用方法について

次は内閣府 SBIR 省庁連携プログラムマネージャーの柳原 暁 氏が登壇。柳原 氏は過去のキャリアで、日本のスタートアップエコシステムの創造に寄与する株式会社EDGEof の立ち上げに携わり、行政機関のオープンイノベーション支援や複数の事業会社・自治体の事業創出の支援に従事。2020 年には科学技術の社会実装を目指して Willsame株式会社を設立しました。

そして、2021 年 9 月には内閣府が実施した SBIR の運用におけるプログラムマネージャー人材の公募により、同職に就任したのです。科学技術や事業開発などの知見を持つ民間の即戦力人材として、柳原 氏を含む 4 名がプログラムマネージャーに起用されました。

現在、内閣府では SBIR の運用のために各省の統一的なルールの制定を進めています。政策課題や社会課題を軸としてトピック(研究開発課題)の制定を行っており、その策定プロセスにプログラムマネージャーが関わっているのです。

内閣府 SBIR 省庁連携プログラムマネージャー 柳原 暁 氏

先ほどの石井 氏の話でもあったとおり、SBIR は 2021 年にリニューアルをしました。アメリカの同様の制度では目覚ましい成果が上がっていたのに対し、日本の SBIR は成果が思わしくありませんでした。その状況を改善するため、イノベーション推進を軸に据えて制度の再設計を行いました。

SBIR を運用する省庁や執行機関はプログラムマネージャーと連携して、解決したい政策課題や調達ニーズをトピックとして取りまとめ、それらの課題の解決やニーズの充足に結びつく提案をスタートアップから募集するという制度になりました。トピックは政策課題の解決に向けた研究開発課題を提示する「政策ニーズ型トピック」と、国などの調達ニーズに基づく「調達ニーズ型トピック」の 2 つに大別されます。

政策ニーズ型トピックは、各省庁が所管する様々な社会課題の解決に向けて、研究開発成果の実用化によって解決可能なものを、SBIR の研究開発課題として取りまとめたものです。調達ニーズ型トピックは、国などが行政サービスを行ううえで必要な技術・製品・サービスのうち、先端的な科学技術が関係する分野の調達ニーズを、SBIR の研究開発課題として取りまとめたものを指します。

SBIR についてより深く知りたい場合は、政府が Web 上に公開している情報を積極的に閲覧していただければと思います(SBIR制度特設ウェブサイト)。そして、そのうえで不明点があれば各省のプログラムマネージャーに問い合わせ・相談するといった方法も検討してほしいことなどを柳原 氏は解説しました。

「研究開発型のスタートアップの革新的なアイデアに資金的支援を行うSBIR制度は、非常に価値が高いものだと私は信じています。様々な分野のスタートアップのビジネスを育てつつ、この制度もイノベーションの創出に向けたプラットフォームとして一緒に育てていきたい」と締めくくりました。

SBIR 制度における補助金等の活用経験があるスタートアップによるクロストーク

イベント後半では、SBIR における補助金などの活用経験があるスタートアップによるクロストークを実施。登壇者は以下のとおりです。

<スピーカー>

株式会社Liberaware 取締役 富田 竜太郎 氏

メトロウェザー株式会社 代表取締役 古本 淳一 氏

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター シニア事業開発マネージャー 水島 洋

<モデレーター>

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup) 岩瀬 霞

写真左から、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup) 岩瀬 霞、メトロウェザー株式会社 代表取締役 古本 淳一 氏、株式会社Liberaware 取締役 富田 竜太郎 氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター シニア事業開発マネージャー 水島 洋

セッション序盤では「SBIR の申請に必要となる作業やその負担」というテーマで議論。メトロウェザー社は日本ではなくアメリカの SBIR を最初に利用したのですが、「作った資料は PowerPoint 3 枚分だけ」といいます。アメリカの SBIR では事業のアイデアや優位性を重視しており、それを証明できれば大量の資料を提出する必要はないためです。

日本の SBIR は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が大部分の予算を持っていますが、この機構に申請を行う場合には用意する資料の量が多くなります。古本 氏はこの比較について述べ「日本の場合も、優秀なスタートアップがなるべく申請に時間を割かなくていいように、シンプルな申請フローにしていくべき」と言及します。

富田 氏はそれを受けて「申請のために必要な書類は確かに多いですが、何を書けばいいのか申請書に注釈が記載されているため、作成そのものは決して難しくない」とも述べました。そのうえで「申請書の作成にあたっては自社の事業や技術のフェーズを理解し、『どういったものを作りたいから、どれくらいのお金が必要』というロジックを組み立てることが重要」とも説明。水島も富田 氏の意見に賛同したうえで「公募書類をよく読み、各省庁が求めているものを理解して、それに合った申請書を書くことが大切」と語りました。

クラウドの費用計上について

セッション中盤では「SBIR でクラウドの費用をどのように計上するか」についても討論。日本における各種補助金や助成金制度においては、必要な費用をあらかじめ申請書に記入することが求められる場合が多いです。しかし、クラウドは基本的に従量課金制であるため、どのように事前に詳細な費用を見積もるのか、事業成長に伴い予想よりも費用が増大する場合はどうするのか、という利用者側の心配もあります。

そうした点を考慮したうえで、クラウドの費用をうまく計上するためのノウハウなどを各者が議論。

富田 氏は「クラウドのような従量課金型のサービスについては、対象期間中の概ねの利用料を見積もり、そこからの上振れや下振れを検討した上で、これを下回ることは無いという下限の金額を申請することにしました。AWSであれば AWS Pricing Calculator を使ってこのような見積作業を自身で行うことができます。申請金額を超過した分の利用料は補助金以外で支払うことになりますが、逆に超過しなかった場合にその補助金の返納や別用途への流用を担当官の方と時間をかけて議論するくらいなら、このように割り切ることが合理的と考えました。

さらに言うと事業の基礎を築くために必要な経費はこのような補助金で賄い、一方、当初想定よりも利用料が上振れする状況は事業が軌道に乗ってきた場合が多く、事業で回収できるキャッシュでファイナンス可能となります。以上のようにまずは下限の金額で申請し、クラウドを利用することは理にかなっていると思っています。その上で担当官の方が検査に来た時にお示しする利用証跡としては、AWSの場合はマネジメントコンソールから利用量や請求情報を入手して使いましたが、これで問題なく対応できました」と述べています。

また、水島は研究者時代の経験をもとに「厚労労働科学研究費補助金でクラウドを利用したことがあります。事務方の努力により、クラウドを利用した際に提出する証跡として何が必要であるかが経理事務マニュアルにおいて明確にされていたので、そのとおりに利用すれば何も問題がありませんでした。

ただ、補助金の種類や所属する組織によってはまだ制限があろうと思います。その場合でも、クラウドサービスの利用料そのものをどうにか申請する代わりに、クラウドサービスを利用して実施する業務を何らか定義して委託することとし、そのような委託費を計上することは一般的によくあるプラクティスだと思いますし、私自身も実践したことがあります。

予算を超えないようにするための利用料管理には注意が必要ですが、これによって実質的にクラウドサービスのメリットを生かす形で研究活動や事業活動を展開することが可能となります。AWS Pricing Calculator などを自身ではまだ使いこなせないという場合でも、慣れたシステム事業者でしたらあっという間に見積もり計算を行い、委託業務に係る他の経費と合わせて見積書を作成してくれますので、私自身も非常に助かったことがあります」と語りました。

そのうえで「現代の研究開発においてクラウドの利用はほぼ必須であるため、その費用をより申請しやすい制度設計になるといい」という共通見解を登壇者たちが述べました。

セッション終盤では「これから SBIR を活用したい方へのアドバイス」を各スピーカーが発言。古本 氏は「アメリカの SBIR は“Award(表彰)”という扱いであり、取得することで事業へのプラスの影響が大きい。日本も同様に、政府として『これぞ』という企業や人を引き上げるような制度にしていかなければ」と力強く述べます。

富田 氏は「まずは SBIR の各種公募を眺めて、いけそうだと思ったらとにかく申請してほしい。スタートアップはチャレンジしなければ始まらないので、ぜひ前向きに検討してください」と、スタートアップ企業の背中を押します。

そして水島は「申請書を作成する過程で、自社の事業を客観的に見つめ直すことができ、勉強になると思います。それから、各省庁はぜひマスコミと連携をして、SBIR の成果を積極的に世の中に伝えてほしいです」と結びました。

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本イベントでは SBIR の運営者や利用者だからこそ語れるような、有益なノウハウや詳細な情報にあふれていました。AWS パブリックセクターは今後も、研究開発スタートアップがイノベーションを加速させるための、さまざまなテクニカル・ビジネスセッション、コミュニティ活動を実施予定です。ご関心を持っていただいた方は、ぜひお気軽にこちらにお問い合わせください。社会課題解決イノベーションに取り組まれる、スタートアップ、研究者の皆様のご参加をお待ちしております!