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テック企業各社の CTO、VPoE が名古屋に集結【Startup CTO Night & Day 2025 ダイジェスト】

Startup CTO Night & Day は、スタートアップや日本を代表するテック企業の技術経営者(CTO や VPoE など)のための招待制カンファレンスです。参加者同士によるディスカッションや、経験・事例の共有などを通じて、経験年数や企業規模を超えた幅広い知識と人脈の交流の場を提供します。技術経営者のコミュニティが醸成・活性化され、業界全体が発展することを目的としています。

2014 年より運営が続けられており、貴重な繋がりと学びの場を、延べ 2000 名以上のみなさまと創り上げてきました。そして 2025 年より、Startup CTO of the Year で培ったパートナーシップを基盤に、株式会社ユーザベース NewsPicks が Startup CTO Night & Day の運営にも参画。経営と技術の融合を強力に促進します。本記事では、2025 年 10 月 29 日・30 日に開催された Day1 と Day2 の模様を、ダイジェスト形式でお届けします。

開会式

株式会社ユーザベース 文字 拓郎 氏

まずは、Day1 の内容からお伝えします。株式会社ユーザベース NewsPicks CEO 文字 拓郎 氏の挨拶で開会式が始まりました。

NewsPicks 社が本イベントを AWS と共催する意義について言及。Startup CTO of the Year で育まれた熱意あるコミュニティと、Startup CTO Night & Day が持つ長年の歴史と知見を連動させ「より良いコミュニティイベントに発展させたい」と語りました。

そして、本イベントのテーマである「進化を加速させる、 『同志』との出会い」に触れ、真に信頼できる「同志」を見つけてほしいと、参加者へ熱いメッセージを送りました。

愛知県総務局 デジタル戦略監(CDO) 中谷 純之 氏

続いて、愛知県総務局でデジタル戦略監(CDO)を務める中谷 純之 氏が登壇。愛知県が 2018 年に策定した「Aichi-Startup 戦略」を紹介し、その中核拠点である STATION Ai が日本最大級のオープンイノベーション拠点として、多くのスタートアップと事業会社が集うエコシステムを形成していることをお話しいただきました。

そして、経済学者シュンペーターの「イノベーションとは新結合である」という言葉を引用し、「このイベントが、製造業のメッカである愛知で新たなイノベーションを生み出す『新結合』のきっかけとなることを期待しています」と述べ、参加者にエールを送りました。

Keynote Session

スマートニュース株式会社 Cory Ondrejka 氏

Keynote Session には、スマートニュース株式会社 CTO の Cory Ondrejka 氏が登壇しました。Second Life 社の共同創業者としてメタバースの黎明期を築き、その後 Facebook(現 ・Meta)社でモバイルシフトを牽引するなど、グローバルなテック企業の最前線で活躍してきた同氏から、CTO としての哲学が語られました。

Cory 氏は、CTO のあるべき立ち位置について、天体物理学の Goldilocks Zone という概念を引用して説明しました。 惑星が恒星に近すぎれば水は蒸発してしまい、遠すぎれば凍りついてしまうように、CTO も技術に近づきすぎると、チームの成長機会を奪い、マイクロマネジメントに陥ってしまいます。 その一方で、技術から離れすぎると技術的な方向性を見誤る危険があると指摘。「技術との絶妙な距離、すなわち Goldilocks Zone に身を置くこと」の重要性を説きました。

さらに同氏は、テクノロジーに依存する企業は、どの段階においても「組織の健全性(Org health)」と「技術的ビジョン(Tech vision)」という、2 つの極めて重要な課題を解決しなくてはならないと述べました。

「組織の健全性」とは、開発者が最高の仕事ができる環境が整っているか、優れた仕事への障害は最小限か、スピードと実験はリスクや技術的負債とバランスが取れているか、といった問いに答えられる状態を指します。また、開発者のキャリアパスや、会社の理念と一致した評価・報酬制度が機能しているかも重要であると指摘しました。

一方で「技術的ビジョン」とは、会社がテクノロジーの未来を見据え、高度な技術的判断が正しく機能しているか、そして技術組織が現在と未来の課題を解決できる人員で構成されているか、という点です。CTO には、技術組織が会社のミッションやゴールに沿って成果を出せているかを問う視点も求められます。

最後に Cory 氏は、自身が知る成功した CTO たちは「その役割へのアプローチ方法が一人ひとり全く異なっていた」と語りました。毎日コードを書く者、CEO 直下の研究開発部門のように振る舞う者、社外との交渉に注力する者など、その姿は様々だったと言います。

「CTO とはこうあるべき」という固定化した概念はありません。最も重要なのは「自社が何を必要としているか、CEO のスタイルに合っているか、そして自身のスキルに適合しているか。その 3 つの要素を踏まえ、自身が担うべき中核的な仕事を見極めることだ」と述べ、講演を締めくくりました。

Fireside Chat

Amazon Web Services Tiffany Bloomquist(写真左)、スマートニュース株式会社 Cory Ondrejka 氏(写真中央)、Raycast Thomas Paul Mann 氏(写真右)

Keynote Session の後、イベントは Fireside Chat へと移行しました。このセッションでは、先ほど登壇したスマートニュース社の Cory Ondrejka 氏に加え、Raycast 社の共同創業者 兼 CEO である Thomas Paul Mann 氏が特別ゲストとして参加。モデレーターは Amazon Web Services の Tiffany Bloomquist です。

最初のテーマは、両氏のこれまでのキャリアについて。Thomas 氏は、Facebook(現・Meta)社で AR 技術の開発に携わった後、スタートアップアクセラレーターの Y Combinator 社を経て Raycast 社を創業した経緯を語りました。「キャリアにおける重要な転機の多くは、幸運にもたらされた」と述べ、人の出会いや偶然の機会を逃さないことの重要性を強調しました。

一方、Cory 氏は、自身の多様なキャリアパスを振り返り、「一つの専門分野に固執せず、未経験の機会にも Yes と答えることが重要だ」と語りました。音楽業界やゲーム業界での経験が、結果として現在の視座を形成していると説明。両氏に共通していたのは、予期せぬ変化や挑戦を受け入れる柔軟性が、リーダーとしての成長に不可欠だという考えでした。

話題がプロダクト戦略に移ると、Thomas 氏は、AI の進化がプロダクト開発のサイクルを劇的に加速させていると指摘。「数か月先のことすら予測困難な今、重要なのはスピード。我々のチームでは毎週 2 回のリリースを徹底している」と述べ、迅速なイテレーションの重要性を説きました。

Cory 氏はこれに同意しつつ、「顧客が抱える課題から逆算して考える『Working Backwards』のアプローチが、これまで以上に重要になる」と言及。AI によって誰もが簡単にツールを作れるようになった今、単に技術的に優れたものを作るのではなく、顧客が本当に価値を感じるものを見極めることが成功の鍵だと強調しました。

セッションの終盤では、AI の導入が組織戦略に与える影響について議論が交わされました。技術リーダーたちが語る未来像は、深い洞察に満ちており、会場の方々に大きな刺激とインスピレーションを与えました。

CTO アンカンファレンス

ここから後のセッションは、内容が「オフレコ」のためダイジェストのみをお送りします。Day 1 の終盤を飾るのは、参加者全員が主役となる CTO アンカンファレンスです。本セッションは、講演者の話を聞く一方的な形式とは異なり、参加者自身が日頃抱えている課題や議論したいテーマについてグループで話し合う、インタラクティブなプログラムです。

技術経営者たちが直面するリアルな課題が、テーブルテーマとして挙げられました。各参加者は、自身の関心や課題に最も近いテーマが設定されたテーブルへと移動し、熱を帯びたディスカッションをしました。

Keynote Session や Fireside Chat に登壇したスピーカーと直接対話できる「Ask the Speaker – SmartNews」「Ask the Speaker – Raycast」のテーブルも設けられ、セッションの内容をさらに深く掘り下げたい参加者で賑わっていました。

Morning Session

また、同日の午前中には本編が始まる前に、AWS 社員が特定のテーマのノウハウを共有する Morning Session も開催されていました。CTO・VPoE たちはそれぞれの関心領域に応じて、各テーブルへと足を運びました。セッションは 2 部構成で行われ、最新の AI 技術から組織論、実践的な AWS 活用術まで、幅広いテーマが網羅されました。

Networking Party

濃密なセッションを終えた後、参加者たちは名古屋の歴史ある結婚式場・レストラン「THE CONDER HOUSE」へと場所を移し、Networking Party が催されました。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 間宮 朋康(写真左端)

乾杯の音頭を取ったのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの間宮 朋康。名古屋出身であることに触れ、「我が故郷名古屋が、参加者のみなさまの学びと交流、そして思い出の場となれば嬉しい」と語り、高らかに杯を掲げました。参加者たちは、美味しい食事とお酒を楽しみながら、セッションの興奮冷めやらぬ中で活発な交流を深めていきました。

Morning Activity

ここからは Day2 のレポートです。午前中に開催された Morning Activity は、参加者同士の交流や学びの機会を提供するアクティビティやワークショップです。各参加者は複数の会場のうち、興味のあるものに取り組みました。

Day2 のメイン会場である STATION Ai では、地元企業や愛知県などの自治体関係者、そして STATION Ai コミュニティ内の企業が一堂に会するイベントが開催されました。このイベントでは、ピッチプレゼンテーション、グループディスカッション、施設見学が行われました。

しくじり! CTO Dojo

午後からのメインセッションは、しくじり! CTO Dojo からスタート。本セッションでは、複数の CTO・VPoE が登壇し、過去に経験したしくじりの内容と、それらからどのような学びを得て、その後の改善や成功に繋げたのかを発表しました。リアルな失敗談には、困難な局面を乗り越えるための実践的な知恵が凝縮されていました。

CTO 公開メンタリング

「自分の悩みはみんなの悩み。先輩 CTO に相談してみよう!」というコンセプトのもと、悩める CTO の質問に対して経験豊富な CTO が答え、参加者全員で知見を共有する対話型のセッションです。今年は各トラックに軸となるテーマを設置し、それらの領域の第一線でご活躍されている CTO 2 名ずつにメンターを務めていただきました。

トラック①

【メンティー】
一般社団法人 日本CTO協会 幹事 / 株式会社ログラス 執行役員 CTO 伊藤 博志氏(写真左)

【メンター】
一般社団法人 日本CTO協会 理事 / キャディ株式会社 部門執行役員 VP of Engineering 藤倉 成太氏(写真中央)
一般社団法人 日本CTO協会 理事 / 株式会社LIFULL 執行役員 CTO 長沢 翼氏(写真右)

トラック②

【メンティー】
atama plus株式会社 VPoE 前田 和樹 氏(写真右)

【メンター】
株式会社estie 取締役CTO 岩成 達哉 氏(写真中央)
ファインディ株式会社 取締役CTO 佐藤 将高 氏(写真左)

トラック③

【メンティー】
Newbee株式会社 代表取締役 蜂須賀 大貴 氏(写真右)

【メンター】
グリー株式会社 代表取締役社長 / グリーホールディングス株式会社 取締役上級執行役員CTO 藤本 真樹 氏(写真中央)
株式会社ユーザベース 上席執行役員 NewsPicks CEO 文字 拓郎 氏(写真左)

CTOクロニクル 〜山あり谷あり?CTO人生色々ありました〜

歴代の Startup CTO of the Year 出場者が自身の「人生グラフ」を示しながら、キャリアの変遷を赤裸々に語るセッションです。スタートアップから大企業まで、異なるスケールステージを経験した CTO たちの実践知が語られました。

【語り手】
株式会社カオナビ CTO 松下 雅和 氏(写真左)
株式会社RevComm 執行役員CTO 平村 健勝 氏(写真中央)
株式会社スマートバンク CTO 堀井 雄太氏(写真右)

【聞き手】
株式会社令和トラベル 執行役員CPO 麻柄 翔太郎 氏(写真左)
株式会社 ALGO ARTIS 取締役 武藤 悠輔 氏(写真右)

Closing

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 塚田 朗弘

全セッションを終えた後、アマゾン ウェブ サービス ジャパン SA の塚田 朗弘が Closing を行いました。塚田氏は「この 2 日間で新しい繋がりの輪ができたことを実感しています」と述べ、参加者への深い感謝を示しました。

加えて、今後も参加者の声を取り入れながらイベントを改善していく姿勢を表明。「きっと、みなさんお疲れかと思いますが、この心地よい疲れが、明日からの活力になることを願っています」という言葉で、熱気に満ちたイベントを締めくくりました。

こうして、Startup CTO Night & Day 2025 は幕を閉じました。改めて、参加者の方々やイベント運営にご協力いただいた方々に、心より感謝を申し上げます。ぜひ、次回の Startup CTO Night & Day も、多くの方にご参加いただければ幸いです。