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スタートアップの資金調達戦略:デット・エクイティ・補助金/助成金の賢い活用法【開催レポート】
2024年は4月に日本政策金融公庫のスタートアップ向け融資制度が大幅に拡充され、今までシード・アーリー期のスタートアップとは馴染みの薄かったデットファイナンスという資金調達手法に注目が集まる年であったと思われます。
一方で、こうした手法は万能ではなく、スタートアップのビジネスモデルや資本政策などによって最適な資金調達手法が変わってきます。
2024 年 9 月 18 日に開催したイベント「スタートアップの資金調達戦略:デット・エクイティ・補助金/助成金の賢い活用法」では、日本政策金融公庫やエクイティファイナンス・補助金/助成金活用のエキスパートを招請。資金調達についてのノウハウを発表していただきました。ここではそのレポートをお届けします。
<スピーカー>
ジャフコ グループ株式会社 投資部 シニアアソシエイト 棚橋 昂大 氏
株式会社日本政策金融公庫 東京スタートアップサポートプラザ上席所長代理 佐藤 俊太 氏
株式会社Stayway ディレクター 芝田 貴広 氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 小林 歩
オープニング
イベント冒頭ではまず、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの小林が、スタートアップ支援プログラム AWS Activate をご紹介しました。これはスタートアップが AWS を事業に活用するうえで必要なリソースをオールインワンで無償提供するプログラムです。
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アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 小林 歩
AWS Activate は 2013 年 10 月から 10 年以上にわたって提供され、世界中で 28 万社を超えるスタートアップにご利用いただいております。国内外の幅広い VC やアクセラレーターからも採択されているのです。スタートアップの成長ステージに合わせ、最大で 100,000 USD 分の AWS Activate クレジットをご提供します。申請条件は以下の 7 つとなります(2024年12月時点)。
- スタートアップであること(法人登記済みであり、上場企業や子会社などは除く)
- Activate プロバイダーからの出資を受けている、またはプログラムに参加している(①VC やエンジェル投資家からの出資、②アクセラレーターやインキュベーターのプログラムに採択、③提携のコワーキングスペースに入居、④コミュニティに参加、などが本条件に該当)
- 資金調達シリーズ A まで
- 資金調達が過去 12 か月以内にあったこと(VC/CVC 経由の場合)
- 創業 10 年以内
- 有効な会社のウェブサイトが開設されている
- アクティブな AWS アカウントがある(既存アカウントも申請可)
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ジャフコ グループ株式会社 投資部 シニアアソシエイト 棚橋 昂大 氏
次に登壇したのはジャフコ グループ社の棚橋 氏。同社は 1973 年の創業以来、投資を通じて国内外のスタートアップ市場の発展に貢献してきました。1973 年に国内ベンチャー投資、1984 年にアジアベンチャー投資、1986 年にアメリカベンチャー投資、1998 年にバイアウト投資をそれぞれ開始。登壇時点で累計投資社数は 4,179 社、累計 IPO 社数は 1,031 社であり、国内最大級の実績があります。
創業から日の浅いステージのスタートアップを中心に、ファイナンスを主導する立場として投資を実行。投資先に影響力のある持ち分の株式を保持し、経営にも関与するスタイルが特徴となっています。とりわけ、IPO 時の時価総額が 200 億円を超える大型スタートアップ企業への投資を強みとしています。
スタートアップが創業融資を受けるためのポイント
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株式会社日本政策金融公庫 東京スタートアップサポートプラザ上席所長代理 佐藤 俊太 氏
ここからは日本政策金融公庫の佐藤 氏が登壇。融資を行う側の視点から「スタートアップが創業融資を受けるためのポイント」と題して発表しました。
まずは、出資と融資の違いについて解説されました。仮に、金融機関が 50 社に対して 1 億円ずつ出資・融資するケースを考えてみます。出資の場合、仮に 49 社が倒産したとしても、1 社が成功して企業価値(株価)が 100 倍になれば利益が出ます。49 億円の損失が出るものの成功した 1 社の株の売却により 100 億円の収益となるため、トータルで 51 億円の利益になるのです。そのため、特定企業の企業価値が何十倍にも成長することを期待し、倒産のリスクも許容したうえで投資を行います。
一方、融資においてたとえば 50 社にそれぞれ年利 2% で 1 億円ずつ貸すとします。その場合、もし 1 社が倒産すれば 1 億円の損失が発生します。残りの 49 社が利息を支払ったとしても、49 億円 × 2% = 9,800 万円の利息収入。つまり、トータルで 200 万円の赤字になってしまうのです。このため、金融機関は倒産のリスクが低い企業に対して融資を行います。こうした、出資と融資の性質の違いを理解したうえで、スタートアップは創業計画書を作成し、金融機関に提出する必要があります。
創業融資を受ける際、外してはならないポイントの 1 つ目として佐藤 氏は「金融機関への解像度を上げること」を挙げます。金融機関の担当者が何よりも気にするのは「きちんと返済できるか」という点。そして、返済可能性を判断するために、担当者はスタートアップの技術リスクや市場リスク、Product Market Fit の状況などを見ているのです。
外してはならないポイントの 2 つ目としては「ロジックを意識し、構造と要素で示す」という点。金融機関の多くは複数人による稟議制で、出資・融資の可否を決定します。そして、多くの人を納得させるためにはロジックが必要です。スタートアップの経営者は、企業の売り上げやコストがどのような内訳になっているか、各要素の内容を踏まえていかなる経営戦略をとる予定なのかを金融機関の担当に詳細に説明できることが重要なのです。
セッションの最後には「事業者が覚えておくべき公庫の活用方法」についても解説しました。公庫とは、中小企業に融資をする政府系金融機関です。担っている役割は多岐にわたりますが、佐藤 氏は「セーフティネット需要への対応」と「成長戦略分野等への重点的な資金供給」の 2 つだけこのイベントで覚えていってほしいと述べました。
セーフティネット需要への対応とは、経済危機や災害といった危機が発生した際に、企業を救済するための施策を意味します。また、成長戦略分野とは、政府が自国の経済を成長させるうえで重要であると捉えている事業のことです。
スタートアップが活用すべき補助金と申請のポイント
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株式会社Stayway ディレクター 芝田 貴広 氏
続いては Stayway 社の芝田 氏が登壇。まずは、政府によるスタートアップ支援の現状について解説しました。日本国内におけるスタートアップの資金調達額は徐々に増えてきているものの、他国と比較するとまだまだ課題があります。この状況を鑑みて、岸田前首相は 2022 年の年頭記者会見にて「スタートアップ創出元年」を宣言しました。そして、補正予算として過去最大の 1 兆円規模の支援施策を計上したのです。
同年に「スタートアップ育成 5 か年計画」が開始し、スタートアップに必要な 3 つの要素「人材・ネットワークの構築」「資金供給の強化と出口戦略の多様化」「オープンイノベーションの推進」を支援することを掲げています。
次に、芝田 氏は補助金申請のポイントについて説明しました。申請までには、政府の発行するアカウントへの登録や審査上加点となる施策の実施など、必須となる項目がいくつかあります。
まず、企業が複数の行政サービスにアクセスできる認証システムである G ビズ ID の取得。そして、事業計画書を含めた申請書の作成・入力や必要書類の準備です。申請を行ううえでは、自社が申請条件に合致するかを確認すること、審査の要点を押さえて計画書を策定すること、補助金の申請における必要書類や提出様式を確認することなどが重要になります。
セッション終盤では、スタートアップにおすすめの補助金を 3 つ紹介しました。まずはディープテック・スタートアップ支援事業です。技術の確立までに長期かつ大規模な資金を要し、技術の事業化までが長期間となるディープテック・スタートアップの実用化研究開発や量産化実証を「STS(実用化研究開発:前期)」「PCA(実用化研究開発:後期)」「DMP(量産化実証)」の 3 つのフェーズで支援します。
次に新技術開発助成。これは、中小企業が取り組む独創的な研究や新技術に関して、基本原理の確認が終了(研究段階終了)した後の実用化を目的とした開発試作に活用できる助成金です。最後に、東京都の創業助成事業。これは、年に 2 回公募が行われる東京都中小企業振興公社により運営される助成金です。経営経験 5 年未満であり、かつ指定された創業支援事業を利用したことのある東京都の事業者・個人の方が対象となります。
パネルディスカッション
各登壇者による発表の後は、全員が集合しオフライン限定のパネルディスカッションを行いました。会場にいるみなさまから Slido にて質問を受け付け、登壇者が回答をしていきました。このレポートでは、ピックアップしてご紹介します。
「どのタイミングからデット・エクイティ・補助金/助成金の申請について相談すべきでしょうか」という質問に対し、棚橋 氏は「資金調達を計画した初期の段階から私たちに相談してほしい。そもそも上場を目指すのか、どういった調達を何回くらい実施するかなどを一緒に検討させていただけると、スタートアップにとっても納得のいく資金調達ができるはず」と回答。また、芝田 氏は「日本全国には 6,000 種類以上の補助金/助成金があり、知識のない方は探すのに苦労する。私たちのノウハウを頼ってほしい」と述べます。
「大型資金調達を実現できている企業は、他企業と何が違うのでしょうか」という旨の質問に対して、棚橋 氏は「ケースバイケースではありますが、経営者の方がこれまで実現してきたことや、計画の確からしさなどが大きな要素になるので、過去に起業経験のある方の事業にはお金が集まりやすい」と述べました。
他にも、「研究を含まないアプリ開発で出資を受けられる最大金額はどれくらいでしょうか」という質問に対し、芝田 氏は「その会社の事業フェーズや、過去の実施してきた事業内容にも左右されるのですが、事業再構築補助金を申請して 3,000 万円ほど獲得した事例が弊社の支援実績にあります」とのこと。
さらに、新規アプリ開発の場合はマネタイズや売り上げの見込みが立てにくい段階での資金調達の相談になるため、佐藤 氏は「事業やプロダクトについて何かしらの仮説を経営者に立てていただいたうえで、それを私たちが検証することで出資や融資の金額を決めるという流れになります」と語りました。
「最近初めて融資を受けたのですが、公庫からの新規開業資金の融資が下りました。資本性ローンがバリュエーションに影響するという話がありますが、他の形の融資でも影響があるのでしょうか」という問いに対し、佐藤 氏は「資本性ローンしか資本としてカウントはできませんが、シードフェーズ・アーリーフェーズの段階で資金をデットファイナンスで調達しておくことによって、後々のバリュエーションを確保できるため使い勝手が良い」と説明しました。
おわりに
アマゾン ウェブ サービス ジャパンは今後も技術的な内容のみならず、スタートアップで働く方々にとって有益な幅広い内容のセッション・イベントを実施してまいります。最新のイベント情報は下記ページより確認が可能となっております。
https://aws.amazon.com/startups/events
ぜひこの記事を読まれたあなたにも、次回のイベントにご参加いただければ幸いです。