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ブラウンリバース、プラント保全を効率化するデジタルツインサービスの基盤に AWS を採用。最短 3 日でデジタル空間にプラント設備を再現
情報サービス
概要
総合エンジニアリングの日揮ホールディングス株式会社からカーブアウトしたブラウンリバース株式会社は、プラントや工場などのデジタルツインを素早く作成し保全に活用できるサービス『INTEGNANCE VR』を提供しています。撮影したデータを3 次元データ化し、設備や部材の相関関係を可視化するシステム基盤にアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用。人手不足に直面するプラント業界に大幅な効率化をもたらすサービスとして、非常に注目を集めています。
課題・ソリューション・導入効果
ビジネスの課題
プラント業界の課題解消に向けデジタルツイン事業を創出
日揮ホールディングス(以下、日揮)の事業会社として、既存のプラントや工場の設備管理向けソリューションを提供するブラウンリバース。同社の主力サービス『INTEGNANCE VR』は、360 度パノラマ写真や点群データなどから 3 次元データ化する技術を活用し、プラント内の機器や配管などの部材の相関関係を可視化して運用・保守業務の効率化を支援しています。このサービスが生まれた背景には、プラント業界が直面する設備の老朽化、労働者不足、脱炭素対応といった課題がありました。
日揮は従来、プラント建設を主な事業としており、顧客での稼働が始まるとプロジェクトを終了する事業スタイルをとってきました。しかし近年、長期間にわたって設備を有効活用し、寿命を全うさせることも重視されるようになっています。「以前、ある大規模プロジェクトでプラントの改修や増設が必要となりましたが、設備の状況を知ろうとしても図面も残っておらず、情報がほとんどない状態でした。このような場合、時間をかけて現地での確認と再設計を行う必要がありました」と語るのは、ブラウンリバース 代表取締役 CEO の金丸剛久氏です。日揮で設計者としてキャリアを積んできた金丸氏はこの経験から、デジタル技術を活用してプラントのライフサイクル全体を支援する新たな事業を検討。そして 2020 年頃に不動産業界で話題となった VR(仮想現実)技術を使ったデジタル空間での内覧サービスに着目し、この技術を活用して工場内をデジタルで再現しようと試みました。「お客様にお見せしたところ『これが欲しい』との声をいただいたことが、INTEGNANCE VR が生まれるきっかけとなりました」(金丸氏)
その後、金丸氏のチームは 2022 年 5 月にブラウンリバースとして事業会社化。プラント全体を撮影してデジタル空間に再構築し、設備の健全性を把握・管理するための支援サービスの開発に着手しました。サービスの基盤として AWS を選んだ理由を、ブラウンリバース CSO の安本直史氏は「プロトタイプでの実証を終えて本格的にサービスを開発するにあたり、AWS が提供する多彩なサービスに非常に魅力を感じました。セキュリティも強固で、汎用的に使えるサービスを活用することで構築の手間を省略できると考えました」と振り返ります。
ソリューション
AWS のサービスを駆使し、複雑なプラント空間を再現
INTEGNANCE VR を使用すると、デジタル空間に再現されたプラントの状態をインターネット経由で確認できます。広大なプラントは構成する機器や部材も複雑で、データサイズが膨大になるため、快適なユーザビリティを実現する設計が大きな課題でした。そこで AWS のコンピューティングリソースを使ってデータを配信可能な形式に変換する処理を行い、コンテンツの配信速度を高速化する Amazon CloudFront を採用しました。
そして特筆すべきは、顧客へのデータ提供スピードです。従来のデジタルツイン構築には、計測士がレーザースキャナーと三脚を使用して計測したうえでエンジニアがプラントを 3 次元モデル化するため、提供までに数か月かかることが一般的でした。しかし、ブラウンリバースはモビリティタイプのレーザースキャナーでプラントを撮影して 3 次元モデルを効率的に生成することで、提供時間をそれまでプラント内で行われていた実証実験と比較して 10 分の 1 程度に圧縮。「5,000㎡ ほどの広さなら最短 3 日でお客様にアクセスいただけるようにしています」(安本氏)
「ファストデジタルツイン」のコンセプトを形にした INTEGNANCE VR は予想以上に反響が大きく、多くの顧客から依頼が寄せられています。当初は Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)による仮想サーバー上に展開していましたが、処理するデータや計算量が増えてオペレーション負荷も高まってきたため、スケーラビリティとコストの最適化を重視し、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイや管理が容易に行える Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)環境へと移行。現在は、必要なリソースのみを効率的に使用する方法に切り替え、処理済みデータもアクセス頻度に応じてストレージの種類を分け、コストを最適化しています。
顧客の増加や提供形態の多様化をきっかけに AWS のアカウント管理も見直し、上位のサポートプランである AWS Enterprise On-Ramp を採用。これにより、モニタリングやサポートレベルの向上と同時に、利益率目標を達成するため単位面積あたりの提供コストを削減し、納品までの全体コストを下げることを目指しています。「AWS の担当者は運用面でもさまざまなアドバイスや提案をしてくれて、非常に助かっています」(安本氏)
導入効果
よりサービスを進化させ、世界で戦える IT 企業へ
日揮グループにおけるブラウンリバースのミッションは、プラントのメンテナンスや改修などにおける競争優位性の確立で、デジタルツインの領域における他社との差別化ポイントは配管の管理技術です。配管はプラント全体の約 8 割を占めることもあり、そのメンテナンスによって生産性や安全性に大きく寄与します。配管の状態をより正確に抽出・管理できる技術において、同社は他の追随を許しません。創業からわずか約 2 年半で、INTEGNANCE VR は 60 事業所、3,000 ユーザーまで利用が広がり、2024 年度中には累計 100 事業所の導入が見込まれています。
「日揮の得意顧客である化学プラントや石油プラントだけでなく、食品や製薬の工場、電力や交通などからも引き合いをいただいています。人手不足やエネルギーシフトによる現場の課題に対して、わかりやすい製品を提供していると自負しています。また、AWS のユーザー会は異業種の方とのネットワーキングの機会もあり、ビジネス展開にも役立っています」(金丸氏)
同社は多様化する顧客に対し、今後は、AI や機械学習を活用した画像や点群解析、技術のライセンス提供を行うなど、サービスの高度化・多様化に向けて AWS の技術を利用していく方針です。「画像解析の AI などは AWS のサービスで容易に実現できるため、エンジニアのリソースを増やさなくても機能を追加できます。また、API 接続する際、連携パートナーのシステム側も AWS 環境のことも多く、効率的な開発ができると考えています」(安本氏)
さらにブラウンリバースが見据えているのは、グローバル市場への拡大です。すでにいくつかの国でサービスを提供していますが、サービス基盤は顧客の拠点に近い方が良いため、世界各地の AWS 環境を活用していく構想もあります。「近年は GX(グリーントランスフォーメーション)にも注目が集まっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)だけでなくカーボンニュートラルにも貢献する、世界で戦える IT 企業を目指します」と金丸氏は力強く語っています。
AWS の各種サービスを駆使して、複雑なプラント構造をデジタル空間に再現できました。人手不足やエネルギーシフトによる現場の課題に対して、わかりやすい製品を提供していると自負しています
金丸 剛久 氏
ブラウンリバース株式会社 代表取締役 CEOブラウンリバース株式会社
取組みの成果
限られた人員で効率的な開発を実現
コンテナ活用で迅速にサービスを提供、運用コストを最適化
アカウント最適化で運用効率とサービス品質を向上
本事例のご担当者
金丸 剛久 氏
安本 直史 氏