『デジタル・スマートシティ浜松』の推進を支える先進的なデータ連携基盤モデルとして都市 OS を AWS 上に構築
概要
デジタル・スマートシティの実現に向けた施策を推進する浜松市は、行政の各分野や民間が個別に収集・保有するデータを円滑に連携させ、データの横断的な利用とサービス間の連携を支える“都市 OS(データ連携基盤)”を構築。そのインフラとしてアマゾン ウェブ サービス(AWS)のサーバーレス環境を採用しました。全国の事業者による新サービス創出に向けた実証実験などの取り組みを通じて、全国自治体におけるスマートシティプロジェクトの先進的なモデルを提示しています。

デジタル・スマートシティの実現に向け自治体のあり方、役割を再定義
2019 年 10 月に浜松市では、少子高齢化や人口減少といった全国の市町村が抱える社会課題にいち早く対応するため、AI をはじめとする先端技術やデータ活用など、デジタルの力を最大限に活かした、持続可能な都市づくりの推進を目的とする『デジタルファースト宣言』を行いました。
そして、同宣言において謳われている“都市づくり・市民サービス・自治体運営”の各テーマにかかわる、デジタルファーストによる取り組みを横断的に担う新組織として、『デジタル・スマートシティ推進事業本部』を設置。同本部の主導のもと、デジタル活用をベースとした官民連携による取り組みによって、地域課題の解決や産業の活性化、市民のよりよい暮らしの実現を目指すデジタル・スマートシティ実現に向けた活動を本格的にスタートさせました。
「地域の抱える課題を自治体が一手に引き受けて、責任をもって解決していくというのが従来のやり方でした。これに対して、官民協働のエコシステムによる課題解消に資する新たな価値やサービスの創出を、自治体がいわばプラットフォーマーとして牽引していくスタンスです。そうした意味では、取り組みへの着手を契機に、公共のあり方、役割を再定義したと言えます」と、デジタル・スマートシティ推進事業本部 専門監の瀧本陽一氏は語ります。
環境変化の激しい時代を見据えクラウド、サーバーレス基盤を採用
「API によるサービス連携が 1:1 の関係だとすれば、データの標準化がなされたデータ連携基盤上では N:N の連携が可能です。これにより、高度な価値を生むサービスの実装が可能になりますが、一方でそのポテンシャルを引き出すためには然るべき方法論や、コミュニティづくりといったベースが欠かせません」と瀧本氏は説明します。そうしたデータ連携基盤にまつわる課題感を共有できたのが、浜松市が連携先として迎えた一般社団法人コード・フォー・ジャパンでした。
浜松市はコード・フォー・ジャパンの支援のもとデータ連携基盤の構築に着手するにあたり、インフラにクラウドを適用することを当初から想定していました。その理由は、コスト低減やリスク回避の観点から、所有せずに従量課金型のサービスとして利用できること、スモールスタートで利用の拡大に応じてスケールしていけることなどです。
「環境変化の激しい時代において慎重かつ機敏に進められることや、回遊性の担保、疎結合によるサービス実装を要件として掲げていました。そのためのクラウド基盤として、コード・フォー・ジャパンの推薦もあり、AWS Lambda を中心とするサーバーレス環境を採用しました」と、情報政策課 副主幹の村越功司氏は語ります。
全国から実証実験の案件を募集しユースケースづくりを進める
AWS をベースにデータ連携基盤を整備した浜松市では、そこでのユースケースづくりを Hamamatsu ORI-Project(Hamamatsu Open Regional Innovation Project)として開始しました。具体的には、このデータ連携基盤を実証環境と位置づけ、同基盤を活用するアプリケーションやサービスの創出に向けた案件を全国から募集。採択された事業者が同基盤上に FIWARE で開発したサービス実装を行って、実証実験に取り組むという流れとなっています。
2021 年度には“スマート農業・林業”と“市民目線の暮らしやすさ”を推奨テーマに募集が行われ、それに対し 13 件の応募があり、3D 点群データを利用した林道の利活用、新型コロナウイルス感染シミュレーションに向けた D2D 社会実験、海域へ排出されるプラスチック等の人工系ごみ輸送量の実態把握などの 7 件が採択されました。現在、2022 年 2 月までを期限として、それらの実証実験が進められています。
「実証実験に際しては、事業者がデータ連携基盤の活用をうまく進めていけるよう、伴走型による支援を行っています。コード・フォー・ジャパンから講師を迎えて実施している勉強会などもその一環です」とデジタル・スマートシティ推進事業本部 主任の宮崎信樹氏は語ります。
パイロットプロジェクトとして他自治体の取り組み推進にも寄与
関連する活動として、コード・フォー・ジャパンでは、市民をはじめとする地域のステークホルダーが主体となって、行政、企業の協働によりスマートシティを作り上げていくことを目指した“Make our City”と呼ばれるプロジェクトを推進しています。浜松市の ORI-Project は、そのパイロットプロジェクトとしても位置づけられています。
「ORI-Project の取り組みを 1 つのモデルとして、そこで達成された成果や知見、ノウハウを全国の自治体とシェアし、自治体間の横のつながりの中で議論を重ねていく。そうしたことが各自治体のデータ連携基盤、都市 OS を最適なかたちへとブラッシュアップしていくことにつながるはずです」と村越氏は強調します。
一方、総務省では、スマートシティを支えるデータ連携基盤の実装を 2025 年までに 100 の地域に広げていくという目標を掲げています。これに対し瀧本氏は、「国の指導があるからやるというのではなく、自治体自身がスマートシティの目指すところをしっかりと理解し、地域の抱える課題解消に向けた有効なアプローチになり得るものと納得したうえで進めていくことが重要です。そのなかで、ノウハウや成功体験などをシェアしながら自治体間で横の連携を広げていきたいと考えています」と語っています。

データ連携基盤の整備は、単一の自治体に閉じた取り組みではなく、民間の力も借りながら自治体同士が協働していくことが不可欠です。データ連携基盤を活用したユースケースを創出する ORI-Project を、そのための推進力としていきたいと考えています
瀧本陽一氏
浜松市 デジタル・スマートシティ推進事業本部 専門監浜松市
AWS 導入後の効果と今後の展開
データ連携基盤の活用にかかわる実証実験のための環境を整備
クラウドサービスの採用によるインフラコストの低減
環境変化に対し俊敏に追随していける基盤を実現
全国の自治体に対して有効なモデルケースを提示
本事例のご担当者
瀧本 陽一 氏

村越 功司 氏

宮崎 信樹 氏
