バス・鉄道の乗車券購入アプリのインフラに AWS のサーバーレスアーキテクチャを採用
乗客の利便性向上とキャッシュレス化を実現 

2021

バスや鉄道用の電装機器、産業用機械・自動車部品の製造販売を行うレシップ株式会社。路線バスやワンマン鉄道などの運賃収受システムで日本有数のシェアを誇ります。キャッシュレス決済の推進や、モビリティのサービス化の気運が高まる中、同社はバス・鉄道業界に対して新たな価値を提供すべく、スマートフォン決済よる運賃収受サービスの開発を決断。開発や運用の負担を軽減するために、アマゾン ウェブ サービス(AWS) のサーバーレスアーキテクチャを採用し、2020 年 10 月に乗車券アプリ『QUICK RIDE』の提供を開始しました。これは社会課題を解決するサービスとして「2020 年度(第 38 回)IT 賞」を受賞。さらに、従来の電装機器事業と融合した新たなビジネスの創造を推進しています。

AWS 導入事例  | レシップ株式会社
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バス運賃収受に、事業者と乗客に負担をかけない選択肢を用意できました。モビリティのサービス化が進む中、バスのチケット発券の領域は当社がその一角を担えるよう、AWS を活用して、新たな価値を提供していきます

佐野 高信 氏
レシップ株式会社
サーバ・プラットフォーム開発部
部長

バス・鉄道の電装機器メーカーがソフトウェアサービスに進出

路線バスや路面電車に欠かせない機器が、料金精算装置や運賃・行き先表示器、降車ボタンです。岐阜県本巣市に本社を構えるレシップ株式会社は、これらの電装品をはじめ、新幹線の照明、電動フォークリフト用バッテリー充電器など、産業用機械・自動車部品の製造販売を手がけています。親会社のレシップホールディングス株式会社では、2016 年から 2020 年の中期計画「Challenge Again 2020」における重点課題として、「MaaS の実現に向けた新しい価値の創造」を推進しています。MaaS とは、Mobility as a Service の略で、人が移動する際に、鉄道やバス、タクシー、カーシェア、自転車シェアなどの手段から最適なものをシステム的に提供できる基盤を提供するという概念です。

「運賃収受システム、IC カードリーダーなどの組込ソフトは自社で開発していますが、これからはモノを作って売るビジネスだけでなく、サービスの提供へ踏み出すために、クラウドエンジニア、アプリケーションソフトウェアエンジニアの獲得および育成が経営課題となっていました。そのため、よい人材に出会えるよう数年前から東京に開発センターを設置しました」と語るのは東京池袋の開発センターにオフィスがあるサーバ・プラットフォーム開発部 部長 佐野高信氏です。

2018 年に同社は、次世代のサービス提供に向けて、新規事業を創出するために若手・中堅による商品企画プロジェクトを実施。社内プレゼンを経て採用となったのが、スマートフォンアプリを使った乗車券の発券サービスです。

企画をしたサーバ・プラットフォーム開発部 ビジネスアナリスト 内田彰氏は「定期券や乗車券の販売には人手や場所代、紙代や印刷代といった費用がかかります。バス・鉄道事業者にとっては減らしたいコストです。一方、乗客にとっては、営業時間内に販売窓口に行くのは困難な場合があります。その両者の課題を電子化によって解決したいと考えました」と話します。

迅速なサービス提供に向けてサーバーレスアーキテクチャを採用

『QUICK RIDE』と命名されたモバイルチケットサービスは、スマートフォンアプリで完結する仕組みで設計されました。乗客(ユーザー)はアプリから会員登録してクレジットカード決済によって乗車券を購入、乗車時にスマートフォンの画面に表示された乗車券の情報を乗務員に見せ、乗車します。バス・鉄道事業者側には、自社のチケットの情報を登録、管理、売上情報を参照できるポータルサイトが提供されます。「まずは、スマートフォンでのバス乗車券というサービスを世に出すことを優先しました。当社製品との連携は、サービスが浸透した後でも可能です」(内田氏)

20 代の若手を中心とした 『 QUICK RIDE』開発メンバーは、2019 年 4 月にプロジェクトが始まった時点ではわずか 3 名。迅速なサービス開発を重視し、サーバーレスアーキテクチャに着目。ソフトウェア設計・構築を担当したサーバ・プラットフォーム開発部 ソリューションアーキテクトの園部聡士氏は「サーバー環境を用意する場合、環境設計や設定、その後のリソース管理・運用の手間がかかります。これが短期間の開発の足かせになります。このため、それらの手間が不要な AWS Lambda の採用を念頭に置きました。また、モバイルアプリのためのツール AWS Amplify は、AWS の各種サービス親和性が高いだけでなく、開発に使用していたプログラミング言語とも相性が良かったので採用しました」と語ります。

社会課題解決領域で 2020 年度 IT 賞を受賞

レシップの営業担当はバス事業者と深い関係を築いています。内田氏は営業担当の情報を踏まえて、事業者ニーズやチケット販売、乗車券の利用状況の課題を確認し、サービスの設計に活かしました。『QUICK RIDE』のビジネスモデルは、チケット販売の手数料です。事業者から、紙のチケット販売にかかる人件費や材料費、制作費などのコストもヒアリングし、ビジネスを設計しました。そして、サービス開始に向けた事業者側のポータルサイトにおいても営業担当の協力を得て、設計・導入につなげていきました。

佐野氏は、「少人数で、かつ初めてのサービス提供において、どのような保守運用体制にするべきかわからない状態でしたが、AWS のソリューションアーキテクトの方にサーバーレス環境における運用方法についてアドバイスをいただきました。現在は自動化スクリプトを使って一定間隔で死活監視を行い、問題があればメールが届くという運用です。運用の手間はほとんどかからず、トラブルもほとんどありません」と語ります。

2020 年 10 月にサービスを開始した『QUICK RIDE』は、11 月に公益社団法人企業情報化協会による 2020 年度(第 38 回)IT 賞【社会課題解決領域】を受賞しました。
「レシップ(株)として初めて消費者向けサービス(BtoC)提供を開始し、名だたる企業が受賞してきた賞をいただいたことで、社内に新しい事業を開拓する気運が高まっています」(佐野氏)

MaaS の一角を担うバスのチケット分野でのサービスを開発へ

『QUICK RIDE』 は 2020 年冬には 1 日乗車券の取り扱いを開始、養老鉄道、東京ベイシティ交通などで採用されています。また、2021 年春には回数券、定期券の取扱を開始し、2022 年度までに、全国のバス・鉄道事業者 30 社への導入を目指しています。内田氏は「バス会社の究極の目的は、自分たちの手をかけずに乗車券が売れていくことです。事業者のデジタル変革につながればと思っています」と展望を話します。

社内では比較的新しくできた組織であるサーバ・プラットフォーム開発部で AWS を活用した開発を中心にしてきた園部氏は、「これからも AWS のさまざまな機能・サービスを使いこなしてサービスを進化していきたいと思っています。また、部門として新しいチャレンジをしていますので、その知見を社内に広めていきたいと考えています」と話します。

バスや鉄道の乗車券というと、Suica や PASMO などの IC カードの利用が促進されていますが、レシップでは、紙の回数券や定期券のデジタル代替は需要があると考え、既存の運賃収受システムとも連携したサービスの開発に注力していくといいます。今後の事業展開について佐野氏は次のように話します。
「MaaS のプラットフォームは大規模事業者が提供していくと思いますが、現在当社が事業者と深い関係を持つ、路線バスの分野では、その一角を担えると考えています。乗客の乗降データを活用してより利便性を高められるよう、バスの中に設置する QR コードリーダーなどの IoT 機器との連携も AWS を使って研究しています。物理製品と IT を融合するサービスを先行して提供したいと考えています」

佐野 高信 氏

内田 彰 氏

園部 聡士 氏


カスタマープロフィール:レシップ株式会社

  • 設立年月:1953 年 3 月(レシップホールディングス株式会社)
  • 従業員数:433 名(2020 年 6 月末日現在)
  • 事業内容:バス・鉄道用電装機器等の製造および販売・サービス、各種産業機器および自動車部品等の製造および販売・サービス

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 「 2020 年度(第 38 回)IT 賞」【社会課題解決領域】受賞
  • 定期券・回数券が購入できる機能を追加
  • QR コードなどを使った乗車券サービスの提供
  • QR コードリーダーなどの IoT 機器のクラウドからの管理

ご利用中の主なサービス

AWS Amplify

AWS Amplify は、それぞれを連携させたり個別で使用したりできる、ツールとサービスのセットです。これらの機能により、フロントエンドウェブおよびモバイルのデベロッパーが、AWS によるスケーラブルなフルスタックアプリケーションをビルドできるようにします。

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AWS CloudFormation

AWS CloudFormation では、プログラミング言語またはシンプルなテキストファイルを使用して、あらゆるリージョンとアカウントでアプリケーションに必要とされるすべてのリソースを、自動化された安全な方法でモデル化し、プロビジョニングできます。

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Amazon Cognito

Amazon Cognito を使用すれば、ウェブアプリケーションおよびモバイルアプリに素早く簡単にユーザーのサインアップ/サインインおよびアクセスコントロールの機能を追加できます。

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AWS Lambda

AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。

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