概要

課題・ソリューション・導入効果
課題
四半期単位の定期開発から脱却し、変化に即応できるシステムへ
5G やブロードバンドなどの通信事業、動画サービスや金融などのスマートライフ事業、その他の事業を展開する NTT ドコモ。同社のサービスの中核を担うシステムが『CiRCUS(サーカス)』です。CiRCUS は、ISP として必要なネット接続やメールなどの機能や、1 億アカウントを有する d アカウント認証機能などを司るミッションクリティカルなシステムです。
2003 年の構築以来、オンプレミス環境で運用しながら改修を重ねてきた CiRCUS は、アプリケーションが密結合のために改修が複雑化する、トラフィックの増減に対する対応が難しいといった課題が顕在化していました。そこで同社は、技術的負債の解消、スピード/品質/コストの両立、価値創造に向けた働き方への転換に向けて、クラウドシフトを決断しました。
「最大の目的は、開発スピードの高速化です。お客様が求める価値を素早く提供するためには、四半期単位の定期開発から脱却して変化に即応できるクラウドを採用し、同時に変化に追従可能なアジャイル開発体制への移行等の抜本的な構造改革を行う必要がありました」と語るのは、ネットワーク本部 サービスデザイン部 クラウドデザイン室 サービス仮想化基盤 担当部長の堀本登氏です。
ソリューション
電気通信設備に求められる信頼性や安定性を満たした AWS
2019 年に AWS のグローバルイベント(re:Invent)に参加して AWS のアジリティに強烈な印象を受けた堀本氏はすぐに組織長に掛け合い、新規で開発要望があった法人向け共通 ID(ビジネス d アカウント)の基盤を AWS 上に構築しました。これを皮切りに、2020 年よりクラウド版を『CiRCUS-Lite』として一部の基盤機能や WEB サイトを AWS 上で開発しています。
AWS を採用した理由について、ネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤担当の植松聡氏は「電気通信設備として求められる厳しい要求基準に対応していることが一番です。AWS のデータセンターが ISO27001 規格の情報セキュリティマネジメントに準拠し、大規模災害対策などに対応していることが決め手となりました。加えて豊富なマネージドサービスを活用してスクラッチ開発から脱却できること、サービス成長やイベントに合わせてリソースが増減できることを評価しました」と説明します。
CiRCUS-Lite にシフトするサービス/機能は、フロント系から着手し、開発頻度、利用動向、サービスロードマップなどをベースに優先順位を付けながら進めました。アプリケーションについては、クラウドネイティブなアーキテクチャで再構築するリファクタリングを原則としています。
「2025 年度の i-mode 終了やシステムの EOL を見据えて全体スケジュールを検討し、クラウドシフトするものとオンプレミスに残すものを切り分けています。アプリケーションは、マイクロサービス化によるアジリティの向上を目指しました」(植松氏)
その結果、2020 年には新料金プランのahamo(アハモ)の WEB サイト、2022 年には 1 日 10 億アクセス以上の API 連携基盤、2023 年には 1 日に 3,000 万回の認証を行う d アカウント認証基盤、irumo(イルモ)の WEB サイトなどを AWS 上に構築し、2024 年 10 月時点で 30 サービス・機能を提供しています。
リファクタリングしたシステムの中でも象徴的なサービスが『FoRCE(フォース)』と呼ばれる API 連携基盤です。ネットワーク本部サービスデザイン部 アプリケーション基盤担当の勝野継太氏は「FoRCE はフロントエンド、認可、バックエンドを分割して疎結合化し、アプリケーション開発には Amazon ECS on AWS Fargate や AWS Lambda などのサーバーレス/マネージドサービスを採用して開発の負荷を軽減しました。バックエンドの DB についても、データ構造に依存しないシンプルなモデルとし、AWS Database Migration Service(AWS DMS)を利用してオンプレミス環境の DB と常時同期を取ることで最新の情報を提供し、ドコモのサービスのビジネス価値向上に貢献しています」と語ります。
CiRCUS-Lite の開発体制はアジャイル型に移行し、サービス単位のスクラムチーム編成として意思決定の権限を移譲しました。併せて開発・運用組織を見直し、スクラムチームが開発から運用までを一元的にカバーする DevOps を採用しました。
「初めてのアジャイルということで、まずは参画メンバーが研修を受けてマインド変革を図りました。DevOps については運用メンバーもスクラムチームに参画し、徐々に開発メンバーに運用業務をシフトする形で浸透させていきました」(植松氏)
導入効果
マイクロサービス化とアジャイル開発でアジリティが向上
クラウドシフトとアジャイル開発により、開発スピードは大幅に向上しました。
「FoRCE については開発スピードが 4 倍、リリース回数が 4~10 倍になり、月 1 回以上、年間 12~24 回のリリースを実現しています。その結果、サービス部門はお客様が求める機能を早期に提供できるようになりました」(勝野氏)
CiRCUS-Lite は、マネージドサービスの活用により開発コストを 40% 削減し、デプロイ頻度も週次~月次、変更リードタイムは 1 週間~1 か月に短縮されました。
「コスト軽減以上に自由度が増したメリットが大きく、最先端の技術に携わることでエンジニアのモチベーションも高まっています」(植松氏)
アジャイル開発と DevOps により、チームメンバーの意識は「失敗しない開発」から「ビジネスの成長」と「お客様目線の開発による顧客体感の向上」へと変化しました。
2021 年度の新卒入社で同年 7 月からチームに加わり、FoRCE、ahamo、irumo などのサービス開発を担当してきたネットワーク本部 サービスデザイン部 アプリケーション基盤担当の岩田紗希氏は「アジャイル開発により、お客様のリアルな声を聞きながらクイックに改修して届けることができます。ahamo や irumo のプロジェクトでは SNS 上の声も参考に、ビジネス部門と方向性を検討しながら開発しました。スクラムチームに権限があり、ビジネス部門やベンダーと一体となって開発できるスタイルにやりがいを感じています」と振り返ります。
CiRCUS-Lite の今後については、お客様の期待に応え続けるべく、リリース方式の高度化による高頻度のデプロイの実現、DR 対策、セキュリティを含めた DevSecOps への移行、プラットフォームエンジニアリングによるアジリティの向上などを進めていく考えです。CiRCUS 全体についても、クラウドシフトと並行しながら、オンプレミスの構造改革に取り組み、相乗効果を狙います。
「AWS には伴走支援によって開発チームに大きく貢献していただいています。引き続き CiRCUS 全体のモダナイズに向けた支援をお願いします」(堀本氏)

AWS によるクラウドシフトとアジャイル開発/DevOps への移行により、オンプレミスによる四半期単位の定期開発から脱却し、お客様に対してスピーディにサービスを届けられるようになりました
堀本 登 氏
株式会社 NTT ドコモ ネットワーク本部 サービスデザイン部 クラウドデザイン室 サービス仮想化基盤 担当部長アーキテクチャ図

企業概要
課題・ソリューション・導入効果
- 4 倍
開発スピード - 4 倍~ 10 倍
リリース回数 - 40%
開発コストの削減 - 週次~月次
デプロイ頻度 - 1 週間~ 1 か月
変更リードタイム
本事例のご担当者
堀本 登 氏

植松 聡 氏

勝野 継太 氏

岩田 紗希 氏
