ソニーが挑む AI × ロボティクス
AWS のフルマネージドサービスを全面採用し独自の成長を遂げる新生『aibo』を約 1 年で開発
2020
1999 年に発売され、人気を博したソニーのエンタテインメントロボット『AIBO』。生産・販売を終了して 12 年の時を経た 2018 年 1 月 11 日、新型『aibo』として復活を遂げました。クラウド環境は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のマネージドサービスとサーバーレスアーキテクチャを全面採用し、コアプラットフォームやデータ分析基盤などを構築。クラウド関連の領域は実質約 1 年で『aibo』を開発しました。IoT センサーを複数搭載し、自律的に稼働する『aibo』は、AWS 上の各種サービスと連携しながら常に進化を続けています。
AI で成長を遂げる新型『aibo』は、ソフト・ハードの最新技術と AWS のクラウドを活用し、犬型ロボットから個性が育つ愛犬へと飛躍的に進化しました
川西 泉 氏
ソニー株式会社 執行役員
AIロボティクスビジネス担当
AIロボティクスビジネスグループ 部門長
AI とロボティクス事業への参入を受けエンタテインメントロボットに再挑戦
“クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。”を Purpose(存在意義)に掲げ、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融、医療など幅広い分野でビジネスを展開するソニー。『aibo』が復活することになったきっかけは、2016 年 6 月の経営方針説明会において、AI とロボティクス事業への参入を表明したことにありました。
「当社には、映像・音響、センサー、メカトロニクスなど長年培ってきた技術があり、ロボット事業から撤退した後もエンジニアサイドでは“新しいモノを創りたい”という想いを持ち続けていました。エンジニアと経営層の思いが再び合致したタイミングが 2016 年でした。具体的に議論を重ねる中で、人に寄り添い、人の生活を豊かにするロボット『aibo』から始めようということになりました」と語るのは、AI ロボティクスビジネス担当の執行役員、川西泉氏です。
また、ハードウェアやネットワークの進化、ディープラーニングの発展、クラウドサービスの充実など、さまざまなテクノロジーが成熟してきたことも AI ロボティクスへの参入を後押ししたといいます。
「届いた箱を開けた瞬間から犬らしく振る舞い、それぞれのオーナー様とのかかわりの中で唯一無二の個性を育てていく新しいロボットを作るためには、クラウドと接続し、継続的に情報を分析・フィードバックしていく AI の技術が欠かせません。PlayStation の開発でも利用していた AWS は、その領域でのサービスの豊富さに加え、エッジコンピューティングの部分でも先駆けだと認識していました」(川西氏)
テクノロジーの進化を続ける AWS は『aibo』のクラウドセントリックな開発体制に必須
新型『aibo』の開発は、社内でも極秘のプロジェクトとして、スマートフォン、カメラ、R&D などの部門からエンジニアを集め、数えるほどの少人数でスタートしました。クラウドは、迷うことなく AWS に決めたといいます。
「開発上で最も評価した点は、最先端のテクノロジーを駆使したサービスがいち早く登場すること、そして運用負荷を大きく削減できるマネージドサービスが豊富であることです」(川西氏)
少人数かつ短期間での開発を求められる中で、エンジニアとしても AWS の活用が不可欠だったといいます。AI ロボティクスビジネスグループ クラウドサービス開発部統括部長の平朋大氏は「クラウドチームはスタート時にメンバーが少なかったため、サービス開発にリソースを集中させる必要がありました。そのためには運用負荷を大きく削減できるマネージドサービスが必須です。マネージドサービスが充実している AWS を採用することは当然の帰結でした」と語ります。
『aibo』のクラウドサービスは、『aibo』フロントエンド、ビジネスロジック、他のプロダクトでも利用可能な共通基盤、『aibo』の行動やセンサーデータを収集・分析するデータ分析基盤の 4 チームで開発。サーバーレスの活用、サービス間のインターフェイスの明確化、インフラやコンフィグのコード化、自動化対応の 4 つを共通のガイドラインに定めて進めました。AI ロボティクスビジネスグループ クラウドサービス開発部 1 課の中邨一仁氏は開発を振り返り次のように語ります。
「『aibo』本体と専用モバイルアプリケーション間で、AWS を介した連携方式としてGraphQL を検討していた際、GraphQL のマネージドサービスとして AWS AppSync がジャストタイミングで登場したので、効率的に開発を進めることができました」
ソフトウェア API の公開を開始
外部企業とエコシステムの形成へ
人とのふれあいに応じて個体ごとに独自の成長を遂げていく『aibo』。その機能やサービス自体も進化を続けています。2019 年 11 月には『aibo デベロッパープログラム』を通じて『aibo』のソフトウェア API の公開を開始。個人や企業が、『aibo』の動きを自由にプログラミングできるようになりました。すでに警備会社のホームセキュリティと『aibo』が連携して自宅の安心を見守るサービスや、IoT 家電と『aibo』のコラボレーションなどの事例が生まれており、今後もさまざまな領域でエコシステムを形成していく考えです。
『aibo』の登場は、ソニーの AI × ロボティクスのビジネスに拍車をかけました。川西氏が率いる AI ロボティクスビジネスグループは、2020 年 1 月にラスベガスで開催した技術見本市 CES2020 で発表された電気自動車『VISION-S』の試作車の開発も担当。ここにもロボット作りのノウハウが活かされています。
「外部環境を認識し、制御系と連動しながら自律的に動くという意味では、電気自動車とエンタテインメントロボット『aibo』に違いはありません。センシング、AI、クラウドなどのキーテクノロジーも共通です。『aibo』も『VISION-S』も IoT デバイスの 1 つと考えられ、今後もクラウドとつながり、その環境でさらなる進化を遂げていくことになるでしょう。AWS とは今後もあらゆる局面で協調し、ともに成長していきたいと思います」(川西氏)
カスタマープロフィール:ソニー株式会社
- 設立年月日:1946 年 5 月 7 日
- 資本金:8,742 億円(2019 年 3 月 31日付)
- 連結売上高:8 兆 6,657 億円(2019 年 3 月 31 日付)
- 連結従業員数:114,400 名(2019 年 3 月 31 日付)
- 事業内容:ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(モバイル・コミュニケーション / イメージング・プロダクツ&ソリューション / ホームエンタテインメント&サウンド)、イメージング&センシング・ソリューション、金融及びその他の事業
AWS 導入後の効果と今後の展開
- 新型 aibo のクラウド関連の開発を約 1 年でリリース
- すべての機能を AWS のマネージドサービスで構成し、高い可用性、信頼性、機能アップデートが容易な柔軟性、スケーラビリティを確保
- AWS Lambda の実行回数は 1 ヶ月あたり 約 20 億回
- サーバーレス構成の採用により、開発、アップデート、サービスの PDCA サイクルの短期化を実現
ご利用中の主なサービス
AWS IoT
産業用、消費者用、商用ソリューションのための IoT サービス
AWS AppSync
AWS AppSync を使用すると、1 つ以上のデータソースからのデータに安全にアクセス、操作、結合するための柔軟な API を作成でき、アプリケーション開発がシンプルになります。AppSync は、GraphQL を使用してアプリケーションが必要なデータを正確に取得できるようにするマネージド型サービスです。
Amazon Kinesis Video Streams
Amazon Kinesis Video Streams を使用すると、分析、機械学習 (ML)、再生、およびその他の処理のために、接続されたデバイスから AWS へ動画を簡単かつ安全にストリーミングできるようになります。
AWS Lambda
AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。