効率的ながんゲノム医療を目指し、医療情報ガイドラインに対応したセキュアな情報共有基盤を AWS 上に構築
迅速で適切な治療方針の策定支援に貢献

2021

病気の診断や治療に欠かせない検体検査に必要な機器をはじめ、検査用試薬やソフトウェアを提供するシスメックス株式会社。同社は、日本におけるがんゲノム医療の社会実装に向け、ゲノム解析結果などの機微情報を医療機関と検査機関でセキュアにやり取りする『OncoGuide™ ポータル』と、治療方針を議論するための専門家会議で必要な情報を共有する『OncoGuide NET』を提供しています。これらのシステム基盤にアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用。オンプレミス環境の約半分の開発期間で構築し、医療機関が安全かつ便利に利用できるサービスを提供しています。現在、複数のがんゲノム医療拠点病院と 20 以上の連携施設が『OncoGuide NET』を導入し、迅速で適切な治療方針の策定に活用しています。

AWS 導入事例  | シスメックス株式会社
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がんゲノム医療の社会実装において、安全な情報共有基盤の整備や、専門家会議(エキスパートパネル)の効率化支援は、私たちの責務です。医療情報の 3 省 2 ガイドラインに対応する高度なセキュリティを備えた AWS を採用することで、オンプレミス環境と比較し、約半分の開発期間で、医療機関が安全かつ便利に利用できるサービスを構築できました

谷口 充 氏
シスメックス株式会社 LS 事業本部 本部長

がん遺伝子パネル検査の保険診療上での活用に向けてセキュアに情報を共有する基盤を開発

「ヘルスケアの進化をデザインする。」をミッションに、医療の発展や人々の健やかな暮らしに貢献するシスメックス。ヘマトロジー(血球計数検査)を中心とした検体検査事業を主力とし、190 以上の国や地域に製品やサービスを提供。近年は、遺伝子解析などの新たな診断技術を用いて個別化医療の実現に資するべく、ライフサイエンス事業に注力しています。

がんゲノム医療で利用される同社の遺伝子変異解析セット『OncoGuide NCC オンコパネル システム』(以下、「本検査システム」)は、ライフサイエンス事業の一環として国立研究開発法人国立がん研究センターと共同開発したシステムです。次世代シークエンサーを用いることで、1 回の検査で日本人のがんで多くの変異が見られる 114 の遺伝子(2021 年 8 月現在は、124 の遺伝子に拡張)について網羅的に解析することが可能となりました。このゲノム解析結果は、遺伝子の変異に応じた分子標的薬の選択など、医師による治療方針の検討に寄与し、患者さま一人ひとりにあった個別化医療を可能にします。

本検査システムは 2018 年 12 月に厚生労働省の製造販売承認を取得し、公的医療保険への適用に向けた取り組みを開始しました。その中で必須要件となったのが、検査依頼元(医療機関)と検査受託先(検査機関)が検査結果をセキュアにやり取りする仕組みです。そして同社は、製造販売承認の取得に合わせ『OncoGuide ポータル』の開発に着手し、保険適用の開始に合わせて提供を開始しました。

また、がん遺伝子パネル検査の結果を含めた臨床情報は、中核拠点病院(2021 年 6 月時点で 12 ヶ所)や拠点病院(同じく 33 ヶ所)の多施設、多職種が参画する専門家会議(エキスパートパネル)における治療方針の検討で用いられます。そこで同社は、臨床情報を安全に共有する仕組みとして、エキスパートパネル支援システム『OncoGuide NET』を開発しました。

「これまでは医療機関の事務局が日程調整や書類の送付を行っており負担が大きい状態でした。がんゲノム医療の社会実装に向け、本検査システムの提供のみならず、臨床現場で発生している課題の解決も当社の責務と考え、中核拠点病院の 1 つである京都大学医学部附属病院(以下「京大病院」)と共同開発を開始しました」と語るのは LS 事業本部 本部長の谷口充氏です。
「エキスパートパネルは、基本的に週 1 回、中核拠点病院で開催されます。中核拠点病院や連携病院では、検査数の多さにバラツキがあるため、医療機関の規模に合わせて利用できる料金体系としました。サブスクリプション型のビジネスモデルは当社にとって初めての挑戦でした」(谷口氏)

高度なセキュリティ環境とスモールスタートできる柔軟性を評価

今回のプロジェクトに際し、課題となったのがセキュリティの確保です。がん患者さまのセンシティブな要配慮個人情報であるゲノム情報や既往歴などを扱うため、セキュアなデータ共有基盤は不可欠でした。LS 事業本部 LS 事業推進部 課長の澤賢一氏は「複数の人が情報を共有する環境では、データが削除されたり、改ざんされたりするリスクをいかに排除するかが重要です。そのため、厚生労働省、総務省、経済産業省の 3 省が定めた 2 つの医療情報システムに関する各ガイドライン(以下「3 省 2 ガイドライン」)に対応した高度なセキュリティ環境が必要と考え、AWS を情報共有のプラットフォームに採用しました」と振り返ります。

AWS を選定した理由について、シスメックス CNA 株式会社 新規事業部 部長の脇元立氏は次のように語ります。
「開発期間が限られる中でオンプレミスの選択肢はなく、保険適用に合わせトライ&エラーしながら開発できること、コストを抑えてスモールスタートできる柔軟性を評価しクラウドを採用しました。マネージドサービスの豊富さと実績で AWS を採用しました」

開発はシスメックス CNA を含めた内製で行いました。シスメックス CNA 新規事業部 課長の山本真一氏は「AWS のパートナーがまとめた『医療情報システム向け AWS 利用リファレンス』を読み込み、要件を満たせる機能を確認しながら実装を進めました。『OncoGuide ポータル』では、AWS のマネージドサービスを積極的に活用し、運用効率とセキュリティの両立を図り、『OncoGuide NET』 では、先行して試作版を作成し、製品企画と並行して開発を進めました。試作版の運用段階で要件やルールが変わることがありましたが、アジャイル開発により乗り切ることができました」と振り返ります。

脇元氏は「開発期間を短縮できたのも AWS があったからでした。開発環境と本番環境を別々に用意して、検証したものを素早く本番環境にデプロイできるのもメリットで、開発コストも圧縮できました」と語ります。

中核拠点病院・拠点病院が『 OncoGuide NET』を採用

21 連携病院と接続して日程調整や情報共有に活用

2021 年 6 月現在、『OncoGuide ポータル』は、本検査システムのユーザーの約 90% が利用しています。『OncoGuide NET』は、中核拠点病院の京大病院と東京都の拠点病院が採用し、合計 21 の連携病院とつないで日程調整やファイル共有を行っています。
「京大病院 腫瘍内科の武藤学教授からは、安全かつ便利にデータを共有できる環境で、円滑にエキスパートパネルを実施できることに対して高い評価をいただいています。今後も多くの中核拠点病院や拠点病院に利用をいただき、がんゲノム医療の社会実装に貢献していきます」(澤氏)

医療機関のニーズに耳を傾け機能を拡張しながらさらなる進化へ

『OncoGuide ポータル』と『OncoGuide NET』は、ニーズに合わせてスピーディに改良を重ねながら、機能を拡張していく予定です。LS 事業本部 LS 事業推進部 係長の田村茂行氏は次のように語ります。
「大容量のゲノムデータの分析などのニーズが高まると想定されます。AWS のサービスを上手く活用しながら、セキリティを担保しながら、さまざまな要望に対応していきます」

デジタル化の推進と顧客価値創出に向けた DX の実現を掲げる同社は、今後もさまざまなデータの利活用を目指しています。
「がんゲノム医療を実現するには、当社が持つ検査データだけでは足りません。将来的には、国立がん研究センターのがんゲノム情報管理センター(C-CAT)と連携し、C-CAT が持つ診療データや投薬データを含めた総合的な分析結果の提供を目指しています。AWS には大容量データの活用、分析に向けたアドバイスを期待しています」(谷口氏)

谷口 充 氏

澤 賢一 氏

田村 茂行 氏

脇元 立 氏

山本 真一 氏 


カスタマープロフィール:シスメックス株式会社

  • 設立: 1968 年 2 月 20 日
  • 資本金: 132 億 2,997 万円(2021 年 3 月 31 日現在)
  • 従業員数:連結 9,510 名 単体 2,719 名(2021 年 3 月 31 日現在)
    ※嘱託・パートタイマーなどを含む
  •  事業内容:臨床検査機器、検査用試薬ならびに関連ソフトウェアなどの開発・製造・販売・輸出入

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • ファイル・データに改ざんの心配のない安心・安全な情報のやり取りに貢献
  • エキスパートパネルのスムーズな開催と医療機関の業務負荷の軽減に貢献
  • 開発期間をオンプレミス比で 2 分の 1 に短縮
  • オンプレミスと比較して、開発コストを大幅に圧縮
  • 『 OncoGuide ポータル』、『OncoGuide NET』の継続的な機能拡張を検討
  • 外部機関と連携した総合的なデータ分析を通してがんゲノム医療の社会実装
    に貢献へ

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