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2023 竹内製菓株式会社

竹内製菓、製造設備の異音を AWS の機械学習モデルで検知する予知保全システムを導入し、生産ライン停止のリスクを大きく低減

消費財(食品)

概要

新潟県小千谷市を拠点に『極上柿の種』をはじめ、もち米を主原料とした菓子の製造を手がける竹内製菓株式会社。同社の工場では、製造設備のチェーンコンベアの故障の低減が長年の課題でした。そこで、Amazon SageMaker を使用した予知保全システムの開発に挑戦しました。コンベアの異音を捉える機械学習モデルを使ったシステムによって、機械の故障の兆候を察知し、生産ラインへの影響を最小限に抑え、商品の安定供給につなげています。

A close-up view of assorted Japanese snacks displayed in small bowls, with colorful packaging in the background on a red display tray.

課題・ソリューション・導入効果

課題

商品の製造過程で生じる機械の故障の抑制

竹内製菓は、新潟県小千谷市に 2 か所の工場を構え「柿の種」などのもち米菓を製造・販売する菓子メーカーです。大手メーカーがうるち米を使った商品を提供するなか「あられ、おかき、ひとすじに」をモットーに、もち米のおいしさを追求するお菓子を作っています。味や風味にこだわった柿の種やあられなどの自社製品に加え、他社の OEM なども手がけるなど、幅広い商品提供を強みとしています。近年は、生産ラインの効率化や社員の負担軽減のためデジタル技術の導入にも取り組んでいます。

同社は以前から、生産過程の菓子に温風をあてて乾燥させたり、バーナーで炙ったりする際に使用するチェーンコンベアの故障に悩まされてきました。「さまざまな種類のコンベアが 10 機ほどありますが、これまで年に数回故障が起きていました。生産ラインが止まってしまうと次の工程に進めなくなり、特に繁忙期には機械に空きがないため大きな影響が出てしまいます。故障の内容によっては業者に依頼して復旧までに 3 日程度かかることもあり、賞味期限のあるものですので、場合によっては廃棄しなければならないこともありました」と語るのは、常務取締役の竹内将範氏です。

チェーンコンベアの故障は、生産過程でゆっくりと進行して発生します。機械の様子をよく知る熟練の社員であれば、経験と勘でその予兆をとらえることもありますが、常に彼らに頼るわけにはいきません。毎日の始業時と終業前にはコンベアを空回しして点検も行ってきたものの、すべての故障を防ぐことは難しい状況でした。

同社は、販売管理システムの導入支援などで関係を築いてきた株式会社トラストに、さまざまな業務課題を相談するなかで、この課題を挙げました。そしてトラストが提案したのは、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の機械学習プラットフォーム Amazon SageMaker を使ってチェーンコンベアの故障を事前に検知できるシステムの構築でした。熟練社員が機械の異常を音で察知できるという話から、故障の予兆となる異音を検知し、通知する仕組みを着想したのです。竹内氏は「社員の高齢化や人手不足もあり、常時監視は難しいと思っていました。クラウドの機械学習システムなら、社員に負担をかけることなく任せられるという点に可能性を感じました」と振り返ります。

ソリューション

正常な動作音を学習するアプローチで、異音を検知する仕組みを構築

異音検知システムの開発は、2022 年の 7 月から始まりました。トラストはこの機械学習システム構築において「教師なし学習」の手法を採用しました。一般的に、モデルが正確で豊富なデータを学習できる場合は「教師あり学習」となりますが、今回のケースでは故障の兆候となる異常な音のデータを十分に得ることが難しかったためです。そこで、正常時のコンベア動作音を基本データとして、異音が現れた際にそれを検知するアプローチとなりました。

まずは、1 台のチェーンコンベアでシステムの実証実験を行いました。市販のマイクを使用し、マイクロコンピュータボードを経由して定期的に録音された音声データを AWS に送信します。AWS 側では、録音データを Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)で保管し、Amazon SageMaker を利用して機械学習の推論を実施。モデルの学習ができたあとは、異音が検知されると Amazon Simple Notification Service(Amazon SNS)を通じて、管理者にアラートの E メールが送信されるようになりました。E メールを受け取った竹内製菓の管理者は、リンク先から音声を再生するほか、現場に赴いてメンテナンスが必要かどうか判断を行うという流れです。

実証実験の過程ではさまざまな音を試し、どの音が故障の兆候となるかを把握するための工夫が重ねられました。工場内では多くの機器が動作しているうえ、製品の重さによって音の質も異なるため、ノイズ除去やデータの長さなど、取得データを適切に設定していく必要があったためです。竹内氏も積極的に検証作業に参加し、システムの精度を高めていきました。

「異常音が出たという通知メールを受信後、製造現場を確認して機械の状況をトラストのエンジニアに伝えていきました。検知の感度を高めたところ、メールが多くなりすぎてさばききれなくなったこともありました。それでも精度を高めるためには、多くの通知に基づく細かな調整が必要で、半年程度やり取りを重ねてシステムを整備していきました」(竹内氏)

トライアルアンドエラーを繰り返し、初の検知モデルが完成したのは 2022 年末でした。その後、検知するチェーンコンベアの台数を増やし、2023 年の 4 月にはすべてのチェーンコンベアで異音検知が可能となりました。

導入効果

故障前のメンテナンスで生産ライン停止を最小限に

チェーンコンベアの異音検知システムは、導入の初期からその効果が表れたと竹内氏は語ります。「あるとき異音を検知したというメール通知を受け、半信半疑で工場に行って確認したところ、一部のピンが折れているのが見つかりました。このシステムのおかげで、放置すれば設備を止めて 3 日間ほど修理しなくてはならないような損傷を、稼働時間外のわずか 2 時間のメンテナンスで修復できました」

異音検知の E メールは竹内氏や工場長だけでなく、社長などの経営層にも送信されるよう設定しており、関係者に広く伝えることで、何か起こったらすぐに対応できる体制を整えています。

「四六時中機械を監視する必要がなくなり、関係者の心理的な負担が軽減されました。システムが確立できたことで、始業時と終業前の機械の見回り作業も廃止しました。さらに信頼性が増していけば、お盆休みや年末年始に機器を解体してチェックする作業も減らせるのではと考えています」(竹内氏)

自社商品だけでなく OEM も手掛ける竹内製菓では、同業他社の稼働状況に応じて、より多くの商品を安定して生産しなければならないときもあります。異音検知によって機械の故障の回数が減らせることで商品の安定供給が実現し、ビジネス全体にも良い影響がもたらされます。

なお、今回のシステム開発費用については、トラストの協力のもとサーバーレスコンピューティングの構成を採用し、機械音のデータの収集サイクルも必要最低限に抑えることで、コストの最適化を実現しています。トラストからの提案や対応について竹内氏は「担当者の方々の人柄にも信頼が置けますし、IT に疎い私たちにもわかりやすく説明してくださるため、気軽に相談ができるうえ、勉強にもなります。お願いして本当に良かったと思っています」と評価しています。

トラストは竹内製菓に対して異音検知システムだけでなく、素材の鮮度管理のための冷蔵庫の監視システムや、バーコードを使った在庫管理システムなども提供しています。竹内氏は、今後も工場のスマート化に取り組む構想を抱いています。「省力化のために、色彩選別ができる AI を使って、商品の品質をチェックする仕組みや、若い人材に技術を伝えるマニュアルのデジタル化などを、引き続きトラストの協力を得て実現していきたいです」

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異音検知システムが確立できたため、始業時と終業前の機械の見回り作業を廃止しました。機械の常時監視が不要となり、関係者の心理的な負担も軽減されています

竹内 将範 氏

竹内製菓株式会社 常務取締役

アーキテクチャ図

アーキテクチャ図

An architecture diagram in Japanese showing an AWS Cloud-based solution for edge device sound data processing using Amazon S3, AWS Lambda, Amazon SageMaker, and Amazon SNS. The workflow details inference and training, including sound data collection, model training, inference, and anomaly notification via email and SNS.

竹内製菓株式会社

1946(昭和 21)年創業。新潟県小千谷市を拠点に「あられ、おかき、ひとすじに」というモットーを掲げ、また社員一人ひとりが「全員職人宣言」を胸に、最高品質のもち米菓のおいしさを追求している。長年培った専門的な技術と知識を駆使し、多様なニーズに応える製品群を市場に提供しており、「極上柿の種」や「サラダ柿の種」、「ホットサラダ」、「昆布あられ」などの自社商品のほか、OEM も手掛ける。

取組みの成果

  • 72 → 2 時間
    故障からの復旧時間の短縮
  • AI 導入による業務負担の軽減
  • 商品の安定供給につながる予知保全の確立

 

株式会社トラスト

AWS セレクトティア サービスパートナー

「新潟発 利益のタネ 共創カンパニー」をモットーに、お客様に寄り添い、きめ細やかな対応力を提供し、AI、IoT、サーバレステクノロジーなどの高度な技術スキルを持つ AWS パートナー。お客様のニーズに合わせてカスタムソリューションをクラウドネイティブで提供し、ビジネスプロセスの効率化や競争力の向上をサポート、お客様のデジタルトランスフォーメーションを成功に導いている。

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