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統合取引監視システムでの高度なインサイト
本投稿は Risk Focus社のAlex Rabaev氏による寄稿を翻訳したものです。
統合取引監視システム
2010 年 5 月に発生したフラッシュクラッシュを受け、米国証券取引委員会 (SEC) は、統合取引監視システム(CAT)と呼ばれる包括的な財務データベースの作成を認可しました。CAT とは、ブローカーディーラーと取引所からの米国の株式とオプションに関わるすべてのアクティビティを受信し、保持する中央リポジトリです。
昨年5 月に、ゲストによるブログ記事「 The Consolidated Audit Trail and the Cloud(統合監視システムとクラウド)」を公開しました。 記事では、AWS PrivateLink を使う事で、AWS ブローカーディーラーが CAT レポート可能なデータを Virtual Private Cloud(VPC) から Financial Industry Regulatory Authority(FINRA) の VPC に転送する方法について説明しています。AWS PrivateLink を使用すると、パブリックインターネットを経由することなく、安全な方法で実行できます。
このブログでは、CAT レポートと例外処理に関連する膨大な量のデータを分析する方法について説明します。AWS コンサルティングパートナーである Risk Focus が開発したソリューションである CATalyticsに焦点を当てます。AWS 上に構築されたオープンソースのダッシュボードにより、ユーザーは例外の解決、質問への回答、CAT レポートに関する問題の根本原因の特定を行うことができます。
課題
CAT に関係するデータの膨大な量と粒度により、ブローカーディーラーが重要な問題と優先順位を決定する事が難しくなります。たとえば、ある株式の 5,000 株を購入する 1 つの親注文を数百個の子注文に分割し、その一部は他の執行ブローカーや取引所に転送されます。
これらの執行ブローカーと取引所は、執行価格がより良ければ、注文を他の場所にルーティングする可能性があります。CAT では、発注ブローカーディーラーによって送信されたデータ、および執行ブローカーと取引所によって送信されたデータが一貫している必要があります。この要件により、注文と執行のやりとりの流れを完全に把握できます。これらのさまざまな組織間で送信されたデータに不整合がある場合、FINRA は関係するすべての関係者に例外事象を生成します。
特定の例外事象を調査するには、ブローカーディーラーは複数のイベントに対して多数の送信レコードを取得する必要があります。たとえば、FINRA が特定のルーティング決定を一致させることができない場合、ブローカーディーラーはルートイベントを確認し、注文証跡を発注時点まで調査する必要があります。 この面倒なプロセスは、規制義務を遵守するための企業側の処理能力に影響するだけではなく、 チームのスケールと最適化、およびカウンターパーティーにタイムリーに対応する能力にも影響します。
解決策
CAT に関係する膨大な量のデータは、エラー解決に数時間、あるいは数日かかることがあります。Risk Focus の CATalytics というカスタマイズ可能なダッシュボードを使う事で、ブローカーディーラーは CAT に送信された情報および FINRA によって生成された例外事象の両方を表示できます。
これはAmazon QuickSight上に構築され、CAT レポートに関連する大量のデータの処理、管理、可視化に役立ちます。その結果、CAT チームは調査時間を数分に短縮できるだけでなく、進行中の CAT アクティビティとプロセスを簡単にモニタリングできるようになります。CATalytics の機能には以下が含まれます。
- データの可視化 – 主要評価指標 (KPI) のグラフの作成、検索結果の動的な操作、ボリュームとエラーの傾向の表示、カスタムのドリルダウンフィルタの開発
- 管理ツール- 違反アラートの提供、RAG ステータスの取得、CAT の監督業務の履行。
- セルフサービスツール- エラー修正の実行と JIRA リクエストの作成
組織で CATalytics を使用する方法
CAT レポートは組織内の複数のチームに影響するため、エンドユーザーごとにビジネス要件が異なります。 CATalytics は、オペレーション、コンプライアンス、テクノロジーなど、さまざまなビジネスユニットのニーズを満たす多彩なソリューションを提供します。
オペレーション チームは、CAT レポート、エラー解決、およびメンバーと参加者からのクライアントクエリの一般的な正常性を確認します。CATalyticsは、既存のツールやプロセス(JIRAなど)と統合可能であり、オペレーションチームによる継続的なモニタリングを支援します。ダッシュボードビューを使用すると、エラーの影響をすばやく把握し、注文管理システム(OMS)、または執行管理システム(EMS)から関連する注文と取引の詳細を特定できます。次に、CATalytics はその情報を FINRA CAT に送信されたレコードと比較し、エラー解決を迅速化します。
コンプライアンス チームは、規制当局、取引所、その他のブローカーディーラーとやり取りして、特定のクエリや問題に対処します。また、内部レビューや規制上の報告の提出に関する統制などの監督業務も担当します。CATalytics は、超過エラー率やボリュームスパイクを知らせる特定のレポートを生成するのに加え、コンプライアンスチームが特定の取引活動を調査およびモニタリングするのを支援します。また、管理業務を容易にするカスタムレポートも用意されています。(たとえば、レポートの正確性を確保するために、新しい注文のランダムなサブセットを確認します)。
テクノロジーチームも、 CATalytics のメリットを得られます。CATalytics では、遅延レポートや失敗したジョブについてテクノロジーチームに警告することができます。
リファレンスアーキテクチャ
AWS にデプロイされる完全なサーバーレスソリューションとして、CATalytics は AWS PrivateLink を介して FINRA からブローカーディーラーの AWS 環境にデータを取り込みます。データは Amazon S3 に保存され、 AWS Glueを使用してカタログ化されます。 Amazon Athena はクエリエンジンとして使用され、Amazon QuickSight はビジネスインテリジェンスと可視化のために使われています。さらに、 Amazon CloudWatch はシステムおよび運用情報をキャプチャし、同じ統合ダッシュボードに表示します。
CATalytics をクラウドにデプロイすることで、以下のメリットが得られます。
内部要件と準備状況に応じて、4〜8 週間でお客様の CAT 環境とクラウドサービスを簡単に統合
- クラウド分析 とビジネスインテリジェンスのメリット
- インフラストラクチャの管理が不要なサーバーレスアーキテクチャ
- すべてのコンポーネントに対する従量課金制モデル
- データ保護、ネットワーク保護、ログ記録、監査などのセキュリティ機能
まとめ
ブローカーディーラーは、取引と注文のライフサイクルを完全に可視化することに関して非常に大きな課題に直面しています。CATalytics は、CAT チームにカスタマイズ可能なダッシュボードを提供し、AWS 環境の利便性から問題を解決できるようにします。ビジネスニーズに合わせて CATalytics をカスタマイズする方法の詳細については、 RiskFocus.com/CATalyticsをご覧ください。
翻訳はソリューションアーキテクトの澤野佳伸が担当しました。原文はこちらです。