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ヘルスケア・ライフサイエンスの意思決定と業務の高度化を実現する HealthData x Agent を発表

ヘルスケア・ライフサイエンス業界では、患者ケアの質の向上とイノベーションの加速が強く求められています。一方で、現場では様々な課題に直面しています。ヘルスケアの現場では、診療記録の作成や情報検索に多くの時間が費やされ、患者と向き合う時間の確保が課題となっています。また、診療データの標準化や部門間での情報共有も容易ではありません。電子カルテやPHR(個人健康記録)、検査データなど、様々な形式のデータを統合的に活用することは、依然として大きな課題です。ライフサイエンス業界においても、研究開発の過程で生み出される膨大なデータの処理や、過去の知見の効率的な活用が重要な課題です。臨床開発では、試験計画の立案から実施、解析まで、データに基づく迅速な意思決定が求められています。さらに、リアルワールドデータの活用や、早期の安全性シグナルの検出など、より高度なデータ活用のニーズも高まっています。このような状況の中、生成AIへの期待が高まっています。自然言語での対話的なデータ活用や、複雑な分析タスクの自動化により、業務効率の大幅な改善が期待できます。特に、生成AIを活用したエージェントは、ユーザーの意図を理解し、必要な情報やアクションを適切に提供することで、業務プロセスを大きく改善する可能性を秘めています。

世界、そして日本のお客様からのこうした声を踏まえ、本日AWSは、ヘルスケア・ライフサイエンス業界に特化した生成AIソリューション「HealthData x Agent」(ヘルスデータエージェント)を発表しました。これは、実際の業務シーンですぐに活用できる生成AIデモとツール群です。HealthData x Agentは、診療現場での記録作成の効率化から、創薬研究におけるデータ分析の高度化まで、数十のユースケースに対応します。業務フローに自然に組み込める形で、生成AIの活用を支援します。また、医療情報の取り扱いに求められる高度なセキュリティ要件や、各種規制へのコンプライアンスにも十分な配慮がなされています。本ブログでは、HealthData x Agentが提供するソリューションのうちお客様のご要望の多かったものと、その活用シーンについてご紹介します。ヘルスケア・ライフサイエンス業界の業務担当者の皆様に、生成AI活用の具体的なイメージを持っていただければ幸いです。

ヘルスケア業界のソリューション

医療現場での業務効率化と質の向上を支援するため、HealthData x Agentは以下の3つの領域でソリューションを提供します。医療従事者の方々が、より多くの時間を患者のケアに充てられるよう、AIエージェントが様々な業務をサポートします。

診療記録作成の効率化

医師や医療スタッフの記録業務の負担を軽減するため、複数の文書作成支援ソリューションを提供しています。これらのソリューションは、日々の診療業務の中で自然に活用できるよう設計されています。

退院サマリーの自動作成

入院診療の要点を簡潔にまとめた退院サマリーの作成を支援します。診療記録から重要な情報を抽出し、構造化された形式で文書を自動生成。医師は生成された内容を確認・編集するだけで、質の高い退院サマリーを作成できます。入院期間中の主要な検査結果や治療内容、経過なども自動的に要約され、転院先や診療所との円滑な情報共有を実現します。

放射線読影レポートの患者サマリ生成

放射線科医の読影レポートから、患者や他科の医師向けに分かりやすい要約を自動生成します。専門用語を平易な表現に置き換えながら、重要な所見や結論を簡潔にまとめることができます。画像所見の経時的な変化や、臨床的に重要な変化も分かりやすく提示することで、患者への説明や他科との連携がスムーズになります。

音声入力によるSOAP文章生成

診察室での会話をリアルタイムに文字起こしし、SOAP形式(主観的情報、客観的情報、評価、計画)の診療記録として自動で構造化します。自然な診療の流れを妨げることなく、正確な記録を作成できます。2チャンネルの音声入力に対応し、医師と患者の会話を適切に区別して記録。さらに、関連する病名や国際疾病分類 第10版に対応したICD-10コードの候補も自動で提案します。

臨床意思決定支援

AIエージェントによる褥瘡予防マットレス選定

患者の状態や褥瘡リスクに応じて、最適な褥瘡予防マットレスを選定するAIエージェントです。日本褥瘡学会の褥瘡予防・管理ガイドラインの知識ベースと、院内で利用可能なマットレスの在庫情報を組み合わせ、エビデンスに基づいた選定を支援します。看護師は対話形式で患者の状態を入力するだけで、適切なマットレスの提案を受けることができます。また、選定理由も明確に示されるため、チーム内での情報共有や教育にも活用できます。

医療データ分析アシスタント

HL7 FHIR形式で標準化された医療データに対して、自然言語で質問し回答を得ることができます。患者の検査結果や治療経過など、必要な情報に素早くアクセスし、より良い医療判断をサポートします。複雑なデータ検索や分析も、会話形式で簡単に実行できるため、日常の診療業務の中で効率的に情報活用が可能です。

データ活用

生成AIによるFHIRマッピング

様々な形式の医療データをFHIR形式に標準化する作業を支援します。生成AIの活用により、データ項目の対応付けやマッピングルールの作成を効率化し、異なるシステム間でのデータ連携を促進します。これにより、組織を超えた医療情報の共有や二次利用が容易になり、より質の高い医療サービスの提供が可能になります。

健診データの分析と可視化

健診センターの実績データを分析し、経営判断や健康増進施策の立案に活用できるインサイトを提供します。自然言語でのデータ分析が可能で、専門的な知識がなくても必要な情報を得ることができます。また、経年変化の分析や人口統計学的な傾向の把握も容易で、予防医療の推進や健診サービスの改善に役立てることができます。

ライフサイエンス業界のソリューション

ライフサイエンス業界では、研究開発の加速化からコマーシャル活動の効率化まで、データドリブンな意思決定を支援する多様なソリューションを提供します。

研究開発支援

マルチモーダルデータ解析によるバイオマーカー探索

臨床データ、オミクスデータ、画像データなど、多様なモダリティのデータを統合的に分析し、新たなバイオマーカーの発見を支援します。AIエージェントが研究者との対話を通じて、複雑なデータ解析のワークフローを自動で構築。データの前処理から統計解析、可視化まで、一貫した分析環境を提供します。
さらに、公開文献やリアルワールドデータとの統合分析により、バイオマーカーの臨床的意義や有用性の評価も効率的に実施できます。研究者は、専門的なプログラミング知識がなくても、高度なデータ分析を実行することが可能です。

AIエージェントを活用したラボオートメーション

創薬研究におけるDMTA(Design-Make-Test-Analyze)サイクルを効率化するAIエージェントです。研究者との対話的なやり取りを通じて、実験計画の立案から結果の解析まで、一連のプロセスを支援します。
例えば、抗体医薬品の開発では、抗体配列の設計から特性予測、実験結果の評価まで、AIエージェントが自律的にプロセスを実行。機械学習モデルを活用した予測と実験結果のフィードバックにより、効率的な最適化サイクルを実現します。

HealthOmicsを活用したタンパク質デザイン

AWS HealthOmicsと連携し、タンパク質の構造予測や特性最適化を支援します。事前学習済みの言語モデルやプロパティ予測モデルを活用することで、目的に応じた新規タンパク質配列の設計が可能です。バイオテクノロジーや創薬研究において、より効率的な分子設計を実現します。

臨床開発・製造

臨床試験プロトコルの自動生成支援

過去の臨床試験データや公開文献の知見を活用し、効率的なプロトコール作成を支援します。ClinicalTrials.govやPubMedのデータを自動で解析し、類似の試験デザインや重要な考慮点を抽出。さらに、社内の過去の試験情報も参照し、より質の高いプロトコール案を生成します。
人間による判断を補完する形で、エビデンスに基づいた試験デザインの検討が可能です。また、生成されたプロトコールは規制要件との整合性も確認されます。

製造プロトコール文書のコンプライアンス確認

生成AIを活用して、製造プロトコール文書(MPD)と標準作業手順書(SOP)との整合性を自動的に検証します。不整合や漏れ、不正確な記述を特定し、コンプライアンス違反のリスクを低減します。
文書間の相違点を詳細に分析し、修正が必要な箇所を明確に示すことで、品質管理担当者の作業効率を大幅に向上させます。また、規制要件の変更にも迅速に対応し、常に最新の基準との整合性を確保できます。

コマーシャル・メディカル

医薬品情報提供資料の生成・レビュー

添付文書や論文から、医師や患者向けの情報提供資料を効率的に作成できます。生成AIを活用して、対象に応じた適切な表現での説明文を自動生成。さらに、コンプライアンス要件に基づく自動チェック機能により、規制遵守も確実に行えます。

有害事象シグナル分析

FDAの有害事象報告データベース(FAERS)やPubMedの文献情報、製品ラベル情報などを統合的に分析し、安全性シグナルの早期検出を支援します。AIエージェントが自動的にデータを収集・分析し、潜在的な安全性の課題を特定。統計的なシグナル検出に加え、文献による裏付けも自動で検索します。
医療専門家は、対話形式でデータを探索し、特定の有害事象や製品に関する詳細な分析を実行できます。また、検出されたシグナルの重要度評価や、安全対策の立案までを一貫してサポートします。

セールスコンシェルジュ

生成AIを活用して、MRの営業活動を効率化・高度化するソリューションです。医師とのエンゲージメント履歴、製品情報、最新の医学文献などのデータを統合的に活用し、パーソナライズされた提案内容の作成を支援します。また、リアルタイムでの情報アクセスにより、医師からの専門的な質問にも適切に対応できます。

さいごに

HealthData x Agentは、ヘルスケア・ライフサイエンス業界におけるデジタルトランスフォーメーションを加速する新たなソリューションです。生成AIの力を活用し、より良い医療の提供と革新的な創薬の実現をサポートします。

導入・活用のための支援体制

お客様のニーズに応じて、以下の2つの方法で導入いただけます:

  • オープンソースによる提供
    • GitHub上で公開されているサンプルコードやデモの活用
    • 自社環境に合わせたカスタマイズが可能
    • コミュニティによる継続的な改善と機能拡張
  • AWS Professional Services による導入支援
    • 要件定義から実装まで、専門家による包括的なサポート
    • 既存システムとの統合設計
    • セキュリティとコンプライアンスへの対応支援
    • 運用体制の確立とナレッジ移管

継続的な進化への取り組み

お客様とともに歩みながら、HealthData x Agentを継続的に発展させていきます:

  • 新たなユースケースへの対応
  • 既存機能の改善と高度化
  • お客様からのフィードバックの反映
  • 業界標準や規制の変化への迅速な対応

詳細については、以下のリソースをご参照ください:

著者について

Tetsuto Matsunaga

松永 徹人 (Tetsuto Matsunaga) ヘルスケア・ライフサイエンス ビジネスユニット シニアソリューションアーキテクト
国内外のヘルスケア・ライフサイエンスのお客様のクラウド利用を支援しています。SIerやコンサルティングファーム、製薬企業にてライフサイエンス業界へのITサービス提供の豊富な経験があります。