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物流 DX セミナー 開催報告
本ブログでは、2022年11月24日(木)に開催した アマゾン ウェブ サービス (AWS) 「物流DXセミナー」のサマリーをお届けします。今回は三井倉庫ホールディングス株式会社様、日本郵船株式会社様、株式会社Hacobu様にご登壇いただき、各社様から非常に先進的な取り組みをご紹介いただきました。物流業界は消費者の生活様式や国際情勢の急激な変化の影響を受け、さまざまな課題に直面していますが、生活インフラとしてその重要性は増すばかりです。このような状況下でもデジタルの力を使ってさらなる成長を目指している皆様にとっては大変参考になるセッションばかりでした。皆様の今後の取り組みにおいて、良きリファレンスモデルになるものと期待しております。
執行役員 南哲夫よりのオープニングコメント
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 執行役員の南より、物流DXセミナー開催するにあたり物流業界に対しての課題認識や AWS のテクノロジーがサポートできる領域が多岐にわたってあることについてコメントをしました。
物流業界では、コロナ禍や円安、働き方改革関連法による2024年問題、さらには環境負荷低減など、抜本的な構造改革が迫られています。テクノロジーの進化により、AI/MLやビッグデータ、IoTの活用をすることで、物流DXの切り開きました。これらのテクノロジーをうまく活用している企業は、その市場において新たなリーダーとなりつつあります。
しかしながら、ほとんどの組織はまだそこまで至っていません。オペレーションプロセスのあり方に関するマッキンゼーの最近の調査では、約80%の企業が依然として、リアルタイムの意思決定やオペレーションの自動化が限定的な従来の販売・業務計画プロセスに従っていることが示されています。これらのプロセスは、信頼性が低くサイロ化されたデータソースやレガシーなITシステムに依存していることが多く、機能間の連携も限定的です。
本セミナーでは AWS のテクノロジーを活用し、AI/MLやデータレイク、IoTの技術を通じて、物流におけるエンドツーエンドの可視化やリアルタイムデータを活用したタイムリーで自律的な意思決定やプランニングといった物流のモダナイゼーションを実現している企業の事例をご紹介します。
基調講演:AWS が考える物流DX
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 エンタープライズ技術本部 ソリューションアーキテクト 横山 誠
オープニングでは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社のソリューションアーキテクト横山より“AWSが考える物流DX”と題し、物流業界において実現するべきDXのあり方を事例を交えてお話ししました。
物流DXとして紹介されるロボットによる倉庫作業やドローン配送のようなテクノロジーは必ずしも広く普及しているとは言えない状況です。その一方で、アマゾンやフレックスポートなど物流DXを実現していると言われる先進的な物流テック企業では、莫大なデータをリアルタイムで収集し、分析・可視化するプラットフォームを構築しており、継続的な業務効率化やサービス拡充の原動力になっています。このようなプラットフォームはいずれもAWSが提供するクラウド型ストレージやDWH、BI、高速なCPU/GPUなどのテクノロジーを活用して構築されています。これらのサービスはいずれも従量課金で提供されており、どのような企業であっても実務における有用性を確認しながら自社の文化やビジネスに合わせたDXを実現することが可能です。
しかしながら、物流業界ではいまだ多数稼働しているメインフレームやオフコンなどのレガシーシステムは、先進的な取り組みの足枷になっています。このようなIT負債の解消は物流DXのスタートラインに立つため喫緊の課題となっている現状についてお話しさせていただきました。
物流DXとは、ロボットやAIを導入することではなく、現場で働く人々や荷主企業にとって有益な取り組みを継続的に創造するための仕組みづくりであると考えています。AWSが提供する様々なサービスを組み合わせ、お客様それぞれにとって最適なDXを実現していただくことを願っております。
三井倉庫ホールディングス株式会社:国内・国際輸送も網羅した物流CO2排出量一括算定システムの開発
三井倉庫ホールディングス株式会社 サステナビリティ営業部 大野 雅也 様
三井倉庫様では輸入貨物、輸出貨物を取り扱う港倉庫を始め、海上輸送、国内の輸送などの物流サービスを主力の事業としており、現在では主に製造業や商社のお客様のサプライチェーン全体に対して一貫した物流機能を提供できるようになっています。近年、企業のサプライチェーンに取り巻くリスクとして、CO2 排出量の算定および削減に伴う環境リスク、ドライバーなどの物流全体の労働力の減少、EC 市場拡大による物流量の増大による労働力リスク、毎年激甚化する気候変動変動関連の災害の発生による災害リスクの3つのリスクがあります。三井倉庫様ではこの3つのリスクを可視化し、改善することでお客様のビジネスをリスクから守る仕組みとして、SustainaLink というサービスを提供しています。
今回の公演では、主に“SustainaLink” 物流 CO2 算定・削減サービスについて紹介していただきました。製造業や小売業界においては、多くの場合、自社の製造前後のサプライチェーン上で発生する Scope3 の CO2 排出量が 8 割以上を占めています。 このサービスでは、サプライチェーン全体での CO2 排出量を対象に算定を行っています。
サプライチェーン全体の CO2 算定を実施するため、国際的なルールである GHG プロトコルベースで算定することが国際標準になっています。“SustainaLink” 物流 CO2 算定・削減サービスでは、GHG プロトコルベースの国際輸送での CO2 を算定するための厳密なルールである GLEC Framework (Ver2.0) を用いて国際輸送の CO2 を算定しています。国内輸送については環境省/経済産業省 基本ガイドラインをベースに算定を行っています。
算定の流れとしては、まずお客様と算定するターゲットを設定し、CO2 算出に必要な物流データをお客様から受領します。これらのデータをシステムに投入することによって、算定結果が得られます。算定結果を元に CO2 の排出量の分析を行い、年次別レポートの作成や削減につながるシミュレーションを行います。“SustainaLink” 物流 CO2 算定・削減サービスで算定した結果を元に、改善を行うことで CO2 削減に成功したお客様の事例として、国内長距離輸送のモーダルシフトおよびグローバルサプライチェーンの再構築の事例を紹介いただきました。
CO2 算定システムは AWS 環境下で開発、構築されており、6ヶ月程度の短い開発期間で実現しています。今後の構想として、三井倉庫様の基幹システムを順次 AWS でクラウド化し、お客様の受発注システムや運送業者のシステムなどとスムーズなシステム間の連携を目指しています。クラウド化、AWS 化をすすめる理由について、大野様からはシステム連携のスピードが早くなること、セキュリティ面での安心感、DX に対するスピード感があるとお話されていました。
日本郵船株式会社:物流を途切らせない 日本郵船の本船IoTデータの活用
日本郵船株式会社 海務グループ グループ長代理 山田省吾 様
日本郵船様は、1885年に創業された海運会社です。現在、日本郵船様では、船舶のメンテナンスに、IoTデータを活用したCBM(Condition Based Maintenance)を用いています。
船舶と陸上でデータを共有するために通信が必要になりますが、陸上と比較すると、船舶の通信速度は、最大でも50Mbpsで、多くの船舶は1桁Mbpsで運用していることが多いでようです。ただ以前までは船舶と陸上では、通話は出来ましたが、通信が出来るようになったのは10年程前からで、通信が出来ることになったことをきっかけに、日本郵船様では、船舶のIoTデータ活用に注目しました。
データをSIMS(Ship Information Management System)というデータ収集装置から海上から陸上に送信しデータが、Amazon S3 に保存され、Amazon Redshift で分析されています。又、収集されたデータは、”LiVE“ と呼ばれる Viewer で、”見える化” を行い、陸上でも船舶の運転状況を把握出来る仕組みを構築しています。 “LiVE” の大きな役割として船舶から送信されたデータに含まれる異常値を発見することです。この監視作業は、担当者が手動で実施していましたが、この部分を、AI(異状検知システム)に置き換え自動化しています。ただAIの異状検知結果は完璧ではないので、Expert(専門知識を持った人)が精査し、人とAIがそれぞれの得意分野を分担し、より正しい結果を導き出す仕組みを作っており、日本郵船様では、“Expert-in-the-Loop” と呼んでいます。
複数の機械学習モデルを用いた異状検知システムを適切に開発し運用するためには、正しいプロセスを回す必要があり、モデルの劣化、誤ったコードによるビルドにより、異常値の見逃しや、誤検知の増加により、エンジニアの業務が増加するとのことです。そのようなリスクを避けるために、MLOPSの概念を取り入れたシステムアーキテクチャを導入しています。これにより、Expertからのフィードバックを、モデル改善に反映するようにしているとのことです。
最後に
山田様は、デジタル資本主義による、会社価値の源泉はデータであると考えており、付加価値を生み出すメカニズムが変わってきていると感じているそうです。今後も現場を重視したユーザ視点でデータを活用して、オペレーションとハードとソフトの全体最適を進めていきたいと仰っておりました。
株式会社Hacobu:データドリブン・ロジスティクス®による「三方よしの物流DX 」の進め方
株式会社Hacobu 執行役員 CSO 佐藤健次 様
株式会社Hacobu 執行役員 CSO 佐藤健次様からは“データドリブン・ロジスティクス®による「三方よしの物流DX 」の進め方”についてご講演いただきました。
株式会社Hacobuは「データで運ぶを最適化している世界」を作っていくことを目指し、アナログな情報共有をしている現場を変えていくというミッションに掲げていますが、現状の物流業界では一足飛びにはデジタル化の世界には行かないため、まずは関係者がデジタルにつながる物流インフラを作っていく必要があると考えています。その世界を実現するためにMOVO Berth、MOVO Fleet、MOVO Vistaというサービスをクラウド型で提供しており、サプライヤー、完成品メーカー、卸、小売、店舗、それぞれの間をクラウドサービスで繋いでいくというのがHacobuという会社です。
Hacobuでは、物流データを集め、物流情報プラットフォームを構築し「データで運ぶを最適化している世界」を作っていくために Hacobu Strategy という物流DX専門コンサルタントチームが物流課題をDXで解決することを支援しています。これまでの物流業界では、KKD(経験、感、度胸)を中心に業務が回っていましたが、これからはデータドリブンで改善のサイクルを回していく必要があると考えています。Hacobu では戦略構築支援、SaaS導入支援、データ分析・活用支援、配送業務改善、そして物流DX人材育成支援を通じてデータドリブンで改善のサイクルを現場から行えるように改革を支援していきます。
なぜ物流DXが必要なのかという点については、物流業界を取り巻く三つの課題がありそれぞれ解決していく必要があります。1つ目の課題として、物流の2024年問題が目の前に迫っており、積載効率の向上、手待ち・荷役時間の削減、輸配送ネットワーク再構築などが喫緊の課題として挙げられます。2つ目の課題として、脱炭素社会実現に向けての企業としての対応が求められており、モーダルシフトやトラックのEV化、共同配送といった取り組みが必要となってきています。3つ目の課題として、売上高物流費が増加しているため、そのコストのコントロールが必要となってきています。この三つの課題を同時に解決するためには「シェアリング」が重要であり、共同配送、共同保管、データ共有を進めていくことが重要であるとHacobuは考えています。実際にシェアリングの取り組みは社会的に動き始めており、九州小売13社が横連携するプロジェクト、北海道でコンビニ3社が共同配送の実証実験を開始しており、これらはテクノロジーが下支えして実現しています。
最後にデータの活用や、データシェアリングを実施し課題を解決していった事例をご紹介いただき、Hacobu様はお客様のパートナーとして同様の取り組みをご支援していきますとおっしゃっていました。
Hacobu様のご講演と合わせて、AWSのソリューションアーキテクトである藤倉からMOVO Berth、MOVO Fleet、MOVO Vistaが採用しているアーキテクチャについて説明が行われました。マネージドサービスを活用しマイクロサービスアーキテクチャを採用している点に触れ、AWS Lambda、Amazon EKSを採用したことにより迅速に市場のニーズを取り組んだ開発を進めている点、Amazon DynamoDB、Amazon Kinesisを活用しスモールスタートしスケーラブルなアプリケーションが構築できている点、Amazon Auroraではメンテナンス性に優れ、少ないインフラエンジニアで運用可能で、物流インフラを止めない安定したプラットフォームである点を説明しました。
パネルディスカッション
最後に日本郵船山田様、三井倉庫大野様に再度ご登壇いただき本日の感想と総括をお話しいただきました。両社様とも物流業界共通の課題である労働人口の減少やCO2削減、安全の確保などに対応するためデジタル化の促進が急務であることと、そのためにデータの整備や標準化がますます重要になっていると感じられています。また、本日ご紹介いただた取り組みをさらに発展させるため、異なるプラットフォームとの連携やメーカー等関係者との共同研究やルールづくりも進めてゆきたいとのお話しもいただきました。
今後の展望
今回のセミナーには物流に関連した大変多くのお客様にご参加いただき、その反響の大きさを実感しております。登壇されたお客様からは、物流におけるさまざまな課題を解決する手段としてのDXの具体的な取り組みと、その中でどのようにデータやテクノロジーを活用されてきたのか、試行錯誤の過程も含めて語っていただきました。これらがセミナーに参加した皆様のヒントに少しでもなれば幸いです。また、AWS のミッションの一つとして、お客様と共にイノベーションを促進していくことがあります。何かお困りのことやご相談などあれば、お客様・パートナー各社様向けの相談の時間帯を随時設けておりますので、ぜひ AWS までご相談ください。
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本ブログは Solutions Architect の横山、程、齋藤が執筆し、シニア事業開発マネージャー 竹川/シニアソリューションアーキテクト藤倉が監修しました。
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