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アイピー・パワーシステムズが、オンプレミスの Oracle Database を Amazon RDS for Oracle に移行し、インフラの運用工数とパフォーマンスを大幅改善

アイピー・パワーシステムズは、マンション等に設置されている非常用電源装置のメンテナンスサービス、電力一括受電サービス、受変電設備工事を中心に事業を展開している JCOM のグループ会社です。アイピー・パワーシステムズでは、オンプレミスの仮想環境上で稼働していた電力管理システム等を 2024 年 1 月に AWS に移行。データベースもオンプレミスの Oracle Database から Amazon RDS for Oracle に移行しました。本ブログでは、アイピー・パワーシステムズが移行した電力管理システムについて、AWS への移行検討から移行までの流れと移行後の効果や課題について、お客様の声をご紹介します。

移行対象のシステム

お客様は、オンプレミス上にある仮想環境に複数のシステムを構築しており、その中のメインのシステムである電力管理システムは、1,500 棟以上のマンションに設置されたスマートメーターから定期的に転送されてくる検針データを収集し、集計、料金計算、請求処理などを行うシステムです。このシステムのデータベースは、Oracle Database を採用していて、データ量が多く数億レコードを超えるテーブルが数テーブルあり、その中の一つは約 100 億近いレコードを格納しているような状況でした。このシステムは、1,500 以上のマンションから逐一データが転送されるため、システムが停止してしまうとデータ転送ができず、料金計算などの業務に影響が出てしまうような状況でした。

当該システムにおける課題

当該システムをオンプレミスで運用している中で、いくつかの課題がありました。

・老朽化による運用負荷

当該システムが含まれる仮想環境とハードウェアは老朽化により、障害対応やメンテナンス作業が頻繁に発生しているような状況で、土日や深夜などの業務時間外対応も発生していたため、運用担当者にとって運用負荷が高い状況でした。また、データ量が多いテーブルに対する参照処理が集中してしまうとパフォーマンス問題が発生することもあり、その問題の原因調査などの対処にも多くの時間が発生していました。

・拡張性への懸念

上記パフォーマンス問題への対処や、今後のデータ量や処理量が増えた場合スケールアップする必要がありますが、現状の環境ではデータベースのライセンスをすぐに追加することが難しく、データベースサーバーの拡張でも設定変更などの準備作業が必要であり、このような拡張性への懸念を抱えたまま運用している状況でした。

・BCP 対策への懸念

BCP対策も重要な課題でした。オンプレミス環境ではバックアップデータの遠隔地への保管は実施していましたが、実際に障害が発生した時にリカバリによる業務停止時間が大きくなる可能性がありました。また、運用に伴う設定変更などでバックアップしていたデータが正常にリカバリできるのか、システムとして正常に稼働できるのか、といった障害発生時の復旧についても懸念を抱えた状態での運用が続いていました。

クラウドへの移行を検討

このような状況から、ハードウェアを保持せず、スケールアップやメンテナンスなどのデータベース運用負荷が削減できるクラウドを前提に移行検討を開始しました。移行先の候補として複数のクラウドを対象にしました。移行に向けた検討項目としては、先の課題を解決可能なアーキテクチャであることはもちろん、コストや移行性などの項目で比較検討しました。一方で、定性的な観点として、事例数、クラウドベンダーやサードパーティが公開しているブログやセッション情報などの技術情報量、サポートの質、障害やメンテナンスによる運用担当者への負担など、現場の運用担当者にとって使いやすいクラウドであることも採用時の重要なポイントになっていました。そして、これらの検討項目を総合的に判断した結果、AWS に移行することに決定しました。データベースは、拡張性やバックアップ、Amazon RDS Performance Insights による運用の効率化、ワンストップでのサポートなどを考慮して RDS for Oracle SE2(License Included) を採用し、データベースの移行はダウンタイムを削減しつつ移行可能な AWS Database Migration Service(DMS) を採用することになりました。

アーキテクチャ

AWS 移行後のアーキテクチャは以下の通りです。

AWS 移行準備と移行

AWS への移行は3つのフェーズに分けて実施しました。

・フェーズ1

全体の移行設計と、仮想環境上にある小規模システムの AWS への移行を実施。同時に、AWS Direct Connect によるオンプレミスと AWS 間のネットワークを構築。

・フェーズ2

電力管理システムの移行を実施。データベースについては並行して電力管理システムの大規模改修プロジェクトが走っており、そのプロジェクト完了後の移行としていたため、データベース以外のアプリケーションを AWS に移行。

・フェーズ3

オンプレミスの Oracle を RDS for Oracle に移行。Oracle のバージョンアップに伴うアプリケーション側への対応や、RDS for Oracle 採用に伴い SYS ユーザーで実行していたプログラムの修正、DMS によるデータ移行のテストなど、RDS for Oracle 移行に向けた準備作業を実施。2024 年 1 月、RDS for Oracle への移行が完了し、すべてのシステムの AWS への移行を完了。データ移行については、DMS を使うことで、データ移行自体はほぼリアルタイムでの移行。移行時のプログラム切替作業や、アプリケーションテストなどで数時間のダウンタイムは発生しましたが、想定より短いダウンタイムでの移行を実現。

移行後の効果と課題

今回の AWS への移行により、以下のような効果を確認することができました。

・運用工数を約 25% 削減

ハードウェアの障害対応やメンテナンスなどの対応がなくなり、土日や夜間の緊急対応もほぼゼロになりました。テスト環境の構築も容易になり、オンプレミスの時と比較して運用担当者の工数を約 25% 削減することができました。

・パフォーマンスの改善

老朽化したハードウェアから RDS for Oracle に移行することで、パフォーマンスが改善しました。顧客計算の処理が 10 秒から 2 秒、データのロード処理も 15 分から 5 分に改善し、その他の処理でも改善が見られました。これにより、オンプレミスで発生していた参照処理の集中によるパフォーマンス問題も発生しなくなりました。さらに、Performance Insights でデータベースのパフォーマンス情報が可視化されたことで、定期的に Performance Insights を確認して効率が悪い SQL をチューニングするなど、より積極的な運用も可能になりました。

・マネージドによる安定稼働

RDS for Oracle に移行したことで、バックアップや拡張性など、データベース運用にまつわる様々な懸念が解消されました。また、RDSのクロスリージョン自動バックアップを採用して大阪リージョンにバックアップを転送することで課題だったBCP対策も容易に実現することができています。さらに、データベースで問題が発生した際はサポートにワンストップで問い合わせすることができるなど、運用にまつわる運用担当者の工数だけでなく、データベース運用に関する心理的な負荷を大幅に削減することができたことも、目に見えない AWS 移行の大きな効果となっています。

一方で、AWS への移行時の問題もいくつか発生しました。

・移行後のパフォーマンス遅延

データを移行してシステム切り替え後にパフォーマンスが大幅に遅延したため、切り戻しが発生しました。これは、移行先の RDS for Oracle のテーブルにインデックスが存在していなかったことで、不要な読み込みが大量に発生するという事象でした。切り戻し後、入念な移行テストを実施し再度移行した際は問題なく移行を完了させることができています。

・一部パッケージシステムが AWS 未対応

一部のパッケージシステムが EC2 に未対応なものがあり、AWS に移行できず現状もオンプレミスのまま稼働しているシステムがあります。これはパッケージシステム自体の仕様ですが、仮想環境による複数システムでの移行ではこのような可能性があるため、移行評価時に適切に確認する必要があります。

まとめ

アイピー・パワーシステムズでは、今回の AWS 移行により運用時の負荷やパフォーマンスを改善することができました。今回の AWS 移行について、アイピー・パワーシステムズ株式会社 カスタマーオペレーション部情報システムチーム長の榎木 卓郎 氏(写真左)は以下のように振り返っています。

「移行にあたり AWS のソリューションアーキテクトを始めとしたアカウントチームからの手厚いサポートで大変助かりました。移行後はパフォーマンスが改善したことでユーザーからのクレームもなくなりました。AWS サポートの質の高さも感じており、AWS に移行して本当に良かったと思っています。」

– アイピー・パワーシステムズ株式会社 カスタマーオペレーション部情報システムチーム長 榎木 卓郎 氏(写真左)
– アイピー・パワーシステムズ株式会社 カスタマーオペレーション部情報システムチーム 廣瀬 壱行 氏(写真右)

今後は、AWS 移行で削減できた時間を使って、CI/CD の推進やデータベースエンジンの移行、Lambda やReserved Instance を使ったコスト最適化など、AWS のサービスを有効に使ってシステムの安定化やコスト最適化などをすすめていく予定です。