Amazon Web Services ブログ
農林中央金庫様、情報系システムをAmazon Auroraへ移行し、13年間で100億円以上削減へ(Part 1/3)
PART1:Oracle DatabaseからAmazon Auroraへの移行 -検討編-
農林中央金庫は、農林水産業を支える全国金融機関として、金融業務をはじめとした経営健全性確保に向けた指導など、多岐に渡って日本の農林水産業の発展に貢献されています。また、JA・信農連(信用農業協同組合連合会)・農林中央金庫で構成されたJAバンクは、1 つの金融機関として機能するよう運営されており、貯金量 100 兆円超、店舗数 6,000 超、ATM 10,000 台超を誇る巨大金融グループです。
JAバンクの基幹システムである「JASTEM システム」は、2002 年に勘定系と情報系の 2 つで構成されて構築されました。情報系は、勘定系で処理した取引情報や顧客情報を蓄積し、JA 職員が渉外活動やデータ分析等で利用することがメインの役割です。
この度、経営環境の変化に伴うコスト削減要求の高まりや、ビジネスの加速に対応するため、2018 年から 2022 年にかけて、全国 6,493 店舗(2022 年 3 月時点)の JASTEM 情報系システムを Amazon Web Services(AWS)に移行する大規模プロジェクトを実施しました。データベースを Oracle Database から Amazon Aurora に更改したことによるライセンスコスト削減や、ハードウェア費用の削減により、13 年間で 100 億円以上の TCO 削減が見込まれています。
本ブログでは、コスト削減の大きなポイントである Amazon Aurora への移行について、移行検討から移行後の効果までをお客様の声とともにご紹介します。
AWSへの移行を決定した背景
当初はメインフレームの COBOL 環境で運用していた JASTEM 情報系システムは、2010 年のオープン化、2014 年の仮想化、2018 年の IA サーバーへの基盤更改といった形で、計画的にオープン系アーキテクチャへの移行を進めてきました。これにより、いわゆる「技術負債(レガシー技術)」の解消を図ってきました。
一方で、約 4 年ごとの周期で行う基盤更改に、検討から本番までに長い時間がかかっていた事が課題でした。そのため、基盤更改の効率化とコスト削減・合理化を図るべく、クラウド移行の検討を始めました。
この移行プロジェクトでは SI ベンダーの NTT データに支援を仰ぎながら、AWS を含む主要クラウドベンダーを複数の観点から比較しました(図 1 参照)。その結果、現行プログラムプロダクトとの親和性が高く、インフラ導入費用のみならず、長期的な運用コストを含めた TCO (トータルコスト)ベースでも高いコスト削減効果が期待できたことから、AWSの採用に至りました(図 2 参照)。
図1:評価・検証のポイント
図2:AWS移行によるコスト効果
Amazon Aurora PostgreSQLへの移行を決断した背景
JASTEM 情報系システムではこれまで、Oracle Database を利用していました。しかし、主に以下の 3 つの観点から Amazon Aurora の評価を行い、非機能要件(特に性能面)を落とさずにコスト削減が可能であると判断し、Amazon Aurora への移行を決断しました。
- コスト競争力
Amazon Auroraはライセンス費用が不要な分、従来比で3割程度の削減が実現できると見込みました。アプリケーションの改修コストも相当程度発生するものの、全体としては安価になると分かりました。ただし、小規模システムではコスト効果が限定的になる可能性があるため、移行対象システムの規模感が重要であると認識しました。 - 可用性の高さ
3つのアベイラビリティーゾーン(AZ)に渡り、6つのデータコピーを保持するため、エンタープライズ利用に耐えうる可用性があることから、現行環境と同等の可用性の高さが実現可能と判断しました。 - ベンダーロックインリスクの低減
Amazon Aurora は、OSS の PostgreSQL との互換性を持っているため、ベンダーロックインのリスクが低いことを評価しました。
一方で、アプリケーションの非互換改修や処理結果の確認といった開発リスクが伴う点は認識していました。
移行対象データベースの概要
DBエンジン:Oracle Database Enterprise Edition
データ量:最も大きなクラスタで約3TB、全体で約25TB
SQL数:約15,000本
プロシージャ数:351本(※非互換のみ)
可用性要件:99.99%
Enterprise Editionオプション製品:Oracle Partitioning, Oracle Diagnostics Pack, Oracle Tuning Pack
NTTデータの支援体制
本プロジェクトでは、NTT データが提供するプロフェッショナルサービス「あすぽす(※1)」を活用し、アセスメントから実装まで一気通貫で支援いただきました。
<※1 お客様のシステムに最適なデータベースの選定から、移行・導入までを一気通貫で行うプロフェッショナルサービス。PostgreSQLのコミッターも在籍しており、多くのマイグレーション実績を持つ。>
ご参考: あすぽす | デジタルテクノロジーディレクター® (ndigi.tech)
データベースエンジンを選定する際に実施した内容
Oracle Database と PostgreSQL の非互換に関する情報を収集した上で、机上確認・実機検証を通して実現性を見極めました。具体的には、SQL*Loader やシノニムといった、Oracle Database 固有の機能に依存した設計となっているアプリケーションの有無を確認しました(※図 3 参照)。また、SQL の変換のみで対応可能な場合であっても、単純な置き換えレベルで対応可能か・作り替えが必要となるか、といった基準で「修正難易度」の精査(※図 4 参照)を行い、試験の検討・検証方法の策定を実施しました。
図3:機能面・非機能面での精査
図4:影響調査のアウトプットイメージ
更に NTT データの過去プロジェクト実績や、NTTグループの OSS ノウハウ、社外 PGECons 活動報告などを活用して、現行環境に対する非互換調査を協力しながら行いました。具体的には、Oracle 固有のヒント句の利用箇所やパーティション利用箇所の有無などを確認し、本プロジェクトの性能要件に対する影響度合いを踏まえて、十分対応可能と判断しました。
Part 2 に続く。