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クラウド・センター・オブ・エクセレンス (CCOE) の設計

本記事は、2023年9月25日に公開されたDesigning a Cloud Center of Excellence (CCOE) を翻訳したものです。


多くの企業は、クラウド・センター・オブ・エクセレンス (CCOE) がクラウドへの移行や、より広範なデジタルトランスフォーメーションを加速させることができると認識しています。これらの CCOE はさまざまな形態をとりますが、それは各企業が克服すべき独自の課題を持っているためです。それでもなお、CCOE の活用には一定のパターンやアンチパターンが存在します。このブログ記事では、CCOE の目的、その構成と運営方法、そしてそれによって期待される影響について明確にすることを目指します。

なぜ CCOE を設立するのか?

まず、 CCOE はクラウドへの移行やデジタルトランスフォーメーションを進める上で必須のものではありません。その設置は組織の判断によるものであり、多くの組織的な意思決定と同様に、さまざまな要因に依存します。特に重要なのは、企業が変革の過程で直面する課題の種類ですが、セキュリティ戦略、中央集権化と分散化、人事方針、スキル、さらには組織内の政治的要素も考慮されます。

成功したデジタルトランスフォーメーションを主導した同僚たちとの会話から、CCOE と呼ばれるグループを持たない企業もあれば、その名前のグループはあるものの、単にクラウド関連の意思決定に関与するリーダーの緩やかな集まりに過ぎないケースもあることが分かりました。

CCOE は、多くの企業が従来のデータセンター中心でウォーターフォール型の働き方から、クラウド中心で俊敏性を重視したデジタルな働き方へ移行する際に直面する共通の課題に対する部分的な解決策です。その名が示す通り、CCOE は主にクラウドへの移行に焦点を当てており、必ずしも広範な変革全体を対象とするわけではありません。CCOE が典型的に対処する課題は以下の通りです:

  1. クラウド移行は、企業内の人々が不安を感じるために停滞することがよくあります。クラウドは彼らにとって新しく、クラウドを活用する深いスキルが不足しています。また、クラウドに関する誤った情報が広く流布し、人々を不安にさせています。CCOE は、クラウドを推進し、正確な情報を提供し、移行が成功するために必要な重要なスキルを供給することで、この問題を解決します。
  2. 企業内では全員が「日常業務」を抱えており、新しい取り組みに時間を割く余裕がありません。CCOE はクラウド移行専任チームとして、その優先順位と成功指標を明確化し、移行プロセスに集中します。
  3. クラウド移行の初期には、多くの技術的・アーキテクチャ的・ビジネス的な意思決定が必要です。特に重要なのは、セキュアなランディングゾーンを構築してセキュリティ体制を確立し、その中で企業のアプリケーションを展開できるようにすることです。CCOE はこれらの初期の意思決定を行い、企業が適切な方向へ進むよう導きます。

CCOE は、組織のクラウド移行に推進力を与え、初期段階で技術的にガイドし、リスクを軽減します。変革の過程で必要となる技術的、文化的、組織的、プロセス的な変更を促進し、移行を可能にする初期の専門知識を提供します。万能の解決策ではありませんが、その目標は、移行の速度と品質を向上させることにあります。

CCOE は一時的な組織か永続的な組織か?

CCOE の目的はクラウドへの移行を促進することであり、移行は有限のタスクであるため、CCOE は一時的なチームとして考えるのが最適です。初期段階に必要な専門知識を提供しますが、最終的には IT 組織のほぼ全員がクラウドスキルを習得する必要があります。また、CCOE はクラウドのプロセスとパターンを構築しますが、クラウドが「新しい標準」(つまり、企業の将来のあらゆることを支える技術基盤)となるため、最終的には IT 組織全体がクラウドの使用に優れるようになります。CCOE は、IT 部門がクラウド中心の組織に変革するためのイネーブラーとして機能します。

これは混乱を招きやすい概念です。多くの人々は、CCOE を企業に代わってクラウドプラットフォームを管理する永続的な部門として誤解して捉えることがあり、これは「クラウドプラットフォームエンジニアリング」と呼ばれることもあります。しかし、時間の経過とともに、「クラウドプラットフォームエンジニアリング」は単なるプラットフォームエンジニアリングとなり、組織として最適な形で IT 組織に統合されます。CCOE にセキュリティチームの代表者がいたとしても、クラウドセキュリティは最終的にセキュリティの一部となり、IT セキュリティチーム内に配置されるべきです。

危険なのは、クラウド関連のタスクのために別個のサイロを作ることです。最終的に、企業のプラットフォームのほとんどまたはすべてがクラウド上にあると想定すると、IT の管轄は単にクラウド、エッジデバイス/エンドユーザーデバイス、およびそれらに関連するアプリケーションとデータで構成されることになります。

長期的な IT 組織は、IT に最適な組織構造を採用するべきです。

CCOE はクラウドガバナンスを行うのか?

IT ガバナンスには複数の側面があり、“はい”とも“いいえ”、とも言えます。一つは、投資、優先事項、支出、プロジェクト監視に関するガバナンスです。このようなガバナンスは通常 CCOE の業務範囲外となります。多くの場合、ビジネス上の優先事項は、使用する技術プラットフォームに依存せず、クラウドガバナンスは IT ビジネスガバナンスとは分離されていません。ビジネスの優先事項はあくまでビジネスの優先事項です。

一方で、コンプライアンス、標準、およびセキュリティに関連するガバナンスもあります。CCOE の役割には、この種のクラウドガバナンスに対する初期的なアプローチを作成することが含まれます。特に興味深いのは、そののガバナンスのほとんどを自動化し、それによってクラウドを利用するすべての人々を支援する点です。

具体的には、CCOE はクラウドで機能的な能力を構築するチームに役立つアーキテクチャパターンを開発を支援します。また、CI/CD (継続的インテグレーションと継続的デリバリー) のための初期ツールチェーンを組み立てたり、モニタリングを設定したり、セキュリティコントロールやポリシー適用をクラウドに導入します。さらに、クラウドコスト管理に関する初期的な意思決定を支援します。

CCOE は「有効化によるガバナンス」を実践し、明確なガードレール(安全策)を整備することで、組織がクラウドを安心して利用できる環境を創出します。

CCOE が担当しないことは何か?

理論的に CCOE に入れることができるが、そうすべきではない関連機能とは何でしょうか? そして、将来的に CCOE が不要になったとき、 IT 組織の他の部分でどのような機能が継続するのでしょうか?

ほとんどの組織は、プラットフォームエンジニアリングチーム (クラウドを活用して、デリバリーチーム (DevOps チーム) がソフトウェアを作成および提供するために使用できるセルフサービスプラットフォームを提供するチーム) を必要とします。プラットフォームエンジニアリングチームは、クラウド環境におけるポリシーの実施や管理、つまり将来的には“継続的コンプライアンス”と“継続的監査”となるものを担います。CCOE は初期段階でプラットフォームエンジニアリングを行う場合もありますが、これは最終的にはより広いエンジニアリング組織の一部となります。

非常に大規模で複雑な移行プロジェクトの場合、プロジェクトマネジメントオフィス (PMO) が必要となるかもしれません。主に文化的な理由から、これを CCOE とは別組織として維持することをお勧めします。CCOE は管理者や組織者ではなく、支援者と考えるべきです。CCOE は専門知識をしますが、業務を指示して管理する役割ではありません。

デジタルトランスフォーメーション (DX) には、組織の非常に上層部での連携が必要です。ここで言葉を慎重に選んでいるのは、クラウド移行自体が継続的な上層部での連携を必要とするのではなく、より包括的な変革、すなわちビジネスをデジタル企業として再定義し、組織全体にわたる文化的変革を実現することが本質的に重要だからです。これは通常、CCOE の責任範囲ではなく、組織の上層部の継続的な関与が必要となります。むしろ、このような変革を推進するには、従来型のCoEよりも、柔軟な方向性決定のメカニズムの方が適している可能性が高いでしょう。

現代の変革には、AI を中心としたアプローチやデータ駆動型の要素が不可欠です。これらの活動にはテクノロジーが深く関与していることは明白です。AI は比較的新しい分野であるため、何らかの CoE が必要になる可能性があります。このような専門知識は組織のどこに位置づけられ、変革においてどのような役割を果たすべきでしょうか。これらの点については、今後のブログ記事でさらに詳しく解説していく予定です。

CCOE に必要なスキルは何か?

CCOE には、その目標を達成するため、あるいは CCOE 設立の契機となった課題を克服するために必要なスキルが求められます。クラウド移行の推進を妨げる主な要因が技術的なものである場合、適切な技術的役割が複数存在します。セキュリティが大きな懸念事項である場合は、セキュリティスキルを確保してください。移行を加速させる最良の手段が企業全体での技術的または事業的な啓蒙活動である場合、それらが CCOE に必要な重要なスキルとなります。コンプライアンスや報告の初期体制を確立することが重要な場合も、同様の考え方が適用されます。

おわりに

CCOE は、多くの企業がクラウド移行における一般的な障害を克服するために用いるツールです。これは、最終的にはより広範なIT組織に吸収される一時的なチームとして考えるのが最適です。一時的とはどのくらいの期間でしょうか?それは移行の規模と速度によって異なります。組織構造はデジタルトランスフォーメーションの進行に伴い変化する可能性が高く、CCOE はその変化を定義し推進する役割を果たします。しかし、CCOE の目的は移行を加速することであるため、長期的なクラウド運用に必要なすべてのスキルを備えようとして、過度に複雑化したり長時間を費やしたりするのは得策ではありません。私は実用的なアプローチを提案します。移行に直面している課題は何か?これらの課題を解決するために CCOE が持つべきスキルと責任の範囲は何か?これらの課題を克服することで、移行からより迅速なビジネス成果を得るにはどうすればよいか?このように考えることで、あなたの CCOE を定義することができます。

著者について

Mark Schwartz はアマゾンウェブサービスのエンタープライズストラテジストであり、『The Art of Business Value』および『A Seat at the Table: IT Leadership in the Age of Agility』の著者です。AWS 入社前は、米国国土安全保障省の一部である US Citizenship and Immigration Service の CIO、Intrax の CIO、そして Auctiva の CEO を務めていました。彼は Wharton で MBA、Yale でコンピュータサイエンスの学士号 (BS) と哲学の修士号 (MA) を取得しています。


翻訳者について

鈴木 香緒莉は、プロフェッショナルサービスのアソシエイトアドバイザリーコンサルタントで、デジタル戦略立案とそれに即した組織の変革に注力しています。CCoE AI CoE などの xCoE の組成支援などに従事しています。