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デジタルトランスフォーメーション:なぜ、誰が、どの様にそして何を – パート3「どの様に」

第1回目のブログ記事「なぜ」では、なぜデジタル変革が組織に必要なのか、第2回目のブログ記事「誰が」では、成功する組織が組織構造、学習、イノベーション、文化へのアプローチをどのように見直しているのかについて述べました。今回は、デジタルトランスフォーメーションのプロセスについて、より深く掘り下げていきます。

現代のプロセス要件

デジタルトランスフォーメーションが進んだ組織には、次のような共通点があります。「迅速に行動し、新しいテクノロジーを活用してビジネスの問題を解決し、顧客体験を再定義し、価値を提供している」ことです。そのためには、業務プロセスは、柔軟で、効率的で、軽量で、自己学習による吸収することが求められます。柔軟性があれば、プロセスを完全に再設計することなく、さまざまなビジネス状況に適応させることができ、その結果、変革による影響を最小限に抑えることができます。また、自己学習は、さらに一歩進んで、過去に繰り返された改善から学んだことを織り込んでいます。アマゾンでは、このような自己学習プロセスを「メカニズム」と呼んでいます。トランスフォーメーションリーダーは、プリンシプル、ガードレール、成果ベースの開発を通じてチームに権限を与え、余分な処理や承認のステップを排除するよう努めるべきです。リスクの低い意思決定であれば、自動承認で十分であり、処理時間とコストを削減することができます。

非効率な変革プロセスの例

私たちの経験によると、デジタルトランスフォーメーションの変革プロセスを阻害している4つの重要な事柄があります。

デジタルトランスフォーメーション戦略または明確な動機付けの欠如

最初のブログ「なぜ」で述べたように、トップダウンでサポートされる、明確でビジネス主導のデジタルトランスフォーメーション戦略が必要不可欠です。私たちは、多くの組織が、新しくエキサイティングなテクノロジーを導入するための取り組みとして、変革プロセスを開始するのを目にしてきました。これらの組織は、取り組むべきビジネスニーズと明確に結びつけることなく、人工知能や「モノのインターネット(訳者注: Internet of Things )」を利用した新しい取り組みを立ち上げる必要があると宣言しています。デジタルトランスフォーメーション戦略は、ビジネス戦略から生まれるものであり、その逆ではありません。アマゾンでは、企業のニーズから逆算して、問題解決のための最適な方法を決定することを提唱しており、これにはデジタルトランスフォーメーションのツールがよく使われます。

戦略と実行が結びついていない

変革のための戦略が完璧に定義され、すべてのステークホルダーと連携し、トップエグゼクティブの指令を受けているケースもあります。しかし、実行が適切な資金調達モデルの戦略と結びついておらず、リソースの優先順位付けも適切でない場合、失敗は避けられません。

トランスフォーメーションではなくマイグレーション

戦術的なレベルから変革に取り組む組織は、個々のワークロードを置き換えること、あるいはワークロードのすべてまたは一部を新しい環境、新しいプラットフォーム、またはクラウドに移行することに重点を置きがちです。このようなアプローチは、有益な面もありますが、変革的なものではなく、漸進的なものです。真の変革は、新しいテクノロジーによって既存のプロセスを再構築することによってもたらされます。つまり、テクノロジーを使って、既存のサービスを大幅に改善するのです。

ウォーターフォールアプローチ

最後に、変革のプロセスは、ウォーターフォールのパラダイムにはほとんどなじみません。ウォーターフォールは、具体的なタイムラインと明確な成果物があるプロジェクトに最適です。しかし、デジタルトランスフォーメーションは未知数な部分が多く、新たな発見や実験が必要です。要件、手順、基準の完全なリストを実装前に作成することは、ほとんど不可能です。このような変革の性質上、アジャイルプロジェクトに見られるようなプロセスの柔軟性、適応性、自己学習が必要とされます。変革プロセスは、ビジネスと目標の整合性を保ち、従業員のモチベーションを維持するために、すぐに利用できる具体的なビジネス結果を伴う中間目標やマイルストーンを達成しなければなりません。

トランスフォーメーションプロセスのフレームワーク

デジタルトランスフォーメーションプロセスを支援するために、 AWS トランスフォーメーションプロセスフレームワークを定義し、使用しています。このフレームワークは、さまざまなタイプのお客様(エンタープライズ、 ISV 、大企業、中小企業、異業種など)と協業した経験から、すべてのお客様にメリットのある共通の側面を実現したものです。このデジタルトランスフォーメーションフレームワークは、変革のビジョンと戦略、ガバナンス、プロセスステップの3つの要素で構成されています。

デジタルトランスフォーメーションのビジョンと戦略

業績の高い組織には、自分たちの未来像を説明するビジョンが明確に定義されており、そのビジョンは、将来の状態を実現するための戦略によって支えられています。これらを正しく理解し、チームがその両方を支援し理解できるようにすることは、チームが成果を上げられるようにするために非常に重要です。

デジタルトランスフォーメーションのビジョンとは、例えば製造業であれば「ダウンタイムゼロの組み立てプロセスを実現する」、小売業であれば「ショッピング体験を便利にし、変化する顧客の要求や要件に適応できるようにする」といった変革の最終状態を簡潔に説明したものです。企業は、ビジョンを堅持しつつ、その実現に向けて柔軟に対応する必要があります。

デジタルトランスフォーメーション戦略とは、複雑なデジタル変革の取り組みを実行するためのハイレベルな計画です。デジタルトランスフォーション戦略には、最低限、ビジョンから導き出される詳細な目的(ビジネス成果をターゲットとする)、ステークホルダー分析、プリンシプル、何を持って成功とするかを測定するための重要業績評価指標( KPI : Key Performance Indicator )と重要成功要因( CSF : Critical Success Factor )、デジタルトランスフォーメーション組織の構造といった要素を含める必要があります。

デジタルトランスフォーメーション戦略を構築する際には、短期的・長期的なビジネス成果を特定し、明確にすることが非常に重要です。これらの望ましい成果は、変革のプロセスを通じて変革に集中し続けるのに役立ちます。短期的な成果は、より大きな変革のためのパイロットとなり、従業員を活気づけるのに役立ちます。また、デジタルトランスフォーメーションの戦略を構築するには、すべてのステークホルダーの賛同を得る必要があります。デジタルトランスフォーメーションは平坦な航海ではなく、通常は荒波を通過するものです。ステークホルダーの賛同があれば、浮き足立つことなく、必要に応じて素早く軌道修正し、必要なときにサポートを受けることができます。

デジタルトランスフォーメーションガバナンス

ガバナンスは、変革のプロセスにおいて不可欠な要素です。ガバナンスは、説明責任と意思決定権の明確化、プロセスのコントロール、進捗状況の監視と測定、および是正措置を講じるタイミングの合図となります。一般的な考えとは異なり、適切なデジタルトランスフォーメーションのガバナンスは、制限するのではなく可能にすることに重点を置いています。こうすることで、デジタルトランスフォーメーションガバナンスそのものが CSF になるのです。デジタルトランスフォーメーションガバナンスには、教訓(方針、プリンシプル、信条)、役割と責任、資金調達モデル、標準、詳細な KPI と指標、変更管理、運用の自動化を可能にするツールなどが含まれます。ビジネス/テクニカルレビューボードなどの主要なガバナンス体制は、サイロを破壊しデータを共有してコラボレーションを促進する責任を負います。

デジタルトランスフォーメーションプロセスのステップ

デジタルトランスフォーメーションのビジョン、戦略、ガバナンスを定義し、すべてのステークホルダーに浸透させたら、次はアジャイルアプローチで実行に移す番です。これらの定義がない場合、アジャイルプロジェクトはビジネス価値のない「さまよう」活動になってしまいます。

デジタルトランスフォーメーションの戦略に導かれ、ビジネス価値をもたらす「 minimally lovable project (訳者注:顧客を満足させるための最小限のプロダクト)」を提供し、そのソリューションを拡張していくことに急速に焦点を合わせるべきです。私たちは、学習と評価のバランスを取りながら価値を提供する最良の方法として、長期の概念実証( PoC )ではなく、この迅速で最小限のアプローチを取ることを提唱しています。そのため、変革の各段階の前に、チームのトレーニングや、パートナーを通じて必要なスキルを取得することに特に注意を払う必要があります。

本シリーズの第4回目のブログでは、「何を」に焦点を当て、デジタルトランスフォーメーションをサポートするために必要なテクノロジーの変化を浮き彫りにしています。

Tom Godden

Tom Godden

Tom Godden は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のエンタープライズストラテジスト兼エバンジェリストです。AWS 以前は、Foundation Medicine の最高情報責任者として、FDA が規制する、がんゲノム診断、研究、患者予後プラットフォームを構築し、予後の改善と次世代精密医療への情報提供を支援しました。それ以前は、オランダのアルフェン アーン デン レインにある Wolters Kluwer で複数の上級技術責任者を務め、ヘルスケアおよびライフサイエンス業界において17年以上の経験を有しています。Tom はアリゾナ州立大学で学士号を取得しています。

Gene Shadrin

Gene Shadrin

Gene Shadrinは、アマゾン ウェブ サービス (AWS) の ソリューションアーキテクチャーのシニアマネージャーです。AWS 以前は、American Honda の CTO 兼 Director of Archtecture として、ローカル/リージョン/グローバルレベルで技術革新プログラムを確立し、エンタープライズアーキテクチャーを実践し、ビジネス成果の向上と技術的負債の軽減のために新しいデジタルビジネス機会を実現することに貢献しました。自動車、ソフトウェア、小売業界において20年以上の経験を持っています。

この記事はアマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューションアーキテクトの佐藤伸広が翻訳を担当しました。原文はこちらです。