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株式会社フジテレビジョン様が冬季国際スポーツ競技大会で実現した Live Cloud Production

2026年2月6日から22日にかけて、イタリアのミラノ・コルティナにて世界的な冬季スポーツ競技大会が開催されました。本ブログでは、株式会社フジテレビジョン様(以下、フジテレビ)がこの大会において、地上波テレビ放送のライブ映像制作を AWS 上で行う「Live Cloud Production(以下、LCP)」を実現した事例をご紹介します。

テレビのライブ放送を支える3つの処理

Live Cloud Production とは、物理的な設備を削減しクラウド上でのライブ映像の制作を可能にする新しい放送・映像制作ワークフローです。Live Cloud Production を理解する上で、一般的なテレビのライブ放送がどのように行われているのかを最初にご紹介します。テレビのライブ放送で視聴者に届ける映像を制作する上で、主に3つの処理がリアルタイムに行われています。

1つ目は映像スイッチングです。スタジオ、競技会場、リプレイなど複数の映像ソースの中から、放送に乗せる映像をリアルタイムに選択・切り替えます。2つ目は音声ミキシングです。各出演者のピンマイク、会場の環境音、BGM、効果音など多数の音声チャンネルを適切なバランスに調整します。3つ目は CG 合成です。テロップ、スコア表示、バーチャルグラフィックスをリアルタイムに描画し、映像に重ね合わせます。従来はこれらの3つの処理は専用ハードウェアによって処理されていました。

図1: 実際のスタジオの様子。競技映像やスタジオセットの上半分などは CG 合成で作られていて、現地での設営を簡略化している。複数ソースからの映像スイッチングや音声ミキシングも行われている。(提供:株式会社フジテレビジョン)

国際中継における課題

海外で開催されるスポーツイベントの中継では低遅延かつ放送品質の安定した映像伝送を行う必要があるため、競技会場と国内のテレビ局の間に専用回線を敷設する必要があります。さらに、前述の3つの処理(映像スイッチング、音声ミキシング、CG 合成)を行うための専用ハードウェアも現地に輸送・設置しなければなりません。現地への機材輸送・設置には数ヶ月の期間を要し、専用回線の費用も含め大きなコストとなっていました。

フジテレビの取り組み — Live Cloud Production

近年は専用ハードウェアが持つ機能のソフトウェア化が進んでおり、ライブ放送に必要な処理(映像スイッチング、音声ミキシング、CG 合成)をオンプレミスのサーバーやクラウド上の仮想サーバーで実行できるようになってきています。

フジテレビは今回の大会で、ライブ放送に必要な処理を行うソフトウェアを Amazon EC2 上で、海外からの映像伝送を AWS Elemental MediaConnect で行い、LCP として AWS クラウドに集約する構成を採用しました。

ミラノの IBC(国際放送センター)に設置したエンコーダーで8台のカメラ映像を H.265 / 20Mbps の SRT (Secure Reliable Transport) ストリームに変換し、帯域保証付きの公衆インターネット回線2本(本番用・予備用)を通じて AWS フランクフルトリージョンに送出します。フランクフルトリージョンの Amazon EC2 上では、Sony M2L-X(映像スイッチング)、Waves Cloud MX Audio Mixer(音声ミキシング)、Vizrt Viz Engine(CG 合成)が稼働し、AWS Elemental MediaConnect がクラウド内外の映像ルーティングを担いました。完成した番組映像は AWS Direct Connect 経由でお台場のフジテレビ本社に SRT で伝送され、地上波で放送されています。クラウド障害時に備えたパリリージョン経由のバックアップパスも構築しました。

図2: Live Cloud Production の全体構成。ミラノ IBC からフランクフルトリージョン、お台場のフジテレビ本社までの映像・音声・制御の全系統を示す。(提供:株式会社フジテレビジョン)

この構成により、IBC 側のスタジオにはスイッチャーやミキサーなどのコントローラーやモニターを中心に配置する形となりました。従来のハードウェアの機能をクラウドに移したことで、現地の設備は大幅に簡素化されています。

パリからミラノへ — 1年半にわたる検証

フジテレビと AWS は3年以上にわたり、段階的に LCP の取り組みを進めてきました。

2024年のパリで行われた夏季スポーツ競技大会では、ソニー製ソフトウェアスイッチャー M2L-X を AWS 上で利用する PoCを実施しました。その後、約1年半にわたり、様々なパートナーのソフトウェアを EC2 上で利用するための検証が重ねられました。各ソフトウェアを動かす EC2 間では、NDI (Network Device Interface) という高品質・低遅延の映像・音声データをリアルタイムで相互伝送する伝送方式が使われており、NDI 伝送の検証も進められました。

2025年8月にはフランクフルトリージョンにクラウド環境を構築し、実際のスタジオを使った最終検証を実施。9月末にはミラノ現地の IBC に設置する全機材の仮組みとクラウドシステムの統合検証を完了しました。

本番運用と結果

期間中は、イタリア国内各所で実施された多数の競技中継を LCP で制作しました。全期間を通じて放送品質を維持した安定運用を達成しています。クラウドを経由した全体の遅延は約 1.7 秒に収まり、従来のオンプレミス構成と遜色ない遅延量で制作することができました。

ネットワークコストは、過去大会の専用線費用と比較して 45% 削減されました(現地インターネット回線費用およびクラウドアプリケーションライセンス費用を含む)。また、現地入りからスタジオオープンまでの技術全体のセットアップ作業時間は、従来と比較して 21% 削減されています。

まとめ

今回は、フジテレビが世界的な冬季スポーツ競技大会で LCP を実現した事例についてご紹介しました。今回の実績を踏まえ、フジテレビは今後の国内外のスポーツ中継への LCP 展開を検討されています。

LCP や放送業界での AWS 活用にご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。

著者

Yu Kitamura

北村 友(Yu Kitamura)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
通信・メディア技術本部 ソリューションアーキテクト

放送局をはじめとしたメディア業界のお客様への技術支援を担当しています。