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大豊建設が AWS で実現した大豊 AI:業務の様々な場面で活躍する生成 AI 活用事例

はじめに

本ブログは 大豊建設株式会社 様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆しました。

みなさん、こんにちは。ソリューションアーキテクト 杉山 卓 です。

本ブログでは、大豊建設様が AWS を基盤として生成 AI を活用した「大豊 AI」を構築し、社内で活用されている取り組みを紹介します。議事録の自動生成、資料の要約、社内規程の検索、そして日常的な疑問への回答まで、業務の様々な場面で活躍しています。

2025 年 6 月の全社展開から約 8 ヶ月で、307 名の社員が利用し、累計 32,709 回以上の利用回数を記録するなど、幅広く活用されています。規程検索だけでも約 250 時間の業務時間削減を実現し、文書作成やファイル分析を含めると、さらに大きな効果が生まれています。今後は、施工計画書の作成支援や社内資料作成支援といった、エージェント技術を活用した業務効率化も目指しています。

建設企業が直面する業務効率化の課題

大豊建設様は、土木・建築工事を中心とした総合建設会社です。現場での施工管理や営業活動において、情報へのアクセス、文書作成、そして知識の共有は業務品質を維持する上で重要な要素です。

しかし、大豊建設様では長年、業務効率化において複数の課題を抱えていました。

まず、社内の情報にアクセスしにくいという問題がありました。従来の文書管理システムでは、フォルダ構成が複雑で、どこに何の情報が格納されているのかが分かりにくい状態でした。「社内規程は、月に数回の頻度でアップデートが必要です」と大豊建設の落藤様が語るように、監査室の指摘や法改正に伴い社内規程が頻繁に更新されます。変更された規程がどこに格納されているのか探すのに時間がかかり、キーワード検索を利用しても意図しない文書まで検索結果に含まれてしまうという問題がありました。

社内規程の検索は、出張旅費規程のような全社員に関わるものから、土木工事における業者との契約に関する専門的なものまで多くの種類があります。現場監督や営業担当者が必要な情報を素早く見つけられないことは、業務効率の低下だけでなく、コンプライアンス上のリスクにもつながっていました。

また、工事が完了すると完成資料がシステムに格納されますが、その後は十分に活用されないまま保管されるだけでした。過去の類似工事の知見を活かすことができれば、施工計画書の作成や見積もりの精度向上に役立つはずですが、そのための仕組みが整っていませんでした。

次に、文書作成の負担が大きいという課題がありました。資料や議事録の作成など、日々の業務には多くの文書作業が伴います。特に議事録の作成は、会議の内容を思い出しながら整理するのに時間がかかることも珍しくありません。

さらに、中堅社員不足による知識共有の難しさもありました。建設業界全体で抱える課題でもありますが、大豊建設様でも年齢層に偏りがあり、特に中堅社員と呼べる世代が不足しています。「現場によっては若手社員とベテランの所長がペアで工事を監督するケースも多く、若手からは『質問があっても聞くタイミングを逃しがち』という声を聴くことがありました」と落藤様は振り返ります。若手社員が基本的な疑問を気軽に相談できる環境が不足していました。

こうした課題を解決するため、生成 AI に法律や社内ルール、過去の知見などを連携させ、必要な情報を即座に得られるようにすることで、ミスを減らし、誰もが共通の情報にアクセスできる環境を整えることを目指されました。

「大豊 AI」を自作する挑戦

大豊建設様が生成 AI の活用を検討し始めたのは、2023 年末の頃でした。

それ以前から社内では竣工データの利活用を目指した検索システムの構築に取り組んでいました。しかし、検索精度を高めるためにはドキュメントへの適切なラベリングなど、システム外の運用負荷が高く、広く利用されるには至っていませんでした。

そういった中、生成 AI が登場しました。「人手によるラベリングなどの労力をある程度削減しながら、社内の文書検索ができるようになるのでは」という期待から、本格的な検討が始まります。さらに、同業他社が既に AWS 環境で生成 AI の検索システムを構築し、活用事例を発表していたことも後押しとなりました。「同業他社様ができるなら、私たちも実現できるはず」という前向きな姿勢で、大豊 AI を作成するプロジェクトを推進しました。

プロジェクトは段階的に進められました。2024 年 3 月、まずは LINE WORKS を使った AI ボットの構築から開始。モバイル端末から手軽に検索できる利便性を確認した一方で、長文のドキュメントを閲覧する際の見づらさといった課題も明らかになりました。

そこで 2024 年 10 月には、Web サイトでの提供へと方針を転換しました。同時に、生成 AI ワーキンググループを設置しました。本社だけでなく、各支店から業務に精通し、生成 AI 活用に興味を持つ 11 名のメンバーを集め、協力会社である ワンダーソフト株式会社 の 1 名を含めた 12 名体制でスタートしました。

生成 AI ワーキンググループでは、2024 年 10 月から 2025 年 4 月まで、計 4 回のミーティングを実施しました。第一回では「こういうことをやった方が便利なのではないか」という機能要件を議論し、その後のミーティングでは構築した機能の説明と今後の方向性を全体で検討していきました。現場の声を取り入れながら段階的に機能を拡充していったことが、後の成功につながります。

そして 2025 年 6 月、全社員に大豊 AI の展開を開始しました。社内の掲示板などを通じて「大豊 AI を作ったので、ぜひ使ってみてください」と案内し、興味を持った社員から順次利用が始まっていきました。

実際にどのように活用しているのか

「大豊 AI で、実際にどんなことをしているのか?」という疑問は、DX 推進を検討する多くの方が持つものです。ここでは、現場での具体的な活用シーンを紹介します。

利用頻度の高い機能トップ 5

ワンダーソフト様の協力のもと、大豊 AI の利用状況を分析したところ、以下の 5 つの機能が多く利用されていることが分かりました。最も利用頻度が高いのはフリートークで、次いで社内規程検索、ファイルチャット、社内資料の全文検索、ユースケース別検索の順となっています。

以下、それぞれの機能について、具体的な使われ方を紹介します。

① フリートーク:気軽な質問から専門知識まで

フリートークは、生成 AI と自由に対話できる機能です。利用データを分析したところ、質問内容は以下のように分類されました。

  • 日常的な質問や翻訳、Excel の関数検索など:60.9%
  • 建設業に特化した専門的な質問:24.1%
  • 文章生成:8.3%
  • 文章の添削・校正:6.7%

一見すると専門性を有しない質問が 6 割を占めているように見えますが、これには意味があります。「身近なことを AI に気軽に質問する」という習慣が社内に根付くことで、本当に必要な時にスムーズに活用できる土台が形成されているのです。

メール作成:正確で丁寧な文面を手軽に

業務の中で、メールの作成は日々発生する作業の一つです。しかし、適切な言葉遣いや内容の整理に負担を感じることも少なくありません。特に、社外の取引先や発注者への連絡では、正しい敬語表現やビジネスマナーに沿った文面が求められるため、一通のメール作成に想定以上の時間がかかるケースもあります。

大豊 AI では、フリートークやユースケース別の「メール作成」テンプレートを活用することで、伝えたい要点を入力するだけで、正しい日本語で適切な文面を生成してくれます。例えば、「工事の進捗報告を発注者に送りたい」「会議日程の変更を関係者に連絡したい」といった要件を伝えるだけで、ビジネスメールとしてふさわしい構成・敬語表現を備えた文面が提示されます。メール作成は一見すると小さな業務に思えますが、1日に何通も作成する社員にとっては、積み重なることで大きな時間削減効果をもたらしています。

若手社員の学習支援

施工計画について分からないことがあっても、ベテランの方に聞くのは気が引けるという若手社員がいます。そんな時、フリートークで「〇〇工法のメリットとデメリットを教えて」「△△の場合の注意点は?」といった質問をすることで、基礎知識を習得できます。ある程度調査したうえでベテランの方に相談すればよいため、若手社員の心理的負担が軽減され、ベテラン社員の時間も有効活用できるようになりました。

② 規程検索:必要な情報に素早くアクセス

社内規程の検索は、大豊 AI 構築の当初からの主要な目的の一つでした。

従来の文書管理システムでは、フォルダ構成が複雑で、どこに何の情報が格納されているのかが分かりにくい状態でした。現在は、Amazon Bedrock Knowledge Bases を活用した検索機能により、自然な文章で質問するだけで、関連する規程を見つけられるようになりました。

③ ファイルチャット:文書分析の効率化

ファイルチャットは、PDF などのファイルをアップロードして、その内容について AI に質問できる機能です。議事録作成、文書の内容確認、添削など、様々な場面で活用されています。

議事録の自動生成

最も効果が大きいのが、議事録の自動生成です。工事現場では定期的にミーティングが実施されます。従来は、会議後に記憶を頼りに議事録を作成していましたが、これには時間がかかることもありました。

現在は、会議を文字起こしでテキスト化し、それを PDF にして大豊 AI のファイルチャットにアップロードします。「この内容から議事録を作成して」と依頼すると、大豊 AI が議事録の初稿を生成してくれます。担当者は手直しするだけで完成するため、議事録作成にかかる時間が大幅に短縮されました。

この仕組みは海外の現場でも活用されています。大豊建設様では海外での事業も展開しています。現地の言語で行われた会議の内容を整理し、議事録として仕上げる作業は従来大きな負担でしたが、大豊 AI を活用することでこの工程が大幅に効率化されました。国内・海外を問わず、同じ仕組みで業務効率化が実現されています。

④ 社内資料の全文検索:過去の知見と法令情報への横断アクセス

大豊 AI の検索対象は社内資料から外部サイトまで多岐にわたります。外部サイトの例として、法令に関する資料が掲載されている政府の「e-Gov」から労働安全衛生法などの情報を PDF 化して検索対象としています。「手すりの高さに関するルールを教えて」と質問すると、大豊 AI は e-Gov から取得した法令データと社内規程を横断検索し、関連する情報を提示します。複数の資料を探し回る必要がなくなり、正確な情報に素早くアクセスできるようになりました。

⑤ ユースケース別検索:AI 初心者にも使いやすいテンプレート機能

大豊 AI は、リリース当初、ユーザー自身でプロンプトを設定できる仕様にしていました。しかし、AI 初心者にとって詳細なプロンプト設定は難易度が高く、利用の障壁となっていることが判明しました。そこで、管理者側で一般的なユースケース別にプロンプトを事前設定し、ユーザーは選択するだけで利用できる機能を開発しました。2025 年 12 月にリリースしたこの機能は、利用回数の上位にランクインしており、一定の需要があることが確認できています。

現在提供している 8 種類のユースケースは以下の通りです:

  • 文書校正
  • 文書チェック
  • 議事録作成
  • 議事録要約
  • メール作成
  • Excel 関数検索
  • 用語解説
  • 翻訳

自社業務に最適化できる生成 AI 基盤の選択

これらのユースケースを支える技術基盤として、大豊建設様は AWS を選択しました。その理由は大きく三つあります。

まず、既存システムとの統合のしやすさです。大豊建設様では、社内アプリケーションの多くをワンダーソフト様に依頼して構築していました。これらのアプリケーションは AWS 環境で稼働しており、生成 AI を組み込む際にも同じ基盤を活用することで、スムーズな連携が可能になると考えたのです。「AWS で稼働している既存の社内アプリに生成 AI 機能を追加する際には、セキュリティや実装における利便性などで AWS が最適」という判断でした。

次に、カスタマイズの自由度の高さです。世の中にある SaaS やパッケージ化された生成 AI サービスは、自社の業務要件に合わせた柔軟なカスタマイズが難しい場合があります。大豊建設様では、社内規程だけでなく、外部の法令サイトの情報や、建築部門で配信している資料など、多様な情報源を統合して検索できるようにしたいという要望がありました。AWS を基盤とすることで、こうした独自の要件に対応でき、「自分たちがやりやすくて、見やすいものができるのでは」と考え、カスタマイズ性の高さを評価しました。

そして、AWS チームとの協業体制です。ワンダーソフト様は次のように語ります。「実装における AWS サービスのインテグレーションが簡単な点が AWS を選定した一つのポイントです。ドキュメントが充実しているのは、生成 AI 以前から感じていました。また、AWS の担当アカウントチームとの打ち合わせを通じて情報提供をいただけるのは大変ありがたい。」と支援体制を評価しました。

また、将来的には、グループ会社や他社への展開も視野に入れる中で、「AWS Blog で事例化」という形で外部に実績を示すことができるのは、さらなる展開を目指すうえでも有効だと考えています。

システム構成と技術的な工夫

大豊建設様が構築した「大豊 AI」システムは、Amazon Bedrock を中心とした AWS サービスで構成されています。認証基盤には Auth0 を利用していますが、基本的には AWS のサービスで統一されています。

主要な AWS サービスは以下の通りです。

  • Amazon Bedrock:さまざまなAI基盤モデルをAPI経由で簡単に利用できるフルマネージドサービス
  • Amazon Bedrock Knowledge Bases:RAG 検索の実装
  • AWS Lambda:アプリケーションロジックの実行
  • Amazon S3:社内ドキュメントを格納するためのオブジェクトストレージ

プロジェクトを進める中で、いくつかの技術的な試行錯誤がありました。

当初は Amazon Kendra を使用していましたが、検索精度の課題、特に社内規程に含まれる表の取り扱いが難しかったため、Amazon Bedrock Knowledge Bases へ移行しました。特に、PDF を一枚丸ごと取り込んで表示できる「Advanced RAG」の機能が有効だったとワンダーソフト様は語ります。今後は、Amazon S3 Vectors を利用したコスト削減についても検討を進めていく方針です。

また、新しいモデルが登場した際に、それを大豊 AI に積極的に取り込む点にもチャレンジしています。バージニア北部やオレゴンなどのリージョンでは素早くモデルが追加されるため、それを大豊 AI に取り込むことで、最新モデルを活用できる体制を構築しています。モデルの更新に加え、ユーザーの利便性向上にも日々取り組んでいます。

エージェント技術による次なる業務変革への挑戦

大豊建設様の生成 AI 活用は、エージェント技術を積極的に取り込み、以下の方針でこれからも取り組みを続けていきます。

エージェント機能の実装

Amazon Bedrock AgentCore を活用し、次の二つの業務領域での自動化を検討しています。

施工計画書の作成支援

工事が始まる前に作成する施工計画書は、ゼロから作成するのが大変な業務です。現場の担当者は過去の竣工データから類似工事の施工計画書を探し出し、参考にして作成していますが、この作業を AI エージェントが支援することで、大幅な効率化が期待されています。

社内資料の作成支援

「パワーポイントでこのファイルを作って」といった指示に基づいて、AI が資料の初稿を作成し、担当者が最終調整を行うワークフローの実現を目指しています。既存の資料に対して「この部分を変更して」といった細かい要望にも対応できることを目指しています。

まとめ

大豊 AI は検索システムとして始まりましたが、実際には文書作成、ファイル分析、相談相手など、業務の様々な場面で活用されています。単一の用途に限定せず、ユーザーが自由に活用できる環境を提供することで、想定以上の効果が生まれました。フリートークでの時事ネタの質問も、「AI を気軽に使う習慣」を醸成し、本当に必要な時にスムーズに活用できる土台となっています。

生成 AI の活用は、単なる技術導入ではなく、業務プロセスの再設計や組織文化の変革を伴う取り組みです。「入社当時はまだフロッピーディスクを使用していましたが、10 年を経て最新エージェント技術へ」という落藤様の言葉に象徴されるように、新たなことに挑戦する姿勢は、建設業界における生成 AI 活用のモデルケースとして大いに参考になります。