Amazon Web Services ブログ
仰星監査法人様の AWS 生成 AI 活用事例 :株式会社 Sapeet 様支援のもと、Dify を用いて生成 AI アプリを構築し、機微な情報を扱えるセキュアな環境でクライアント情報の収集・環境分析調査時間の 87% 削減を実現
本ブログは、仰星監査法人と株式会社 Sapeet、 Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。
仰星監査法人 (以下:仰星) は、1990 年設立の監査・保証業務をはじめとする株式上場 (IPO) 支援業務やファイナンシャルアドバイザリーサービスなどの各種サービスを提供する法人です。本ブログでは株式会社 Sapeet (以下:Sapeet) が開発・導入を支援した、仰星での社内生成 AI 基盤の概要とその中でどのように AWS のサービス群が活用されているかを紹介します。
課題と背景
仰星では監査業界の構造変化が日々すすむなか、監査現場におけるチームメンバーの支援やクライアントからの複雑な要求に高いレベルで応えていくために、業務効率化が急務となっていました。その生産性向上を目指した取り組みを始めるにあたり、生成 AI の活用が候補となりましたが、導入に向けていくつかの課題が浮上しました。主な課題は以下の通りとなります。
- 機密性の高い情報やデータを、セキュリティ面で万全な環境下で取り扱うこと
- 投資対効果を重視し、特定の業務領域に焦点を絞って効率的に導入・活用すること
- スピード感を持って検証を行い、その成果を迅速に実運用へとつなげること
これらの課題に対し、より実用的で効果的な生成 AI 活用の基盤づくりが求められていました。
ソリューションの概要
そのような課題がある状況で生成 AI の活用検証にあたり、Dify を用いた生成 AI 環境を AWS 上で構築いただくこととなりました。Sapeet が開発パートナーとして、以下の要素を考慮し、Amazon Bedrock や Dify といったサービスを選定・活用しました。
- すでに Amazon WorkSpaces をはじめ AWS の利用が進んでいたこと
- AWS のサービス群の幅広さによるアプリケーション開発の自由度と効率性の両立
- 機微なデータをセキュアな環境内で取り扱えること
- Dify を活用し、PoC フェーズでの高速開発からセキュアな環境でのセルフホストまで一貫して実現できること
今回の生成 AI アプリケーションでは、主に監査業務における固有リスク要因の洗い出し作業を効率化することを目的としています。これまで Web での情報収集・記事チェック・資料保存・アウトプット作成などの単純ながらも時間を要する作業を生成 AI 側で対応することで、時間短縮だけでなく、人間では見落としがちな新しい視点も獲得することに成功しています。
図 1: 社内業務担当者の生成 AI アプリケーション利用イメージ
今回の開発においては、Dify を用いることでノーコード / ローコードで生成 AI のワークフローを作成し、短時間でプロジェクトのスモールスタートを切ることができました。
また、Amazon WorkSpaces を利用することで重要な社内データをインターネットから隔離され閉域で安全に AWS に展開された VDI 環境に接続・利用を限定することができ、セキュアな環境での作業を可能としています。Amazon Bedrock のモデルでは、データをモデルの再学習に利用せず、サードパーティにも渡されないことを明言していることも安心して利用できる材料のひとつとなっています。
以下の図 2 が仰星監査法人 生成 AI 基盤のアーキテクチャーの概要になります。
図 2: 仰星監査法人 生成 AI 基盤のシステム構成
開発におけるユーザー企業と開発企業の連携の重要性
今回の開発において、開発をリードした Sapeet が仰星の実際の業務プロセスを理解し、ワークショップでも現場の公認会計士を巻き込んでプロジェクトを遂行したことが、実ユーザーが使いやすいアプリケーションを作るにあたっての成功要因のひとつとなりました。
導入までの 5 か月間の期間の使い方として、最初の1か月で監査業務の理解とデータ確認を仰星・Sapeet 両社で行ったのち、MVP 作成後は週次でアップデートを重ねていきました。特にプロンプトの作りこみについては実業務の担当者に協力を得ながら専門知識を反映させつつ共同開発をしたことで業務に利活用できるレベルに精度を上昇させることに成功しています。今回の開発をリードした Sapeet の村上 AI ソリューション事業部プロジェクトマネージャーは以下のように語ります。「お客様から言われたことをただ実装して結果だけ見てもらうのみでは、真に業務活用に足りうる生成AIアプリケーションを作ることはできないと考えています。業務内容を我々自身が深い部分まで理解する姿勢と、仰星様にも生成 AI で実現している中身を理解してもらった上で意見をいただくことで、お互いが持っているものを出し合って一緒に作り上げることができました」
導入効果と今後の展開
5 か月の開発を経て導入された今回の生成 AI アプリケーションを活用することで、当該作業時間を 87% 削減することに成功し、投資に対する回収の期間もすでに見通しが立つ状況となりました。また、生成 AI 側では情報収集・分析を行い、人間で最終的な監査リスクの判断を行うことで役割分担を明確化しつつ、網羅的な分析が可能になったと仰星の金子理事・情報管理室長は語ります。「生成AIを用いることで、これまで以上に情報量が圧倒的に増加し、新たな視点でのリスク要因発見にもつながっています。今後、暗黙知を形式知化していくための道筋が見えてきました。」
また、導入後のアンケートにおいて、スタッフからパートナーまで職位に関係なく「生成 AI 活用による業務効率化の可能性が高い」という評価を得られたことも今後の活用領域拡大に向けてポジティブな判断材料となりました。
現在仰星では今回の会計士業務に関連する生成AI基盤だけでなく、各種 SaaS サービスも用いた AI の活用を推進しています。「クラウドの良さであるスピード感を生かせたと感じています。社内での生成 AI に対する理解と親近感も向上したという手ごたえも感じているので、さらにその活用範囲を高める動きをしていきます」と将来のさらなる社内生成 AI 推進に高い意欲をのぞかせています。
今後の展開としては、この生成 AI アプリケーションを通じて組織にナレッジが蓄積し、集合知として更なる監査業務の効率化・品質向上に活用することで、組織全体の「ナレッジ循環」の仕組みを構築していきます。
まとめ
本ブログでは 、仰星で導入したクライアント情報収集・環境分析アプリの紹介とその中で Dify や Amazon Bedrock、Amazon WorkSpaces がどのように活用されているかを紹介しました。 これらを利用することによってみなさまの AWS 上のワークロードに生成 AI を活用した機能を容易に組み込めます。本ブログが生成 AI を活用されている皆様の参考になりましたら幸いです。

