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日本のヘルスケア・ライフサイエンス業界における戦略的ビジョン「Journey for 2030 データがつながる、価値を生む」を発表
データの分断を超えて、革新的な患者体験へ
ヘルスケア・ライフサイエンス業界はセキュリティが極めて重要な業界であるため、厳格な規制が設けられており、それらの規制へのコンプライアンス対応が欠かせません。一方で、世界経済フォーラムによると医療機関で生み出されるデータの97%は十分に活用されていないという現状があります。電子カルテや医用画像、検査結果などのデータが個々のシステムや組織に点在し、標準化も進んでいないため、患者理解に不可欠な情報が断片化され、最適な医療提供の障壁となっています。
このたび AWS ジャパンは、日本のヘルスケア・ライフサイエンス業界に向けた戦略的ビジョン「Journey for 2030 データがつながる、価値を生む」を発表しました。このビジョンは、医療機関や製薬企業など患者を取り巻く多様なステークホルダーが、組織の壁を越えてデータを連携させ、革新的な患者体験を実現するうえでの AWS の貢献を示すものです。
「縦」と「横」のつながりで新たな価値を創出
このビジョンの核心は、データを「つなぎ」、そこから「新しい価値を生み出す」という考え方です。
「縦のつながり」とは、ゲノムや分子レベルのミクロデータから、診療記録や行動データといったマクロデータまでを統合することです。例えば、ゲノム解析と生活習慣データを結びつけることで、疾患リスクの早期予測や個別化医療が可能になります。
「横のつながり」とは、医療機関・製薬企業・研究機関・行政など組織間の壁を越えたデータ共有です。現在バラバラに存在する患者データを横断的に結びつければ、疾患の進行や治療効果を長期的に追跡し、最適な医療介入が実現します。
AWS ジャパンは、生成 AI とクラウドテクノロジーを活用してこの両方向のつながりを推進し、断片化されたデータから革新的な患者体験を創出します。
AWSが提供する4つの価値
1. つないで広げる:組織を超えたデータ連携の実現
医療・製薬データは極めて多様で、それぞれの組織内に閉じている限り、真の価値創出は困難です。AWS Clean Rooms は、原データを共有せずに安全にデータを統合・分析できる環境を提供します。 米国では Datavant 社がこのサービスを活用し、7万以上の医療機関と350以上のデータプロバイダーをつなぎ、数カ月の探索作業を数日に短縮しました。日本でも、リアルワールドデータを用いた治験補完や市販後調査の効率化など、医療費抑制と患者アウトカム改善に直結するユースケースが拡大しています。
2. かしこく支える:生成 AIによる意思決定と業務の高度化
整備されたデータ基盤があってこそ、生成AIやエージェントは真価を発揮します。Amazon Bedrock は複数の基盤モデルを統合的に利用でき、ユースケースごとに最適なモデルを選択できる環境を提供します。 スイスの製薬大手ロシュグループの Genentech 社では、創薬研究に AI エージェントを導入し、過去の特許・論文・ゲノムデータの統合探索を数日から10分に短縮。研究者は本質的な仮説構築や化合物設計に集中できるようになりました。
3. 安全にまもる:セキュアで信頼性の高いデータ活用基盤
AWS は世界最高水準のセキュリティを提供するとともに、日本国内の3省2ガイドラインに準拠した利用リファレンスをパートナーと共に公開しています。 ライフサイエンス領域では、GLP、GCP、GMP など(総称して GxP )のコンプライアンス対応のためのホワイトペーパーやパートナー提供のリファレンスを通じ、治験データ保管や製造工程記録管理など厳格な要件が求められるユースケースでもお客様を支援します。
4. ともに進める:現場と育てるデジタル人材育成
持続的なデータ活用には人材育成が不可欠です。AWS はインプット(知識習得)、アウトプット(スキル獲得)、実践(内製化支援)の3段階で体系的な支援を提供します。 第一三共株式会社ではこの枠組みを活用し、創薬研究基盤の内製化を実現。外部依存を減らし、自社内で継続的にイノベーションを生み出せる組織文化を醸成しています。
新たな取り組み:HealthData x Agent [ウェブサイト][ブログ]
AWSは医療・製薬業界向けに「HealthData x Agent(ヘルスデータエージェント)」を新たに発表します。これは50個のユースケースに対応したデモ動画とツール群を無料で提供し、生成AIの具体的活用シナリオを示すものです。 医療機関向けには、診療記録から退院サマリーを自動生成するツールで医師や看護師の事務負担を軽減し、患者との時間を確保。製薬企業向けには、AI エージェントが化合物情報や試験データを統合解析し、創薬サイクルを大幅に短縮するツールを提供します。
各ツールは現場の課題に直結するシナリオとともに提供され、AWS クラウドサービスを活用した実装サンプルとして、すぐに概念実証や本番検証を開始できます。詳細はこちらのブログをご参照ください。
お客様事例:データから価値を創出する先進的取り組み
第一三共株式会社: AWS 基盤による Discovery Research DX の加速 [ご登壇スライド] [ブログ]
第一三共は、AWS と連携してAI エージェント統合型創薬基盤の構築を開始したことを発表しました。AI エージェントシステムと実験自動化技術を統合することで、創薬研究に必要な時間とコストを大幅に削減し、研究効率の向上を図ります。また、研究者自身がクラウドサービスや AI 技術を主体的に活用できる環境を整備し、人材育成とアジャイルな組織文化の醸成を通じて持続的なイノベーションを推進しています。これらの取り組みにより、革新的な医薬品をより迅速に患者さんに届ける創薬研究プロセスの実現に貢献していきます。
国立大学法人 浜松医科大学: GenU を用いた医療情報利活用 [ご登壇スライド] [ブログ]
浜松医科大学は、静岡県全体の医療空洞化という社会課題の解決に向け、デジタルトランスフォーメーション(DX)による医療の高度化等を確立するため、クラウドを活用したデータプラットフォーム構築に取り組んでいます。このプラットフォームを活用し、国が進める「医療 DX令和ビジョン2030」の柱の一つである「電子カルテ情報共有サービス」のモデル事業の来年度本番運用開始を予定しています。また、AWS とはスマートヘルスケア実現に向けた包括連携協定を締結しており、生成 AI アプリ実装ソリューションである GenU (Generative AI Use Cases JP)を活用し、医療従事者の働き方改革の実現を目指しています。
日本の医療・製薬の未来に向けて
AWS は、行政、アカデミア、医療機関、製薬企業、ヘルステック企業など多様なステークホルダーの戦略的パートナーとして、日本独自の課題解決に貢献することを強くコミットしています。グローバルの知見を活かしながらも日本市場のニーズに即した支援を提供し、2030年に向けて質の高い個別化医療の実現に貢献します。データがつながり、新たな価値が生まれるとき、日本のヘルスケア・ライフサイエンスは大きく進化します。その未来を、AWS はお客様とともに切り拓いてまいります。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
常務執行役員 エンタープライズ事業統括本部長 堤 浩幸
常務執行役員 パブリックセクター統括本部長 宇佐見 潮