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株式会社 LIFULL 様の AI-DLC Unicorn Gym 実践レポート: 組織的な AI 活用による開発生産性向上

はじめに

本稿は AWS と LIFULL 様の共同執筆により、AI 駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)Unicorn Gym の実践を通じて得られた学びとその後の変化をお伝えするものです。

LIFULL 様は AWS の ソフトウェア開発生成 AI アシスタントである Amazon Q Developer を全社的に活用し、エンジニアだけでなく企画職の方も業務の生産性向上に取り組まれています。個人単位でのAI Agentの活用は着実に進んでいますが、次のステップとして組織でどう活用していくかはまだ検討段階にありました。

組織的な活用をさらに進めるため、LIFULL 様と AWS で AI-DLC Unicorn Gym と呼ばれるワークショップに取り組み、AI-DLC の有効性を確認しました。本ブログでは AI-DLC Unicorn Gym の成果と、実施後の開発にどのような変化があったのかをお伝えします。

AI-DLC の詳細については、AI-DLC のホワイトペーパー日本語の解説ブログをご覧ください。

これまでの課題

LIFULL 様ではすでに多くのメンバーが Coding Agent を活用していましたが、その活用は個人レベルにとどまっていました。各自が独自の方法論を編み出し、それぞれのやり方で生産性を高めていたものの、組織全体として最適化できているとは言えない状況でした。

さらに、個人の活用レベルにも大きなばらつきがありました。AI を使いこなして高い生産性を実現しているメンバーがいる一方で、どう活用すればよいか手探りのメンバーも存在し、チーム全体としての底上げが課題となっていました。

AI-DLC Unicorn Gym の開催

この課題に対して、AWS と LIFULL 様は開発手法に AI-DLC を採用する検証を行うことにしました。AI-DLC Unicorn Gym は、AI-DLC を 3 日間で体験するワークショップです。ただし、単なる体験型のトレーニングではありません。参加チームは実際にプロダクション環境に搭載予定の機能をテーマとして持ち込み、企画、エンジニア、デザイナーが一堂に会して、本番リリースを目指して開発に取り組みます。

LIFULL 様では 6 チーム、約 30 名のメンバーが参加し、それぞれが実際のビジネス課題に対して AI-DLC を実践しました。3 日間という限られた時間の中で、要件定義から設計、実装、テストまでを一気通貫で進め、AI-DLC の効果を体感しました。

AI-DLC Unicorn Gym の成果

3 日間の短期間で、全てのチームが何らかの成果を上げました。3 チームは MVP の実装まで完了させ、うち 1 チームは Production 環境へのデプロイが可能なレベルまで実装を完了させました。
生産性向上の観点では、想定開発期間の 3 倍以上の速度で開発でき、AI-DLC により劇的に開発期間を短縮することを確認しました。

対象システム 取り組み内容 参加者構成 進捗 想定開発期間 AI-DLC 想定開発期間 生産性向上率
AI エージェント 住まい探しに関わる AI エージェントの開発 企画部門(2 名)・技術部門(4名)(計 6 名) モックまで完成
後日一部ユニットは AI-DLC で実装したものをそのままリリース済み
3 ヶ月 1 ヶ月 300 %
問合せ体験改善 AI を活用した問合せ体験の最適化 企画部門(計 3 名)・技術部門(計 4 名) モックまで完成
モックを踏まえ、改めて詳細な仕様を再検討中
3 ヶ月 1 ヶ月 300 %
クライアント・営業向けレポート 会員や営業が利用するレポート機能の新規開発 企画部門(1 名)・技術部門(3 名)(計 4 名) モックまで完成
既存システムに実装するか新規に構築するかの調整中
3 ヶ月 1 ヶ月 300 %
バックオフィスフローの自動化 バックオフィスフローに対する自動化 企画部門・技術部門(計 4 名) 開発継続中、他施策の合間を見て進行させていく予定 3 ヶ月 1 ヶ月 300 %
住宅ローンシミュレーション機能追加 物件詳細に、その物件の「月々支払額」がわかるローンシュミレーター機能を追加する 企画部門・技術部門(計 5 名) 3 日で開発は完了、リリースは延期 2 ヶ月 3 日 1300 %
システム土台の入れ替え EOL したサービスの新しい基盤への移行 技術部門(計 3 名) 技術調査まで完了し、1 つ目のサービスの移管作業途中まで 1 年 3 ヵ月 400 %

AI-DLC Unicorn Gym からの学び

AI-DLC Unicorn Gym を通じて多くの学びを得ました。参加者のフィードバックから AI-DLC の知見を共有します。

同期的なコラボレーションの重要性

AI-DLC の最大の特徴は、企画・デザイナー・エンジニアが同期的に作業を進めることです。従来の非同期なプロセスでは、企画がビジネス要件を詰めて開発に調査を依頼し、フィードバックを待つ必要がありました。AI-DLC ではその場で技術的な実現可能性を確認しながら要件を詰められるため、リードタイムが大幅に削減されました。

エンジニアからは「今までユーザーストーリーに携わることはなかったけど、機能要件だけで判断しないことが分かるようになったのが良かった」という声が上がっています。さらに、AI が議論の内容を自動的にドキュメント化してくれることで、チーム全員が同じ理解を持ち、後から参加したメンバーもすぐにキャッチアップできる状態が作られました。

こうしたコラボレーションとドキュメント化により、要件定義や設計の質が飛躍的に向上し、実装やテストが驚くほど速く進むようになりました。あるチームでは「設計に 2 日かけたことで、コーディング自体は 30 分ぐらいだった」と報告しています。

AI-DLC をさらに加速させるために必要なこと

3 日間の体験を通じて、AI-DLC をより効果的に回していくために必要なことも明確になりました。

最も多く挙がったのが、社内ドキュメントや設計書の整備です。「既存システムを AI に理解させるための情報がまとまっておらず、既存システムの仕様調査に時間がかかってしまいました」という指摘がありました。ドキュメント整備はレビュープロセスの効率化にも直結し、「ナレッジを蓄積することでやりとりを減らせれば効率化できる」という気づきも得られています。

また、AI-DLC の高速な開発サイクルでは、人間がボトルネックになりやすいという課題も浮かび上がりました。「仕様策定や開発が高速化したことで、仕様やデザインの承認がボトルネックになる」という指摘がありました。裁量を現場に委譲しプロダクトチームが独自に意思決定できるようにすることが、AI-DLC をスムーズに回すための重要なポイントとなります。

AI-DLC Unicorn Gym 実施後の変化

AI-DLC Unicorn Gym の体験は、LIFULL 様の開発プロセスに具体的な変化をもたらしました。

最も象徴的な変化は、職種を超えたコラボレーションの日常化です。プロダクトマネージャーとエンジニアが共同で作業するために毎日 3 時間を確保するようになり、要件定義段階から企画・デザイナー・エンジニアの 3 職種が集まって検討及び議論をする機会が増えました。モブワークの重要性や効率の良さに気づけたことで、エンジニア・非エンジニアが定期的に集まってモブワークをする機会も増えています。

開発プロセスにも変化が現れました。小さなタスクでも AI-DLC のやり方に沿って「プラン→レビュー→実行→レビュー」のサイクルを回す機会が増え、基盤チームでは新規開発案件を基本的に AI-DLC をベースに進めていくことを決定しました。インフラ・サーバー構築など裏側にも活用できることが分かり、適用範囲が広がっています。

ツールやワークフローの面でも進化が見られます。サービス企画職メンバーも企画書・仕様書などの上流ドキュメントをマークダウンで作成し、GitHub 上でドキュメントのレビューや管理を行うようになりました。デザイナーは Figma MCP サーバーを活用してコーディングした HTML/CSS を対象リポジトリへ適用するためのワークフロー検討を始めています。

特筆すべきは、新卒メンバーの成長速度です。通常は時間をかけてキャッチアップする必要のある 20 年もののシステムへの機能追加を、入社半年の新卒メンバーが 3 日でできるようになりました。AI-DLC は、経験の浅いメンバーでも高度な開発に参加できる環境を作り出しています。

まとめ

AI-DLC Unicorn Gym を通じて、LIFULL 様は個人レベルの AI 活用から組織レベルの活用へと大きく前進しました。3 日間で想定開発期間の 3 倍以上の生産性向上を実現し、3 チームが MVP 実装まで完了させました。

より重要なのは数字に表れない変化です。企画・デザイナー・エンジニアが同期的にコラボレーションする文化が根付き、「プラン→レビュー→実行→レビュー」という AI-DLC のサイクルが日常の開発プロセスに組み込まれています。属人化していたノウハウが方法論として言語化され、新卒メンバーでも高度な開発に参加できるようになりました。
LIFULL 様の AI-DLC への取り組みは、ここからさらに加速していきます。今後は、この学びを社内全体に展開し、より多くのプロジェクトで AI-DLC を実践することで、組織全体の生産性をさらに向上させていきます。

著者

Kento Nagatomo

長友 健人 (Kento Nagatomo)

アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト
デジタルネイティブビジネスを展開されるお客様を中心に技術支援をしています。

keisuke isono

磯野 圭輔 (Keisuke Isono)

株式会社LIFULL テクノロジー本部 事業基盤部
LIFULLのAWSクラウドインフラ全体の管理・運用チームのエンジニアリングマネージャー
AWS CDKでコード化することで「誰にでもわかる」インフラを作ることに注力している。
また、Amazon Q Developerの導入を主導し、AI-DLCによるチームのさらなる開発生産性向上も模索中。

yoshinaga yuta

吉永祐太(Yoshinaga Yuta)

株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部プロダクトエンジニアリング部
賃貸・売買などのマーケットを横断した施策を推進するグループのエンジニアリングマネージャー