Amazon Web Services ブログ
新レポート: 欧州の国家安全保障と防衛にとってクラウドは「基盤」
本ブログは 2025 年 12 月 8 日に公開された AWS Blog “New report: Cloud “fundamental” for European national security and defense” を翻訳したものです。
クラウドコンピューティングは、欧州全体で国家安全保障・防衛能力を支える重要な基盤として台頭しています。英国王立防衛安全保障研究所 (RUSI) が発表した新しいレポート (AWS の支援を受けて独立した調査として実施) では、4 つの欧州諸国がハイパースケールクラウドインフラストラクチャを活用し、複雑化する脅威の状況の中で防衛態勢を強化し、国益を守っている方法を明らかにしています。NATO とその欧州加盟国が技術的優位性を維持・強化できる最新のデジタル基盤を求めている今、これは重要なレポートといえます。
クラウド採用の戦略的必要性
RUSI のレポートは、クラウド技術が欧州の国家安全保障にとって基本となる 3 つの目標、すなわちレジリエンスの達成、レガシーシステムの刷新、人工知能 (AI) などの先進技術の活用を支援することを論じています。この変化は単なるデジタルモダナイゼーションにとどまりません。「NATO と欧州の同盟国にとって、クラウド採用は単なるデジタルモダナイゼーションの問題ではなく、戦略的即応性の問題でもある。相互運用可能でスケーラブルかつ安全なデジタル能力を展開できるかどうかが、新たな脅威を抑止し対応する同盟の能力を左右する」とレポートは主張しています。そして「クラウドコンピューティングは欧州の国家安全保障・防衛にとって基盤となる能力になった」と結論付けています。
各国でのクラウド活用事例
RUSI のレポートは、さまざまなクラウドサービスプロバイダーを活用している英国、ウクライナ、エストニア、フィンランドのケーススタディに基づき、ネットワーク接続性、法規制上の課題、市場集中、地政学的リスクなどの課題に対処しながら、クラウド採用の戦略的・運用的影響を評価しています。
ウクライナ
ロシアの侵攻が始まると、ウクライナは AWS の支援を受けて、重要な行政データベースとデジタルサービスをクラウドインフラストラクチャに迅速に移行しました。これにより、絶え間ないサイバー攻撃や物理的攻撃にもかかわらず、重要な政府サービスの継続性が確保されました。
RUSI のレポートには、クラウド採用とその影響を説明するために、さまざまなクラウドサービスプロバイダーの事例が含まれています。レポートでは、ウクライナがその後 Delta Platform を展開したことが説明されています。これは、複数のデータソースを統合してリアルタイムの状況認識、安全な軍事通信、自動化された脅威検出を可能にするクラウドネイティブの指揮統制プラットフォームです。クラウドベースのアプローチは、状況に即応した速度と大規模に運用するための基盤となっています。また、レポートが指摘するように、英国・ウクライナサイバープログラムなどのプログラムを通じた国際パートナーのサイバー能力支援も可能にしました。これは、有事の際にクラウドインフラストラクチャが同盟国間の迅速な国際協力をいかに促進できるかを示しています。
エストニア
エストニアは、ルクセンブルクにデータ大使館を設立することで、デジタル継続性に対して積極的なアプローチを取っています。このデータ大使館には、国が侵攻された場合に亡命政府がアクセスできる重要な政府データベースが保存されており、最も極端なシナリオでも重要なデジタルガバナンス能力が存続することを保証しています。
フィンランド
フィンランドは、ライブ・バーチャル・コンストラクティブ (LVC) 訓練システムを通じて、クラウドコンピューティングを活用して軍事訓練に変革をもたらしました。これらのクラウドベースのプラットフォームは、実機と仮想シミュレーターを統合し、従来のアプローチではコスト的に実現不可能な高度な訓練シナリオを可能にしています。このシステムは、国の規模にかかわらずクラウドを通じて高度な軍事能力にアクセスできることを実証しており、パフォーマンス分析とリアルタイムの訓練データ伝送により、かつてない訓練効果を実現しています。
英国
英国は、国家サイバーセキュリティセンターの Protective Domain Name Service (PDNS) などの取り組みを通じて、クラウド技術を国家サイバー防衛戦略に統合しています。このクラウドベースのシステムは、悪意のあるドメインへのアクセスを防止し、政府ネットワークと重要インフラをリアルタイムで保護します。英国政府は 2025 年 3 月に Borealis 宇宙監視システムを発表しました。このシステムは、衛星を保護し軍事的意思決定を支援するために、最高機密レベルまでの複数のソースからの情報を収集・処理することを目指しています。このプログラムは、クラウドが複雑な宇宙作戦に必要なスケールを提供しながら、機密性の高い防衛データを安全に処理できることを裏付けています。この事例は、クラウド環境での機密データの取り扱いを検討している各国の防衛当局にとって参考になります。
ウクライナ、エストニア、フィンランド、英国の事例は、クラウドコンピューティングが現代の国家安全保障インフラストラクチャの一部となったことを表しています。脅威が進化し続け、より高度化するにつれて、デジタル能力を迅速に展開、スケール、適応させる能力が、国家安全保障の成果をますます左右するようになるでしょう。
戦略的課題と考慮事項
RUSI のレポートは、欧州各国政府が検討すべき課題を挙げています。これには、ネットワーク接続性、相互運用性に影響を与えるレガシーシステムとの統合、デジタル主権の概念をめぐる不確実性、従来のインフラストラクチャ向けに設計された調達システムなどが含まれます。レポートは次のように結論付けています。「したがって、戦略的に検討すべきことは、政府がクラウド技術を採用すべきかどうかではなく、国家安全保障・防衛のメリットを最大化するためにトレードオフをどのように乗り越えるかである」
政府の行動に関する RUSI の推奨事項
RUSI のレポートは、国家安全保障・防衛目的でクラウドコンピューティングを活用しようとする欧州各国政府に対して、以下の推奨事項を提示しています。
- 国家安全保障・防衛のニーズに特化したクラウド採用の明確な戦略的方向性を策定し、原則に基づくトップダウンのアプローチで全機関の意思決定を導く
- 国家安全保障アプリケーションのクラウド採用を可能にするよう法的枠組みを改訂する
- シナリオベースのモデリングを使用して将来のコンピューティング要件を計画し、さまざまな状況における必要なコンピューティングリソースを把握する
- クラウドサービスの調達と保証機能を一元化する
- リスクベースのアプローチを採用する。データとサービスの重要度に基づいて調達を行い、有益なクラウド採用を妨げる過度に制限的なポリシーを避けながら、適切なセキュリティ対策を講じる
- クラウドソリューションを効果的に特定、採用、調達するために必要なスキルを人材が持てるよう、内部能力を構築する。これにより、調達の意思決定が技術的専門知識に基づいて行われるようになる
- クライアント側の暗号化、データポータビリティ要件、相互運用性標準、ハイブリッドまたはマルチクラウド戦略を含む依存性軽減戦略を実施する
- 共同演習、責任共有モデル、規制監督を通じて、政府とクラウドサービスプロバイダー間の信頼と透明性を醸成する。これにより、高度な機能へのアクセスを維持しながら、デジタル主権に関する懸念に対処できる
つまり、ミッションを変革するには、組織全体が変革する必要があります。変革は、IT、調達、セキュリティ、法務、その他多くの機能にわたる新しい働き方を通じて実現される、強力なトップレベルのリーダーシップビジョンから始まります。組織全体が進化する必要があるのです。
クラウド技術により、ミッションベースのアプリケーションとサービスをアジャイルな方法で開発し、必要に応じて過度なコストをかけずにスケールできます。また、防衛組織にサイバーセキュリティの強固な基盤を提供します。オンプレミスでは多様なセキュリティ機能を常に最新の状態で維持することが難しいですが、クラウドであれば継続的に更新される豊富なセキュリティ機能を活用し、防衛組織のセキュリティ基盤を強化できます。
