Amazon Web Services ブログ

自律的な旅:消費財企業がサプライチェーンの需要計画をどのように変革できるか

2020 年の消費財 (Consumer Packaged Goods; CPG) サプライチェーン管理にとって、需要の混乱は大きな課題であり、今後も大きな課題となるでしょう。

以前のブログ記事「データ駆動型需要計画: 機械学習とデマンドセンシングにより消費財業界の混乱に向き合う」で説明したように、サプライチェーンの需要の混乱を解決する一環として、需要計画の改善があります。機械学習 (ML) を活用した高度な予測とデマンドセンシングは、計画をより正確かつ効率的にするための鍵となります。

オペレーションの最適化と収益の最大化に不可欠な注文割当は、需要の変動に対応するためにはさらに重要です。これは、注文の優先順位付け、調達場所、出荷方法など、注文をどのように、いつ、どこで履行すべきかを決定する動的なプロセスです。効果的な注文割当により、消費財企業は、最も費用対効果の高い方法で、時間どおりに、全ての注文を納品することができます。

静的なソーシング、キャパシティ、リードタイムのルールに基づいて注文をお届けするレガシーシステムには、24 時間 365 日、オムニチャネル e コマースによる厳しい納期の注文に対応するために必要となる俊敏性が欠けています。消費財企業は、ベストプラクティスと新しい人工知能 (AI) および機械学習機能を使用して、進化するオムニチャネル全体で、リアルタイムかつ大規模に注文割当の決定を行うことができます。

注文割当の課題

消費財企業にとって供給不足と生産能力不足がフルフィルメントの大きな課題となっているため、注文割当はかつてないほど重要になっています。従来、企業は、経済的な注文数量や輸送計画の制約など、注文割当に限られた一連の考慮事項を含んでいました。COVID-19 の混乱の間、人件費、倉庫容量、梱包要件などのより多くの要因を考慮する必要がありました。

供給不足に加え、多くの消費財企業は DTC 販売 (直販、Direct-to-consumer) チャネルを成長させており、サービスやコストの最適化に関する新たな課題に直面しています。デジタルコマース 360 によると消費者は 2020 年に米国の加盟店とオンラインで 8,600 億ドル以上を費やし、2019 年より 44% 増加しました。

世界的な DTC の成長は継続し、国や市場ごとに顧客にサービスを提供するための物理的なフットプリントが多様化しています。フルフィルメントネットワークは、国境を越えたリードタイム、社内およびサードパーティの倉庫とロジスティクスのキャパシティとシステムにより、ますます複雑化が進むでしょう。DTC のお客様の期待は、時間に左右される傾向があります。即日または翌日の短い納期で予定通りに商品が配達されなければ、他の企業に行ってしまうでしょう。

高度な注文割当機能の構築

効果的な注文割当機能を実現するには、次の 3 つの重要な要素があります。

  • 可視性
  • データ分析
  • 高度な分析とシミュレーション

可視性

在庫を可視化することで、保有している在庫量、ステータス、在庫場所 (輸送中を含む) を把握できるため、在庫状況をリアルタイムで正確に判断して予測できます。在庫だけでなく、倉庫や人員のキャパシティ、輸送への天候による影響、入荷など、サプライチェーンの他の側面を可視化することで、可用性、ボトルネック、入庫の制約を予測するための高度でインテリジェントな意思決定が可能になります。全体像を把握することで、危機を常に管理するのではなく、とり得る選択肢とそのトレードオフを評価し、適切な意思決定を行うことができます。

可視性は、従来のトランザクション情報を超えるデータがあるかどうかにかかっています。これには、在庫を追跡して手動での計測を防ぐために、カメラまたはバーコードスキャンを使用する必要があります。GPS、ジオフェンシング、IoT センサー、リアルタイムのサプライヤーデータ統合などのアプリケーションでは、輸送関連データ、倉庫スループット、生産スケジュール、サプライヤー出荷などを把握できます。

サイロ化されたデータを単一のビューに統合することは、プロセスを合理化し、新しいインサイトを明らかにするために不可欠です。これはどの ERP システムでも実行できますが、内部と外部の両方のデータソースに柔軟に対応できるデータレイクを使用するとより効果的です。

データ分析

適切なデータを手に入れたら、分析して予測的判断を下す必要があります。このステップでは、最適化、コスト、優先順位付けなどのさまざまなモデルを組み合わせます。

最適化
最適化とは、コスト、マージン、サービスなどのインプットを継続的に評価して、最良の結果を特定し、要求される目標を達成するプロセスです。注文割当の最適化エンジン:

  • すべての供給元をチェックします。
  • 注文ごとのフルフィルメントコストの合計を示します。
  • トリガーイベントが発生したときにサービスレベルを達成するために最も費用対効果の高いシナリオを継続的に計算します。

調査によると、主要な e コマースプラットフォームの 40% が配達日予測を提供していないことが示唆されています。これは、売上と収益性に直接的な影響を及ぼす可能性があります。一方、Amazon.com のような主要なプラットフォームでは、納期の正確な予測と、そのデータに基づくサプライチェーンの最適化に重点を置いています。

最適化能力の第 1 レベルは、お客様に配達予定時刻 (ETA; estimated time of arrival) を提供し、お客様が持っているデータを使用して、最も費用対効果の高い方法でその ETA に納品できることです。組織が成熟するにつれて、より複雑なデータを方程式に追加して、より高度な最適化を行うことができます。

費用対効果
サービスコストには、保持、調達、輸送、処理など、コストのさまざまな変数を考慮し、最適ではない荷物、順路、処理などに対するペナルティが組み込まれています。サービスコストは、最適化エンジンが最終的な選択を行う複数の選択肢を比較するための基礎となります。その選択は、出荷のすべての目標を達成する最も安価な選択肢でなければなりません。

たとえば、一般的には特定の国の倉庫から商品を発送するほうが安価ですが、リソースや容量が不足しているために、その倉庫が予定どおりに出荷できない場合があります。この場合、たとえ費用がかかっても、納期の約束を果たすために別の手段を選択する必要があります。

この分野のリーダーは、製品を特定の場所に保管し、ピック、梱包、出荷するのにかかる費用を知っています。これらのコストを割り当て、高度な最適化エンジンを育てます。

優先順位付け
優先順位付けとは、顧客のタイプごとにロジックとルールに基づいて割り当てを決定することを意味します。そのためには、ビジネスに対する重要性に応じて顧客をセグメント化し、各セグメントのコストへの影響、サービスへの影響、ペナルティの影響などを把握する必要があります。先入れ先出しモデル (FIFO; first in, first out model) で事業を展開し、優先順位を付けない企業は、最も重要な顧客への供給不足という深刻な事態に陥る可能性があります。

セグメンテーションを超えて、企業は優先順位付けをより大規模なロジスティクスネットワークに拡大することを検討するかもしれません。これは、満載のトラックと当日配達を使用したり、フルフィルメントセンターの生産性の変動を考慮したり、二酸化炭素排出量の削減を優先したりすることを意味します。

今日、多くの組織は静的ルールを使用して作業していますが、パンデミックの最中に明らかになったように、今後は労働力とサプライヤーの制限や複雑な状況に対処するために、より動的な優先順位付けが必要になるでしょう。

データ分析は、フルフィルメント選択における意思決定に役立つものですが、経路選択から輸送計画、労働要件までの下流の計画と実行に関する意思決定に影響を与えるためにも使用されます。

高度な分析とシミュレーション

AI と ML は、注文割当の意思決定を次のレベルに引き上げることができます。静的ルールを使用する代わりに、機械学習を使用してフィードバックループを構築し、プロセスを動的に進化させることができます。たとえば、通常、特定の在庫場所から製品を調達する場合、実際に思ったよりもコストがかかるのか、それとも時間がかかっているのかを ML で示すことができます。また、データの変更に伴ってルールが変わる可能性があります。

AI と ML は、データを分析し、見込み、過去のパフォーマンスなどから予測モデルを作成できます。たとえば、倉庫、倉庫内の動線、または運送業者の過去の実績に基づいて、ある割合の過剰生産能力を処理できるのか、特定の条件下で破綻するのかを予測できます。

シミュレーションとモデリングは、データ分析から得られた回答を利用して、変更に応じてどのアクションを実行すべきかを即座に決定するために不可欠です。回答をシミュレートする機能があると、よりインテリジェントに配分し、需要と供給の変化に応じて割り当てを変更することができます。

すべてをまとめる

多くの組織は、注文を履行する最善の方法について一回限りの静的な決定を下しており、サプライチェーンの変化に応じてその決定を再検討することはできません。一方、先進的な組織は、供給、需要、天候、ネットワーク、在庫などの要因の変化に自動的に対応し、最良の結果を生み出します。

これらの組織は、さまざまなデータを組み込み、コストモデルを構築し、高度な AI/ML と最適化手法を使用することにより、注文割当を数秒で決定し、コストを最適化し、正確な配送予測を行い、顧客を満足させることができます。

収益性を高めるためには、これらのテクノロジーに投資することが不可欠です。テクノロジーを活用して効果的な注文割当の決定を迅速かつ効率的に行っている消費財企業は、継続的な需要の混乱という課題に直面し続けているにもかかわらず、競合他社との差別化を図っています。

AWS for CPG がお客様の組織にどのようにお役に立てるかをもっと知りたい方は、今すぐアカウントチームにご連絡ください。

著者について

Mayank Sharma

Mayank Sharma は、AWS の EMEA のサプライチェーンビジネス開発リーダーであり、世界中のサプライチェーンのお客様のデジタルトランスフォーメーションを支援しています。Mayank は、サプライチェーン戦略、計画と最適化、コグニティブ調達、フルフィルメント、ロジスティクス(ラストマイルを含む)、サービス改善の分野で顧客をサポートすることで、このような変革を推進しています。Mayank は 2020 年 7 月に AWS に入社し、以前は Amazon.com の小売サプライチェーンおよび EU ロジスティクスの職務に従事していました。それ以前は、デロイトをはじめとするコンサルティング会社で 12 年以上にわたり、サプライチェーンの計画と最適化の変革を率いてきました。

Michael Brown

Michael Brown は、ビジネストランスフォーメーションと次世代サプライチェーン戦略の開発におけるリーダーです。AWS では、グローバルかつ戦略的なお客様のビジネス開発を主導し、お客様のサプライチェーンの革新、破壊、自動化を支援しています。以前は、IBM で、AI、IoT、オートメーション、ブロックチェーンを活用して、CPG、製造、小売のクライアントとのデジタル・サプライ・チェーン戦略を策定する取り組みを主導していました。IBM に入社する前は、NTT 社と共にグローバル e コマースマーケットプレイスの創出と運営の取り組みを主導し、アクセンチュアと EY でビジネストランスフォーメーションとサプライチェーン戦略プラクティスの一部を担っていました。

翻訳は Solutions Architect 蔵野が担当しました。原文はこちらです。