AWS Startup ブログ

IPO 準備に入るきっかけとしての勉強会【AWS IPO 支援セミナー第 4 弾】

アマゾン ウェブ サービス ジャパンは IPO(新規上場)の悩みを抱えるスタートアップ企業の方々に向けて、これまで「上場を目指すスタートアップ必見!『上場準備で技術部門が取り組むべきセキュリティ対策と内部統制(IT 統制)』」やその実践編、「IPO の最大の悩み予実管理どうする? 技術部門が意識すべきポイント」などのセミナーを実施してきました。

今回は IPO 支援セミナーの第 4 弾として、2024 年 12 月 18 日に「IPO 準備に入るきっかけとしての勉強会【AWS IPO 支援セミナー第 4 弾】」と題したイベントを AWS Startup Loft にて開催。IPO 支援を得意とする各社が、N-3 / N-2 / N-1 期における実践的なノウハウを解説しました。そのレポートを掲載します。

<スピーカー>
Uniforce株式会社 事業本部マネージングディレクター 荒木 賢治 氏
株式会社デジタルキューブ 公認会計士・認定上級 IPO プロフェッショナル 和田 拓馬 氏
ブリッジコンサルティンググループ株式会社 取締役 COO / マネジメント事業本部 本部長 田中 智行 氏

N-3 期の壁を超え、IPO 準備の全体像を掴む! ショートレビューの指摘事項の乗り越え方

Uniforce株式会社 事業本部マネージングディレクター 荒木 賢治 氏

Uniforce社の荒木 氏は、N-3 期における上場準備のポイントについて解説しました。

株式上場を目指す企業が、上場プロジェクトを立ち上げる前にすべきことは、上場の目的の明確化です。上場には「社会的信用が高まり、知名度が向上する」「資金調達手段の選択肢が増える」「社内体制を強化できる」「人材の確保が容易になる」「キャピタルゲインを得るきっかけとなる」などさまざまな目的があります。この目的について、経営陣だけではなく従業員全体で認識を合わせることが、上場準備を円滑に進めるための第一歩となります。

次にすべきことは、現状の課題を把握することです。そのために、短期調査を実施して現状と理想とのギャップを明確にすることが求められます。特に、監査法人が実施するショートレビューは、上場準備の初期段階で多くの企業が活用する代表的な調査手法です(ショートレビューの詳細は後述します)。

また、セッション内では「上場するにあたって、どのようなタスクが必要になるのかを把握することが大切」とも語られ、下図のようなタスクの例が列挙されました。

セッション中盤では、上場プロジェクトの立ち上げについて解説しました。IPO に向けた経営管理体制の整備には、グループ全体の予算編成や職務分掌の見直しなどが必要であり、大量の資料を限られた時間内で収集・作成しなければなりません。また、取引所や主幹事証券会社、監査法人などの外部関係者と連携しながら準備を進めることになります。

負担の大きい業務であることから、専任チームである上場準備室を設置するのが一般的です。通常、上場準備室は IPO 申請の 3 〜 4 年前に社長や管理担当取締役を中心に設立され、状況に応じてメンバーが増員されます。必要な人数は企業規模や状況により異なりますが、最低でも 5 〜 6 名とされています。一部の業務を IPO コンサルティング会社や BPO サービスに委託することで、上場準備室の人数を減らすことも可能です。

セッション後半では、ショートレビューの詳細について解説しました。ショートレビューは上場準備における課題を把握するために監査法人や公認会計士事務所が行う調査であり、予備調査やクイックレビューとも呼ばれます。

ショートレビューでは現地での実地調査や企業担当者へのインタビューが行われます。通常 2 〜 3 日間をかけて実施され、調査後には約 1 〜 2 週間で報告書が提出されるのが一般的です。ショートレビューの費用は調査範囲により異なりますが、100 万円台から 300 万円台が目安とされています。この調査を通じて、上場を目指す際に解決すべき課題を特定し、解決の方向性や具体的な改善方法を検討していきます。

この調査は、上場申請の 3 期前に行われるのが一般的です。その理由は、株式上場の審査基準として「最近 2 年間の財務諸表等について、監査法人または公認会計士の監査等を受けていること」が求められるためです。つまり、上場申請の直前 2 期分の監査証明が必要となります。ショートレビューで課題が見つかり、その改善に時間がかかる場合、上場申請のタイミングが延びる可能性もあるため、早めの準備と対応が求められます。

以上のように、N-3 期の段階で実施する施策やショートレビューの重要性を理解し、着実に進めることが、IPO 達成においては肝要となります。

デジタルキューブの上場経験から振り返る N-2 期の社内体制作りと TOKYO PRO Market 活用戦略

株式会社デジタルキューブ 公認会計士・認定上級 IPO プロフェッショナル 和田 拓馬 氏

デジタルキューブ社の和田 氏は、N-2 期における同社の社内体制構築の実例と TOKYO PRO Market を活用した上場戦略について語りました。

デジタルキューブ社の上場プロジェクトは、2022 年 12 月に開始されました。社内体制整備は 2023年 3 月から同年 9 月まで行われ、10 月以降は社内ルールの運用が本格化しました。さらに、2024 年 1 月から 10 月にかけて開示書類を作成し、2024 年 10 月に TOKYO PRO Market への上場を果たしたのです。こうした取り組みの中で、N-2 期における具体的な社内体制整備はどのように進められたのでしょうか。

プロジェクト開始前の 2022 年 10 月時点では、上場企業としてのガバナンスを整えるために取り組むべき課題がたくさんありました。部門間の役職の兼務解消、管理部の立ち上げ、勤怠管理の整備、取締役会の設置、監査役の選任、社内規程の整備など、上場準備の一からスタートという形だったのです。

これらの課題に対し、ショートレビューの実施後、早急に取締役会を設置して監査役を迎え入れるなどの対応が行われました。同時に、管理部が設置されました。当初は和田氏 1 名で業務を担当しましたが、その後の採用活動によりスタッフが増員されたのです。この間、営業部長や開発組織のメンバー、社外取締役も加わり、体制が徐々に整備されました。

次のテーマとして、決算早期化と会計基準の整備について取り上げました。上場後は四半期ごとに決算開示が義務付けられており、各四半期末から 45 日以内に情報を提出する必要があります(TOKYO PRO Market では半期ごと)。このため、月次決算を翌月 10 日以内に締める体制が求められます。

その実現に向けて、同社では請求書発行や経費精算ルールの整備、原価計算方針の確立、さらに会計システムと各種システムの API 連携を推進しました。また、案件管理・請求書発行システムのワークフロー改善と API 連携、勤怠管理システムの導⼊と給与計算の簡略化なども同時に行い、業務の効率化を図ったのです。

別のテーマとして、ストックオプション発行の事例が紹介されました。同社では、役員や従業員全員をストックオプションの対象とし、退職後も権利行使が可能な設計としたのです。第 1 回発行時には紙ベースの契約書が使用されましたが、契約書の回収や登記手続きに時間がかかったため、第 2 回発行では電子契約を導入し、手続きの簡素化を実現しました。

最後に、TOKYO PRO Market の特性と活用戦略について説明がありました。同市場は特定投資家向けであり、売上や利益、時価総額といった形式基準がない点が特徴です。この市場への上場により、上場会社としての信用を得られるとともに、次の成長ステップを模索する機会が広がります。2024 年には新規上場数が 50 社に達し、グロース市場に迫る勢いを見せています。さらに、福岡プロマーケットの新規開設も 2024 年 12 月に行われ、今後の展開が注目されています。

同社の事例は、ガバナンスを整えながらサステナブルな成長を目指すモデルとして、今後の IPO 準備に取り組む企業にとって有益な示唆を与えるものでした。

バックオフィスのリソース不足で困らない! 無理なく IPO を実現するための“手堅い”リソース戦略 ~ N-1 期編~

ブリッジコンサルティンググループ株式会社 取締役COO/マネジメント事業本部 本部長 田中 智行 氏

ブリッジコンサルティンググループ社の田中 氏は、N-1 期におけるバックオフィスのリソース不足を解決するための具体的な戦略について講演しました。

N-1 期は、内部管理体制を整備し、それを確実に運用することが求められるフェーズです。この段階で大きな問題が発生すると、IPO 達成が困難になる可能性があるため、事業計画の精度向上や予実管理の徹底、機関設計の確立が必要です。また、内部監査を年間を通じて適切に運用する体制の構築も欠かせません。

この段階で多くの企業が直面する課題として、バックオフィスにおけるリソース不足が挙げられます。特に、内部監査、J-SOX 対応、Ⅱの部(有価証券届出書や上場申請書類に記載される企業情報の詳細)の作成、決算開示の 4 領域がリソース不足になりやすい点が指摘されました。

これらの課題を解決するためには、まず業務フローや社内ルールのシンプル化、使用するシステムの整理を行うことが重要です。複雑なプロセスはリソース不足をさらに悪化させる要因となります。リソース不足への対策として、田中 氏は「現有戦力で踏ん張る」「新規採用をする」「アウトソーシングをする」という 3 つの選択肢を提示しました。

現有戦力を活用する場合、追加費用を抑えつつ既存社員の成長が期待できますが、負担過多による労務リスクやタスク遅延、さらには退職や休職のリスクが懸念されます。一方、新規採用では、労務リスクを低減しタスク遅延を防ぐ効果が期待できるものの、採用までのリードタイムや採用にかかる費用、早期退職リスクが課題となります。

これに対し、アウトソーシングは労務リスクを解消し、高い専門性を要する業務にも対応できるため、業務の安定化に寄与します。ただし、費用が割高になる可能性がある点には注意すべきです。それでも、IPO を成功させるための投資と捉え、戦略的にアウトソーシングを活用してほしいと強調しました。

特に、内部監査や J-SOX 対応、Ⅱの部の作成、決算開示といったリソースが不足しがちな領域は、アウトソーシングとの相性が良いです。内部監査や J-SOX 対応は専門性が求められるうえ、精神的負担が大きく退職リスクも高い業務です。決算開示も専門性を求められる業務であるとともに、これを行える人材は激しい奪い合いの状況となっており、正社員採用の難易度が高くなっています。また、Ⅱの部の作成は IPO 時のみ発生する業務であり、このためだけに人材を採用するのは効率的とは言えません。

アウトソーシングを活用することで、専門業者から高品質な成果物を得られるだけでなく、定期的なミーティングなどで情報を共有し、ナレッジの蓄積を図ることが可能です。このように計画的にアウトソーシングを取り入れることが、無理のない形で IPO を実現するための鍵となります。

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各セッション終了後は、会場の方々が参加するネットワーキングパーティーも開催しました。他の参加者と談笑しながら有益な議論を交わす場は、リアルイベントならではの醍醐味です。課題や疑問について相談することで、相手から解決のためのヒントをもらえることもあります。また、会場で生まれたネットワークが、新たなビジネスのきっかけになることもあるのです。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンは今後も、スタートアップ企業で働く方々にとって有益なセッションを実施してまいります。ぜひこの記事を読まれたあなたも、次回のイベントにご参加いただければ幸いです。