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CTO に求められる役割から年収、持ち株割合まで。著名 CTO・CEO が徹底討論【CTO Night & Day 2019 – Panel Discussion】
CTO や VPoE など、技術の立場から企業経営に関与するリーダー・マネージャーのための招待制オフサイト・カンファレンスである CTO Night & Day。2019年10月9日に行われた Day1 では、日本やアメリカ、イギリスといった国々で活躍する4名の CTO・CEO が、CTO のロールについて技術やステージ、グローバルなどの視点からディスカッションを実施。CTO Night & Day 参加者の実態調査の結果もふまえ、日米の違いについても議論しました。議論を通じて見えた「CTO の役割そして求められる素養」とは?
<パネリスト>
グリー株式会社 取締役 上級執行役員 最高技術責任者 藤本 真樹 氏
カーディナル合同会社 代表社員 安武 弘晃 氏
Gremlin Inc CEO and Founder Kolton Andrus 氏
Snyk Ltd Founder, President and Chairman of the Board Guy Podjarny 氏
<モデレーター>
株式会社WiL パートナー 代田 常浩 氏
自国の市場規模が、創業期のエンジニア割合を左右している
代田:みなさま、本日はよろしくお願いします。今回の CTO Night & Day では、参加者の方々に事前にアンケートを取りました。本セッションではその結果を2016年のデータと比較しながら共有したうえで、パネリストの方々によるディスカッションを行いたいと思います。
まずは「あなたはいつ企業に参画しましたか?」という質問について。創立時から企業にいた方と、シリーズ A 前に参画された方はそれぞれ 28% でした。つまり、半数以上の方々がシリーズ A よりも前に入社されているようです。
次は「これまで何回、CTO を経験されていますか?」という質問です。2016年と比較すると、経験した回数が多くなっています。2回以上経験されている方が、全体の約 40% を占めていますね。
「buyout/IPO を何回経験されていますか?」という質問に対しては、8割の方が「0」と回答されています。こちらは、2016年のデータと大きな差異はありませんでした。
次の「創業メンバーにはエンジニアが何名いましたか?」という質問に関しては、興味深い結果が出ています。
34% の方が「0」と回答されています。ぜひ、このテーマについてパネリストの方々とディスカッションしたいです。海外からの参加者である Kolton さん、Guy さんはこの状況をどのように思われますか?
Guy:(Snyk Ltd のオフィスが存在している)イギリスのロンドンは、日本とよく似た状況ですね。しかし、(同じく Snyk Ltd のオフィスが存在している)イスラエルのテルアビブでは、このようなケースはほとんどありません。
ロンドンでは、創業時には多くの企業がシステム開発をアウトソーシングします。あるいは、より給料が安価な地域でエンジニアを雇用します。事業が拡大していけば、CTO をロンドンで採用することも、もちろんありますけれど。しかしテルアビブでは、基本的には創業メンバーにエンジニアが必ず含まれています。
藤本:ロンドンとテルアビブとの違いは、何に起因していると思いますか?
Guy:イスラエルは人口が少なく、国内市場が小さいんですね。だからこそ、国内のユーザーだけを対象としたビジネスを成立させるのが基本的に難しいです。創業時点で、テクノロジーを活用して海外展開できるようなビジネスモデルを考えなければいけません。
一方で、イギリスは人口が多いですから、国内市場だけでも十分に大きなものになります。必ずしも海外展開を考える必要はありません。つまり、日本とロンドンの創業メンバーのエンジニア割合が似ているのは、国内のローカルな市場が大きいことに起因しているように思います。
Kolton:間違いなく、その要素は大きいですね。しかし今後は、(創業時のエンジニア割合の)トレンドにも徐々にシフトが起きていくように私は思っています。
かつては、まずビジネスの土台をつくり、その後に必要に応じてエンジニアを採用するという流れが一般的でした。ですが近年では、世界的に有名になった IT 企業は、創業メンバーにエンジニアが含まれているケースが多くなっています。より、「技術がビジネスを牽引する」という傾向が強くなっているのでしょう。
代田:では次に移ります。「社員の何%がエンジニアですか?」という質問に対する回答ですが、「半数以上の社員がエンジニア」と答えた方が 50% 以上でした。
もちろん、企業の成長のフェーズによっても、この数値は変わってくるでしょう。
収入と持ち株比率に見る、日本の CTO の傾向
ここからは、お金に関する質問が続きます。まずは「あなたの年収はいくらですか?」という質問です。
2016年と2019年の結果を比較すると、みなさんがより裕福になっていることがわかります。2019年の内訳を見ますと「10万ドル〜20万ドル」がおよそ半数といったところでしょうか。この金額について、何かご意見はありますか?
Kolton:日本の IT 企業が、多額の給与を払えるほどの資金力を持っていると実感しました。一定の収益があがった場合や資金調達を行った場合に「どのような方針で資金を使うか」は難しいテーマですよね。社員の給与を増やすことに使うのか、それとも自分たちの次なるビジネスを生み出すための投資を行うのか。
安武:CTO の昇給を行うのは、シリーズ A とシリーズ B のどちらの段階が望ましいと思いますか?
Guy:おそらく、シリーズ B 以降だろうと思います。シリーズ B は企業における大きな転換期で、ビジネスのモードが「生き残り」から「成長」へと切り替わる段階といえます。そのフェーズに到達したならば、優秀な人材を確保するという観点からも、給与の面で他企業との競争力を持たなければいけません。そうでなければ、順当に企業を成長させていくことは難しいように思います。
代田:ありがとうございます。では次は「あなたはどれだけの自社株を持っていますか?」という質問です。
2016年と2019年の結果を比較すると、多くの方が所有率を上げています。素晴らしいトレンドです。一方で、人によっては「0」、つまり株を持っていないという回答をしています。
また、「CEO はどれだけの自社株を持っていますか?」という質問に対する回答はこちらのようになりました。
これらの結果を見て、どう思われますか?
安武:CTO の持ち株割合が改善しているのは良いことですが、まだまだ十分な値ではないとも思います。CEO や他の経営陣に、現代におけるテクノロジーの重要性を、より理解してもらう必要があると感じました。
藤本:さらに興味深い点があると思っていて、15% の方々が「CEO がどれくらいの株を持っているのかわからない」と回答しています。創業メンバー同士の間で、情報の不透明性があるわけです。それに、CEO と CTO の持ち株比率にも大きな差があります。CEO と CTO の役職に、上下関係のようなものがあるのは良くないですね。
Kolton:藤本さんが言ってくださったように、CTO と CEO は本来フラットな関係性です。立場の上下があってはいけません。両者には肩書きの違いはありますが、解決すべき課題は共通していますからね。
創業チームは、いうなれば婚約者のような関係性だと私は思っています。一緒に喜びを分かち合い、ともに困難さと戦っていく必要があります。だからこそ、心から信頼できるパートナーでなければいけません。スタートアップ企業の日々は本当に山あり谷ありですから、同じように高い視座を持ち、同じ乗りもので旅をできるような関係性が必要なんです。
代田:どうもありがとうございました。アンケート結果は以上となります。会場のみなさんにも、日本の CTO の傾向を理解していただけたのではないでしょうか。
企業や社会の変化とともに、CTO の役割はどう変わる?
代田:ここからは「CTO の役割とはそもそも何か?」について議論していきましょう。企業の成長フェーズに応じて、CTO の役割は変わってきます。まず、藤本さんと安武さんにお伺いしたいです。企業の大きな成長を経験されたと思いますが、それに応じて、ご自身の CTO としての役割はどう変わってきましたか?
藤本:創業時の CTO は、当然ながらありとあらゆる業務を担当しなければいけません。コードを書くことも、採用も、組織づくりも全部やるわけです。
しかし、企業がグロースしていけば、抱えていたタスクを少しずつ誰かに譲渡することになります。そうなったときに「では、自分がもっとも得意な領域な何か」を考え、その仕事にフォーカスすることが CTO には求められます。
もしかしたら、CTO を続けることだけが最善ではなく、リードエンジニアや VPoE など他のポジションになる方が良いケースもあるかもしれません。「会社の未来にとって、どの選択肢が最善か」を見通すことが必要なんです。
安武:CTO の役割は、他の経営陣の持っている能力に依存して変わると思っています。もしも社内に、「企業のビジネスのコアとなる技術をどうやって育てるか・守るか」を考えてる人がいないのであれば、CTO がいわゆる社内政治のようなものも担わなければならないでしょう。
ですが逆に、他の経営陣が技術に対する理解があるならば、CTO は純粋にテクノロジーのロードマップをつくることにフォーカスできるはずです。CTO の役割とは、あくまで相対的なものなんです。
Guy:「成長とともに変わる役割」という文脈でお話しをすると、CTO には「別の未来を見る人」としての役割もあるんですね。というのも、組織にいる人たちの大半は、「いま、主力となっているビジネスが自社のコアだ」と考えています。しかし、そうした観点しかなければ、近い将来に企業の成長は鈍化してしまうでしょう。
別の切り口で、「例えば、この技術を用いてこういったイノベーションが起こせるのではないか」と舵取りをしていく人が必要です。それは、技術の側面から経営を支える CTO だからこそ、できることなんです。
代田:テクノロジーは今後も進化し続けていきます。その変化をふまえて経営をしていくために、CTO に求められる要素とは何だと思いますか?
Guy:今後起きていく大きな変化は、オーナーシップとコミュニティです。
テクノロジーが企業において果たす役割はどんどん大きくなっています。それに比例して、CTO の役割もより重要になります。つまり、企業における CTO のオーナーシップそのものも、さらに拡大していくでしょう。
もう1つは、外部のコミュニティとの関係性の変化が起きるということです。近年、オープンソースのコミュニティの重要性は非常に大きくなってきました。GitHub のプロフィールを見て、エンジニアの採用を決めることも今は当たり前です。それに、「オープンソースの恩恵があるからこそ、数多くのシステムは成り立っている」という意識も多くの方に根付いてきました。
だからこそ、「企業が外部のコミュニティに対してどうコントリビューションするか」を考えることも、とても重要な CTO の役割になっていくでしょうね。
Kolton:今回のディスカッションを通じて、ふと思ったことがあります。数か月ほど前に、私はボードメンバーから「CTO の調子はどう? 元気かい?」と質問されました。私は「私たちは一生懸命頑張っているし、CTO ももちろん元気だよ」と答えました。「なぜ、そんなことを聞いたのだろう」と内心は不思議に思ったんです。
ですが、私はその後に気づいたことがあります。企業のフェーズが早期から後期へと変わり、数多くのメンバーが企業に参画する過程で「もうここは、自分の居場所ではない」とネガティブな思考に陥ってしまう CTO が一定数いるということです。
かつては、すべての業務を CTO に依存していたのに、他にも優秀なエンジニアがどんどん増えていく。その過程で、CTO が「自分の担うべき仕事や強みとは何か?」を見失ってしまうわけです。
企業が大きくなっていくにつれて、「そういった思いを CTO にさせず、いかに得意領域にフォーカスしてもらい、自分の居るべき場所を見つけてもらうか」を他の経営陣が考えていくことも重要なのだと、改めて思いました。
代田:貴重なご意見の数々、とても参考になるものばかりでした。こちらで、パネルディスカッションを終了いたします。会場のみなさま、ご清聴ありがとうございました!