AWS Startup ブログ

AWS で実現するシステム障害対応 AI エージェント ─ ミッションクリティカル領域で Amazon Bedrock を選ぶ理由。パートナーとの協業で 3 か月リリースを達成

「緊急時に助け合える世界へ変える」をミッションに、システム障害対応の AI エージェント「IncidentTech」を開発・提供する株式会社インシデントテック。同社の AI エージェントは、障害発生時の情報統括から復旧案の提示、報告書の作成までを横断的にサポートし、対応品質の平準化と MTTR(平均復旧時間)の短縮を目指します。

金融・社会インフラといったミッションクリティカルな領域を主なターゲットとする同社は、AI 基盤として Amazon Bedrock を採用しています。なぜ、高い信頼性が求められるドメインで Amazon Bedrock を選んだのか。また、開発リソースの課題をどのように乗り越え、プロダクトのリリースを加速させたのか。その鍵を握ったのが、AWS 特化型人材サービスを提供する AWS パートナのクラウドビルダーズ株式会社との協業でした。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャの浦田 力樹とソリューションアーキテクトの佐藤 雄太が、インシデントテック社 代表取締役社長 野村 浩司 氏、嵌貫 南海 氏、中田 裕貴 氏、そしてクラウドビルダーズ株式会社 代表取締役 池西 耕平 氏にお話を伺いました。

2000 件の障害事例分析から生まれたプロダクト

浦田: まずはインシデントテック社の事業概要についてお聞きします。

野村: 当社はシステム障害対応に特化した AI エージェントを開発しています。私自身、NTT データで 15 年間、金融システムの開発保守運用に携わってきました。そのうち 10 年間にわたり合計約 2000 件の障害事例を分析し、社内外 150 チーム以上のシステム障害対応の改善に取り組んできました。その経験を通じて痛感したのが、障害対応の現場における「属人化」の問題です。ベテランの運用担当者は瞬時に過去事例と照らし合わせて的確な判断ができますが、経験の浅いメンバは同じ対応品質を出すのに非常に時間がかかる。夜間や休日のオンコール対応ではなおさらです。この課題を AI で解決したいという思いから、2024 年 4 月にインシデントテックを創業しました。

Incident Tech 社 CEO 野村 浩司 氏

浦田: 具体的には、どのようなプロダクトを提供されているのですか。

嵌貫: 当社の AI エージェントは大きく 3 つの機能で構成されています。1 つ目は障害統括 AIで、Teams や Slack の障害対応チャットや監視ログなどの散在する情報をリアルタイムに整理し、関係者の認識ズレを減らします。2 つ目は顧客連絡 AIで、過去の報告書や文書資産をもとに、障害報告書のドラフトを自動生成します。3 つ目は暫定復旧 AIで、設計書やソースコード、過去の類似事例から原因仮説と復旧案を提示します。これらが連携することで、経験の浅い担当者でもベテランのような的確な障害対応が可能になります。

Incident Tech 社 嵌貫南海 氏

ミッションクリティカル領域で Amazon Bedrock を選んだ理由

佐藤: AI エージェントの基盤として Amazon Bedrock を採用されていますが、その選定理由についてお聞かせください。

中田: 当社のお客様は金融機関や社会インフラを支える企業が中心です。こうしたお客様にとって、AI を導入する際に最も重要なのはセキュリティとデータガバナンスです。「自社のシステム情報や障害情報が、モデルの学習に使われないか」「データがどこに保管されるのか」——これらは、ミッションクリティカルな領域では譲れない要件です。Amazon Bedrock は、この点で非常に明確なポリシーを持っています。ユーザの入出力データがモデルのトレーニングに使用されないこと、データが指定したリージョン内で処理されること。これらが確約されているため、金融・社会インフラ向けの高セキュリティ要件にマッチしました。

Incident Tech 社 中田祐貴 氏

佐藤: 経営者としての判断という観点ではいかがですか。

野村: これは非常に重要なポイントで、経営者として社員に AI を使った開発を任せる際に、Bedrock 経由であれば安心して現場に委ねられるのです。直接 LLM の API を叩く場合、データの取り扱いポリシーがプロバイダごとに異なり、開発者一人ひとりが注意しなければなりません。しかし Bedrock であれば「AWS のセキュリティポリシーの範囲内で動いている」と一言で説明できる。ガードレールがしっかりしている環境のなかで開発してもらえるので、経営判断としてのリスクが格段に下がります。

佐藤: Bedrock には AWS の「ゼロオペレータアクセス (ZOA)」という設計思想が採用されています。特に次世代推論エンジン「Mantle」は、AWS Nitro System の設計思想を推論基盤に適用し、AWS のオペレータであっても顧客のデータや推論リクエストにアクセスする技術的手段そのものが存在しないよう、ゼロから設計されています。つまり、データの機密性が設計レベルで担保されています。

野村: 当社のプロダクトは障害対応という、誤答時のリスクやコストが非常に高い領域で使われます。お客様のシステム構成情報や障害情報は極めてセンシティブですので、「誰もデータに触れられない」というアーキテクチャレベルの保証は、お客様への説明責任を果たすうえでも大きな安心材料になっています。

開発リソースの壁を AWS パートナーとともに突破

浦田: プロダクト開発におけるリソース面での課題についても伺いたいです。

野村: スタートアップとしての最大の課題のひとつが、エンジニアリソースの確保でした。AI エージェントの開発には高い技術力が必要ですが、特に創業初期はフルタイムのエンジニアを十分に採用できず、開発スピードが思うように上がらない時期がありました。そんななか、AWS パートナである CloudBuilders さんから優秀なフリーランスエンジニアを紹介いただき、開発チームを強化することができました。CloudBuilders さんは AWS に精通したエンジニアを揃えていらっしゃるので、当社のアーキテクチャにもすぐにキャッチアップしていただけました。

浦田: 池西さん、CloudBuilders さんから見たインシデントテック社との協業はいかがでしたか。

池西: インシデントテック社との協業で印象に残っているのは、そのスピード感ですね。野村さんと初回のお打ち合わせでエンジニアの人材をご提案したところ、その場で興味を持っていただき、なんとその日のうちにエンジニアとの面談まで実施して決定いただきました。これは弊社としても最短記録です。技術を深く理解されている経営者だからこそ、人材の適性を即座に見極めて、柔軟かつスピーディに意思決定ができたのだと感じています。

CloudBuilders 社 CEO 池西 耕平 氏

浦田: 具体的にはどのような効果がありましたか。

野村: 開発スピードが上がり、結果として α 版のプロダクトのリリースが 3 か月で実現できました。スタートアップにとってリリースのスピードは生命線ですから、この加速は事業戦略上も非常に大きなインパクトでした。CloudBuilders さんとの初回打ち合わせ当日にエンジニアを決定できたことで、チーム組成のリードタイムがほぼゼロになったのも大きかったです。AWS のエコシステムの良いところは、こうしたパートナネットワークを通じて、技術力のあるエンジニアリソースを柔軟に確保できる点だと感じています。プロダクト開発だけでなく、人材面でも支えてもらえるのは、スタートアップにとって心強い環境です。

池西: 私たちとしても、AWS 上でプロダクトを構築されるスタートアップと一緒に成長できることにやりがいを感じています。インシデントテック社のように明確なビジョンを持ったチームと協業できたことは、弊社にとっても大きな成果でした。

今後の展望

浦田: 最後に、今後の技術的な展望についてお聞かせください。

野村: 現在、AI エージェントの出力精度をさらに高めるために、LLMOps や LLM as a Judge の仕組みを取り入れることを検討しています。障害対応の領域では、誤った情報を提示してしまうリスクが非常に高い。たとえば暫定復旧 AI が危険な手順を提案したり、顧客連絡 AI が事実と異なる内容を含んだ報告書を生成したりすることは、絶対に避けなければなりません。そのため、AI の出力に対する評価・監視の仕組みを強化し、「誤答の可能性が高い場合は出力しない」「確信度が低い場合はユーザに明示する」といった制御を、より精緻に行っていきたいと考えています。Amazon Bedrock が提供する Bedrock ガードレールや評価機能も積極的に活用していく予定です。また、2026 年 7 月にプロダクションリリースを迎えましたが、今後は NTT データとの資本提携を活かして、金融・官公庁領域のお客様へのリーチを広げていきます。

浦田: ぜひ今後も AWS として御社のプロダクト開発を支援させてください。

佐藤: 実は私も元々 NTT データ出身なんです。同じ出身者として、一緒に日本を良くしていけたら嬉しく思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

左から、Incident Tech 嵌貫南海氏・野村浩司氏・中田祐貴氏、AWS 佐藤 雄太(スクリーン)・浦田力樹、CloudBuilders 池西耕平氏

著者

浦田 力樹 (Riki Urata) は、AWS Japan にて、スタートアップのお客様を担当しています。趣味は野球とゴルフと HYROX。好きなアスリートは大谷翔平選手。ロールモデルは桑田真澄さん。